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『青春Playing』  作者: K+
青春Playing
22/31

体育祭 最終日

 体育祭イベント最終日は、日曜日だった。

 数日前に公開された賞品目録が割と豪華で、昨日などは昼間もプレイヤー数が増えていた。

 勝った組のプレイヤーには百Rコインが配布され、負けた組には二千Vマネー。

 組に関係なくポイントを最も稼いだ人は、現実で使える一万円分の旅行券、商品券、電子マネーのいずれかを選べるそうだ。上位十人も、協賛企業のオリジナルグッズがリアルや仮想アイテムとして貰えるとの事。種目別の健闘賞として、ゲーム内クーポンなども配られるようだ。

 専用掲示板で公表されたプレイヤー達のポイント数は、僅差だらけだった。連続ログイン時間も定められ、競技に参加した分だけ疲労するこのゲームでは、それほど桁外れの数値を叩き出している人は居ない。まして、元々の運動神経も影響する。

 アカネと仲間達は、概ね真ん中辺りの順位に集まっていた。要するに平均である。

 ただ、最終日、昼過ぎにアカネがログインすると、お知らせが現れた。

【貴方(タイムアベレージ 一四・七三)はリレー参加資格があります。

 是非、ご参加ください!】

(誰でも参加できるわけじゃないのか)

 意表を衝かれつつ、アカネはお知らせを消す。

 ワカが電話をかけてきて、競技場の前で合流を果たした。マサタカとgakuも一緒だ。本日、父、隆紀は家族全員から現実に置き去りにされている。

 gakuは学ランを着て下駄を履いていた。頭には長い白ハチマキを締めている。オーソドックスな応援団スタイルだ。インテリ風でも、似合う人は似合うのだと知った。

 マサタカはみんなと同じ白い体操服を着て立っているだけなのに、今日も今日とて〝触れるな危険〟オーラが漂っている。不思議である。

 当然ながらワカは全く意に介さない。幸せいっぱいの顔で言った。

「あのね、さっきフローズンヨーグルトのおやつを作ったら、クラブポイントが溜まったんだって。すっごく可愛いエプロンを貰えたよ」

「おぉ? 流石ワカちゃん」

 見て見て、とワカは、まだちょっと慣れていない様子で虚空に細い手を彷徨わせる。アイテム欄を開こうとしているようだ。そこへ、うっちーと桐臣が相次いで姿を見せた。

 うっちーは、gakuをひと目見るなり、イイ、と洩らした。

「しゃ、写真を撮らせてください」

 どこでもフォンを手ににじり寄って行く。若干たじたじでgakuがポーズを取り、うっとり顔でうっちーが山吹色のフォンを構えていた。アカネと桐臣は引き気味に眺めやる。マサタカは我関せずである。

 が、隣でワカがようやくエプロンを披露した途端、マサタカは光速で反応した。

 淡い桜色で、肩紐や裾にレースのフリルたっぷり。

 アカネが視認できたのはそれだけだ。

 ぱっと見だとソレしか身に着けていないようにも見えたワカは、あっと言う間にマサタカに腕を取られ、彼方へ連行されていった。木陰の隅で、ピリピリマサタカとむくれるワカで口喧嘩を始めたようだ。

「写真の〝し〟の字さえ言う暇が無かった……」

 桐臣が呆然と呟く。「ガードが固ぇ」

 うっちーから解放されたgakuが、笑いながらコメントした。

「半世紀前から変わらないねぇ」

 遠くから、アカネ達は二人へ感心の眼差しを送った。


「ところで、微妙なお知らせが来てたんだけど」

 gakuを上目づかいに見て、桐臣が言った。「〝リレーに参加できるかもしれません〟て、曖昧じゃないです?」

「それは補欠だね」

 さらりとgakuは応じた。「リレーはNPCが穴埋めしないから、補欠も確保しておかないとね」

「アカネ、お知らせ来てるだろ」

 桐臣(きりおみ)が目を流してくる。来てた、と首肯すれば、(まさ)の孫だねぇ、とgakuは口角を上げた。

「リレーは立て続けには参加できない仕様だけど、ポイント高めだよ」

 登録登録、と桐臣が拳を掲げてくる。アカネは己が拳を軽くクロスさせ、連れ立ってパネルへ向かった。



 競技場へ入ると、既に盛り上がっていた。

 トラックを人垣が囲んでいる。歓声が響き渡っている。

 本日のトラック競技はリレーオンリー。内側で、玉入れと綱引きだけは、これまでどおり開催されている。

 先ずはリレーの応援に入ろうとしたら、丁度一レース終わったようだった。目の前にひょっこりとお知らせ窓が出てくる。

【矢印に従いましょう】

 アカネと同じタイミングで、桐臣とマサタカも足を止めていた。

「補欠がいきなり出れちゃうみたい」

 桐臣が可笑しそうに言う。gakuが眼鏡を押し上げた。

「参加資格者が、ログインしてないか登録してないかだね」

 行ってくる、とマサタカが短く告げて一方へ歩き出す。きちんとエプロンを見せられなかったワカは不貞腐れていたが、長身が背中を向けて遠ざかり始めると、ころっと態度を変えた。

「柾さんてね、とっても速いんだよ。オミ君、白組だったら良かったのにね」

 桐臣がリアクションに迷っていたので、アカネは笑いを噛み殺しながら腕を叩いてトラックに踏み入る。

「オミ、どっち」

「左」

「う、託す方が気が楽だったのにな」

「万が一落としたらアイスで」

 二イッと口端を上げてから、赤いハチマキをひらひらさせ、桐臣は左へ向かう。多分、第二走者だ。男女混合リレーで、アカネはきっと第三。マサタカは桐臣とは別の地点で佇んでいるから、アンカーか。

 アカネと同じ所に来た白組の女の子が、緊張気味にストレッチを始める。

 トラックの外では、gakuが笛を咥え、三々七拍子を刻み始めていた。うっちーが大喜びで手拍子を合わせている。ワカはアカネも出て行ったものだから、そわそわと顔を交互させていた。孫の応援もしてくれるらしい。

 ポーンと音が響いた。

〔選手が揃いました。第三十三レースを開始します。応援者数百四十六〕

 応援区域の人数をカウントしている。アカネが小首を傾げる間に、位置に着いて、とNPCが機械を構えた。現時点で負けているからか、紅組がアウトコースのようだ。

 乾いた合図が鳴り、スタートした。

 白の女子が速い。余裕で第二走者もインコースにスタンバイし、バトンが回る。

 続いて桐臣もバトンを受けた。追い着けないながらも離されることなく、走ってくる。こうして見るとしなやかな動きだ。

(わたしより二秒も速いくせに、補欠なんだなぁ)

 憮然としつつアカネがアウトコースに出ると、ささっと白の女子もインコースで待つ。傍らでパシッと小気味良い音がしてバトンが移った。走り出す背中を見据え、アカネは進み出しながら片手を背後に向ける。

 桐臣だし、見ていなくても大丈夫な予感があった。

 手を繋ぐかのように真芯に乗せてくる。

「いっけぇーっ!」

 受け取ったアカネは加速した。現実よりも断然スピードが乗る。

 インコースに居たマサタカが、ニヤリと笑んで外側へ足を引いた。紅組の男子が急いで入れ代わる。差し出された掌へバトンを託した。

 役目を終えてアカネがコースアウトした瞬間、脇で金属音がした。悲鳴に似た声が観客から漏れる。白いバトンが転がっていた。

 悲愴な表情で、白組の少女が声も無く口を開閉させる。マサタカが流れるような動きでバトンを拾い上げ、距離の開いた紅組を追って行く。けれど、流石に追い着けなかった。

 ポーンと再度、音がする。

〔第三十三レースは紅組の勝利です。紅組に、ボーナス一四六ポイントが加算されました〕

 アカネ個人には五〇ポイントが入ってきた。なるほど高ポイントだ。

 軽く走ってきた桐臣が、至極嬉しそうにハチマキを握った手を向けてくる。アカネも口元を緩めて拳を当てた。

「お疲れ」

 ハモってから、目の端で悄然としている姿を捉えた。アカネと同じ第三走者だった女の子。後ろに立ったら撃たれそうなマサタカに向かって行くのは、初対面では勇気が要ったろう。

 放っておくのは忍びない。

 歩み寄るマサタカを見やり、アカネは少女に声をかけた。

「あの人不機嫌そうだけど、あれデフォルトなんだよ」

 おどおどと女の子が目を向ける。マサタカは片眉を上げた。

「気にし過ぎると禿げるぞ」

 桐臣が噴き出すのをこらえるように口元に拳を当てる。女の子は、やっと少しだけ表情を和らげた。ぺこりと頭を下げてから、トラックをてててっと出て行く。

 首にハチマキを掛け、桐臣が歩き出しながらこそっと訊いてきた。

「リアルマサタカさんの毛は大丈夫なの」

「一応無事だね」

 マサタカが、無言でアカネと桐臣の頭に拳を乗っけてくる。ひゃはは、と頭を押さえて二人が逃げ出した時、鋭い声がかかった。

「柾ッ!」

 発したのはgakuだった。

 動きを止めてアカネ達が顔を向けると、視線の先で、片手を上げかけているワカの姿がちかちかと点滅していた。

「え――?」

 瞬くアカネと桐臣の脇を、マサタカがすり抜ける。

「わか――」

 辿り着く前に、〝ま〟の形に唇を開いた可憐な姿が消えた。



「三人共かっこいいかっこいいと、はしゃいでたのに、不自然に黙ったから……見たら……見た時には、点滅し始めていた」

 後日、うっちーはそう言った。

 あの時の彼女は、両手で口を覆って茫然としていた。

 すぐさまマサタカはログアウトし、アカネも続いた。

 gakuも桐臣も、たまたま周りで目撃していた人々も、強張った顔やぽかんとした顔で、見送るしかなかった。

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