72話 水の神殿
今は逃げるしかない。
下水道を走る。
植松さんを連れている分速度が上がらない。
くっ!何をいらついてんだ?俺は!
十字路にたどり着いた。
「ロボ、どっちだ?」
「もと来た路は左だな。」
「よし、右に行こう。」
「根拠は?」
「無い…たぶん正解はない。」
「なるほど。食い破ろうこの状況。」
「ハァハァ、どうゆう…ことですか?」
「そうか植松さんには見えないわな。」
俺も最近見えるようになったからなぁ…
「耳澄ましてみ」
「えっ…」
「イッパイいるなぁ…」
回りから獣の声が無数に聞こえてきた。
「やるかロボ!」
「いつでも。」
俺はリュックを植松さんに渡す。
「持ってて。」
獣化!
自分で変わるのは初めてだ。
俺とロボが溶け合う
「あ…お兄さん…」
体に力がみなぎり体が膨れ上がる。
変わるの一瞬。
俺は漆黒の獣人に変化した。
植松さんを抱えあげると右の通路の奥に走り出した。
元が何かわからない。犬とも猫とも爬虫類とも言える。混ざりあい溶け合い四足獣の形に固まりなおした様な「獣」としか形容しがたい生き物。
襲いかかってくる獣を爪で凪ぎ払い
牙で食いちぎる。
足元に這い寄るやつらは蹴飛ばし踏み潰す。
片手が使えないがさして問題はない。
噛みついてくる獣の牙は俺の体毛を突き破ることは無い。
万能感。
危ない感覚だな…溺れないようにしないとな…
(そのための私でもある。)
頼りにしてるよ。
植松さんは腕の中で目を回している。
逆に都合いいか。
しばらくすると滝が見えた。
滝っても下から上に落ちてる。
付近の水が流れ込んでるのかもしれない。
俺は壁を蹴ってその滝の空間を上へ上へ登った。
滝の流に足がとられそうになりながら
最後は完全に水のカーテンになった滝を突き破り
広い空間に出た。
上にはもう獣達はいなかった。
そこは穴を中心にすり鉢状に広がっただだっ広い空間だった。
赤い赤色灯が壁沿いに並んでいる。
中央の穴から上へ流れ落ちる水は
天井の巨大なプールを作り出していた。
壁沿いからも滝のように水が流れ落ちていて
まるで水の柱が支える神殿のようだった。
「うわぁ…不思議…キレイ…」
たぶん逆さにみれば普通の地下排水設備なんだが
今は神秘的な光景に見えた。
ザブンッ!
水の跳ねる音がした。
このシュチュで何か出ないはずがない。
俺は植松さんを抱えて飛んだ。
滝の柱を砕きながら巨大な何かが部屋の真ん中に落ちてきた。
岩。直径3メートルはある岩
。
でも違う。その生き物はたぶん元はゾウガメだったのだろう。
フォルムは見たことがある。
尻尾は亀のそれ
だが足が違った。
左右に蟹の様な海老の様な足が生え
巨大な鋏を一対生やしていた。
そしてその頭は元の亀に近いが口が4つに割れて
無数の牙が雑に生えていた。
これと戦るのかよ…
さっきまでの万能感が嘘のように薄れた。
どんな力を手にいれても無力感がまるで追いかけてくるようだ。
さぁ!逃げるぞ!




