45話 月と猫
「コハルちゃん…」
彼女は動かなかった自分の腕でその細い体を抱き
影に溶け込む様に佇んでいた。
「コハルさん貴方…」
彼女は影から月明かりの下に歩み出た。
猫耳に尻尾…そして大人のからだ。
俺の知らない彼女がそこにいた。
彼女はこちらを向かない。ベランダから外を見つめている。
ただ月を見ている。
「コハルちゃんだよな…?」
彼女の耳が少しゆれる。
尻尾もゆっくり地面を撫でるようにゆれる。
「バレちゃったニャらしょうがニャい。」
ぶっきらぼうに、彼女は話し始めた。
「これが私の正体ニャ。ごめんニャ~お兄ちゃん。か弱い幼女じゃニャいくて。」
俺は誰と話してるんだろう?
「お兄ちゃんの反応が面白くてつい、遊んじゃったニャ。」
これがコハルちゃん?
「両親を探したいニャんて嘘ニャ。写真見たニャ?あれが私ニャ。」
「あの写真がコハルさん?」
ルシル…
「じゃああの家の惨状は…」
「私ニャ。あれは私が旦那を殺して暴れたからニャ」
「殺した?旦那さんを?なぜです?」
コハルちゃんは凄惨な笑顔をこちらに向けた。
「人間を殺すのに理由なんていらニャいニャ~」
「貴方は…」
「お前達を殺すのにも理由なんていらニャい。」
俺はただコハルちゃんを見ていた。
ショックで腑抜けていたわけじゃない。
見極めなければ…
「だから死ぬニャ!」
コハルちゃんの右腕が横に振られた。
その爪は驚くほど長い。
ガキン!
ルシルが俺の前に飛び出しスティックで爪を止めた。
「何を腑抜けてるんですか?!」
「ふん!」
コハルちゃんが重力を感じさせないような動きでベランダに翔んだ。
「飽きたニャ…」
その顔はひどく悲しげに見えた。
「バイバイニャ…」
そのまま上の階にコハルちゃんは登っていってしまった。
部屋には座り込んだ俺、苛立つルシル、
眠るロボだけがいた。
いることが当たり前に思えていた天使は
俺たちの前から飛び立って行った。
月明かりは雲に隠れ部屋は闇に沈んだのだった。
コハルちゃん…




