49話 穴
前回のあらすじ
吸血鬼倒した・目撃された・気絶した
暗闇、ここが丁度立方体の空間というのは辺りに自分の触覚があるかのような不思議な感覚で分かる。
俺は意識がさっぱりしないまま立ち尽くしていた。
「・・・」
やがて、夢から覚める。
ほとんど血に染まったベッド。横には水晶玉が見えた。
目が覚めた流れで体を動かそうとしたが、
「ぐっ!!」
胸から鋭い痛み。
「動かないでください、大魔導士の治療でも動けば長くは持ちませんよ」
「あ・・・ああ。」
落ち着け。
・・・俺は心臓のあたりを貫かれた。だからってこの穴の大きさは何だ。いくら苦無でもこんなに大きくなかったはず。・・・
俺の左胸の穴は右腕の付け根の近くまで達していた。
左肩に至っては薄皮一枚でつながっているようなものだ。
「なぜこんなに・・・っぐ・・・はっ・・・はっ・・・」
「言いたい事があるなら念話装置でお願いします。」
俺の左には赤い服、赤いとんがり帽子、赤いマント、そして顔を黒いマスクのようなもので覆った人が黙々と治療している。治療といっても傷口に手をかざし瞑想しているように見えるが。
そして俺の右には白いローブだけを着た若い男が俺に話しかけている。
その白いローブを着た若い人は俺の隣にある台に置かれている水晶玉を指していた。
(これか?)
水晶玉から思ったことが言葉として発せられる。
「はい。これで会話しましょう。」
「申し遅れました。私はエルフィン。この街の魔術医です。」
(魔術?)
「はい。魔術は皆さんが知っている魔法とは違い、使い方は少し複雑ですけどね。」
「代わりに強い力であなたのような傷でも生きることが出来るようになるまで回復できます。普通なら、ね。」
エルフィンが少し考え込む。
「それにしても・・・治しても治しても傷が塞がらないものは初めて見ました。」
「大魔導士の到着が一歩遅れていたらあなたは死んでいたかもしれません。」
(だから最初に見た時よりも傷が拡がっているのか。)
「あの草原で何がありましたか?出来るだけ正確にお願いします。」
(吸血鬼が俺を襲ってきて、苦無で胸を貫かれた。)
(なんとか吸血鬼は倒した。それで今に至る。)
「苦無とは?」
(杭みたいな武器だ。)
「吸血鬼というのは誰ですか?」
(セールス・バム・スルール・・・)
「セバスさんが吸血鬼とはにわかに信じがたいですね・・・」
(セバスはどんな人物だったんだ?)
「凄腕冒険者で、どんな過酷なクエストも生きて帰ってくる。そして何より、昼間の活動が多い人です。」
「吸血鬼とは、本来太陽を避け夜に動く種族です。だからそんな種族が昼間に活動するのはおかしいのですが・・・」
(だからセバスが吸血鬼なのはおかしいってか?)
「・・・貴方はセバスさんを殺しましたか?」
(・・・)
どう考えても良い説明は出来ない。
(殺した。)
「ふむ。」
エルフィンが書類に何かを書き込む。
「仮にセバスさんが吸血鬼だとして。その根拠は?」
(信じられないのか?俺の話を)
「・・・」
(身体能力が凄まじく高かった。)
(強かった。何度も殺されそうになった。)
(一度死んでもまた復活した。)
「それだとおかしい」
「外を見た限り勝負は一方的だったように思えます。」
「更に目撃者によるとあなたはユニークスキルを持っているようですね。何でも、火を自在に操れる竜になれるとか・・・」
「それでセバスさんを一方的に殺したのではないですか?」
(違う・・・一方的になんかじゃない。相打ちだ。セバスは俺を貫いて、俺はセバスを燃やした。)
「目撃者の続きですが、・・・相打ちではなかった。あなたはセバスを殺して、その後倒れた。」
(何なら、この場で使ってやろうか?)
「治療中止。」
赤い大魔導士がすぐさま手を止める。
治療が止まり今まで感じることのなかった痛みが来る。
―竜変身―
今まで空いていた大穴はなかったかのように塞がっている。
寝ていたベッドから体を起こす。
「相打ちじゃないっていう理由が欲しいんだろ?」
「タイム・ドラゴン。」
ゴーン・・・
時が止まり、自分だけが動ける世界。
その間自分はエルフィンの背後に回るだけ、攻撃もせずにそのまま時が動き出す。
・・・ゴーン
「ッ!?」
「この力のお蔭だ。分かったらさっさと治療しろ。」
「お言葉ですが・・・今まで治療していましたが治す事は不可能です。」
「あんな傷見た事も聞いた事もありません。治した分拡がる傷なんて治療出来ないでしょう。」
子供の言い訳のようにも聞こえた。
「治療なら貴方がやってください。出来る物なら・・・ね」
エルフィンが部屋から出ようとする。
最初から目的は情報収集だったようだ。
殺すか、殺さないか。俺の頭にはその選択肢しか浮かばなかった。
ふと自分が
「どんな理由があろうと先に手を出した方の負け・・・か」
そう小声ではあるが口に出すと奴を殺す気は無くなった。
「そこの大魔導士さんは出なくていいのか?」
「・・・」
消えたと同時に首に鎌が掛かる。
「その力に甘えないことね。」
振り向くともう既に姿はなかった。
「(ララ。頼む、元の体にできた穴を治してくれ。)」
「(仕方ないですねえ。三日もあれば治せるのでそれまでその体で我慢してください)」
「(忘れてた。その体は便利ですけど、魔力の消費が激しいので私が治している間戦ったりしないで下さいね)」
なぜか、自分は虚しくなった。




