82話 地下の主
坂を登ると下水道だった。
振り出しにもどった気分だ。
前進したのか後退したのか?
どちらに行けばと悩む必要は無かった。
片側から獣の気配が近づいてくる。
なにが来るかなんて確認する暇はない。
反対に向かって駆け出した。
天井には水が流れているから上から追って来られないのは精神的に少し楽だ。
十字路にさしかかる右に曲がる。
あてはない。
なんとなく水が流れる方向へ。
だんだん数が増えてきている。
ひたすら走るしかない。
ネズミが数匹足元に追い付いてきた。
持っていたパターで殴り飛ばす。
ダメだ無視しよう。
今の間で明らかに後続が距離をつめた。
もう後ろは振り返るのも恐ろしいほどの気配が迫っている。
ふと左に登り口が見えた。
よし!
坂を一気にかけ上がる。
通路の真ん中が滑っているので少し斜めになりながら走る。
下で獣達が足を滑らせ落ちる音が聞こえる。
少し距離を稼げたかと思った時に
肩に痛みを感じた。
ネズミが噛りついたのだ。
迷わず肩から壁に体当たりして潰す。
はずみで滑りそうになったが
もうそこには天井の高い通路がはしっており
しがみつくようにそのフロアに転がり込んだ。
振り向く。
私の動きが止まったことを警戒してか
大量の獣達はゆっくりと穴から現れ始めていた。
小さいのも含めて10、20、30…これはもう
ダメか…
黒滝達は無事に逃げただろうか?
…こんな心配を私がするとわ…
まぁ何匹かは道連れに。
そう決意したとき。
遠くからラッパのような音が聞こえてきた。
獣達はとたんにザワメキはじめる。
なんだ?
チャラーララ♪チャラララララー♪
これはラーメン屋が奏でるあれだな。
はじめて聞いた。
電気の光が下水道を照す。
とたん。
獣達が蜘蛛の子を散らすようにそこらじゅうの
通路やダクトに消えていった。
あんな量の獣が通路に散ったら、
あれはあれで誰かに迷惑をかけるかもと思ったが所詮他人事だ。
内心黒滝のとこに全部行ってしまえっ!
と念を送った。
あいつは苦労したほうが伸びる子だ!うんっ!
私がしょうもないことを考えている間に
手引屋台が目と鼻の先に止まった。
野球帽を目深に被った老人だった。
「あの、ご老人。あの音は一体?」
老人はラッパの用な楽器を手にとると
もぅ一節鳴らしてくれた。
「ほう、見事ですね。ご老人はきっと名のあるラッパ吹きなんでしょうね。」
「カハハハハハハハハハハッ!」
突然老人が笑いだした。
「どっ、どうかしましたか?私は何か変なことを申しましたか?」
老人は屋台を地面に下ろすと引き手に座り
煙草に火をつけた。
「あいかわらず思考がずれとるの~ルシル。」
「むっ!私の何処がずれていると!
いや…なぜ私の名前を知っているのです?」
老人は帽子を脱ぎこちらを見た。
「カンタ様…」
「ひさしぶりじゃなルシル。前世ぶりじゃの?」
私は追いつめられた地下で
予期せぬ再開をはたしたのだった。
少し話が転がります。




