15.帰ってきた私の日常
セルジュさんと話をして、少しスッキリした。
とはいえ、サイラスの事を完全に許せたわけじゃないけど……まぁ仕方ないか、と思えるレベルにまでには落ち着いてきた。
そして、今日も特になんの予定もないからと、朝食を終えてぼーっとしていると……
部屋に侍女が慌てて入ってきた。
「アンナ様!アンナ様、お客様がいらっしゃいました!」
「お客様?」
「ハロルド様です!お引き取りくださいと言ったのですが、目を離した隙に玄関の中に……」
(とうとう強行突破してきたか……)
強行突破と言っても、彼が本当に何も考えずに無理矢理押し入るなんて考えられないから……きっと前もって侍女達と打ち合わせした上での行動だろうけど。
(おいおい。目を離した隙にって……手口がまるで強盗じゃない。何してんのよハル)
もうなりふり構っていられないくらい、心配が最高潮なんだろう。
彼も、そして……目の前の侍女も。
(……)
あれから調子もだいぶ戻ってきたし、さすがにそろそろ元気な顔見せてあげないと。
「いかがなさいますか?」
「そうね。今行くと伝えておいて」
「っ!だ、大丈夫ですか……?その、お体の方は……」
「もう大丈夫よ、元気になったわ」
そう言って軽く微笑んでみせる。
久しぶりの笑顔に表情筋がプルプルいってるのを、力を込めて誤魔化しながら。
「アンナ様……!」
「心配かけてごめんなさいね」
「よかった!私、ずっとあのままだったらどうしようと思って……!」
嬉しそうな侍女の顔に、思わず私まで笑顔が伝染る。
「ふふっ。喜ぶのはいいけどほら、お客様が来てるんでしょう?」
「あっ!いけない!」
いつもならテキパキと動く侍女も、今日は珍しく嬉しさのあまり舞い上がってしまったようだった。
「大変失礼しました!ハロルド様、すぐにお連れしますね!」
エプロンをつけた黒いロングワンピースを大きくはためかせて、慌ててバタバタと部屋を出ていった。
(あっ!よく見たら……裾が捲れちゃってるじゃない)
教えようと口を開くも、足音はもうすでに遠くまで行ってしまった。
(あらら。それにしても……珍しいわね)
生真面目でしっかり者のあの侍女が……今日は、足元が捲れ上がってるままだったなんて。
いつもなら……すぐ気づいてサッと手で直すのに、今日はそのまま動き回っていて。
よっぽど嬉しかったみたいだ。
私が元気になった……たったそれだけの事が。
(そうね。いつまでも落ち込んでいられないわ……私がクヨクヨしてちゃ、皆だってつらいもんね)
ドタドタと階段を駆け上がる音と共に、慌てた様子のハルが私の部屋に駆け込んできた。
「アンナ!アンナ……っ!」
あまりの勢いに驚きつつ笑って手を振ると、彼の強張った顔はすぐにホッとした表情に変わった。
「アンナ!……ああ、よかった。手紙の返事が無かったから、もう心配で心配で……」
「大丈夫よ。そんな大袈裟な……」
色んな人に心配かけちゃったけど……でも、もう大丈夫。
元気になったから。
「誰だって心配になるだろ普通!もし、君の身に何かあったら……」
「もう、あなたは心配しすぎよ!」
そう言いつつも、内心はとても嬉しかった。
「そういえば……アンナ、なんか雰囲気変わった?」
「えっ、そう?特に何もしてないけど」
セルジュさんとお茶したくらいで、他には何も。
「そっか……じゃあ、気のせいか」
ほんの一瞬だけ、ハルの顔が翳った気がして。
一瞬すぎて見逃しそうなくらいほんの僅かな表情の変化だった。
「……?何よ?」
「いや、いいんだ」
(え?何、今の……)
心がざわつく。
初めてかもしれない。あんな……寂しそうな顔。
(私、何か変な事言った?傷つけるような事は言ってないはずだけど……)
理由を聞こうとして口を開くも、どうにもハル相手だと真面目になれなくて。
実際に口から出てきたのは、いつものようにふざけた声だった。
「何よ、いつもと違う顔して。変なの〜」
「悪かったな、変な顔で!」
お互いに軽く小突いて、笑い合う。
(今のはなんだったんだろ?なんだか消化不良な感じもするけど……まぁいいか)




