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桜の舞う摩天楼  作者: ハイク
第二章 魔王軍
59/68

57話 覚醒進化(2)

装置に入った魔王の話を順番に進めていきます。

~前回のあらすじ~

あんぱんおいしい

俺は鱗動リンドウ サトル。大蛇となった白の父親だ。

覚醒進化装置に入り説明無く飛ばされた世界は俺の過去・・・一人暮らしをしていた時の部屋である。


「ど・・・どうすればいいのじゃろうか・・・」

鏡を見たが俺の姿は見るからに若返っている。当時の自分と似ている。

「と、とりあえず当時の姿ならこの口調はやめるべき・・・か」


この時間、うっすらとだが覚えている。もしここが俺の過去ならそろそろ彼女がやってくる時間だろう。

ピンポーン、呼び鈴が鳴る。


タッタッタッ・・・

「こんにちは、サトルさん!」

「こんにちは、ユミちゃん」

彼女の名前は桜月オウゲツ 由美ユミ。俺がクレアと呼んでいる相手だ。

「さ、上がって」

「なんか貫禄みたいなの付いた?」

「気のせいだよ」


「じゃあ、何する?」

「適当にゲームでもしよう!」

そう言ってユミは俺のゲーム箱を漁る。

「魔剣伝説3!これやろっ!」

ユミはとても可愛い人だった。暇を見つけては俺の部屋にやってきて遊ぶ。


・・・俺は最初はユミとの時間を大切にしていた。

働いて、ユミと遊び、そして寝る。

こういった日々が続けば続くほど、俺の不安はどんどん大きくなっていったのだ。

一年後、必ず起こる出来事がある。

その日が近づくほど俺の目には元気の炎が灯らなくなっていったのだ。





私は桜月オウゲツ 由美ユミ。いや、今はクレア・・・雷鳥とも呼ばれている。

私の『過去』に映るサトルさんが最近疲れて見えるのです。

「こんにちは、サトルさん」

「こんにちは・・・ユミちゃん・・・」

このまま気がつかないフリなんてしたくない。

「あのね、サトルさん。ど」

「もういいんだ。もう、いいんだ・・・」


「!?」・・・なぜその事を知っているの?


「まさか、大蛇さん?」

「え・・・?そっちこそ、クレア・・・」


「とりあえず、部屋に上がってくれ。」

「そ、そうですよね。お邪魔します」




そろそろ覚醒進化が始まって一年だろうか、俺の過去は俺とクレアの二人が演じていた・・・


「悪かったな。情けない姿を見せてしまって・・・」

「良いですよ。何というか、そんな姿よりこの状況の方がびっくりしました。」

沈黙。

結局何が起こるのかというと、彼女は両親の死で遠くへ離れてしまう。

俺はそれが怖かった。あの時、なんて言えばよかったのかどう考えても良い答えが浮かばなかった。

しかし、その不安はクレアと会う事で自然とかき消した。


「と、となるとこの先の・・・俺とクレアが離れ離れになる所はどうなるのだ?」


彼女が両親が死んだからと言って沖縄に行くのだが、その後連絡が取れなくなる。

ニュースでは沖縄という単語は一切出ず、存在そのものがなかったことにされているようで、沖縄について聞いても誰も知る者はいなかった。俺達が居る『異世界』に飛ばされたのだろう。

俺は大切な人がどこか遠い世界に行くのを止められなかった。それが俺の未練であり俺の『過去』だ。


「知りませんよ、物語が不服なら私達をここに放り込んだ変な機械にでも言ってください。」


「儂は・・・いや、俺は今のお前とまた会うことが出来て幸せだよ。」

一瞬クレアの動きが止まった。

「・・・私も、今のあなたに会えて幸せです。」

お互い異世界の姿ではない。普通の男と女だ。俺にとっては何百年経とうが忘れられることはなかったその顔。


「これが終わったら一緒に言おう。合言葉だ。」



『ありがとう』彼はそう言い残し私の世界は、


「ありがとう」俺はこう言って俺の世界は、


                   バラバラと崩れ去った。



暗闇となったこの世界から声が聞こえる。

「覚醒の試練、過去を断ち切りました。これからあなたには次の試練へ行ってもらいます。」


光。いや、扉だ。

扉を開けるとそこには・・・


「見た事のない平原・・・」

この世界は別の世界だ。世界自体が薄暗く、そして空がぼんやりと赤く光っている。荒廃しきった景色しか見えない。俺の身体に違和感がある。・・・まだ人間のままだ。


空から何かが降ってくる。


「ぐへぇ!」

親方、空から男の子が!

「う、うむ・・・」

反応に困るがな。

「慣れないものは慣れないな。貴様、匂いが違うがついさっき黄泉の国へ落っこちた方か?」

白髪に灰色のベレー帽、安っぽいネックレス、少しボロついた灰色の服、黒いマントに黒い短パン・・・

何かの仮装かと思うのだが、その白髪の少年はここがどこか知っているようだった。

それに、黄泉の国。俺はもう死んでいるという事か。

「ここについて教えてくれ、少し前の記憶が無い。」

「そうかそうか、ならば説明しよう!!」


少年は白い板・・・まさかホワイトボードか?・・・を召喚しすらすらと書いていく。

「この世界は黄泉の国と言って死んだ人が来る、地獄だ!」

「現世にはもう帰ってこられないがここでは思う存分楽しめるぞ!」

少年は地獄、現世、死人、楽しい・・・・と分かりやすくなるようにスラスラと書いていく。

「思う存分楽しめるとは?」


「力があれば何でもできる実力主義社会のもと日々窃盗、殺人、食い逃げ、借金の踏み倒し・・・色々な犯罪が行われている!しかし、その犯罪は法のもと許されているのだ!力さえあれば今の世の中を好きなように変えられる正に地獄!楽園!!天国!!!」


バーン、とホワイトボードらしき物を叩く。

「逆に力のない者はどうなるんだ?」

「いいところに目を付けたな。それはもう食われるのみ。弱肉強食というサイクルのもと悪魔どもの新たな力の糧になるしかないのだ!」

「楽園と言っても力が無いと成立しないものか」

「それが基本という物だ。弱者も楽園を味わえるなどという戯言は詐欺師しか言わぬ。結局全ての者を満足させることなど不可能なのだ。」


「それにしても、君は物知りなんだな。てっきり今さっき死んでこの黄泉の国?へ落ちてきたのかと思ったが」

いきなりその少年がニヤリと笑う。

「我を誰と心得るか。黄泉の国第八魔王。リンゴさまだぞ!」

「あぁ、リンゴね。あの赤い果実の・・・白いじゃないか」

「りんご?少し待て、貴様の記憶を漁らせてもらう。」

青い光を手から出し、俺の頭にその手を近づけてくる。

「ふむふむ・・・お前、この世の者では無いな?しかも現世の魔王と来た。」

「更にこのりんご、とやらと我を同じにするな。我は果物などではない。」


「生きていればまた会う事もあるだろう。我はこれから仕事なのだ。さらばっ」

人の形をした生き物。背中に黒い悪魔の羽を生やし、東部には立派な角。目は赤く光りその姿からは禍々しい闘気を感じる。

豹変した少年は奥に見えるビル群のような所へ飛び去った。

俺はこれが黄泉の国・・・そう思い、そして震える。

「現世の魔王が7人掛かりで立ち向かっても勝てない相手・・・」

400年生きてきてここまで強さを感じた相手は見た事も聞いた事もない。


「確か、あと3年。ここで強くなれって事か」

俺はここが装置の中だと分かっていても、信じ切る事が出来ない。

肌に当たる風。ここは間違いなく現実そのものだ。そしてさっきの少年の闘気。俺の感覚が全てを物語っている。


―――――――この世界で俺が死ねばもうあの城には戻ってこれない。――――――


たかが装置、されど装置。安全だと思っていると痛い目を見る・・・そう確信した。


気になる所も沢山あり、なぜ俺の・・・いや、儂の姿が人間なのか。姿、精神共に自身が若返っている気がする。そして、この世界全て現実の物だ。何もかもがゲームなどではない。装置によって生み出された幻覚でもない。俺自身が別の世界に丸ごと飛ばされたようだ。だが、そんなことは後で分かる事だろう。


「強くなる以前にまずは自分が生き残れる方法を見つけなくてはな・・・」

俺は少年が飛んで行ったビル群へと走った。



目の前まで来たが、こういうものは中々慣れない。道を覚えていなければすぐ迷ってしまいそうだ。

「がぁぁぁぁ!!」

声。あの少年の声か?

走って確認する。

少年の目の前には悪魔のような黒い肌、黒いツノ、黒い羽が二枚・・・その『悪魔』は浮いていて少年を上から目線で睨みつけている。

「魔王覇斬!!」

ボロボロの少年は手に持っている剣・・・というより鈍器で十字に切り付けている。


「あの時の闘気がまるで感じられない・・・どういう事だ?」

そう、あの少年にはあの時感じられた強い意志の力、強さとも言うべき物がすっぽり抜かれている。

少年がこちらに気付いたようだ。

「おま・・えっはやく逃げろ!」

「そういわれて逃げる奴なんているわけないだろう」

武器は持っていない。だが伊達に蛇で魔王を務めてきたわけではない。素手でも十分だ。


「何をやっている!貴様の勝てるような相手ではない!!」

「その子供の言う通りだ。お前からはこの子供よりも弱さを感じる。」

この戦いで一つ気付いた事がある。

戦いの中で一つも魔法を使っていない。

さっきの魔王覇斬とやらは魔法ではない力だ・・・そして、この敵も、魔力の気配が見当たらない。

生き残り、強くなる為にはこの第八魔王の少年に付いていくべきと俺の勘が唸っている。


「力なんて物はそうやって使うんじゃない。こう使うんだ」

手から火の弾を作り出す。砲丸の形にしていく。

「何を・・・っ!」

察した悪魔がこちらへ近づく。手を出し俺の頭を狙ってくる。


「その心意気は良い、だがな。無鉄砲に近づくもんでもないぞっ!!」


回避行動は取らない。このレベルの相手になると回避直後の隙を潰しに来るだろう。

俺は掌から炎の砲丸を消す。

「・・・・」

悪魔がニヤッと笑う。

今頃悪魔は技を失敗したと思っているだろう。


「騙し討ちもここでは当たり前だろう?」

炎の砲丸。悪魔の真横から飛んでくる。

悪魔の横腹がえぐれ、吹っ飛び、俺は追撃に走る。


「(エンチャント・・・ナックル)」

高温の炎で作ったメリケンサックを手に装着する。手は保護のため氷の魔法でなんとかする。そのため手は常温を保たれている。


吹っ飛んだ方向へ力一杯飛翔し、

「うおらっ!」

俺は悪魔の顔面向けて殴る、殴る、殴る。

数発殴ったところで悪魔の顔面が柔らかい事に気付く。本体は違う。


「見事に騙されおったわ!!」

俺の後ろから飛びかかる悪魔の横腹には砲丸の跡も何もない。

だが、まだ俺には行動できる。

俺は魔法で作った小手を捨て、右手を前、左手を後ろに突き出し、掌から自分を中心に作った雷のドームを設置する。

「余計な小細工をっ!」

奴は無理やり雷を浴びながらこちらへ侵入してくる。


「まて、現世の魔王!ここは撤退だ!」

「そうか。なら逃げ道を作らないとな。」


悪魔が雷で溶けながらこちらへ来るが・・・

魔力認識を有効にする。

俺の身体が俺の魔力で覆われる。俺はダメージを追う事無く雷のドームから脱出した。

最後にこの雷を硬い氷に変換し、悪魔を閉じ込めた。


「こいつが偽物なんてことはないよな?」

「我のセンサーはこいつが本物と言っておる。さあ、我の城へ来い!」

少年は俺の手を取り、飛び立つ。

空には黒い空間。ポータルに似ている。

少年は俺を連れその黒い空間へ突っ込んだ。


ドサッ・・・落下する。俺の感覚が正しければ上へ入って横から出ている。

「ここが我等の城だ。といってもここには貴様と我の二人しか・・・」

「分かった。そっちは自称魔王ということだな」

「そうではない、ちゃんと話を聞け。ここにはだな・・・元々幹部だけでも二百体が居た。だが我の力が低下した事を切っ掛けにすべて逃げ出してしまったのだ。」

「それなら部下が全員逃げ出す前はしっかり魔王やってたのか」

「そうだ。それにしても貴様は不思議な力を持っているな。」


自称魔王が俺を下から上へと観察している。

「我には分からぬが、とてつもなく強力な力であろう。」

「俺の記憶を漁ったからこの力の正体も分かるんじゃないのか?」

「プライバシーを考慮して名前と職業にあたる物しか見ていない!」

「この世界だと力が正義だろ?」

「全てを見れなくもないのだが、なぜか我の心が拒否反応を起こすのだ。」


どこか魔王らしく無いな。そう言う俺も魔王らしい事はしていなかった自信があるが。


「さっきの敵について教えてくれないか?現世では見た事もない敵だったが・・・」

白髪の魔王りんごは腕を組み高笑いをした後、

「いいだろう!さっきの敵はアクマと言ってな。どういうわけか黄泉の国全体を攻撃している。」

「噂によるとあのアクマの強さでも下級戦闘員らしい。他にも中級、上級、大といったようにランク付けされているらしいが・・・」

唐突に床を叩く。

「あの程度ッ力が復活していれば・・・ッ簡単に捻り潰せる敵のはずなのだがっ!!」


少年が顔を上げる。その目は泣いている。

「なぜ・・・我がこの程度の力になっているのだッ・・・我は許さん・・・許さんぞ!!」

その感情は怒り、悲しみ、そして憎悪。

「その力が弱くなった原因とか犯人とか心当たりはあるのか?」

「無い。記憶がごっそりと抜け落ちているのだ。あるのは魔王だった頃の記憶と我の『りんご』という名前だけだ。」


だがな、と付け加え、


「戦う内に少しずつだが力を取り戻している。」


「そういえば貴様、悟とか大蛇とかいう名前だったな。見た所素手と見た事も無い変な力だけだったが得物はないのか?」

「魔王として400年生きてきたが身体は大蛇。武器を持ちたくても持てなくてな。」

「そうか。我がジャンクから使えそうな武器を探してやる。付いて来い。」


倉庫のような所へ案内された。そこにはがらくたの山が広がっており、入口から見ても奥の壁が見えない。

「ここは逃げだした五千の配下が武器を棄てた所でな。探してみろ。」

・・・

「わ、我は手伝ったりせぬぞ。人の事は人の事・・・魔王が配下の手伝いになるなど言語道断だ。」

「魔王は主従の関係でなければ成立しないのか?」

「貴様は400年も魔王をやっているのだろう!?そんな基本的な事を知らずよくも魔王を名乗れた物だ!」

「残念ながら配下は持って居なくてな。それに、部下をいたわるのも王の務めではないのか?」

「分かった、もういい。探すぞ。」


こうして俺の武器探しが始まったが、予想以上に難航している。

使い込まれ過ぎて武器が武器という役割を果たせないほどにボロボロになっている。


この空間には無言でガサゴソと、二人掛かりで武器を探す音しかない。こうして時間だけが過ぎていった。


「ああっ!!」

突如りんごの髪の毛が吊られたように上に伸び、こちらを見る。

「そういえば貴様、その謎の力で武器は作れるのではないのか!?」

・・・・・・・・・・あぁ。


「あれは魔力を使いすぎるから無理だ。」

更に制御が複雑で難しい。緊急用としてしか使えないだろう。


「魔力・・・だと!?」

「どうしたそんな驚いて。」

「太古の昔、存在していたというあの・・・・魔力か!?」

「待て。ややこしくなりそうだから俺の記憶を探って確認してくれ。」

「う、うむ」



「・・・貴様の居た世界とは、英雄の居た世界だ。」


「知っているのか?」


りんごは少し悲しそうな顔をしながら後ろへ一歩、また一歩と下がる。

「正確には覚えていないのだが・・・ぐっ・・・なぜだ・・・なぜこんなにも胸が痛い!」

「我の・・・記憶が・・・」



「我の、記憶か」

そう言葉にした瞬間、またあの禍々しい闘気が前よりも格段に強さを増して俺を襲ってくる。

「そう・・・だ・」

「貴様を消せば、全て終わる・・・」


まるで、感情が制御できず呑まれてしまったかのように力の矛先を俺に向ける。


こういう時こそ焦ってはいけない。焦るともれなく殺される。そう俺の魔王としての本能が訴える。


「一体どうしたというのだ・・・」

考えてもこの少年を止める良い案が浮かばない。

こうやって考えている間にも少年は開いた距離を徐々に詰めてきている。

この世界に放り出されてから良い事は一つもない。

そもそもなぜこの世界に放り出されたのかが分からない。最初の一年が俺の過去の話だが・・・っ!?


俺は気がついた。気付く可能性は過大にあったはずなのに、なぜ今まで気が付かなかった?


この世界は俺の未来の話。死後の話だ。

「この黒い目。お前の目が何より俺の息子に似ている。」


「元々お前も魔王ではなかったのだろう?」


「我を・・・知っているのか?この記憶が無い無様な我を・・・知っているか?」

「俺も、同じだからな。」


死後の世界。異世界。魔王。

現世では魔王は勇者に倒されるために造られている。

その魔王の中身は異世界人。

死後の世界でも魔王という概念があるのなら、その魔王は別の世界から来た人の可能性が高い。

「す、すまない。少々取り乱してしまったようだ。」

「今後魔力の話題、現世の話題は控える事にしよう。」


「そういえば第八魔王と言ったな。他の一から七まではどうしている?」

「知らん。今まで1人たりとも見かけた事は無い。おそらく死んでいるだろうな。」

「姿も知らないのか?」

「そうだ。だが近付けばオーラで分かる。」

「オーラって一体何なんだ?」

「オーラは力そのものだ。強力な技を使うために消耗される。我も魔力について知りたいのだが、話すとまたああなるか。」

「記憶はあるのか。俺の記憶を覗いたなら魔力の事も知っているはずだからこの話題はNGなんだろうな」


「話を戻すが、貴様にはそのオーラが微塵も感じられない。」

ビシッと指差して言い放つ。

「あの下級悪魔が油断する程にな。」

「だが、貴様には・・・貴様には・・・その話が本当ならば魔力という力でなんとかなるやもしれぬ。」

りんごがガラクタの山を見渡す。

「この辺りにはもう使えそうな武器はない。付いて来い、作ってやる。」

「りんご、武器も作れるのか。」

魔王の眼がキッ・・・と光る。ついでに物凄い威圧が飛ぶ。

「我を名前で呼ぶではない。魔王様と呼べ。」

「魔王様。武器も作れるのですか」

「そうだ。」


付いていく。付いた場所はなんとなく鍛冶場っぽい場所だ。鉄で作られたような台にハンマーしかないが・・・

「武器を作るのにも先程言ったオーラで何とかなる。」

魔王がハンマーを手に持ち素材となる鉱石を鉱石置き場から取り出す。

少し紫色の光が出ている。

「そこで見ているが良い。」


魔王のオーラがハンマーに集まっていく。

大きく振りかぶり丸っこい鉱石を一振り。紫色をした鉱石は真っ二つに割れる。


次にその割れた鉱石を小さくトントンと打ち、オーラの補助によって理想となる形へと鉱石が変形していく。刃が出来た。

もう一つの割れた鉱石をその刃の根に合わせ、叩いていく。

そうして出来た形は剣。紫色をしており、更に剣自体にオーラを感じる。持ちにくそうだ。

「我ながら最高の出来だ。」


「持ってみろ。」


俺はそのオーラの宿った紫色の剣を手に取る。

「ぐ、あああああああああああ!!」

剣のオーラが身体に流れてくる。手の痛みから始まり、手から始まりその先、心臓へ雪崩れ込むように痛みがこちらへやってくる。


すでに手には痛覚という物が無くなり、何かを纏ったような不思議な感覚しか残っていない。

「貴様・・・我のオーラを吸収して・・っ」

今の俺の体には魔力とオーラが存在する。そしてその特殊な力同士がぶつかり合うように対立し、どちらか一方の力を使えば消費されたところに一方の力が流れ込み、俺の身体を破壊しつくすようになるだろう。

俺には、どうすることもできない爆弾が体に埋め込まれているようだ。


「おい、貴様・・・サトル。大丈夫なのか」

「これが大丈夫な顔に見えるか」

「剣を握ってから貴様にもオーラを纏えているように見える。」

「我のオーラと同じ種類のオーラが・・・」


「おい貴様。試しに動き回ってみろ。」

無茶を言うなと言おうとした。右手は赤黒く豹変している。もし痛覚がまだ残っているとしたら死ぬ程の痛みなのだろう。

だが、今は痛みが消えている。胸の痛みもない。


俺は真剣な顔をしながら一歩動いてみる。

薄い緑色をした風が吹き荒れる。風属性の魔法を使った時の感覚に似ている。

「な・・・っ!?」

魔王りんごは見た事がないという表情をしていた。


もう一歩踏み出してみる。

足はまるで空気のように軽い。

足が地面に着いた瞬間、またさっきと同じように風が吹き荒れる。

右手を見る。赤黒く血管らしきものが多数浮かび上がるように手と思えるような肌色は1ミリもなかった。俺の手には紫色に妖しく光る剣。これを軽く振ってみた。

振ろうと剣を動かした瞬間、すでに剣は振り終わった後だった。

振った自分でさえも剣を捉える事はできない。

「貴様、一体いつの間にこんな力を・・・」

俺にも分からない。

「これなら・・・悪魔どもを倒せるかもしれん。」

魔王は

「行くぞ!!」

とだけ言って、俺を置いてけぼりにしてゲートへ向かった。

一歩進むたび風がびゅうびゅう吹くので魔王を追っている間に俺はこの風を利用してホバー走行を覚えた。


最初の魔王城に帰還してきた場所へ戻って来た。改めてみると門のようなところにブラックホールが組み合わさったかのような見た目をしている。

「やっと来たか。ならばここの説明をしなくてはならんな。」

魔王はホワイトボードを召喚し、ペンを取り出す。

「ここはゲートと言ってな。どこでも好きな場所に移動できたりどこでも撤退用のゲートを召喚できる物でな。」

「ちょうどこのボードを召喚するのにもゲートの力を使用している。」

「だがこのゲートも貴重な物ではあるのだが、対策はすでにされている所が多い。」

魔王は丸を複数描き、一番左の丸に拠点、と書く。

「だからまずは近場の街などを制圧していって行ける範囲を増やしていくのだ。」

拠点と書いた丸から次の丸へと線を引っ張っていく。他の丸には線を引っ張らなかった。


「最終的には悪魔どもの本拠地に乗り込む。だが最低でも132箇所も制圧しなければいけない場所があるのだ。」

「そのうちすでに制圧できた箇所は1箇所のみ。貴様と出会った場所は2箇所目の地点だ。」

線を引かなかった丸にココと書く。


「今回はここへ行く。魔王城付近は悪魔の力も弱まる。貴様のゲームとやらの記憶によると序盤といったところだ。」

「プライバシーはどこ行った」


「ま、まぁそういうことだから行くぞ。ゲートはすでにつなげている。」

魔王は躊躇いもなく飛び込む。

「行くか。」

俺も続いて飛び込んだ。


―俺は今、空中に居る。

「へぶっ」

今、魔王の悲鳴が聞こえた。次は俺の番だ。

そんなのやりたくない。

俺は空中を強く蹴って風を巻き起こしふわりと着地した。

「貴様だけずるいとは思わないのか」

「ゲートの場所を地上にすればいいだけじゃないか。空高くに設定しているのは明らかに設定ミスとしか思えない。」


魔王は困った顔をしている。

「それができたら既にやっているのだが・・・」

「地上で出すと悪魔どもに入られて城を荒らされるのだ。」

「空中の方がリスクが少ないのか。」

「そういう事だ。我からしたら即刻辞めたいところなのだがな。」

「行くぞ。」


魔王と共に城へ逃げた場所。軽くビルは崩壊している。

「ここのビルとかは大丈夫なのか?」

「貴様が壊しつくした事を忘れたか?正に魔王だな。」

「あ、ああ。そうだったか・・・謝りに行かねば・・・」

「謝らなくてもよい、住人どもはこんなことは日常茶飯事だと言って笑い飛ばすだろう。」

「最も、力のある輩はそうでもないがな。ほら、そこに立っている奴だ。」

顔だけを動かして方角を示す。


「ブモーッ!貴様ら、よくも俺の住居すみかを!許さない!殺してやるーッ!!」

牛みたいな茶色い肌をした男?がカンカンに怒りながらこちらへ殺意を向けてくる。

「こういう奴はどうするんだ?」

「力で黙らせる。他にあるのなら是非とも教えてほしいものだ。」

魔王が戦闘態勢に入る。俺も剣を構える。

魔王の武器は剣・・・だが物を斬るための剣ではなく相手を殴り倒すための剣だ。

俺の武器も剣・・・しかし、使い手に左右される特殊な剣だ。条件さえ満たせば刺突に斬撃に打撃になんでもござれの万能武器になる。


「狩りの時間だあああ!!」

同族らしき住人を大量に呼び出す。

「束になって戦うのなら役割をしっかりしないとな。」

俺は一瞬で奴に近づき、薙ぎ払う。

吹っ飛んだ先に移動し、縦に切り伏せる。

血と肉と骨がしっかり見えている。このグロの姿にも慣れた物だ。

「これを見てまだ戦いたい馬鹿がいるならこの場で斬って捨てよう。」

牛人間の大群の動きが止まる中、一人の牛人間が前へ出る。


「まだ俺等には最終手段が残っている!」

「親分!やっちゃってください!!」

出てきたのはあの時の下級悪魔。腕を組みながらゴミを見るような目でこちらを見ている。

「お前が戦うわけではないのか」

「・・・」

「ならば先に貴様からだ。」

牛人間の後ろから魔王りんごの声がする。

牛人間が振り向いたときには遅く、牛人間の首から先が吹っ飛んだ。

俺の前に転がって来た頭は憎悪の目を向けてくる。

「死んでも恨むか。」

俺はその頭を蹴り飛ばす。

「貴様も元魔王だけある。残忍冷酷な鬼だな。」

「こうでもしないと悪魔共に目をつけられないだろ?」


俺は下級悪魔を見る。

スイッチが切り替わるようにロックオンする。

悪魔はさっきと同じように頭を狙って攻撃してくるが俺は無視。

ロックオンした先は動いてはおらず、腕組みをして余裕の表情をしている。


俺は一瞬で悪魔の目の前に来る。悪魔は慌てて回避行動に移る。

悪魔の回避行動の裏に周り、


「スパイクロード」


技でも魔法でもない。俺の魂の具現化。

魔力とオーラを均一に使うことで使用できる。


悪魔に数億もの棘が深々と突き刺さる。

「こんな子供騙し怖くもないわっ!」

悪魔は余裕そうな顔をしているが、奴が反撃として攻撃しようとした瞬間。

「あ・・・っぐっ!!」

ガアアアアアアアアア!!と雄たけびを上げ痛みを必死に抑えようとしている。

この棘には俺の魔力とオーラが等しく込められている。

身体を動かそうとした時など、刺さった箇所を動かそうとすれば痛みが走る。

技を失敗すれば均衡が崩れ俺自身の力が爆発するリスクもあるが、見せしめには十分すぎる出来だろう。


「な・・・ぜ・・・・だ・・・・・・・っ!」

悪魔はこれが有り得ないという顔になっているが、顔を動かすたび痛みが走るので一瞬で痛みを感じている顔に変わって行った。


「お前に説明してやる義理はねえ」

「魔王、止めはやるか?」

「よくやったな。見ていろ。」


痛みで耐えられない悪魔には気にも留めず、ただ無感情で剣を振り上げる。

「破壊の鉄槌!」

黒のオーラが剣を覆う。

魔王が剣を振り下ろすと、オーラが4本の黒い筋になり、その筋は深々と悪魔に突き刺さり、突き刺さった場所から悪魔の身体が少しずつ崩れ去っていく。

そこへ一本の鈍器けんが振り下ろされる。

悪魔という存在は粉という欠片すら見えないほどに消え去った。


「この技は隙が大きすぎるから普段は使わないのだが・・・」

「これでこの場所は制圧した!」

どこからか持ってきた白色の旗を突き刺す。

「民衆である貴様らは我にソウルを捧げよ!」

「魔王の軍勢に入りたいのならば志願しろ!」

「いつでも我々は歓迎する!!」


「帰るぞ。」

マントをばっさばっさと揺らしながら帰還ゲートへと俺達は入って行った・・・わけではなかった。

「待ってください。」

見た目は普通の人間の子供が呼び止める。

「僕を魔王軍へ入れてください。」

「ちょっと!まさか悪の手先になる気!?」

その子の母親らしき人物が俺達に失礼な言い回しで子供を止める。


「母ちゃんのほうがよっぽど悪者だ!!」

子供が言い放つ。母親には立ち直れないほど立派なダメージを負わせただろう。


「お願いします。入れてください。」

「悪いが、力の無い者は城の作業になる。それでもいいか?」

「はい。」

少年は迷うそぶりすら見せず答えた。


「なら付いて来い。ここが貴様の新しい世界だ」

そして俺達第八魔王軍は仲間を一人増やし総数3名となった。

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