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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
一章 情熱色の真っ赤なワイン
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10.僕達、『友達』だよね?

 


 今日も彼の部屋で一緒にくつろいでいる。


 本当は天気がいいし、どこか散策に行きたかったけど……彼が部屋がいいって言うからそうする事にした。




 ふと棚の上に置かれた写真立てが目に入った。


 若い夫婦の写真。

 まだ首の座っていないような小さな赤ちゃんが、女性に大事そうに抱かれている。


「ああ、それね。僕の弟夫婦の写真だよ。双子の弟なんだ、僕と顔そっくりだろう?」


 彼とよく似た男性が、子供を抱いた女性と微笑み合っている……そんな幸せオーラいっぱいの家族写真だ。


「その赤ちゃん、可愛いでしょ。女の子なんだよ。名前はオリビアちゃんって言って……」


 やけに饒舌なのが気になるけど。

 信じるしかない。


 でも頭の中では、うるさいくらいの警報が鳴り響いていた。


(やっぱり、不安……)


 かと言って、ここで聞いてしまったら。

 もし、その疑惑が本当だとしたら。


 これで終わってしまうとしたら……




 フッと脳裏によぎる、彼の左手の指輪の事。


 不安に思うあまり、考えないようにしてた一番の不安要素がこの最悪のタイミングで出てきてしまった。


 今までなんの疑いもなかった、あれ。


(でも、今は……)


 やけに分厚く太いそのリング。

 結婚指輪の倍近くあるんじゃないかってくらいの幅。


 なぜそんな太いのか。

 なぜそんなのをつけているのか。


 服装にだって、正直合ってないどころか浮いている。


 そもそも彼はそういう系じゃないし。

 ファッションはいつもシンプルであっさりした物を好んでいるから、そういうオラオラ系というかゴツゴツしたものを身につけるような感じじゃない。




 じゃあ、彼が好んでそれを身につけているんじゃないとしたら?


 他の理由のために、仕方なくつけてるとしたら?

 やけに太いその下に何か隠してるとしたら?


 何か隠したい痕跡があるとしたら……?


(……)


 もしも、今しているもの以外にも指輪があったら?




(違う、きっと違う……そんなの絶対違う、よね……?)


 サイラスの方をちらっと見ると、彼と目が合った。


「……!」


 なんだかとても驚いてしまった。

 逆に言えば、これを珍しいなと思ってしまうくらいには彼はこちらをほとんど見なくなっていた。


 とはいえこうして悩み続けるのも、もう耐えられない。




 足はすくみ、逃げ出したい気持ちが溢れてくる。

 何かする訳でもなく、ただ口から言葉を一言二言発するだけなのに、全身はひどく硬直していて。


 見えない恐怖が体をじわじわと蝕んでいた。


(怖い……怖すぎるよ……)


 イケメンで、性格も良くて、女性の扱いも心得ていて……なんて。

 得た物が大きすぎた。


 それを今度は全て失うとしたら。

 今まで彼と積み上げてきたもの全てが一瞬にして、なくなってしまうとしたら。


 得た物が大きかった分、その代償もまた……


(……っ!)


 怖い。怖い。怖すぎる。


 立ち直れないかもしれない。

 比喩じゃなくて、本当に死ぬかもしれない。

 気が触れてしまうかもしれない。


 でも、かといってこのまま耐え続けるのも限界で。

 常になんとなく落ち着かなくて、息苦しい毎日を過ごし続けるのも……もう無理。もう限界。




 どちらにせよ長くは持たないこの関係。

 どうあがいても私の未来は明るくない、そう分かっているのなら。


 ならば、もういっそのこと……


(もう、ここで聞くしかない……!)




「あ、あのさ……!」

「うん?」


 ああ、やっぱり。

 見もしない。振り向こうともしない。


 私の勇気を振り絞った一言に、彼は見向きもしない。


「その……私達、『付き合ってる』んだよね?」

「えっ?」


 いつもと違う声のトーン。

 柔らかいいつもの声じゃなくて、氷のように冷たい音色。


(サイラス……!)


 恐る恐る彼の顔を見ると……今まで見たことがないような、めんどくさそうな表情だった。

 笑顔を作る事すらとうとう止めてしまった、彼の本心だった。




 思わず咄嗟に俯く。

 もう、見ていられなかったから。


 さっきまでお酒で温まっていた体が急に冷え込んできた。

 なんだか見てはいけないものを見てしまった気分だ。


「え?僕達、『友達』だよね?」

「え?」

「え?だよね?」

「えっ……」


(嘘でしょ……友達?私が……?)


「と、友達?そんな……なんで……」

「あれ、忘れちゃった?言ったでしょ最初に」


 確かに……付き合ってほしいではなくて『友達になりたい』と言われて始まった、この関係。

 その独特な言い方に最初は驚いたけど、誰もが友達からのスタートだからと特に気にしていなかった。


 でも、そこから着実に関係は進んでると思ってた。

 キスやハグ、その先も……


 なのに、まさかあれから一歩も進んでないなんて。


「私の事……遊びだったの?」

「ん?そうだけど」


 あっさりと軽くそう言い放つ。

 まるで世間話でもしてるかのように。


(『そうだけど』って!『そうだけど』って……!何をそんな飄々と!ふざけないでよ!)


 胸の奥に熱いものが煮えたぎり始める。


(じゃあ、今までのは何だったの?!愛してるって、あれは一体何だったのよ……?!)




 私は完全に遊びの相手だった。


 友達止まりのまま都合のいい女としてキープされ続けていただけで、彼は結婚なんて微塵も考えていなかった。




 勢いよく部屋を出ると、怒りのままドアを乱暴に閉め……そして、逃げ出すように家へ帰って行った。



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