64話 覚醒進化(9) 覚醒進化編 完
とりあえず書いた。もうだめだ主人公の二年前とか超のんびりで書くしかない。
「ありがとう」・・・・
その言葉を伝えられずに・・・私と彼の世界は大きく割れ、離れてしまった。
真っ暗な世界。それは私の簡単に狂ってしまった人生の一部を表していたようだった。
唐突に空から人間が出せる物ではないような、無機質で感情のない声が響く。
『~~~~、~~~~~~~~~~~~~~~』
それが私には聞き取れなかった。何を言っているのか、記憶から完全に消え去っていた。ほんの少し、数秒前まで覚えていたはずのその言語が、まるでどうでもいいかのように脳の記憶部分から破棄されていたようだった。
唐突に周りにある暗く、黒い部分が私にも見えた。
「・・・ッ!!うぅ・・・ぅ・・・」
何かがこちらへ介入してくるような、闇を自分の持っている光で埋め尽くされた箱の中へ入れられたような不快感。頭の痛みと共に、それは無理やりに入り込んでくる。
周りの黒い靄が次々と私の体に入り込んでゆく。
やがて私だけに、何かを知らせていると気がついた時、世界はパッと明るく晴れ、鳥の囀りが聞こえる。私にはそれがとても懐かしく感じられた。まるで、故郷にいるかのような。ギーヨギーヨ・・・そんな鳴き声が・・・・・・・・・
「・・・・・・」
しかし・・・もう懐かしさを感じるだけで覚えていない。あと一歩が思い出せない。私の立っている地面が。
灰色の地面の先には青い水。地面が割れていたり、盛り上がっていたり、非常に不安定な場所が続いていた。私の立っている場所だけが、ちょうどいい角度を維持していた。
しかしこれを見て何も感じられない。どこか記憶の隅にあるはずなのに思い出せない覚えられない。その鳴き声の場所が分からない。
―――しかしそんなことは些細な事だった。
周りを見るのだが、何もない。道路はいくらでも敷かれているが、建物という建物は何もない、いくら先を見ても見えるのは不安定な地面だけ。人が一人も見当たらなかった。空を見上げる、空は青くなく、ずっと白とオレンジが混ざったような色を出していた。
私はどうしてこんな所にいるのか考える・・・瞬間、私の胸から黒い靄の一つが飛び出て、ある方向へ進んで止まった。
(道を教えてくれているの?)
『多分彼女はそう思っただろう。しかし彼女の足取りは悪く、"こちらを警戒"するように私についてきている。
私は道を示し続けた。彼女の背負わされた運命にたどり着く方法を。
――示して
――示して
――示して。
やっと、この終わってしまった場所から脱出できる。しかしそれは更なる旅の第一歩だった。』
ただ私は歩いていた。黒い靄は私が警戒心を徐々に薄めていくと、喜んだように飛び跳ねて、道を教えてくれた。
かつて大きな道があったような場所を抜けて、緑が生い茂る場所に作られたような道を進み、砂浜を歩き、そして海を見る。
(懐かしい、生き物。)
私は、白く大きく美しい・・・そんな鳥を見た。
その鳥はあの時聞いた懐かしいギーヨギーヨという鳴き声と共に私の心に深く刻み込んだ。
ふとその白鳥の下に視線を戻すと、海の奥に何かを見つける。黒くて、そこだけ光が消えている場所のようだ。靄はそこへ案内しているのか。とにかく私は何かに突き動かされるように歩いた。
靄は無防備にその海へと足を浸からせていく私を見て、目の前に"道"を作ってくれた。海が割れて、水に守られていた砂の地面が顔を出す。
(・・・・・っ)
懐かしさはあるが、もうここがどこなのかは覚えてすらいない。私の顔は振り向いて『懐かしさの象徴』を見つめていたが、すぐに『闇』へと視線を戻す。
私は、ただただ歩いていた。導かれるがままに。
―――――やがて。
『闇』に飛び込み、さっきまでが夢だったかのように記憶が取り戻される。
そして、今まで気配無く私の内に眠っていたチカラも、自己主張を始めた。
「あ……れ……」
いつの間にか喋る事も出来るようになっていたようだ、真っ暗な空間が私の声に反応して、徐々に光を取り戻す。
この世界が、見える―――――
『世界、広々とした大地に一人の青年が姿を表す。倒れて気を失っているようだ。
その青年はこの状況を読み込めているように、躊躇い無く木のある方へ走り出す。
……この時はまだ、始まってすらいなかった。
やがて世界に次々と人が現れ、いつしか最初の青年の作った村は賑やかな街へ、そして国となった。
そんな中、モンスターと呼ばれる生物が出現する。国は瞬く間にその猛攻に崩れ、王となった青年が死を手に入れる。
しかし、この世界に死という概念は曖昧であった。霊としてこの世界に居続ける事も可能であった。
やがてその王は精神のみで世界を彷徨い、力をつける。魔法という力を。
やがて力が強くなり、特殊な人間からの認識が可能になった。
やがてその霊は祀られ、魔法の力を理解する。
不可視の体で塔を建てた。かつて滅びた国の跡地だった。崩れる事は無い。最強の魔法で作った・・・だから崩れる事はない。
その塔は天を貫き、そして異界にまで影響を及ぼせるようになる。
彼からすればほんの遊びなのだろう。やがて私達を引っ張り上げ、行動を見るだろう。
それから何度も、勇者を作り、魔王を作り、殺し合わせた。
残酷にも叶わない願いが何度もその神に捧げられ、その度に破り捨てられる。
ある時"異変"が起きる。私達の時代の事だった。予定にない人間が飛ばされる。その人間はあたかもこれから起きる出来事を知っているようで、彼の目を釘付けにした。しかし、正体が分かる。"やり直し"を何度も行っていただけだ。神はそれを乗っ取ろうと考え、行動した。一度の失敗の末、やり直しが使えるようになったのだ。条件は只一つ。"その人間が生きていること"。生きていれば・・・死んでやり直しが可能だった。魂が逃げなければ…どんな事があってもやり直しが可能だった。神はその人間をいとも簡単に騙した。
――やがて私達と出会い、今も…彼の行動を見ている。――』
「どうやら私についているのは、本物の神様のようですね。」
「フフっ、私がだましているかもしれませんよ?」
姿は見えないが、私の中に居るのだということは分かる。そして、"彼女"はこの世界の本当の神様らしい、今までの光景は全て彼女が見せてくれたようだ。
彼女・・・女神の声は自分の体から発せられる声が耳に伝わってくるような不思議な感覚がある。
まるで私の心の中に二つの人格があるようだ。実際は違うけれども。
「それで、私は何の為にこれを?」
これを見せただけで『もう帰っていいよ』とか言われるはずがない。私に見せたのは何らかの理由があるはずだ。
「ふーむ、私には気がついたのに結構鈍感なんですね」
「針千本飲ませましょうか?」
「きゃーやめてー」
棒読みでノリノリに返事を返してくるがすぐに(私の中で)咳払いをし、すぐに説明を始める。
「私は別世界のあなたで、あなたは別世界の私なんです。」
(意味が分からないし・・・)
「だーかーらー!簡単に言えばあなたが死ねば私も死んでみんなアンハッピーエンド!!あなたがこの世界に来ちゃった以上私はあなたを守る義務があります!!」
・・・?
「つまり私達は運命共同体とか。そんな感じですか?」
「はい、そうです!・・・フッフッフ。ということで、これからよろしくね!」
んー・・・どこか私と似ているような気がする。けどそれがただの気のせいであってほしい。
そして、既に私の中に住み着いた彼女は簡単に説明を始める。
「まあさっきの話簡単にまとめると、偽物の神様がいるってことです。仕方のない事ですがそれが世界で創られたルールで人間は神様になれちゃうんですよ。丁度私みたいに」
「詳しい事は聞かないで置く、だけど急には信じるのも無理です。そういえばさっきの場所って・・・」
「はい。あなたの故郷のカケラ・・・ですね」
あれ……
あれが……まさか本物?
「・・・」
彼女は配慮しても私自身の気持ちが重くなる。元の世界で一人も会わなかった、そして故郷のカケラと言われたそこは今考えれば確かに見覚えある道だったが、建物が無い。
良くない想像をしそうになる。私はそれを静止し、受け入れないようにしようとした。
だけど、私から出て来た黒い靄は誰だったのだ?
「…悲しい話はこれぐらいにした方がいいですよ?」
「そっちが言わないで…私に何をさせたいか、分からないけど…」
「安心して、全て終われば私が何とかできるから」
胸に彼女の言葉が響く。彼女は何か考えがあるのか、それともただの励ましか・・・
「あなたが来てしまったのは私のせい。だからあなたが望めば私はすぐにでも帰す事が出来ます。ですが私のチカラで送り届ける事が出来るのは一人だけ、あなただけなんです」
「・・・」
そのセリフを何度も聞いたような気がする。うっすらと、何かを思い出しそうだ。
「まあ、世界が違うとはいえ私のことですから、一人だけ帰るのが許せないのは分かっています。」
まるで私の事は全部分かっているように話す彼女でも、まるで違和感が無かった。何度も会話のやり取りを続けて来た親友のような、そういう雰囲気が感じられた。
「けどここから先、絶対帰ったほうがいいですよー。あなたが苦しむ事になります。」
以前の私なら脅しに聞こえただろうけど、今なら分かる。違う。
「それでも、私が逃げたら皆が苦しむ。少しだけでも皆と一緒に居たいの。」
私には、ここで会えた魔王達がいる。現実世界に帰ってもここの思い出がある限り楽しくはないだろう。例え全部夢で、嘘の思い出でも私は絶対に忘れない。
負けたように彼女は喋る。
「…よろしい。ハァ・・・私がどうやって誘っても、あなたは一切帰る気にはならないですね。では一緒に頑張りましょう!」
切り替えの早さが羨ましい。
「は、はい!…そういえば、あなたの事、なんて呼べば?」
「適当でも別にいいですよ、ユーとか」
「ユーって…本当に適当ですね」
「適当でもしっかりしてますよ!私を誰だと心得る!」
少し考える。
「えーと、偽物に神様の座を奪われちゃった神様?」
「そんなこといわないでー!!」
「プフッ」
この空間でユーとゆっくりと喋っていた。そういえばこの空間でも時間は動いているのだろうか。
いつまでいても疲れたりはしなかった。
「えーと、ユー?…私このままここで喋ってていいんですか?」
「確かにここじゃなくても喋れるけど、ここが一番安全なんです。少なくとも2年はここで・・・」
「二年も?」
二年って事は、装置から帰ってくるまでの期間?
「二年も、じゃなくて二年しか無いんです!ちょっと忘れてたけど二年じゃ10倍しても足りないんです…!」
二年しか?・・・20年あっても足りない?
「私にもまだ隠している事があるんです、まずは今からそれを…」
「それで、私は何をすればいいの?」
この先に何があるのか興味があったわけじゃない。ただ皆を守りたいだけだった。
「えっ?まだ私・・・」
「ユーが私だとするなら私もユー。二人同じなら何だって信じなきゃ始まらないでしょ?」
「ぐすっ…『あなた』にそんな事言われたの、初めてです」
「…泣いているの?」
何か、何かがあったことを会話の途中からゆっくりと思い出していた。
仲間が倒れ、その倒れた仲間が戻ってくる。だけどタネ明かしは過去からやってきた仲間だった。
その仲間は何も知らない代わりにたまたまこちらへやってきた。
・・・それが、この私のいる世界に居る、イフリート。
覚醒進化装置・・・過去で精神を正し、未来で力を宿す・・・未来は別の世界と繋がり、飛ばされる。
これの結果で未来が変わると言ってもいいぐらいに敵は強い。
・・・私の心の中から何かが飛び出てくる。
彼女ではない。
「ありがとう、記憶を返します」と涙が溜まった彼女の声が聞こえる中、私は私の心から出た何かを注視する。
「・・・わたし?」
あの靄が私をここへ導いた。その靄が私。
この世界には私の知らない何かがあるのだろうか・・・そこまでは分からない。ただ一つ分かる事が、この場所には『私しかいない』という事だけだ。
その靄は私に向かって必死に未練を訴えかけている。…私が、特異点?…セカイを維持する最後の殻?
訴えかけられた何かと同時に未来の記憶が私の隅々に至る所まで入り込む。
―未練―
――偽物の神を打ち倒し、物語は終わる。しかし、新たな物語・・・いや、『後片付け』が始まった。
偽物の神様はこの世界のルールによって守られた。永遠に死ぬ事はないのだ。
私は封印しようとした。しかし、出来なかった。姿や痕跡すら見えなくなりどこに居るのかという見当すら付かなかった。
私は、これから起こる事を予見していた。偽物の神が倒れて数年後、丁度予兆となる異変が起きた時に神を名乗る者が現れる。
平和が消えた時、私は全てを話した。結果守ってくれた人が次々と倒れていく世界へと成った。
できるだけ早くに話す事も試した。冗談だと受け入れてもらえず、結果一人ずつ消えていき滅びた。
10回この世界を救おうとし、10回全てが神に滅ぼされた世界だ。抵抗など1度も出来なかった。
(チャンスならあった。けど奴の方がずっと上手だった。チャンスは…あの時だけ。
まだ何か足りない物があるとしたら、それは条件。)
・・・他の未来でも簡単に偽物の神は倒せている。しかしそのあと復活して襲いに来る。さっきの何もない世界から人が登場し、国を持って襲われて、神様となった話。分かっていた事はこれで全て。今も彼の何かを通じて知っているとしたら白を頼るのは駄目。
知られたら、その世界は攻略不可能になる・・・・・・・・――
―記憶―
――
『青い海となるまで大地が腐り続けた世界』
『果てしない逃げ道を辿り、やがて諦めた世界』
『ただ仲良く暮らし、最期に絶望を植え付けられた世界』
『協力を求めた結果、皆が倒れる世界』
全部が絵のように思い出される。
他の記憶は全て時間が足りずに倒れていた・・・
どうすればいいのか。私はまだ何もヒントを得ていない。――
(何・・・どうして、私はどうなるの?)
混乱。何が何かさっぱり理解できないまま経験として積まれてしまったモノの弊害。
(私は、私。別の世界に居た私が10人いて、その魂が私の中にいる?)
ゆっくりと理解を進めていく。
(じゃあ…私の心は今、どうなってるの?)
「ど、どうしたの?そんな考えるような記憶だった?」
相変わらず姿は見えず声だけの存在だが、そこにしっかりとユーは居た。
「…。」
私の中に居る靄を呼び出してみる。
眩い光が私からひとつ飛び出す。すかさず私は耳打ちするように話す。
(私と頑張ってくれる?)
光は小さく上下に揺れた。
「それでユー、私はどうしたらいいの?」
「は、はい!えーと…まずは……強くなりたいです!」
「私が強くなる方なんだけどね・・・」
直後、何かと重なる。何かが頭の中に張り付いてくる。咄嗟に頭に手をついた。
(・・・ララ・・・?)
似ている?……
私の心の中に宿った神様にしても・・・・・・どこかが似ている・・・
確かにゆっくりと、私は他の世界で何があったかを思い出して行った。
その全てがうまく行く事のない世界であり、平和が消えた瞬間全てを悟る程に救いない世界だった。
私に、何が出来るのだろうか?
「だっ大丈夫?」
「平気」
―――次第に私はこの空間、時間の流れに身を任せるようになった。いや、任せなければいけなかった。
この空間で過ごした時間は退屈だった。
何かをゆっくりと思い出し、3つの力は知らぬ間に覚えている。
全てこの世界で、やり直しをして手に入れた力だった。
誰かと話せる力、過去に戻るという願いを一度だけ叶える力、私を自由に変化させる力。
どれも敵を倒すには何の役にも立たない力だ。
そう、皆よりも弱い。私は弱い。
(そろそろ……みんなのとこに戻れるかな)
準備は何年、何十年、何百年あっても無理だった。その中で何度もやり直して力を付ける。
私は、もうこの迷宮から抜け出したかった。私の力で。イフリートには"前世"でもう事情は伝わっているはずだ。この世界の先を見せたのだから。
「・・・ユー、もう大丈夫ですよ。落ち着きました・・・」
二年をそろそろ過ぎる頃だ。心の準備はさっき済んでいる。
「わかりました。もう相手にも見つからないはずです!行きますよーっ!」
パアアッと暖かく光が漏れ出し、私の視界は白に染まる。
・・・
・・・
「はぁっ。」
戻って最初にした事が空気を吸って、吐いた。
直後サトルさんが戻って来たようだ、サトルさんの影が見える。
「あ、サトルさん」
「クレア、お前、人間に」
「はい!けど、そっちも一緒じゃないですか」
「・・・いらないかもしれないが、合言葉だ。」
「「ありがとう」」
とりあえずサトルさんにくっつき、部屋から出ようとすると、丁度白が扉を開けてくれたようだ。
「おはよう。・・・って誰だお前ら」
「大蛇だ」
「雷鳥よ」
「新婚カップルか」
案内され、適当な場所で休む。
「多分そろそろ起きだしてくるから、ここで待っててくれ」
「・・・って父さん!?」
・・・・・・・え?
「気にするな、たまたまだ。」
「まさか父さんとこんなところで会う事になるとはな。ま、俺は気にしない事にする。他の魔王の様子見てくるから」
「あー・・・」
「俺にも色々事情があるんだ。すまんな。」
「ひとまずはそういう事にしておきます」
突然私がどこにも居なくなったら普通そうなりますよね・・・
(っあ、忘れるところだった、・・・今の内に色々と確認しなきゃ)
――まず監視者を倒すまでこの世界の私を呼び出すのは禁止。
――次に監視者を倒したらすぐにイフリートさんと連絡を取る。
――その後すぐ対策を練る・・・ひとまずこれで行きましょう。
「いやー久しぶりだなぁクレア。」
「・・・すみません、今ちょっとだけ私の羽根飲ませたくなりました」
「それは・・・」
「冗談ですよ、久しぶりですね、サトルさん。」
「まだ怒ってるのか?」
「嬉しいんですよ、ちゃんとした姿であなたに会えて。」
「急に言うかそれ、恥ずかしいだろ、俺が」
「だったらなんであの時合言葉が『ありがとう』だったのか教えて欲しいんですけど、どうしてだったんですか?」
「や、やめよう。その、恥ずかしい。」
そういった会話が延々と続く。




