16話 群れ
障害は多いほど燃える
うげっ…
胃液が俺の心に反応して喉元までせり上がってくる。
吐きそうだ。
受け付けない。
この状況を心も体も全力で拒絶している。
映画とかネットで死体を見たことあるけど
本当に人が死んでるのを見るのは初めてだった。
ビジュアルだけでなく臭いが死の臨場感を否応なく伝えてくる。
「なんだよこれ…」
「迂闊に部屋から出てしまったんでしょうね彼らは。」
「あっ?!」
何言ってんだこの女?
「何がどう迂闊だってんだよ!
確かに俺はけっこう迂闊に外に出ようとしたから迂闊だバカだって言われてもしかたないけど、
この人達は廊下に出ただけだろ?」
「それが結果的に迂闊だったわけです。」
「そんなの本当に結果論じゃねぇか!」
「賢い選択だろうと、迂闊な選択だろうと、死んでしまえば無意味です。」
さっきまでの死体への忌避感より、こいつをぶん殴りたいって気持ちが膨れ上がる。
「お前…もうちょっと他に言うこと無いのか?」
「そうですね。何に殺されたのかが問題ですね。」
「いや、そうじゃないだろう!」
「よく見てください。」
「嫌だよ見たくない!」
どうやって直視しろってんだよこんなの。
ルシルは俺を無視して遺体に近寄る。
「この傷は…小動物…」
「小動物?犬とか猫とかか?」
「いえ、もっと小さい…」
その時俺達の後で物音がした。
とっさに振り向くと、階段付近に横たわる死体の側でネズミが一匹こちらを見ていた。
「ネズミ?」
初めて見た。
いや、図鑑とかTVで見たことはあるよ。
都会とかじゃけっこう見るみたいだし、
この辺だって飲食店あるとこなら結構いるってのは知ってるが見るのは初めてだった。
「まさかあいつが?」
「いえ、あのような小動物一匹でこんな惨状にはならないはず。」
そう一匹では。
横たわる死体の口から一匹ネズミが這い出す。
それだけでも吐いてもおかしくない異常な光景。
それに追討ちをかける様に、二匹三匹とネズミが死体の口から溢れだし、腹や胸を食い破って床に溢れ始める。
下の階や上の階からも大量の物音が迫ってくる。
ネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミッキーネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミネズミ…
しかも数だけが問題ではない。
大半が床ではなく、天井や壁に張り付いている。
ネズミってあんな動き出来るっけ?
しかもさらにおかしなことがもう1つ。
全部の顔の向きが一緒。
壁に引っ付いてるやつらはまだ許容できる。
天井に張り付いているやつらまで正常な向きでこちらを見ている。
ようは首が逆さを向いている。
フクロウじゃねーんだからよ…
明らかに異常だ。
ルシルがそっと身をよせてくる。
やめろよドキドキするだろ。
「あなたこんな時まで…」
「五月蠅いなんだよ?」
「1、2でもとの部屋へ飛び込みますよ。」
俺は頷き返した。
二人でゆっくり後ずさる。
もう目の前の景色の中に人工物は存在しない。
床も壁も天井も灰色の獣毛で覆いつくされている。
「1、2!」
俺達の声と動きに反応して一斉にネズミ達は動き出した。
俺達は振り返りもせず、もときた部屋へ飛び込んだ。
敵2です。
頭グリグリ動くネズミ…かわいくないなぁ




