59話 覚醒進化(4)
~前回のあらすじ~
行方不明だった父さんが異世界でエステを受けて帰って来た。
よく知らない恋人も連れていた。
俺は深く考えない事にした。
くらい。
さむい。
ここは、どこじゃ?
確か
変な装置に入って・・・
「え、な。どこなのじゃ」
声を大にして言いたいが、私は声を抑えた。よって小声でボソボソと喋る結果になってしまった。
外・・・?それにしても薄暗い。
「にげろー!おい、そこの!はやくこっちへこい!」
「な、何があるんじゃ?」
「今更そんなこと言ってる場合か!はやく来い!」
ボロボロになった青年が私を呼んでいる。
私はその青年に付いて行った。
「はぁ・・・危なかった・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「いったい何があったのじゃ?民家がことごとく燃えておったが。」
私が今居る場所はどこか見知らぬ土地の地面の中。地面を掘って出来たような洞窟だ。
「お前、死ぬ気か!」
「え・・?」
目を丸くするしかない。わけがわからないのだ。
「あの程度の攻撃皆の力を合わせれば・・・」
変な鳥のようなものから何か物が降って来たかと思うと爆発し、辺りは大火事だ。
「今の日本にそんな力があると思うか!」
ニホン?聞いたことのない地名。
「ここについて教えて欲しいのじゃ」
「お前・・・記憶喪失か」
急に親身になって教えてくれたボロボロの青年。
ここはニホンというらしい。ニッポンとも読む。
現在戦争中で日本は徐々に追い込まれている。
さっきのような物体は戦闘機、敵機と呼ばれ、次々攻撃してきている。
物資は無く、生き残るためには地面を掘っただけである『防空壕』とやらに籠っていることしかできない。
・・・セントウキ?あの程度の魔力、儂にかかればすぐだというのに。
そう思って一度外へ出て見た。当然の如く青年が阻止してきたがそれを振り払う。
「・・・やっ!」
力を溜めて最大級の召喚をする。
「あれ?」
魔法陣が出ただけで何も起こらない。
なぜだ?と思う。原因はすぐに出た。
この世界には魔力が無い。
「なぜじゃ・・・魔力資源が枯渇しているなんて」
私は膝をつき、崩れ落ちる。
「おい、これ以上は危険だ!」
青年が私を抱え、急いで防空壕と呼ばれる洞窟に入った。
「空襲が収まるまで待て。」
「わ、わかったのじゃ・・・。」
青年は私にビスケットと呼ばれる食べ物を差し出してくる。
「これでも食べろ。腹はふくれないがないよりはマシだ」
「ありがとうなのじゃ」
ここから先は覚えてない。
優しいボロボロの青年の記憶、そして儂であるノームと呼ばれた魔王の記憶はもう思い出せない。
「ぅ・・・ぁ・・・・」
必死に手を伸ばす。
肌という肌が熱い。死にそうだ。
「ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
パタリと。私の手は何かを掴む事なく地面についた。
・・・・
ここは・・・?
死後の世界とやらだろうか。
「覚醒の試練、過去を断ち切りました。これからあなたには次の試練へ行ってもらいます。」
何がなんだかさっぱり・・・
・・・覚醒?
生きているのか?
儂は。
大きい扉が目の前に現れる。
自分の手を見る。みんなの手より少しだけ小さい。
儂は、その小さい手で扉を押した。
「今度は何じゃ・・・」
目の前に広がる、どこか懐かしい大地。
ハナゾノ?
ハ…ナ、?
「うぅ、気持ち悪いぞ!何がハナじゃ!」
「こんな所、焼き払って・・・!!」
自分に備わっている魔力で炎を召喚しようとする。
「おやめなさい」
後ろに声が響く。
安らかな音色となってこの声は儂のアタマに留まるように響いた。
「その花を潰す事はあなた自身を潰すことになりますよ」
声から感じられる音色は儂の頭をクラクラさせている。
もう一度声を聴いたら、眠ってしまいそうだった・・・
「おや。」
「はっ!?儂は何を!?」
「あなたは・・・少し違うようですね。」
「あなたがここに来たわけ。私は少し知っています。強くなる為・・・ですよね?」
薄い青の羽衣を纏った人だ。とても大きい。
「こちらへ」
儂の体が浮く。どうやら泡のようなものが儂を運んでいるようだ。
降ろされた場所は水が敷かれた場所。川・・・ではない。薄く水を張らせたプールのようなものだ。
「もう少し丁寧に扱ってほしいのじゃ」
「それならば、さっきの術に抵抗すればよいだけです。」
「まずは、この水場で動きを支配しなさい。」
「動きを支配?何を言ってるのかさっぱりじゃ」
「ヒントなら差し上げますよ。それ相応の対価が必要ですが。」
「対価?」
「動けばわかります」
試しに歩いてみる。
ざぶん。
足を前に出してみたが、あるはずの地面がない。
儂は水を全身に浴び、溺れかけた所をあの変な恰好をした女の人に助けられた。
助け方も大きく頑丈な泡を儂に向けて召喚しただけだ。
「見た目より深いとか聞いていないぞ!」
「それが今のあなたの『深さ』です。この深さを増やす代わりにヒントを差し上げます。」
「深さを減らす方法を聞くにも対価が必要です。」
な、なんじゃと
「面白いでしょう?」
「そんなわけないのじゃ!」
「そもそもなんで深さを減らすために深さを増やす必要があるのじゃ!」
「そこは・・・まぁ、仕方ない?事です」
「・・・深さを減らす方法を教えて欲しいのじゃ」
「わかりました。深さを減らすには水と仲良くなること。水と仲良くなるには水の気持ちを理解することです。」
「さっぱりわからんの。具体的に教えて欲しいのじゃ。」
「150メートル、いただきますが」
怖いのでやめておこう。
「そういえば、名前を押して欲しいの。どんな名前なんじゃ?」
「1メートル。」
「わかった、わかったのじゃ」
少しため息をついて薄く青い羽衣の女性は自己紹介をした。
「私は水の女神、ウォーターです。」
「そのまんまじゃな・・・」
「細かい事は気にしないでください。私も好きで女神やっているわけではありませんし。」
「儂は・・・誰じゃ。よ、よろしくお願いします・・・なのじゃ。」
名前が思い出せない。
「前々からかわいい生き物だと思っておりましたが、・・・今は試練中でしたね。」
少し怖いぞこの女神・・・
「ひとまずは水と仲良くなってみてください。」
今気付いたが、儂の服全く濡れてないの。
その後何度か水へダイブしたが、何も分かる事なく一日目が終了した。
その後、これから暮らす事になる『家』へと案内された。
飯はウォーターが作ってくれている。
ここから見るととんでもなくお母さんのように思えてくる。
「はい。」
見た事もない綺麗な皿に盛りつけられた黄色く四角い食べ物。
一口食べる。
「おいしいのじゃ・・・とろけるのじゃ・・・」
今まで食べた事のない美味しさに感動しながらその日は終わった。
次の日。同じ様に朝食を食べ訓練場へ行く。
「では、達成できなかったため10メートル追加します。」
「えぇぇ・・・」
これは150メートル支払ってでも水と仲良くなる方法を聞いた方がいいのじゃろうか・・・
「水と仲良く・・・水の気持ちを理解・・・」
儂はどうやればいいかよくわからないまま、必死に水と仲良くなろうとした。ダイブは少しやりたくない。
「な・・・!?」
今一滴程、水が顔に飛んできたような。
「飛び込んでみるのじゃ・・・」
ざばーん。
ぶくぶくぶく。
「アハハハハ
ウフフフフ
ようやく『聞こえる』ようになったネ」
今確かに、声が聞こえた。ぼんやりとだが。
「ぷはーっ!」
少し深くまで潜ってみよう。
「ココだよ
ココじゃないよ
どっちだろうネ?」
「ブクブクブクガボッ(そんなこと知らんのじゃ)」
「イイの?
イイの?
息がなくなるヨ?」
またあの声だ。さっきよりははっきりと聞こえる。
「ブクッ・・・・(なんっ)」
急いで戻る。
「ぷはーっ!けほっ、けほっ、けほっ」
ウォーターが微笑んだかと思えば、
「段々泳ぎが上手になっていますね。」
「おちょくるんじゃない!」
ヤケになり再び潜る。
「そろそロ
そろそロ
わかってきたよね?」
もうこれ以上は喋らない。儂は首を縦に振った。
深くまで潜れば潜るほど水から伝わってくる声がはっきりとしていく。
「ウフフフ
アハハハハ
人間、魔王、なんで両者は争うんだろうネー?」
訳の分からない事を無視して深く、深くまで。
「人間が魔王を攻める事をやめても何も変わらないのニ。」
深く、深くまで。
「カわいいよね、『ニンゲン』っテ
醜いよね、『人間』っテ」
ウフフフフ、アハハハハと笑い声。
これ以上潜ると息が持たない。
儂は急ぎつつ、かつゆっくりと浮上した。
「ぱはー」
「一旦休憩してもいいかの?」
儂はプールサイドに手をつく。
「自由ですよ。ですが休憩した分だけここの支配が遅れることになります。」
上り、地面に仰向けになって寝転がる。
「そういえば支配って何なのじゃ?」
「支配は支配です。この水を制したら己ずと理解できるでしょう。」
「どうしても教えて欲しいのじゃ。」
「16570メートル。詳しく知りたければ10倍。」
悪どい女神は楽しそうに喋っている。
何かあるのかもしれない。進んでいけば自然と分かる事でも先に知っておいて損はないはずだ。
なぜ、ただの儂の勘なのにこうも突き動かされるのか。
「教えて・・・ほしいのじゃ」
女神は優しく微笑んだ。
「いいでしょう。支配とは、万能のチカラです。」
それから女神は『支配』について教えてくれた。使い方は教えてもらえなかったが、恐らく10倍の値段だろう。
「ちょっとやる気でてきたのじゃ。」
飛び込む。
「ぷはっ・・・すぅぅーーー」
大きく息を吸い、いざ深海探索っ。
・・・
・・・
・・・
・・・
しばらくもぐっているが、あの二人の声はしない。
(出てくるのじゃ・・・)
水の中で止まり、手を合わせる。
「ヨんだ?
ヨんだ?
何スル?」
(仲間になって欲しいのじゃ)
「モう、
モう、
仲間だヨ」
姉妹のような青い肌をした精霊が顔を出す。
その二人は儂のまわりをぐるぐると回っている。
「ヨうこそ、ご主人サマ。
ヨうこそ、ご主人サマ。」
ポンッと音がしたかと思えば、儂の顔に大きな泡がくっついて、息ができるようになった。
「サあ、進みましょ
サあ、進みましょ
オク底ヘ」
二人の精霊に引っ張られ、とても深いプールの底に来た。
目の前には引っ張れと言っているかのような持ち手が。
儂はそれを引っ張ってみる。
底が伸びた。
少し楽しくなってしまい、思いっきり引っ張りながら水面へ向かって泳いだ。
どれだけ泳いでも疲れないため飛ばしに飛ばした。
ここまで上って来た。外の空気をめいっぱい吸う。
「第一の試練、契約が終わりましたね。」
「結局この深さは何メートルあったのじゃ?」
「19581メートル。まともに泳いで底を伸ばしていたら死んでしまうでしょう。こういう時精霊は力を貸してくれる事があります。」
「ああ、1メートルがこんな感じです。」
緑の色が空中で並んでいく。
色で出来た棒をウォーターは手に取り、縦に置く。
「これを2万個程積み上げたると、さっきの水の深さになります。」
「に、にまん・・・」
「では次へ参ります」
パチン、とウォーターが指を鳴らす。あっという間に大きな泡が儂を包んでいる。
泡に運ばれ、着いた先は最初の花園。青い花びらの花が沢山生えている。
「第二の試練はこの花すべてに果実を実らせてください。」
「簡単そうなのじゃ。今回も取引はあるのか?」
「まだ二日目なのに大分染まっていますね・・・・。」
ウォーターが気の毒そうに微笑んでいる。
「そうですね。10万束の花と引き換えに何でも一つ、教えてあげましょう。」
「10万って数字がなんか怖いの。保留じゃ」
「賢明な判断です」
早速儂は適当な花に向かって集中する。
しかし花から言葉ではない言葉が聞こえるだけで実を実らす気配がない。
「そういえば、名前をまだ決めていなかったの。」
確かに『こいつ』とか『そこ』とかだと不便だ。
儂の近くに精霊二人がいるが、少し離れると見えないぐらい透明になっている。
「そうだネ
そうだネ
なにがイイ?」
外見をよく見る。
片方はどんな時でも助けてくれそうな心強さを感じる。
もう片方はどんな時でも楽しく話ができそうなやさしさを感じる。
「そっちは強そうだからコロ。そっちは優しそうだからサラ・・・どうじゃ?」
「イイね
イイね
どんな名前でも嬉しいケド。」
これを聞いたウォーターが話に割り込む。
「あなたは名前が分からないと仰っていましたね。」
「そういえば・・・何も覚えておらんのじゃ。」
「特別にあなたの名前を教えてあげましょう。『ノーム』。それが今のあなたの名前です。」
「変な名前じゃな・・・」
「試練が終わった後帰ってあなたの仲間に聞いてみたらどうでしょう。」
「仲間がおるのか」
「ええ。沢山の仲間が待っていますよ。」
儂はどんな仲間なのか期待しながら試練を始めた。
「じゃあコロ、サラ、この花に実を作らせてほしいのじゃ」
「「りょうかいー」」
「ミズが欲しいノ」
「マリョクが欲しいノ」
コロには魔力、サラには魔力で作った水を与える。
「「できましター」」
花の真ん中あたりからぷくっと青い果実をつけている。
それを見ていたウォーターが、
「あなた達に一つ、残念なお知らせをあげましょう」
「普通に育てた花は青い実をつけます。試しに食べてみてください。」
儂は花から実をもぎ取って口に入れる。
「に、苦いっ、苦いのじゃ!」
水を魔力で作り、その水で口をゆすぐ。
「ナにをしたノ?
ナにをしたノ?」
「正しい方法で育てた花は甘い果実をつけます。その果実をつけないと私は実を実らせたとは言いません。」
「色々とめんどくさいのじゃ・・」
あれからしばらく。およそ6カ月だろうか。
何日も甘い果実をつけさせようとして失敗する。
一度オレンジ色の果実が出来たが、アウト判定だった。
「本当にそういう果実はできるのか怪しくなってきたのじゃ・・・」
「検証済です。」
ウォーターと話す機会も日々減っていき、今では試練を始める時と終わる時だけしか話していない。
(今日こそは成功させるのじゃ。コロ、サラ、儂の三人で)
精霊を励ます。
契約した精霊は凄い。わざわざ話さなくても意思の疎通ができる。
「リョウかイ、
リョウかイ、
今度こそ三人デ。」
十日ほど前にあの花がオレンジ色の実を付けた時。あの時確か儂は、自分の身体から何か波動のような、何かが放出されていた。その時、儂が何か別の生き物と一つの心にまとまっていくような感覚があった。
その後何度も再現してみようとしたがあれっきり一度も見た事がない。
「ちょっと待っててほしいのじゃ。」
「ワかっタ。
ワかっタ。」
「はどう・・・はどう・・・」
自分の心臓の音を聞きながら、ゆっくりと呼吸を合わせる。
何も起こらない。
あの時の感覚は夢だったのだろうか。
何かとシンクロするような感覚。
・・・そうだ。
「コロ、サラ。一緒にやってほしいのじゃ」
「リョウかイ。
リョウかイ。」
精霊の助けが入る。
精霊が集中を始めてすぐ自分は何かと同調しているように思えた。
その何かとは、精霊だったのだ。
そういえば支配について聞いた時、ウォーターはこんな事を言っていた。
「支配とは、空間を制圧することです。空間の制圧、支配した所へは様々な影響が訪れるのです。」
様々な影響・・・
儂は一気に貯め込んだナニカを放出する。
放出していくたび、ナニカが儂に向かって情報を送ってくる。
放出すればするほど、情報の範囲は徐々に広がって行った。
花、花、花。
濃密に花の『情報』が送られてくる。
花が生きていられる『土』も、儂にその情報が送られてくる。
これからどうするか・・・
決まっている。甘い果実をつけさせるのだ。
ゆっくりと儂は支配させた領域に変化を促す。
するとみるみる花は、いや、花達は果実を作り始める。
色は最初に見た時と違う。真っ赤だ。
儂が支配した空間すべての花が同じように真っ赤な実を作っていた。
「やっとできましたね。」
儂の支配はそのウォーターの言葉で掻き消された。
その実なら合格です。一度食べてみてください。
恐る恐る果実を花からもぎとる。
もぎとった直後その花は枯れてしまった。
とても甘い。甘すぎて倒れそうだ。
そういえば、儂・・・記憶を失くす前は食べ物が好きだったのだろうか。
考えることはすぐにやめた。
ようやく儂にも美味しい果実が作れるようになったのだ。
うれしさで跳ねまわり、飛び回った。
「落ち着いたら、残り全ての花に実を付けてください。」
「わ、わかったのじゃ・・・」
はじめはひとつひとつ作っていた。
しかし莫大な疲労感と引き換えに甘い実一つは割に合わず、次第に一回でまとめて実をつけさせる方法を考えるようになった。
「・・・・・」
「モう少シ!
モう少シ!」
この変な波動は使用者の意思で効果が変わるようだ。
「たー!」
自分を中心とし、目に見えるように次々と花は実を付けていった。
当然赤く甘そうな実である。
「一つアドバイスをあげましょう。」
「ウォーター?」
「この支配は集中するときの溜めをなくすこともできます。溜めがなくて範囲も大きい、というのが理想形です。」
溜めをなくす?
儂は甘く赤く今にも弾けそうな果実を食べられるだけ食べ、ひとつの名案が浮かぶ。
「常に集中していれば溜めは無くなるのじゃろうか」
常に波動を持ち続けるように。いつでも使えるようにスタンバイさせておく。
そうすることでいつでも使えると考えた。
「溜め無し、と言ったはずです。事前準備があってはなりません。」
「違うのか・・」
ひとつ、またひとつと名案が浮かぶが、どれも実践しても『おしい』、やら『~と言ったはずです』ばっかりで答えに導きだせない。
「・・・この方法は次の試練で教えることにしましょう。」
「まだ次があるのか!?」
「3年の間、幾つもの試練を突破しないと自由はありません。」
「うげぇ・・・」
結局溜めて一気に作るという工程を何度も行い、第二の試練を制覇した。
何度も休みながら先の見えない作業をしていたこともあり、実を作るだけでも3カ月は要した。
「今度は何の試練なんじゃ?」
ノームは終わったと分かった途端疲れたように座り込んだ。
「次は、これと戦ってもらいます。」
おもむろに召喚したものは木の人形。手で持てるぐらい小さい。
「まさか・・・動くの?」
「ええ。有り得ないぐらい機敏に動きますよ。」
女神は木人形を地面に置く。
すると木人形は命が宿ったように動きだし、丁寧にお辞儀をした。
「ある程度は私の意思のまま働きます。」
適当に走り回る。
「まあ、後は現地で覚えてください。」
「そ、そんな!」
儂としてはもう少し教えてほしかった・・・
いつものように泡で運ばれ、着いた先。四角い箱のような建物だ。
扉は付けられておらず、そこからのぞける風景は2段構成と、大きな木で作られた棍棒のようなものが床に固定されている。上段2個。下段4個だ・・・
「今から設置します。」
どうぞ、と言われ素直に建物の中に入る。
木人形が出現した。
「コロ、サラ、お願いなのじゃ!」
「マかセテ
マかセテ」
コロとサラが大暴れしている。
コロは水の弾を連続発射して木人形を転ばせるだけにとどまっているが、
サラは射程に入れば纏わりつく水を発射して、命中すれば水で作った小さいメテオを降らせる。
この建物は傷一つないが、木人形は跡形もなく消えた。
「こ、こらー!!」
ウォーターが見た事ないぐらい怒っている。
「な!なんじゃ!」
「これは支配の練習なんです!コロとサラは没収します!」
コロとサラが成す術もなく捕まり、天井に吊るされる。
「ここで支配の支援だけしてなさい!」
「ハーイ・・・
ハーイ・・・」
再度始まり、木人形が動く。
棍棒のようなものは木人形が動きやすいように作られた所謂、木だ。
くるくると回転し、その勢いのまま突進していく様は正に特攻。
ぶつかったら痛いで済むかどうかすら怪しいだろう。
儂は最初に飛び込んできた一体をかわす。
木人形は突き刺さり、それを眺めている暇もなく次の木人形が来る。
避けては突き刺さる。
避けては突き刺さる。
「集中させてほしいのじゃ!!」
一瞬、儂の波動が広範囲に及んだ。
木人形の動きが鈍くなった。
「今しかない!」
近くの邪魔な木人形を持つ。
投げて集中する。
「壊れろなのじゃあああああああ!!」
波動を強く放出する。
木人形はガタガタと震えだし、各部位のパーツごとにバラバラになった。
他も同様である。
「ボスの登場です。」
大きい木人形が召喚され、ズドンと大きな音が鳴る。
同時に小さい木人形も複数召喚され、儂は困惑する。
~数分後~
「嫌じゃー!」
木人形達と楽しい追いかけっこが始まった。
~数時間後~
「やぁ!たぁ!よぉ!ろぉ!」
支配を溜め無しで使える方法は自然とマスターした。
しかし、大きな木人形は一瞬動きが止まるだけでまたすぐ追いかけてくる。
小さな木人形の方はというと、何度も支配に晒されたからかすでにバラバラになって儂の行く先を妨害している。
残骸を踏むと滑って転ぶ。
転んだらすぐさま両手から水を召喚し、放出することでなんとか走りを継続する。
~それから数分後~
「・・・」
無言になっている。決して喋る気力が失せたわけではない。
走りながら集中しているのだ。
狙うは木人形のつなぎ目。
集中を維持しながら水を召喚する。少し頭が痛い。
放出で飛び上がり、溜めに溜めた波動を放出し、支配空間を作り出す。
支配を受けた大きな木人形は自ら関節部分が外れていき、崩れ落ちた。
「あれ?」
支配がまだ継続している。
いつもなら一瞬効果があって、また使い直さなくてはいけないのだが。
「もう少し頑張っていきましょう。」
これから毎日、何度も木人形を支配で壊す練習が続いた。
回を増すごとに木人形の種類も増えていく。紫色の木人形は相手の足を止める特殊な魔法を使ってくる。
緑色は豆を飛ばして攻撃してくる。
赤色は動きが三倍程度に速い。
水色は赤くなるとともに赤色の粒子を出している間、動きが何倍にも早くなる。
結局安全そうなのは緑色だ。
丁度いい間食を用意してくれるだけ善良と言えるだろう。
あれこれ1年が過ぎ、残り時間は1年と三カ月程度らしい。
・・・儂は疑問に思った。
なぜ儂には期限があるのか。
儂は意を決してウォーターに聞く事にした。あやつはどこか怖くて何かを聞くだけでも相当な勇気が要る。
朝。起きて飯が出てきて完食する。
普通ならこれは幸せな事なのだろう。
しかし最初は優しかったウォーターが日に日に暗くなっていっている。
「どうしたのじゃ?」
「ええ、少し悲しくてね。」
「私のしている事が合っているのか分からない時、不安になるの。」
「期限が終わったら全て話してあげるから・・・我慢してね?」
「わ、わかったのじゃ」
どうやらこちらの事情を知っているようだ。儂の事情がどういうものかは記憶が無くて分からないが、最後に教えてくれるということで我慢した。
「今日で次の試練に行ってもらいます。」
「わかったのじゃ!」
「これがこの試練の最後ですから頑張ってくださいね。」
木人形が配置される。すべて大型だ。
赤、青、紫、紫、緑。
儂を取り囲むように配置される。
すべて配置されたら儂は速攻で動きだす。
狙うは緑。
なぜかというと、緑の豆は食べられるが、大きいと単なる物理攻撃にしかならない。
魔法の耐性が高い儂にとって物理は致命的だ。
なら赤や青を叩けと思うかもしれないが、あれは動きが早くなるだけで肝心の攻撃は見てから避けられる。青は別だが、支配の耐性が弱いようだ。
「支配っ!」
少しの間持続する空間を作る。
ギギギ・・・と不快音を鳴らしながらこちらへ向かって豆を飛ばそうとする。
魔力で飛ばしているため攻撃の威力が下がったりとかは無い。許さない・・・
少しの余裕ができたと思った儂は全範囲に向けて硬直効果を持つ支配を発生させる。
攻撃のチャンスを伺っていた青はしばらく動かない。
紫二匹は一瞬止まっただけでまた儂の動きを邪魔しようとしている。
赤はなぜか回避した。
「このっ!」
さっきまで密かに溜めておいた波動を使い、関節部分を外す支配を発生させる。
バラバラと緑の木人形はパーツの山となった。
次・・・面倒な紫を片付ける。
こっちが紫に向かう間も奴は足止めをかけようとし、青と赤は儂に突撃しようと必死にチャンスを伺っている。
ほぼ定期的に支配をかけ、敵がチャンスと思った所を潰しに行く。
支配で魔法を止める事は難しい。支配は支配だ。飛んでくる矢を叩き落す道具などではない。
「ふん!」
『支配』を活用しなければ勝てない相手だからこそ支配を乱発する。
そして紫までたどり着いて、持続性のある支配をかける。
動きをスローにし、儂は奴の関節を狙い、パンチをした。
いとも簡単に外れていく関節。
倒した。儂はすぐ先にいる紫に向かう。だが・・・
「赤!」
儂の支配を難なくかわす鬼。
幸い奴の攻撃動作はわかりやすいため避ける事ができる。
奴は変則的な動きをしてこちらの隙を伺っている。
だが、足りない。
赤がこちらへ向かって空中から真っ直ぐ突撃してきた時、儂はすでにそこには居ない、その横にいるのだ。
支配をかけ、奴の首に軽くトン、とチョップする。
それだけで首が外れ、地面の衝撃で赤色の木人形はガラクタになった。
最近教えてもらった事だ。自身にも支配をかければ強化が可能になると。
今かなり腰から下が痛いけど・・・
「次じゃ!」
痛みながらも走り紫に
「だあ゛っ゛!」
最大級の衝撃を加える。
ぽろぽろとパーツが外れ紫の木人形はジャンクになった。
儂は水色を目の前にして力尽きる。
仕方ない。これ以上は動けない。
「おきみやげ、なのじゃ」
床を叩く。床が波打ったように見えた瞬間、水色の木人形は赤い粒子を放出する。
効かぬと言いたげに水色の木人形は跳び上がり儂に向かって突撃してくる。
儂は気を失った。
支配は疲労感が半端ないのだ。一瞬ならさほど問題ないのだが、持続性のある支配はどう頑張っても3~5秒が限界だ。
「よく頑張りましたね。では、最後の試練はゆっくり休むこと。それだけです。」
ウォーターの膝枕だ。
「な、少し聞きたい事があるのじゃ」
「何でしょう。」
「儂の事を色々教えてほしいのじゃ。」
「頑張ったご褒美です。教えてあげましょう。」
「あなたは今、神によって成長が止められています。」
まずはそれを、治療してあげましょう。ウォーターはそう言った。
パチンッ。ウォーターが指を鳴らす。コロとサラ、彼女達がやってくる・・・心配そうな顔をしている。
ピキピキ・・・
骨から音がする。
儂の腕がゆっくりとだが動いている気がする。腕だけじゃない。体全体だ。
力が入らない。
「今まで溜め込んでいた『成長』が始まります。成長が終わるまで、しっかり休んでください。」
そうして儂は、わたしは、深い眠りに就いた。
目が覚めた時にはウォーターが少し小さく見えた。
「そろそろですね。・・・はい。成長が終わりました。動いて大丈夫ですよ。」
手に違和感を感じる。前より大きくすらっとしていた。
起き上がると、普段の倍ぐらいの高さからウォーターが見えた。
「それがあなたの本来のカラダです。『支配』も、ほぼいくらでも使えるようになっているでしょう。」
「花はあるの!?」
「外に用意しましたよ。」
子供のようにはしゃぎながら外へ出る。
花。あの時試練に使った花だ。
「支配!」
範囲が大きい。そして、10秒以上持続している。
即発動させただけでもこれだ。
私の周りには花の一つ一つがとても赤い実を二つもつけていた。
「そろそろ時間です。間に合ってよかった・・・私にはあなたにこのことを話す義務があります。」
少し悲しい目で私を見つめる。
「あなたはノームではありません。その意味は自分で確かめて下さい。そして、私とは一旦お別れです。神を倒した後、あなたは仲間と行動しなさい。決して離れないように。いいですね?」
「はい!ウォーターさん・・・ありがとうございました!」
私は昔の私じゃない。
・・・・・
唐突に切り替わる世界。薄暗い。
ここは・・・?
「お、ノーム・・・え?ノーム!?」
「誰・・・?」
「少し頭の中整理するから待ってろ・・・」
謎の少年が目の前のドアを突然開けて、ドアの外から光が漏れだす。そしてその少年は突然考え込む。
「お前はノームか?」
確認するような口調で聞いてきた。私の名前はノームだしそれ以外の名前は知らない。
「うん」
「・・・・そうか。じゃ、こっちだ。」
少年に案内された場所(ドアの向こう側)は階段が少し豪華などこかのお屋敷のエントランスだ。
そこには大人の男女が居た。
「ノームだ。」
少年が私を二人に紹介する。
「変わったな。」
「変わりましたね。」
「じゃ、ここで待っててくれ。」
「はーい」
私はてくてくと階段のところまで歩き、適当な所に座った。
「ウフフフ
アハハハハ
ドうなるのかナ?」
ノームはさぁ?と返事をし、とりあえずそこのおじさんとお姉さんに精霊を紹介する。
俺は階段を上り普段シルフとレイカが居るお茶の間のドアを開ける。
バタン。扉勢いよく閉める、今はシルフとレイカはいない。
それよりも・・・俺は扉を背にして驚きを隠せないでいた。
・・・いやいやいやいやいや。
つい少しまで子供だったノームが今じゃ綺麗な『おねえさん』に変わってるとか。
しかも「じゃ」はどうした「じゃ」は。
俺は最初に会った時のご老人っぽさがどこにも見当たらない‛‛普通の”少女に困惑していた。
あいつ本当に強くなったんだろうな・・・?装置の中で旨い物ばっかり食べてないよな?いやむしろ変な物でも食ったか??
次回はまだ名前が出ていない、赤い死神さんです。




