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「森で行き倒れたアラサー女、ビンボー領主に厄介になります」  作者: 三ノ宮 みさき


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5 王都で盗賊に襲われたら、喋る狼に助けられました 改

 街中で突然、男から声をかけられたとき、アルバンは驚いた。

 男を見て気づいたのは平民ではないということだ。

 着ているものや話し方も丁寧だ。

「実は怪しい人間につけられている」

 軽い話ではない、アルバンは驚いた。

「あ、あの、私からもいいですか」

 男の隣には若い女性、黒髪、黒いドレス、この街では見たことのない服装だ。

 視線が一瞬、釘付けになる。

「実は花屋から出た時、見られていると思ったんです。その後、お茶を飲むために店に入ったんですが」

 戸惑っているような表情だ。 

「もしかして、つけられていたんですか?」

 アルバンの言葉に女は戸惑った表情だ。

「お茶を飲んでいるとき、店の中に入ってきた人、周りを見ているんです。誰かを捜していると思ったんですが」

 女の声は戸惑っている。

「おかしいと思わないでください。着ているもの服装は、ちゃんとしたものだと思うんです」

「どういうことです」

「周りを見ているんです。私が見ていることに気づいたら視線を逸らしたんです」

 女性が美人だから、着ている服が変わっているから見られていたのではないかと思った。

「気の所為ならいいんだ。だが」

 男が言いかけたときだ。


「アルッ、ここにいたのか」

「捜したぞ」

 突然、声をかけてきたのは鎧姿の男性だ。

「今、知らせが入った」

「盗賊だ、青銀狼団の一味が街に紛れ込んでいると知らせが入った」

 アルバンの表情が変わった。

「人数は分からないんだ」

「詳しいことはわかっていない。他国からやってきたんじゃないかと」

 もう一人の騎士が、険しい顔で続けた。

「複数の組に分かれて動いている可能性もあるんだ」

「厄介だな」

 アルバンの呟きに二人の騎士は頷いた。


 盗賊が本当に街に入り込んでいるのなら、人混みは身を隠すのに都合がいい。

「一人は詰め所に戻って、隊長に報告してくれ。もう一人は、近くの巡回騎士と合流して、この通りを警戒してほしい」

 アルバンが指示すると、二人はうなずいた。

「お前はどうする?」

「この二人を安全な場所へ移す。周囲の様子も確認する」

 そう答えてから、アルバンはジョルジュとミヤに向き直った。

「お二人とも、申し訳ありませんが、ここからは私たちの指示に従ってください。盗賊が近くにいる可能性があります」

 ミヤの顔から血の気が引いた。


 三人が商店の並ぶ通りを抜け、荷車が行き交う道へ差しかかった時だった。

 前方から男の声が、続いて道の端にいた男が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 アルバンは立ち止まった。

 振り返ると、先ほどまで後ろを歩いていた人々とは明らかに違う男たちが、道を塞いでいた。

 前に三人、後ろに二人。

 逃げ道を塞ぐように、じわじわと距離を詰めてくる。

「何の用だ」

 アルバンが低い声で尋ねた。

 分が騎士だと分かちっているはずだ、だが、怯む様子がない。

「ちょっと、話がしたいだけだ」

 男の視線が、アルバンの肩越しに移る。

 ジョルジュとミヤの身なりを見て、口元に薄い笑みを浮かべた。

「そちらのお二人は、ずいぶんと金を持っていそうだ」

 ミヤが息をのんだ。

 ジョルジュは彼女をかばうように半歩前へ出る。

 アルバンは二人を背後にかばい、剣の柄に手を添えた。

「騎士がいるとわかっていて、こんな真似をするのか」

 男は薄笑いを浮かべた。

「一人で何ができる。仲間を呼びに行ったところで、間に合うとは限らないだろう?」

 アルバンの目が細くなった。

 こちらが騎士団に応援を頼むことまで、見越していたのか。


 「女は傷つけるな。ボスの命令だ」

 男の一人が、仲間を制した。

「わかってるさ。傷ひとつつけずに連れていくんだろ?」

 男は薄笑いを浮かべた。

 ジョルジュの表情が変わった。金品を奪うだけではない。ミヤを狙っているのだ。

「……どういうつもりだ」

 ジョルジュの声が低くなる。

「ボスが気に入ったんだよ」

 男は肩をすくめた。

「欲しいってな。だから、俺たちが迎えに来た。それだけさ」

「女を物のように扱うな」

 ジョルジュの声音には、普段の穏やかさはなかった。

 男は一瞬、意外そうな顔をしたものの、すぐに口元を歪めた。

「あんたにはもったいないと思うがな」

 ジョルジュだけではない。アルバンの表情も変わった。

 ふざけるな、腰の剣に手をかける、だが、相手の人数が多い。

 一人で守り切れるか。

 自分たちは囲まれているのだ、まずい状況だ。


 そのときだ、低い唸り声が響いた。

「うわあっっ」

 一人の男が叫び声をあげ、地面に膝を着いた。

 男の右腕が失われ、傷口から血が流れている。

 苦しそうに声を漏らす男に灰色の狼が近寄っていく。 

 周りの男たちは驚いた。いや、戸惑いの表情だ。

「な、なんだ」

「犬、いや、狼かっ」

 男たちの声が驚きに変わる。

 男の腕を噛みちぎったのは犬なのか、いや、狼?

 男たちは周りを見た。

 一匹ではない、黒、灰色、白い毛並みの獣たちが男たちの周りにいた。

「おい、なんだ」

「護衛の獣なんていなかった」

「確認したのか」


「盗賊共ッッ」

 聞こえてきたのは男の声だ。

「食い殺されたいか」

 男たちの顔色が変わった。

「し、喋ったっっ」

「馬鹿なっっ」

「魔獣か」

 男たちは慌てたのも無理はない。

 獣が人の言葉で話している、信じられないと盗賊たちの顔色が変わった。


「ジョル、乗って!」

「早く、早く!」

 ジョルジュの耳元で、聞き覚えのある声がした。

 白い狼がすぐそばまで歩いてきていた。大きな体を低くかがめ、まるで背中に乗るのを待っているかのようだ。

「早く、ジョル!」

 耳元で弾む声。楽しげな笑い声。

 ジョルジュは気づいた、妖精たちの声だ。

 よく見ると、狼の背中に妖精が乗っている。

「盗賊たちは騎士に任せればいいよ」

「悪い奴らなんだから!」

「早く、乗って!」

 楽しそうな笑い声だ。

 こんな時だというのに、妖精たちは笑っている。

「ジョル、乗って!」

 白い狼がすぐそばまで歩いてきていた。大きな体を低くかがめ、まるで背中に乗るのを待っているかのようだ。

 耳元で弾む声。楽しげな笑い声。

 ジョルジュは苦笑しかけたが、すぐに気を引き締めた。

「ミヤ、狼の背中に乗るんだ。しっかりつかまっていてくれ」

 ジョルジュはミヤを促しながら、白い狼のそばへと移動した。

 ミヤも突然の出来事に戸惑っていたが、ジョルジュの言葉に従おうとした。

 そのときだった。

 女の声が、はっきりと聞こえた。

 ジョルジュは動きを止めた。

 今の声は、妖精たちのものではない。すぐ目の前にいる白い狼が、こちらを見つめながら話していた。

 ミヤも驚いたように息をのんだ。

 狼が、人間の言葉を話したのだ。

 二人が呆然としている間にも、黒い狼と灰色の狼は周囲に目を配り、盗賊たちの動きを警戒していた。

 白い狼は、もう一度二人に声をかけた。

「全力で、ここを抜ける」

 その声には、ためらいはない。

 ジョルジュは一瞬だけミヤの顔を確かめ、白い狼の背に手をかけた。


 白い狼は二人が背中に乗ると軽く地面を蹴った。

 次の瞬間、景色が大きく動いた。

 狼は人混みを巧みに抜け、街路を駆けていく。

 大きな体からは想像できないほど速かった。

 だが、街を抜けた瞬間、景色が変わった。


「やったー」

「秘密の通路は便利だね」

 妖精たちの声が聞こえる、秘密の通路、ジョルジュは声がでない。

 目の前に広がっていたのは、見慣れた景色、長年暮らしてきた自分の館だ。

「……どういうことだ?」

 ジョルジュは目を見開いた。

 つい先ほどまで王都にいたはずだ。

 街を抜けたばかりなのに、なぜ自分の館の前にいるのだろう。

 慌てて周囲を見回したが、白い狼の姿はどこにもなかった。

 まるで、最初から存在していなかったかのようだ。


「凄いでしょ!」

「近道なんだよ!」

「すごく便利でしょう?」


 妖精たちは得意げに胸を張った。

 ジョルジュは口を開きかけ、結局、何も言えなかった。

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