61話 覚醒進化(6)
~前回のあらすじ~
新しい能力を手に入れた赤い服の死神アキタは自らを「クラフター」と名乗り、師匠であるウォーターに別れを告げる事になる。
アキタのウォーターに送るプレゼント、それに涙を流しウォーターも手を振った。
オレはイフリート。特に何もせず魔王城でだーらだーらしていたらいつの間にか捕獲されてこのまま強化とか何やらする装置に入れられたッス。
今居る場所は記憶にあるッス。
熱砂。オレは今とある砂漠の地面に突っ伏していたッス・・・
そう、死ぬ前の記憶ッス・・・一つも記憶と間違っていない。
やるしかない。ここがオレの過去なら何か一つでも、やり直ししてみせる。
オレにはこの過去の世界に照り付ける日差しが恵みに見えた。
「・・・水か」
何をするにも水か。水がなければ人間は死ぬ。
まずは自分の持てる力を再確認した。
「魔法・・・ナシ。魔王・・・ナシ。水ナシ、食料ナシ、ついでに自分の体じゃないッスね。」
確かこの時はこんな格好をしていたと思う。最初は綺麗だった服もボロボロで、肌が所々露出している。
肌だって綺麗な肌色だ。オレがいつも見ている自分の肌はこんなものではなく、滲んだように赤かった。
そんなとこを日差しは見逃さず、的確に露出した肌から水分を蒸発させていく。
暑さは常に最高潮をキープしている。いつでもこの砂の地面に倒れても良いからねと嘲笑っているかのようだ。
「・・・何もできないじゃないスか。」
「自分は何も出来ない。食料が無くて何がサバイバルだ。水が無くてなぜこんな所に居るのか。ハハ、少し自分がおかしくなってきたッス。」
独り言を呟くが状況は好転しない。
オレは持てる力の限りどこにあるのかも分からない出口へと進んだ。
しかしそれも長くは持たず、肌が焼けるように日光を注いでいるお日様は着実にオレの体力を奪って行った。
熱砂に顔が埋もれる。
ジャリジャリとして気持ち悪いが今のオレにはそれが似合っているだろう。
「ハッ・・・・アハハハハ・・・・」
「何一つ・・・ペッ。変わらないじゃないスか。」
「何のために呼んだんですか。」
「ハハハ・・・」
最終的には乾いた笑みしか出せなくなっていた。
「・・・進めって?こんな体じゃ無理に決まってるスよ。」
誰が聞いたわけでもない。自問自答だ。
「はぁ・・・・フフフ・・・フッフフフ・・・ハハハ・・・」
最後には精神を保つための笑いしか出せなくなったその時。
「俺が力を貸してやろうか?」
「!?この時期は、人なんていない・・・幻聴か、ハハハ。」
「幻聴などではない。俺は常に貴様の心に居たぞ。」
人はそれを二重人格と呼ぶ。
幻聴と何度言っても言葉を投げかけてくる。やがてそれが本物と思うようになった。いや、思わざるを得なかった。この絶望的状況の中、藁にも縋る思いでやっとのことその言葉に耳を傾けた。
「人は嫌いか?」
「いいや、好きッス。大好きッス。」
「助けてくれないにも関わらずか?」
「自分に気がついていないだけッス。」
「なら気付かせてあげたらどうだ。」
自分の中の言葉は俺をある事へ誘導していた。
オレの手には仲間を『創る』事が出来る様な、何かのチカラがそこにはあった。
たった数時間で自分の真の力に覚醒したのである。
「炎。燃え上がってすべての生命を誕生させよ・・・・」
手には炎を纏っている。その炎は自分の目の前の地面から徐々に形作っていく。
「ノーム・・・」
「シルフ・・・」
「ウンディーネ・・・」
一人、また一人と『仲間』を作り出していく。
「「「「四精霊・・・」」」」
「「「「"炎"である我が命ずる。」」」」
「「「「我と共に『力』となれ。永遠に我を助けろ。」」」」
「「「「我の命続く限り、ずっと・・・」」」」
オレを含めた四精霊は自分の作り出した分身・・・その『力』をたった一人に集約させる。
一人、また一人とオレの心の中に入っていく。
そして、最後は自分自身。オレがイフリートであった魂がオレの中に入った。
こうして熱に包まれた世界はバラバラと音を立てて剥がれ落ち、無機質な声が暗闇となった世界を支配する。
「覚醒の試練、過去を断ち切りました。これからあなたには次の試練へ行ってもらいます。」
扉が出現する。その扉はどこか冷たく、オレを待ち続けているかのようだった。
「一味違うオレに・・・何も怖い物は無いッス!」
バァン、と激しく扉を開けた。
自身を焼き焦がすような熱い日差しは鳴りを潜め、適度に、気持ちの良い風を送ってくる。
オレの肌は普段と変わらない赤みがかった肌になっていた。
「・・・」
シルフの言っていた事を思い出す。確か4年経てば戻ってくるとのことだ。
この間に修行を積み、強く立派になって帰ってくる事、それこそが試練である。
周辺を見る。所せましと立ち並ぶ家々は屋根や窓、ドアが壊されている。廃村である。
「どうしてこんな場所に来なくちゃいけないんでスか・・・」
「たまげたぁ・・・まだこんな場所に人が居るなんてなぁ。」
振り向くと、そこには白い髭を生やした人物が立っていた。ん?この服に見覚えが・・・
「メサラドなんスか!?ここは!?」
「そ、そうだが。もう三年も前の事になるのじゃが・・・」
老人は困惑している。こちらは困惑どころの騒ぎではない。
なぜこの街・・・オレが守って来たこの街が目の前で壊れて崩壊しているのだ。
「驚くな・・・老人。」
「オレはこの街を陰から守って来た魔王、イフリートだ。」
「い、イフリート様の再誕じゃと!?」
「知っているか。ならば話が早い・・・」
「この街で何があった!?原因は!?この限りなく潤っていたメサラドがどうしてこうなった!!」
半狂乱になりながらも老人に事情を聞く。
「あなたは街を守ろうとした結果奴らに殺され・・・街など貴方様の作り上げた全てが破壊の限りを尽くされました。」
「儂は・・・ただ一人逃げ切った・・・この街の人間を見捨てて・・・」
「儂は誇りの無い人物・・・だが、逃げ切った事でイフリート様にこの事実を伝える事が出来て・・・」
老人が泣いている。オレはその老人を慰める行動に入る。
「街などまた一から作り直せばいい・・・こうしてオレに事実を伝えてくれただけで、何もかも許せる。」
「人間は貴方様の思っている以上に少なくなりつつあります。奴らの襲撃は全国各地にて行われ、崩壊する村も増えてきました。」
「儂は・・・毎日ここへ来て誇りあるメサラドの民に謝るだけしかできぬ人間・・・どうか前へお進みください。」
この老人は見殺しにする訳にはいかない。
「誇りなんてものは今となっては足枷に過ぎん。オレと共に来ないか。老人。」
「イフリート様・・・この罪深い私を許して下さるのですか....」
「ああ・・・・罪滅ぼしと言って死に急ぐ輩はただの荷物に過ぎん。だがお前は違う。」
「優しさに溢れた、良い人間ではないか・・・」
「・・・この街にはもう来ぬつもりでございますか。」
「ああ。もう来る事は無いだろう。」
老人は決意した。何があってもこの人とは離れまい。この魔王は私の最後の希望であると。一生付いていくようなそんな強固な意志をオレは感じた。
道中にこの老人から『奴ら』の情報を貰った。
奴らの言語は違う。聞きなれない言葉を笑いながらしゃべり、解読不能とのことだ。
・・・その時点でオレは勘づいていた。オレと同じ故郷の人間ならば言葉は互いに分からなくて当然だった。
「・・・少しお待ち下さい。」
老人はオレの足を静止させてから周りを見る。主に隠れられるような場所を見ているようだ。
「こちらへ。」
近くの岩陰に隠れ、直後ニンゲンの話し声が聞こえた。
「...しっかし女神様も直接討伐してこいって珍しいよなー」
「そうだなー。何もなかったらどうするんだよー。」
「何もいなかったとか言えば絶対俺達が討伐されるぜ?」
「ハハハハ、まあその時はその時だろ」
二人組。男。日本語。
オレは考えられる限り考えた。
女神様。この人間達の主導者だろう。そして討伐してこいと言った対象はおそらくオレ。オレがこっちへやって来た途端この人間達の言葉から推測するが・・・
女神という主導者はオレの出現を何らかの方法で感じたのだろう。事実あの男らの向かう方向は廃墟メサラド方面だ。
既に相手には見つかっているが、こちらは敵を発見できない状態か・・・
オレは完全に男二人組が去った後四精霊を召喚する。
「シルフの精。情報収集を。」
「ウンディーネの精。転移水魔法の準備。」
転移水魔法はウンディーネのような水に長けた者のみ使える大魔法だ。消費は大魔法の中では少ないらしいが今のオレではほぼ全ての魔力を持っていかれるだろう。四精霊の力を借りるだけで精一杯の状態となる。
ウンディーネが準備を行う。オレは続けて残りの精霊に指示を出す。
「ノームの精、お前はオレに土の加護を。」
「最後にイフリートの精、いつでも使えるよう魔力を貯め込んでおいてくれ。」
使うというのはイフリートの真の力だ。オレ達ただの人間を『魔王』という存在にした精霊達の魂である、その精霊が今は力を貸してくれるのだ。
・・・オレに宿ったチカラ。それは『創造』のチカラだった。多分他の魔王達も覚醒進化が終わればこういったチカラを得ているのだろう。
「こいつらに任せておけば大丈夫だ。先を急ごう」
「分かりました。イフリート様」
歩く。日本人には遭わなかった。
「この世界は今どういった状況だ。」
「街はまだ少しだけ持っていますがそれも時間の問題、各地に点在する村はほぼ壊滅状態・・・十柱の守り神は貴方のように離れた者から各個撃破されています。」
「十柱の守り神?」
「私達は魔王を忌み嫌っていました。魔王達はある日突然神を倒したと声高々に言うので私達の魔王達に対する怒りは常に頂点に達していました。」
「それは今では十柱の守り神とまで言われる・・・私達は、掌を返す時期が遅すぎたんですよ。私達は今まで魔王達に守られていたのだと再確認させられて古く忌々しい感情はすべて捨てました。」
「あなたは記憶が完全では無い様子。ならば教えましょう、十柱の守り神は今までにイフリート様を含めた五柱はすでに沈みました。」
「んな・・・!?」
「貴方は魔王の再誕。ここに存在する魔王は六柱になったでしょう。」
覚醒試練を全員受けている筈だ。それなのにオレを含めた他の五柱は沈んだ?
奴らは一体何なんだ・・・!?
5人の魔王が既に沈んでいる。これが異常な事態だと悟った。他の魔王達は覚醒進化装置で更に強くなっているのに対し、簡単にこれほど魔王が沈んで堪るか。奴が数の暴力でもなければ・・・・
「数で、襲うのか?」
「本当にイフリート様は勘の鋭いお方。」
「最高100人前後が魔王を袋叩きにしたと噂されます。そこまで数の力は圧倒されるでしょう。」
「・・・奴等の本拠地は分かるか。」
「お急ぎになられない方がよろしいかと思います。まずは残りの五柱に再会する事が先決。」
「シルフ!!」
すぐに情報収集を頼んだシルフから情報が送られて来る。
「近くに一人いるようだ。魔王だ。」
歩く。情報によるとそこで休憩しているようだ。
「・・・・!イフリート!」
「その声は、雷鳥?」
山をちょっと登り、比較的平べったい場所に隠れるようにキャンプしていた雷鳥(?)
「ええ。まさかイフリートが生きているなんて・・・ああ!覚醒進化装置で来たのですか。雰囲気が大分前に感じた物とそっくりです。」
「では・・・その装置は精神体だけを移動させて肉体は無から取り寄せています。」
「なのであなたの精神が壊れない限り何があっても元の時間に帰る事はできるでしょう・・・私にはもうそれしか希望が見えません。」
「何があったかオレが情報を持ち帰る。監視者を倒した後に必ず伝える。」
「そうです・・・私から聞いた情報はあなたの世界に役立てて下さい。」
やはり何かを諦めている顔をしている雷鳥。それは状況が深刻という事を果てしなく現していた。
「奴は来ませんか?」
「大丈夫だと思うが念のため周りを警戒させておく。シルフ!付近の警戒。」
シルフがやってきて了解の合図を取った後飛び去っていく。
「それがあなたの能力ですか・・・イフリートさんの能力はあまり見る機会が無かったので・・・」
「これは私が調べて見つけた共通点ですが、日本人の真の能力は基本的に三つに分けられる様です。」
「創造型、特殊強化型、支配型。私はその三つにも当てはまりませんでした。『特異点』という、特別な物だったようです。」
「創造型は何かを創り出して戦い、特殊強化型は特別な力で自身を強化して戦い、支配型は相手の混乱などを招き自身の有利に戦場を進めていました。特異点はその三つが使える代わりに弱く、私が死ねば世界がリセットされてしまいます。」
「最初は、皆も私を守ろうとしました。そんな物は無駄に終わりましたが・・・」
「さて、神を倒すのは簡単です。やられた振りをしていただけでしたから。だからこの世界に奴等が次々とやって来た。」
「・・・儂に、何か手伝える事はないのか?」
「そこのご老人さん。食べ物の準備をお願いします。」
老人は黙々と作業に入っていく。
「奴等は人間、それも私達と同じ日本人です。どうやら別の日本からやって来たようですが、同じ日本人に変わりありません。」
「私達が敵だと『女神様』とやらに言われても、すっかり信じてしまっていました。」
「一人を捕獲して調べた結果、洗脳に近い手法を取っていたようです。」
「となると倒すしかないわけなのですが・・・それがまた厳しい。」
「奴等は丁度あなたたち魔王が真のチカラに目覚める直前程度の能力を持っています。」
「少しショックな事がありそれを克服すればすぐに自身の真のチカラに目覚めてしまいます・・・」
「そうなってしまえば扱いが未熟な内に叩くしかありません・・・非常に厄介な相手です。」
雷鳥はいつもと変わらない態度で話しているが、状況はかなり深刻なようだ。
「まだこれらの原因を倒す方法は見つかっていません。そういえば、白さんとレイカさんは私達の中でもトップクラスの強さを誇りますが、レイカさんは勇者であることを棄てたようです。どこかに勇者が眠っているのかもしれません・・・」
「白さんのグループに残りの人達は集まっています。私は一人ですが彼らは四人。私はなんとか生き延びます。イフリートさんは私の話が終わった後すぐに彼らと合流してください。」
「了解したが、果たしてオレが役に立てるかどうか・・・」
「イフリートさんならばその精霊の力を使えば最大限の力を発揮できるはずです。逃げ道はないと思ってください・・・」
・・・転移水魔法の事か。オレはいつでも離脱できるように行動していたが、仲間と合流した後になるともう殆ど意味の無い魔法になる。
転移水魔法は準備(設置)した位置にいつでも転移できる大魔法だ。問題はかなりの魔力が持っていかれる・・・
「おや・・・食事にしましょう。」
老人は料理が出来るようで、とても美味しい。
「そこのご老人は料理が出来ないようなので支配で簡単に作り方を教えました。」
老人は料理が出来ないようで、雷鳥に教えてもらっていたようだ。
「ありがとう。雷鳥さんも強く生きて。」
「そちらこそ合流前に死なないように。」
雷鳥に別れを言い、歩き出す。
「あの人を守らなくて良かったのですか?」
老人がそんなことを言うが、
「オレにはオレのやるべき事がある。彼女には彼女のやるべき事があるだけだろう。」
会話したのはそれだけで、他に口を開いた時といえば人間から隠れるための合図だけになった。
やがて山を出る。この先は村しかないが奴等に取っては過ごしやすい拠点なのだろう。
今回も辺りをうろつきオレ達を探す日本人をなんとかやり過ごし、シルフを呼び出す。
「白の居場所が分かった。近くにいるそうだ。」
オレはシルフに補助を頼んで老人を抱え、走った。
「おーい白!オレだ!」
道中何か簡単な結界が張られていたがオレはそれを破ってから丁寧に治して入って来た。
「新手のオレオレ詐欺か。」
当然のように戦闘態勢に入る白。白の後ろにはキャンプがあるが、キャンプの周りを透明な壁が囲っていた。
「お前イフリートの偽物か?」
「いや、違うッス!」
「口調まで似せてるのか。」
「信じて欲しいッス!」
「じゃ、確かめてやるよ」
ピンッと音を立てて何かの種を弾く。
その種は空中で光って弾け、大量の粉が発生した。白はそのまま「着火」と言うと、粉は燃え広がり俺を焼き焦がそうとする。
「ちょっとまっ!!」
老人は安全な場所に投げる。
結果から言うとオレの体は火に強く、火だるまになっても死なない。白は普通の人間なら死ぬ程度の火力でオレを襲ってきたがオレが無傷で生き残っている事を知ると歓迎した。
「いきなり何するんですか・・・」
「イフリートはもう死んでるのにまだマネをする人が現れるのかと思ってな。」
「まさか10年前のイフだったとは。」
ハハハと笑う男は白。成程、元の世界の10年後か。そこでふとオレは白の後ろのキャンプから出している顔を見た。
「あんた、後ろに女しかいないんスね」
「仕方ねーだろ。俺以外の男はみんな何かを守って死んだんだ。丁度イフのように」
「で、この人達は一体誰が誰だか分からないんですが。」
「ちょっと隠れてないで出てこい。」
整列する。
「そこの赤い服はアキタ、青くて長い髪の子はノーム、緑色の髪をしたお姉さんはレイカだ。」
「色で判別できるんスね・・・」
「まあな。」
「なにがまあな。だ!まだ修正が足りない様だな…!」
赤い服の女は何となくクポの街の魔王と重なった。無口なはずだったが・・・
「とまあ、俺らは俺らで楽しく世界を守っている。」
「オレはたまたまこの世界にやって来たッス。覚醒進化装置?という物からたまたまッス。」
「確かに俺の知っているイフは覚醒進化装置から帰ってきてもいつも通りのイフだったが・・・」
「最後の手段としてイフに今起こっている惨状を説明すれば過去の俺達がどうにかするかもしれないな。」
「それで、そこの老人は?」
「メサラドの生き残りッス。」
「はぁ。老人にはすまないが死んでもらおう。」
!?
「は・・・え、ちょっと待つッス。この老人の何がいけなかったんスか。」
「わ、わしはイフリート様に仕えている身、イフリート様のためになるのならば喜んで死へと進んでいきましょう。」
「そこの老人は覚悟できているようだが。」
「い、いやちょっと待つッス。この老人は何も悪い事をしてないッスよ。」
「・・・」
突然向けられた敵意はオレには無く、老人ただ一人のみに向けられていた。
「すまない。老人。」
そういって白は地面を掌で叩く。掌から光が漏れ出ている・・・それは種。
直後老人の真下から炎の柱が、まるで真下にある火山が噴火したように噴出した。
老人の体は衝撃で空へはね飛ばされ、直後大火力の炎にて跡形もなく焼き去った。
「・・・何をするんですか。」
これには敵意を隠さずには居られない。
「部外者、それもさっきの老人には敵に情報を送る装置が埋め込まれていた。」
「な、ならそれを取ればいいじゃないスか。」
「いや、取れば老人は苦しみながら死ぬ事になる。魔術に抵抗のない人間はそれを体の一部として認識するようにされているから・・・何かの生き残りには必ずそれを逃がした理由がある。さっきの様に情報を送り続ける人間を知らずに招き入れていたら俺達は簡単に壊滅することになるだろう。」
「助かる方法はなかったんスか!?・・・・・・雷鳥は!?」
まさか。道中やけに人間が多かったのは。
「彼女なら大丈夫だ。飛んで逃げられる。」
「元・鳥だから大丈夫、なんて話があるわけないッスよ!」
「彼女もさっきの老人に気付いていただろうからな。変身出来る事は伏せていたか。」
知らないのはオレだけ・・・
「そんなのってないッスよ。」
「ただの人間も疑わなきゃいけないなんて。そんな世界なんすか。ここは。」
「・・・」
「こんな未来なんすか。夢も希望もない未来しかないっていうんすか!ここはッ!!」
「ああ、そうだ。俺は何も出来ない神だった。俺の力で守れた人間が、この3人だけだ。」
「・・・早く情報を下さい。オレが過去へ持って帰ります。」
「俺の記憶だ。もってけ。そして、もうここへは来てはいけない。未来を許さないんだろ?」
白が取り出したのはさっき見た種よりも大きな種。オレの握り拳一個分。
「その種を食べろ。俺の記憶はその中に入っている。」
オレは種を食べた。
泣きながら。4人の目の前で。
一つ齧れば白の思い出とは呼べない記憶が次々と呼び覚まされる。
全て食べた。泣き止む事は無かった。
―特別条件を確認しました、時間を進めます。―
何倍速か、一瞬でキャンプは無くなりそこへ多数の武装した人間がやってくる。
俺の目の前でその土地は抉れて荒廃し、
そして緑が生まれる事なくオレから見えるすべての大地が死んだ。
奥に見えていた村もすべて更地になり、今度はオレのいたはずの地面が黒く腐っていく。
オレが改めて見たこの世界は、すべてが消え去って何者も住む事の出来ない死の大地へと変貌した。
オレはこの真っ暗で真っ黒な未来を目に焼き付ける。
「未来を変えろ。」
天から聞こえた最後の声は白のメッセージだった。
オレは光に包まれて元の世界へ………帰って来た。
「・・・う。」
ガチャ。ドアが開いてドアから零れ出る光と共にまだ普通の青年の白の顔が見える。
「ど、どうしたんだそんなに落ち込んで。」
「・・・」
「と、とりあえず休め。お前のいつもの調子じゃねーぞ」
白はオレの手を引っ張って階段に座らせた。
オレは監視者を倒した後、ぶちまけられるだけ真実をぶちまけてやる。
どこに居るかもわからない監視者に殺意の目線を向けながら、オレはゆっくりと休んだ。
「何があったんだろう・・・」
俺はいつものイフリートではないイフリートに困惑していた。
何か不安な事でもあるのだろうか。それとも嫌な目に遭ったとか?
何とかイフリートを慰める方法やらさっき帰って来た魔王達の事やらがすごく気になってしまい、疲れる。
「ただいま。おお、もう2年か。」
シルフだ。レイカも帰って来た。
「おかえり。シルフ、レイカ。」
「まあ、色々と準備は出来たし残りは他の魔王達の覚醒進化待ちですね。」
「シルフって何でも出来るんだなぁ」
「何でもシルフの手柄は少しどうかと思うわ。」
今までシルフはレイカに戦い方を教えていた。
俺の覚えた春の目覚めもしっかり多重発動できるようになっているし、身体能力もかなりの数の永続強化魔法で常人の5~10倍にまでなっている。勇者らしくなって帰って来ていた。
「ま、まあこの惨状はあとで本人から説明してもらう事にするわ。」
レイカは見た事のない人達が階段を占拠している事に驚きつつシルフと共に最後の準備に取り掛かった。
「ああ、研究所はアキタが借りてるから他でな。」
「分かった。アキタ・・・確かあの赤い服の魔王だったかい?」
「そうだ。」
「じゃあ僕は新しく研究所でも作るか。」
「ベス、サラ、30秒で作ってくれ。」
「「分かりました。」」
「本当に30秒で作れるのか・・・」
その後、30秒後新しい研究所に即座にやって来たアキタ。二人は悲鳴を上げる事になる。
次は僅かに装置に入るのが早かったウンディーネ編になります。
10人中7人はもう強化後の姿を見せている(一人除外)ので覚醒進化シーンは残り3回となります。




