11.夢から醒めて
窓の外は明るい。
メイドの話によると、今日は雲ひとつない快晴のようだ。
散歩日和だなと思っていながらも、私はきょうも部屋のベッドに寝転んでいた。
あれから今日でもう半年経った。
サイラスの元を離れた私。
あの日から一人で部屋に引きこもる毎日が始まった。
何ものどを通らないおかげでだいぶ体重は減り、きついきついと散々苦痛に感じていたコルセットがずり落ちていくようにまでなった。
両親や従者達といった周りの皆、私の変化に気づいて心配そうにあれこれ話しかけてくれる。
『大丈夫?』とか『話聞こうか?』なんて優しく聞いてくれたりもする。
でも、そうやって何かと気にかけてくれてるのは嬉しいけど……私の望みはその反対、ありがた迷惑だった。
とにかく静かになりたかった。
放っておいて欲しかった。
皆から離れて一人になって、未だ混乱している頭をどうにか整理したかった。
(そうやって、馬鹿な私の事をどうにか忘れたかった……)
二人でお茶したり、一緒に町に出かけたりするようになって……そうして何度も会ってるうちに、ズブズブと彼にハマってしまった私。
単純接触とかそういう要素もあったのかもしれないけど、時々彼の口から発せられる甘い言葉にまんまと乗せられてしまった。
でも、彼にとって私は何人もいる女性のうちの一人だった。
気づいていないふりをして、自分すら騙し続けていたけど……やっぱりそうだった。
流れでなんとなく頻繁に彼の屋敷に行くようになって。
それで、あたかも婚約者になれたかのように錯覚して、一人で勝手に盛り上がって……
(だけど、結局私は……彼の『友達』。ただの遊び相手だった)
彼は『個性的な人』が好きだってセルジュさんが言ってたけど……つまり、私は『異界人』という珍しい存在だから彼は『友達』になったってわけで。
(『友達』……それはいつでも呼び出せる都合の良い女兼、周りに自慢できて自己顕示欲を満たしてくれる便利な道具って事だった)
あの時セルジュさんが伝えようとしてたのは……そういう事だったんだ。
あれは、夢のような日々だった。
体が蕩けてしまうような甘い甘い言葉を、これでもかというくらい浴びる……麻薬のような強い中毒性の、イケナイ関係。
あえてそのまま、夢の世界に浸り続けるのもありだったかもしれない。
けど、もう覚めてしまった。とうとう終わってしまった。
(そう。私から終わらせてしまった……)
ふぅ、と大きくため息をつきカップの紅茶を一口啜る。
今は誰とも喋りたくない。関わりたくない。
友達、家族、そして従者達……もちろん、ハルとも。
今の私の心を癒してくれるのは、窓からの暖かい日差しかこのお茶の暖かさ……それくらいだった。
寂しくない訳じゃない。
むしろ、誰かに聞いてほしい気持ちは日に日に強まってきていた。
でも。
一人でいたい気持ちがどうにも上回ってしまって、私は長いこと殻に篭り続けている。
(それに……こんなボロボロの状態で、人前なんて出れないしね……)
今の私はまるでゾンビのような姿にまで変わり果てていた。
バサバサの髪に、げっそりした頬、痩せ細った体。
カップをテーブルに置き、なんとなく周りをぐるりと見回すと……
ふと部屋の隅に置いておいた封筒の山が目に入った。
それは私を心配するハルからの手紙だ。
山盛りすぎてもはや何通あるのか分からないけど……多分その山全部、彼からのもの。
最初は二週間に一度、それが毎週となり、最近じゃ毎日のように届くそれ。
部屋に籠りきりになった私を心配しているんだろう。
それは彼なりの優しさなんだろうけど……でも、なんとなく読む気分になれなかった。
ハルは私の事を本当に心配している。
窓の向こうで侍女と押し問答しているのを何度も聞いたから。
アンナの身が心配なんだ!一瞬でもいいから顔を見させてくれ!お願いだ!と言うハルと、苦い顔で私の言いつけ通り追い返そうとする侍女。
侍女もハルの事は昔からよく知ってるし……それに彼女もまた、私を心配する人々のうちの一人なのだ。
本心はきっと追い返したくなんてないのだろう。
幼馴染である彼と他愛もない話をして、少しでもいいから元気になって欲しい。
そして、できるなら元の状態に戻って欲しい……
それが彼女の本当の気持ちだろう。
しかし、彼女は雇われの身。
命令されている以上逆らえない。
そんな苦渋の決断に苦しむ顔が見ていられなくて、毎回ここまで見たところでカーテンを閉めている。




