単独行(1)
さて、ルシルサイドです。
目覚めるとだいぶん明るくなっていた。
体が痛い。
固いとこで寝るのには慣れているが、
ちょっとデコボコしすぎていたようだ。
鞄の中から携帯食をひとつ取り出しかじる。
さぁ行くとしましょう。
硝子の庇に落ちているコンクリの重りを一つ持ち上げ真横の窓に全力で投げつけてみた。
ゴンっ
割れない。
ビルに使われているようなガラスは強化ガラスで
これくらいじゃ割れない。
中に入るのは諦めよう。
とりあえず庇の端まで歩いてみた。
駐車場側に戻るのは無理そうだ。
反対側にも行ってみる。
隣のビルの外階段が見えるがちょっと遠いな。
正面は少し広めな4車線、これは飛び移るとかそーゆー次元の話じゃない。
けど電線がわたってる。
あれを伝っていけばいけるかと下を覗きこむ。
今日も空が高いな…落ちたら死は免れないが
ここにいたっていずれ死ぬ。
私はもと来た駐車場側まで下がると、そこから助走をつけて走る。
目標は歩道から垂れ下がる電柱。
距離は目測3メーター。
際で踏み切る。
浮遊感、からの落下。
怖気がはしる。
これだけは慣れないものだ。
方向はパッチリ水平距離なら3メーターは飛べないが落下も込みなら電柱に届く。
ガバッ!
全身で電柱のコンデンサー付近にはりつく。
ちょうどコンデンサーが足場になる場所で安定もいい。
ギリギリだったが渡れた。
もう、もとの庇には戻れない。
私は通り沿いの伝線を伝って歩きはじめた。
1箇所だけのやつなら、綱渡りかウンテイの要領で行くしかなかったが、離れて二ヶ所張られているタイプだったので
下は綱渡り、胸元に手で支えられる状態で進む。
これが夏場なら電線がたるんだりして
渡る難易度があがるとこだが、幸いにもまだピンと張られていて比較的楽に歩道沿いに進むことが出来た。
当初の予定地点にたどりついた。
綱渡りで渡るには嫌な距離だ。
だが、そこでイイものが目に入った。
歩道橋である。
先程は死角になって見えなかったがここまで来て
視野に入ったのだった。
私は歩道橋までさらに電線を伝っていき
まさに電線の高さにある歩道橋に飛び移った。
これで少しは安全に道路を渡れる。
道路をわたる最中遠くに獣の群れを視認した。
とっさに伏せる。
なんだあれは?
犬猫じゃない。
馬やら羊やらライオンなんかがいる。
一体何処から?
とりあえず考えても仕方ない。
私は伏せながら進み歩道橋の
階段の影に滑り込んだ。
一番上まで登ると何処にも取っかかりが無さそうだったが、個人商店の二階の窓が開いていたのでそこに飛び移る。
窓の庇もあったので苦もなく飛び付く。
中にはいると住居エリアだったのだろうTVやローテーブルなんかがひっくり返りひどい有り様だった。
パット見、使えるものは無さそうだ。
キッチン辺りに転がっていた林檎を拾い、袖で拭いて齧りながら物色する。
ペットボトルの飲料や缶詰もない。
特に今必要なのは物は無さそうだ。
家の中を進み一番奥の窓を開ける。
ビルがたっていた。
これじゃ光なんてはいらないわね。
だがこの場合は助かった。
向かいのビルの窓が近い。
キッチンに転がっていたレンジを持ち上げ投げつける。
破砕音とともに窓が向こう側に落ちた。
よし!
一も二もなく飛ぶ。窓はさほど大きくないが
なんとかぶら下がり中に入ることが出来た。
トイレか…少しイヤなことを思い出したが今は関係ない。
ドアをあけ外に出た。
1フロアに2社くらい入っているオフィスビルみたいだ。
とりあえず一階を目指した。
この手のビルならマンホールがあるかもしれない。
移動手段が無い以上地下にと思ったが、
もしかしてともとのフロアにもどった。
そして給湯室にはいる。
あった!
サーバーようのガロンタンク。
それらが天井にはりついていた。
ホームセンターで見たプラスチックのタイプじゃなくビニールに入ってるやつだった。
まぁ浮けばどっちでもいい。
私はそれをジャンプして下に引きずり下ろす。
三つもあれば充分だろう。
一つ一つポットのコードや延長コードで結び
浮きを作った。
後は移動するだけだ。
ドゴン!ガリガリガリガリガリガリ
なんだ?なんの音だ
オフィスの扉が開いていたので中を覗く。
何かが1階2階の間の壁を擦りながら通り過ぎていった所だった。
さっきの動物の群れと関係あるのだろうか?
私は浮きをもって窓に近寄る。
ちょうど隣の民家が半壊しているところだった。
今なら!
私は浮きにまたがる。
よし!この高さなら問題ない。
私は獣の気配を警戒しつつ
窓の向こうに飛び出したのだった。




