60話 覚醒進化(5)
~前回のあらすじ~
水の精霊が二人手に入った上に色々な意味で綺麗になったノーム。
ノームは色々な事を教えてくれた未来の先生『ウォーター』との別れの際の"教え"を守れるか。
そんな話は露知らず本当に強くなってきたのか、エステにでも行っただけじゃないのかと心配になる白であった。
私は秋田と呼んでいる。由来は私が夢の中、夢が終わる間際に誰かが「あきた...」と、あきたの後に何を言っていたか分からないがその「あきた」という言葉がいつまでも離れない。
私は夢から覚めてすぐに殆どの知識がついていた状態でこの世界に居た。
色々な物がある。環境が整っている。そんな何でも揃っている人間に運よく拾われた私は次第に恩返しを考えるようになった。
すでに知識を持っていた私は目が覚めてあの人に見つかって拾われる瞬間までしっかりと覚えている。
赤ちゃんは知識を持っていないため覚える速度がとても速い。大人になって何年も勉強して覚える言葉がほんの少しで覚えてしまうのだ。
しかし、私はその知識をすでに持っていた。
持っていたため、その覚えるスピードが速いことは意味がなくなるかに思えた。
・・・その後、私は知識を工夫に工夫を積み重ね、物作りに嵌って行った。
普通の人間なら少し流行って生活の一部になっていっただろう。だがそんな物ではない。
それこそ、人間という概念すら危うくなるような一歩間違えれば危険で・・・そんな物を作っていた。
私はそれを躊躇いもなく主人にあげていた。だが、ある日・・・いや、研究物をあげて3日程度した後だろうか。私の行動は非常に浅ましい事を知る。
今、私は『過去』に居る。この装置を作ったのだってシルフから頼まれて作った物だ。
シルフは完成品を取りに来ただけ。彼の場所というか、魔王城はわかっていない。
今話したい事はそれではない。『過去』の話だ。別の人物の。その時は小さく私自身が魔王である事は知らなかった。
ある少年がいた。唯一遊んでくれていた友達である。
クポの街で領主に拾われた子供。それは私の事である。
子供は私が物を作っている事を知っており、何度も知恵を聞きに来る。勉強熱心な子だ。
ある日、その少年は「これこれこういう物を作って欲しい」といった依頼をくれた。大人の世界というものをいち早く知っていた彼は有り金全ての178マールを報酬として提示してきたのだ。
こういうのは断れない。私が、子供の頃ならば。
今、私は『これ』を気安く作ってしまった経験がある。未来を知っていてここに立っているのだ。
「ねえ、あきたー。僕からちょっと『いらい』?をお願いできない?」
「いいよ。聞いてあげる。」
「実は、乗り物がほしいんだ。あきたの『きかい』?のぎじゅつで乗り物をつくってくれないかなー」
・・・知っている。私は知っている。
気安く私の技術を振りまいた結果私は魔王として覚醒して自分の為に物を作り続けていくことになると。
「なににつかうの?」
私は尋ねた。しかし知っている。嘘を言えばどうなるか、わかるよね?
「それで走ってみたいのー」
その瞬間、私の『尋ねる』は『訊ねる』に切り替わった。
「走って、それでどうするの?」
「なにもしないー」
「お兄ちゃん」
「・・・」
「ころすんじゃないの?」
殺人。実に簡単だ。
私の技術は人を殺せる。フッ・・・ハハハ。それが私を隠れた魔王とする引き金になる。自身の技術で人を助けるなんて幻想が打ち砕かれる。
「ハハッ・・・そうなんでしょ?」
「私は知ってるよ。」
追い詰めるように問いただす。
「ご、ごめんなさい・・・もうしません。」
「そうじゃないよね。私の技術に泥ではなく血を付けるなんてね」
「ごめんなざい!・・・ごめんんざい・・・う・・・・」
さて、どう反撃しようか。この少年は既に死んでいる。いや、殺すしかなかった。
この装置は過去を克服することを条件に未来へ飛ばされる。・・・そう設計したから。
同じ過去を克服するなら、こういう方法では駄目なはずだ。
少し心が痛いけど、ここは作るしか無いか。
私の心は少年を痛めつける事ではない。自身を先の存在へと昇華させること。その方向へと軌道修正されていた。
「・・・それでも殺したいのなら。いいよ。」
「本当?」
「うん。」
にっこり笑顔でこう言う。今まで怒るように自分を問い詰めていた少女が突如人殺しを容認する・・・いや、殺人道具を提供する闇の感情を一切隠さない表情へと豹変した。
「あ・・・ありがとう・・・」
この少年は弱みを握られたと思ったのだろう。殺す事がばれている。事前に兄にそんなことを囁かれたらただじゃ済まない。その少年はすでに少女に必死に謝り、もう兄を殺す気はないというのに。
私は子供の頃の技術力をまじまじと見つめている。そういえばこの頃はこんな物しか作れなかったなぁ。と懐かしさで涙が出る。どれもこれもあの少年。しかし私を成長させてくれた少年に今は複雑な感情を抱いていた。
数日・・・ではない。半日後である。一瞬で完成した。
「どうぞ。」
私には初めての依頼者。彼には初めての車。これほどすっきりした関係もあるまい。
私は笑顔で見送る。少年の目は泣いていた。
私は『あの日』に備えて大急ぎで準備に取り掛かった。当然過去の事だからと計算は怠らず、狂い間違いはない。
私がいつも愛用している鎌にどこでも転送装置。そしてわたしサイズの小さめの赤い服と赤いとんがり帽子。
「よしっ」私は自作の鏡(まだ世には出回っていない物だ。)を見てガッツポーズを取る。
忘れていた。どこでも転送装置の改良だ。
ついでに大魔法タンクの取り付け。そして様々な魔改造を行った結果元居た世界と同じ型が出来上がった。
この装置、とても丈夫な加工をした小型端末を使えば一瞬でお望みの物が何でも転送されるのだ。
意識して手を握れば握った手には鎌が。
意識して手をかざせばあっという間に魔力量の高い大魔法が。(危ないため手の平に大魔法の魔法陣を出すだけで終わった。魔法陣の形もしっかり確認し不具合がないか確かめた。)
これで世界のあらゆる装備は手に入っただろう。何一つでさえ私を超える作品は出来ない。
ここは領主の家のとある一室。ドアは誰も入ってこられないようパスワード式になっており、毎回変える16桁の番号を入れなければ入れない。
周りの壁やら何やらはすべて頑丈+防音装置が取り付けられており誰にも、おそらく神以外の何者にも作業内容は分からない。これは感度の高い盗聴器をとなりの部屋の壁にくっつけて調べた結果であり準備は万全だ。
私は「間に合った・・・」と思いつつゆっくりと眠りに入り込めるベッドへ入り込んだ。
翌日。更に翌日。その更に翌日。
何日も「その日」が来るまで目を覚まさなかった。
私は二台目の何でも転送装置に何日分もの食事を栄養素へ変え、私の体内に送るよう仕向けているのだ。それ以外にもいくつかあるが、すべて体調を整え快適な眠りを何日も取れるために適用されている。
おかげで何日も眠れ、体の疲れは取れるどころか一生の内で感じた事のない最高の日となり得るとても良い調子だ。
体は普通の何も改造を受けていない状態だ。私の体の動きに支障が出たら困るから。
久しぶりに外へ出る。装置によって日の光は与えられていたため眩しいと言った事はない。
そろそろ少年が騒ぎを起こし私の所へやって来るだろう。
外を少し歩けば・・・見えた。
「おーい」
手を振る。車は気に入ったようだ。血がたっぷりと付いている。後ろには大勢大人が追っかけている。
「おーい領主のお嬢さんこの子を止めてくれー人殺しだー」
技術力・・・余程信頼されているようだ。
「仕方ない。」
私はとても小さい声で私の心に言い聞かせるようにぼそっと呟く。いつもの調子を出した。
「わぁぁぁーこっちにこないでぇぇぇー」
「あんたが作った物じゃないのかいいい!!」
大人の一人が私を罵る。車に乗っている少年のお婆ちゃんだ。まだ元気ですね。
その後は私が先頭、後ろに続くは車、大人集団で追いかけっこだ。
よし・・・次は
「もう許さないからねー!」
振り向き立ち止まって無邪気な少女の『真似』をする。ふふ。皆嵌ってくれると嬉しい。
持ち出す物は鎌。私用に少し小さくしたが切れ味は抜群だ。硬い硬い鉱石だって切れちゃう。
私は鎌を水平に振り回しながら小刻みに転送させて速度を得る。
「ざん・てつ・けん。・・・あ。」
てへ。車を斬っちゃった。
斬った車の底はなんでも転送装置にゴミ捨て場かどこかに捨てさせる。
同時に靴の底と薄皮を斬られ足が真っ赤になっている少年は目を血走らせながら笑った。
「君ィ。こうしちゃ駄目じゃないかァ。」
悪魔。
格下だ。
鎌には様々な特攻薬を塗ってある。硬い硬い鉱石がよく斬れるのもそのお蔭である。
「なんだ?力の差がまだ分からないのか?」
目の前まで転送させて悪魔の『首』にあたる所へ鎌をかける。
それに塗られている物が何か分からない悪魔は笑う。もう大人たちは困惑状態。怯えたり足を震え上がらせたり逃げ出そうとしたり。恐らく私と悪魔を比べて私の方が強いという結果が脳内で生まれているのだろう。ただでさえ悪魔一匹に蹂躙されるはずの人間が、一人で対等以上にわたりあっているのだ。悪魔より怖い『悪魔』としてこの先恐れられる可能性が高い。
「そんな物で私が倒せるとでもォ?」
私の手を超高速で振り払おうとする。残念だな。残像だというのに。まだ魔王の力を持っていない私でも転送装置のお蔭でなんとか持っている。
じゃあ、とっとと魔王になっちゃえばいいか。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
私は大人に怯えられる絶望をたっぷりと表現した。わざとだが、これぐらいが丁度いい。
プチ、プチ。ドクン、ドクン。両腕に何かが潰れ何か丸い物が流れ込んでくる感覚がある。
身体異常。ある人はそれを『特殊能力』と言う。
「フフフハハハハハ…」
「好きなだけ虚勢を張っているがいィ。人間ン!」
私をまだ魔王と気付かない。鈍感な奴め。
不要。過去の私はそのまま飛びかかり、虐めるために私に殴られた悪魔だった。その悪魔がどうなったかはこの先を見て貰えれば分かる事だろう。
「殴る。この鎌も要らない。」
「フ」
喋る暇も与えずに殴られた悪魔は変化した。
巻物。悪魔の全てが書かれている巻物。
過去の私はそれを見て二度と浅はかな考えを持つ人間に物を譲らないと誓った。
私は今どうしたいのかさっぱり分からない。過去を克服するのではないのか。
「・・・償いをさせて下さい。」
あの時言えない言葉をぽつりとつぶやく。
「私に、悪用しないという証明を持ってきた方にのみお望みの品を作って差し上げます。」
「証明方法は大まかな依頼内容を書いた紙に一滴血を垂らして持ってきてください。」
「それは鑑定し、本人の物かどうか分かった上で作成に取り掛かります。」
「もし規約を守らなければどうなるのか。それは今の悪魔を呼び出す前に殺します。」
「死神と呼ばれてもかまいません。あなた達みんなはそもそもの依頼をしなかったら私自らあなた方に危害を加える事はありません。」
その言葉はぽつりぽつりと出てきた。
「規約を守り、悪用せずに使う方には最高の品をご用意させていただきます。」
「だから・・・どうか私を追い出そうとしないで下さい。」
「私はあなた方にとって有益な存在です。」
必死に、過去のトラウマを消し去ろうとするかのように大人たちに乞う少女。
そう、過去、私があの悪魔を巻物に変えた時。あの人間達は追い出そうとした。
領主は私の唯一の可愛い娘だと言って、皆の反対を押し切ってこのクポの街に留まらせる。
領主は優しい。私だけには。
しかし、領主は現れなかった。必死に許しを乞うている事を理解しているのだ。
はぁ・・・
私は心の中で溜め息をつく。
私の演説は続く。
「ですから。それらを理解した上で依頼を出してくださる方。お代はお気持ちで十分です。私をこの港町に置いてください。」
だが、人間はそう甘くはなかった。
短気?いいや。もっと別の感情だ。
「・・・」
周りに居る全ての人間が黙り込んだまま動かない。
皆悩んでいるのだ。この『悪魔』をどうするのかを
やがて一人が喋りだす。私のトラウマを更に抉る形で。
「この子は悪魔だ。」
ッ。
「そ、そうだそうだ」
「お前なんか」
そこまで行ったところで近くに落ちていた小石を投げ始める。
「小石。それも貴重な資材になります。」
投げられて放物線を描く小石は私の頭を狙っていた。
しかし、すぐ呼び出した鎌の前では無力。資材として回収した。
「あなたの何気なく落ちている物がすべて私の作る製品に必要な『材料』となります。」
「それらを無駄に、それも人間に危害を加えるために使用することは私は許しません。」
機械のように喋りだす私の口。もう私の頭は暗雲が立ち込めた様に真っ暗だ。
「あなたはこの少年の悲劇を知っている。あなたは物で人を傷付ける事が皆を傷つける事になると今知った筈です。」
私は石を投げた大人を諭す。私に攻撃をすることは単なるついさっきの恐怖の捌け口として使われているだけであると。
人を攻撃することによって何かが変わる筈がないと。
「人はそれぞれに役割があります。私はあなた方に私の作った物を使って欲しい。」
「私は今この事件によってすべて失われた信用を取り戻す事が償いだと思っています。」
「もう一度、私とあなた方が共存できるチャンスが欲しい。」
「もう二度と、このような悪魔は存在させません。」
私の中で、二つの何かが言い争いを始めた瞬間だった。
「私はあの少年にわざと殺させた」「しかしこうして償いをしようとしている。」
話は平行線である。
そんなどこまでも続く平行線を打ち砕く人物が現れた。領主クポである。
「人民よ。」
大きい声を出しながら私である少女の横に立つ。
「この少女は、今。悪魔を呼び出し街を危機に陥れた事への償いを行おうとしている。」
「悪魔による更なる被害を防ぎ、その上このことに対する責任を取ろうとしているのだ。この者に恐怖、敵意を持った人間はもはやこの街の人間の抱いてよい感情などではない!」
「私は、この者を受け入れようと思う。」
大人たちがざわつく。
「力のある人間は必ずと言って良い程孤立している。」
「しかし!!この人間は自身の力を私達に貸してくれると言っているではないか!」
「そんな慈悲に溢れた行動を蹴る貴様らは人間などではない!!『悪魔』だ!!」
貴様らは悪魔だと言い切る領主の演説に大人達が黙り込む。
「もう一度、彼女と歩み寄るチャンスを作り出そうではないか。一人で生きられる人間など居ない。人間は、様々な生き物と共存する事で生きていられるのだから。」
理解したのかどうかわからないが泣きだす大人も居る。
多分これで私が居る事は許してもらえるだろう。
結局クポさんの力ですべて解決させてしまった。
私の過去は解放されなかった。そうだろう。これから私は物を作り人間を助ける『償い』をするのだから。
いつもの生活に少しの依頼がついてやって来たのだ。非常に充実した毎日。
しかしこれでも悪い事に使ってしまう人がいるようで、使わなくなったため他の人に売ったところまずい結果になったなどの事件はあった。
私はそんな事があるたびに注意喚起をし、「物は捨てないように、物は売らないように、物を壊さないように。いらなくなった物はすべて回収し、他の製品に生まれ変わらせます。」とか言った。
2~3回ほど演説したらそういう報告はきれいさっぱり消えた。
代わりに信用した人間が次々依頼をしてくる。
最初はのんびり寝る時間もあったのだが徐々に手は追いつかなくなり、機械の助手を作った。
この助手は私の作業時間をかなり短縮するため休みなくこき使っている。
私は新たに演説を開く。
「私に依頼をすることが出来るのは、この街の住人だけです。」といった感じに。
そういった忙しい毎日が続き、3年が経ったある日…
突如私の充実した生活は終わりを告げた。
朝起きたと思ったら突然真っ黒な世界に切り替わり
「覚醒の試練、過去を断ち切りました。これからあなたには次の試練へ行ってもらいます。」
と、どこからか分からないが機械音声でこの言葉をしゃべった。
唐突に思い出す。
ここは装置の中。今の私は3年を消費した。残り1年である。
未来が1年。いや、3年ちょっとだから1年よりも短い。
私は軽く本来の調子を取り戻しながら、視認できるようになった大きな扉を開く。
「そう、確かこういう感じだ。」
扉は開かれ・・・
(ここから先は分からないな。)
と確信した。まあ『未来』は時間軸を少し弄っているためだ。誰にも先が分からない未来である。
辺りを見回す。一面花畑。
自分を見る。装置に入る前の私だ。幼くない。
「おや。あなたですか・・・」
だれだ。いきなり会って残念そうな顔をした水色の髪をした人間は。
「私が何か悪い事をした人間に見えるか?」
「ええ、見えますとも。」
上下じろじろ見ながら答えた。許さない。
「まあまあ。」
・・・頭が…この声を…聞いて…っくらくらする…
「な、何者だ」
警戒態勢は崩さない。未来に飛ばされて早々撃沈など嫌に決まっている。
「これからあなたと私で共同生活をすることになるんですから、そう警戒しないでください。」
「何者だと言っ」
「やあ!」
水鉄砲を浴びせられた。花の良い香りがしている。
「あなたも分かっているんでしょう?死神魔王さん。」
「な、なにをだ」
「私からは逃れられませんよ」
ああ。こんな大きくて優しそうな人間に捕まるなんて。なんて未来は過酷なんだ。
ゆっくりとこの言葉が頭の中で復唱される。
「分かったならこちらへ来てもらいます。」
パチン。指を豪快に鳴らしたお姉さん。私の体はシャボン玉で運ばれて行きます...
「ここが我が家です。食べ物などは思う存分に作ってあげますので安心してください。」
意外とくつろげそうだ。
で、この未来の知らないお姉さんの目的について知りたくなった。物は作れるのか、と。
我慢しきれずに聞いてみる。これから何をするか、物を作れる自由時間などはあるのか。
「あの、お姉さん。」
「ウォーターです。」
「う、ウォーターさん。」
「ウォーター、とお呼び下さい。」
「ええいっ!話にならん!!」
「今度は口を挟みませんよ。」
「で、ではウォーター。私はこれからどうなるのだ?物を作製する時間は取れるのか?」
「作製する時間はありません。貴方にはこれからやらなくてはいけない事があります。」
「ちょうどいいですね。」と言いながらまた指をパッチン。シャボン玉が私をゆらゆら運ぶ。
私の意見なんか聞いてくれちゃいない。
そんな事を思っていた。
「着きました。」
私がシャボン玉で運ばれている間、ウォーターは歩いていた。10分程度だろうか。
パチンッ。シャボン玉は割れ落下する。受け身を取る事でダメージはなかったが、不満を言おうと思い口を開けかけた瞬間、
「あなたの身体能力なら突破も簡単かもしれませんね。」
「はい?」
思っている事が口に出ちゃうよ。目の前の森を指して突破とか言っている。
「この奥へ進んで頂きます。私はここから見守っていますが、もしもの時があればしっかり助けますので安心して進んでください。」
ウォーターは力こぶを作る。
「心配しかないが」
そんな独り言を呟きながら森へと入っていく。
まあ1分もしない内にウォーターの居る場所へと戻って来た。いや、戻されたのだ。
ヤケになり何度もチャレンジするが結果は同じ。ウォーターに泣き縋ればヒントが聞けた。
「森はあなたを拒んでいます。まずはそれをどうにかしなさい。」
はぁ・・・久しぶりの溜め息を心の中でついた。
「あの・・・道具を使う事は」
「許しません」
「そうですか。」
溜め息ばかり(心の中で)ついてられない。
私は森に挑み続けた。
しかり当然帰って来た答えは「戻される」という結果のみ。
私は果敢に挑み続けた。
その内その戻されるわけについて考え始めた。当然この間も走っている。
私が作成した「ゲーム」は、マップを左に移動しても左から操作キャラが出てくるため押しっぱなしにすることでループが可能。そんな感じだった。
戻されたら真後ろに曲がって走る。
そうして行きついた私の『答え』は、森に挨拶をするという内容だった。
唐突に走りをやめ、森の方を向き土下座する。
「入れさせて下さい。」
「お願いします。」
キリッ。
「ウフフフゥ、アハハハハァ」
笑い声が聞こえる。それに交じってウォーターのクスクス、と笑い声が少し漏れ出ている。許さん。
目の前の声が気になるが頭を下げ続けた。
「もういいヨォ。顔を上げテェ。」
顔を上げる。
目の前には緑色をした苔のようなものが付いている土のような・・・何かがそこに居た。
人はそれを精霊と呼ぶ。よく見ればちゃんと人の形をしているようだ。
「わかったかナァ?意地悪はもうやめるからこっちに来てネェ。」
ついていく。今度はしっかり中へ入れたようだ。
「いってらっっしゃっぁああぁーい」
笑い声は言葉にまで現れている。許さん。数十発程度殴りたい。
土・・・の精霊だろうか。土で出来ている(と思われる)精霊の後をついていく。
道中障害物があるが体の動かし方にさえ知識を持っている私は難なく突破できた。
そして、ついた先は真上に真っ直ぐ伸びた蔦が大きく曲がってそのまま木になったような、見た事がないオブジェだった。
蔦のような物の先には水のような液体が入った透明な容器が取り付けられている。
「コレを飲んでみテェ。」
まあ大丈夫だろう。ウォーターも笑ってたし。そうして容器を取る。思ったより容器は堅い。しかしそれ故に何らかの衝撃を加えれば粉々に砕け散りそうだ。
その容器に半分くらい満たされた青く澄んだ液体を飲む。
・・・
特に何もない。
「さっきのは何だ?親愛の証とかそういうやつか?」
「そんなもんだヨォ。」
直後、ドクンと心臓が波打つ。その心臓で作られたダムは今にも決壊しそうな勢いだ。
当然私は膝をついた。痛みではない。不快感でもない。何か不思議な感覚が芽生える感覚。何か私の知らない情報が植え付けられる感覚。怖さではない。気持ち悪さでもない。
・・・物?
この物が・・・分かる?
「じゃあ契約、すル?」
「・・・」
「少し。目の前の物を調べる。その後契約する。」
目の前の物体を調べる。何もかも隅々と・・・私にはこの新しく芽生えた感覚を使い、喜びを感じていた。
知識という名の文字、記憶だけであった情報が、立体的により鮮明に描かれて上書き保存される。
透明・・・天然物。目の前のツタ大樹によって作られた。
材質・・・堅く、衝撃に弱い。そんなものはまだこの第七感を使わなくても分かる序の口だ。
本当はこれがどのような物に向いているのか、そしてどれぐらいの力までなら大丈夫なのか。それらの細かい情報が一斉に私の元へと送られてくる。
私は探求心が一斉にして続々満たされていく。
私の脳の中の探求する欲求が立て続けに「すっきり」と看板を掲げている様だ。
・・・私は、ウォーターの言っている意味が少し分かった。作製する時間がない。それはこの物質すべてを調べている時間で作製がままならないのだ。
私はこの土の精霊に最大、極限の『感謝』をした。この精霊には分かってもらえないだろうが、私はすべてこの精霊のお蔭だ。
「・・・と、そうだ。契約だったな。どうすればいい?」
我を取り戻す私。土の精霊に契約のやり方を聞く。
「耳を澄ましテェ、体の力を抜いテェ・・・」
適当に耳を澄ましながら深呼吸する。
「最後にボクがのル!」
土の精霊が突然私の頭に乗っかってきた。一瞬驚いたがすぐに身を任せた。
体に土が螺旋を描くように浮いている。
体に力を感じる。
強さの『力』ではない。物の全てを解する『力』だ。さっきの物質を隅々まで調べられる『感覚』と濃密に混ざり合ってそれはやがて一つの体内機能として固着する。
・・・完成した。
私の、魂が。
土の精霊は物づくりの魂に決して消えない炎を灯してくれた。完全な物の作製という最も成し得る事が難しい結果を確実に作り出せる力が。
「オォ?よかったネェ!」
「じゃアァ、もどロォ!」
「分かった。有難う。精霊。」
「ついでに名前も決めテェ。寂しいヨォ。」
「じゃあ・・・レイド。今から土の精霊はレイドだ。」
「よろしクゥ、あきた」
「なんだ、もう名前は知っているのか。」
そうこうして居る内に外へ出る。ウォーターのクスクス笑いはもう無く、完全にお仕事モードに入っている。
「まさかたった一日で終わるなんて思うわけないじゃないですか!」
「180日どうするんですか!残りの!」
「じゃあ、その間つ・く・ら・せ・て☆ついでにウォーターにパンチも入れさせて☆」
「なに殴ろうとしてるんですかーやだもー。180日ずっと研究に物づくりで疲れないんですか?」
「5発追加。もう許さん。」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
その後、なんとか帰って来たウォーターは腹がよく凹んでいた。
「なんで腹しか殴らないんですかぁ!顔のほうが殴りやすいでしょぉ!」
このウォーター、泣いている。よっぽど腹が嬉しかったのだろう。
「あなたの素敵な顔は潰さずパンチだけを持っていく方法を考えれば腹に行きつく。」
「素敵な顔・・・嬉しいですね。」
「今度パンチ追加と言った時には顔面1発。」
「ヒィィッ!?」
ウォーターは人を楽しませる天才のようだ。料理もしっかり出来る上に反応も面白く、和やかな雰囲気にもできる。
今はというと、家に閉じこもりひたすら物を集めて作製をしているところだ。
自分に特別感を出したいので『クラフター』という称号を自身に与えた。
レイド(契約した私の土の精霊)と共に色々な物を作っていく。そして知識を更に深めていくのだ。
赤ちゃんのころなぜか大抵の知識が揃っており、日々工夫に工夫を重ねている状態だったが、今では違う。新たな知識をガンガン習得していっている。覚える時期と工夫し始める時期が真逆である。
私はその成果を180日程度の間出し続けた。様々な事を学んだ。
ウォーターと離れる事になるだろう。4年の時間が過ぎるのだ。覚醒進化装置は強制的に私を引き戻す。
元の世界では半分の2年だったか。
私はウォーターが知っていることをかなり前の言動から察していたため、ウォーターが陰で悲しんでいる事に気付いた。
今こそ、この物づくりで恩返しをすべきじゃないか。
過去でクポさんに一度も出来なかった、恩返し。
密かに作っていたこのあきたちゃん人形3号を。
・・・恥ずかしいけど仕方ないだろう。
1号と2号は気まぐれで作ったがどれもうまくいかなかった。発想が良くなかったのだ。
1号は拳を強くしたためただの腹パン人形と化し、2号は高い知能を持ったが私に似ていない。
すべてを克服した人形、あきたちゃん人形3号。
『この時、不思議な事が起こった!』が発動し色々な状況に対応できる。料理が最高の料理に変わり、蕾達が3号によって一斉に開花したり、とある絵札数枚でできるだけ高い役を作って上がるゲームで初手で最高得点の役を乱発したりできるのだ。
もちろん腹パン機能も搭載。柔らかいため「おうっ♪・・・おうっ♪・・・」と唸る事間違いなし。
さあ、渡そう。
「これをあげます。大事に使ってください。あなたの大好きな腹パンチもありますよ。とてもかわいいです。」
適当に張り紙をして完成。
気分転換のお出かけをしているようなのでのんびり待つ。
こんなのんびりしたのは久しぶりだ。
体を久しぶりにゆっくり休めるのは本当に気持ちいい。
おっと・・・帰って来たようだ。
「ただいまー。あら。」
「作った。どうぞ。」
「あらあら・・・・・・うげっ。」
嬉しそうにサイズ2/3人形と張り紙を手に取り見るが、直後不味い物でも食べたかのような顔をする。
「・・・」
熱い視線を受けたウォーターは人形を置き・・・腹パンを受ける。
「・・・おうっ♪・・・おうっ♪・・・・おうっ♪・・・・」
徐に優しく腹パンするあきたちゃん人形の手を持つ。
「ええ。あなたの趣味はよーくわかりました。ありがとうございます。」
「その時、不思議な事が起こった!!」
「ヒエッ」
あきたちゃん人形3号は2/3から1/1の等身大サイズへと変化する。
「・・・これをどうしろと、いうのですか?」
目が笑っていない。
「これを、こうして。」
「おうっ♪」
「させるためだけに作ったのですか?」
「時間だ。答えを聞こう。」
「確かにうれしいです。うれしいですけど・・・・」
「どこか私に恨みでもあるのでしょおぅふッ」
「欲しけりゃ本物をくれてやるよ・・・たっぷりと味わいな」
「お、おぉぅ・・・」
しかし茶番もここまでだ。
「嘘だよ。本当は楽しかった。楽しかったしこの思い出は決して忘れないと思う。」
「ウォーター、ありがとう。じゃあ私は元の世界に戻るね。」
「戻る日は明日ですよ。」
「半日でも早くやらなきゃいけない事が出来た。この装置の設計は私なんだ。」
「未来で、ウォーターに会いに行くからね....」
「すみませんが、私に会える確率はもう無いでしょう。・・・ですが、この思い出を忘れない事。その精霊は装置から戻されてもずっとそばに居ます。何時ものようにあなたに力を貸すでしょう。」
・・・未来なのに、あえる確率が無い?
どういうことなのかさっぱりだった。
精霊はずっとついてきてくれると言ったことで安心するももう一つの不安が隠し切れないでいた。
「本当に、会えないのか?」
「ええ。」
「なら・・・もう少しだけ居ようかな。」
「半日でも早くやらなきゃいけない~とか言ってませんでしたっけ?腹パンはもう勘弁して下さいね。」
「なるほど顔の方が良い、と。」
「顔も駄目ですよ。これ以上私をいじめないでください・・・・」
少し泣いている。
「いやいや、本当だけど冗談だよ。」
「それはついさっきまで本当だったけど今冗談ということにしておいた、という認識でよろしいですか?」
「そ、そういう事だ。」
「ああ、そうでした。物凄く重要な事が飛んでいました・・・」
「私はあなたに忠告をします。」
急に思い出したかと思えばおちゃらけている普段とは思えない深刻な意味での『忠告』をしてきた。
「今後神を倒す事になるでしょう。問題は倒す前ではなく倒した『後』です。決して"仲間"と離れずに行動してください。」
「決して…?」
「はい。あなたは一つの柱。希望の柱なのです。仲間と離れてしまえば奴らに狙われ柱は脆く崩れてしまうでしょう。」
「そうならないためのポイントを、能力を私は導く事で教えました。もっと詳しく説明が必要ですか?」
「は、はい。」
「・・・ここからは、心して聞いてください。」
この人が言うと~という言葉なんてものは通用しない。
本当に私自身の問題。最悪の事態の問題。
「奴らは常にあなた方を観察しています。恐らく神を倒した10年後。」
「あなたはここで得た能力とその精霊を使って離れない様に物を作り仲間を助けなさい。」
「奴らは人間。見分けは付きません。あなたは先に奴らを見分ける装備を作るのです。」
「奴らに対策という言葉はありません。正真正銘の力でねじ伏せてきます。」
「・・・時間が惜しいです。今すぐに元の世界へ帰る事をお勧めします。」
「ウォーター姉さん。」
「姉さんだなんてそんな。…なんでしょう。」
「私、行ってくるよ。」
「私の事は心配いりません。何よりあなたの作ってくれた人形があるのですから。」
「さようなら。」
それだけ言ってウォーターに背を向ける。
「装置よ戻れ。」
私の目の前は光に包まれ、急激な場面転換が行われる。
場所は少し暗いが私の装置が沢山置かれている場所だ。まだ半分ぐらいの者が入っているようだ。
戻って来た。そして今すぐやらねばならない事がある。
「赤い人も帰ってきてたか。」
「白か。私は少し研究所を借りるとシルフに伝えておいてくれ。」
「あ、ああ。分かった。」
「それと、私の名前は『あきた』だ。」
シルフの研究所の場所は勘で探り当てた。研究という響き、それに伴う何かが私に場所を教えてくれた。
「さ、レイド。忙しくなるよ。」
私は皆を助けるために研究を始めた。
・・・この子、秋田って名前だったのか。鎌しか持っている印象無かったけど少し機嫌が良い・・・というか、急いでいる感じだったな。
恐らく未来で何かあったのだろう。
俺は少し先の未来を心配しながら次にここに帰ってくる人を待った。
次回?んー・・・フリートさんの話です。
クレア編は最後にします。




