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「森で行き倒れたアラサー女、ビンボー領主に厄介になります」  作者: 三ノ宮 みさき


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10 王が怒らせたのは妖精? 改

 広間でジョル、見られていたけど気づいた」

 妖精の言葉にジョルジュは、もしかしてと思った。

 騎士かと尋ねる。

 うんと頷くと、もう一人の妖精が難しい顔で。

「仮面をつけた人もいた」

「多分、王様の側近とかじゃない」

「凄く、偉そうな感じだったもの」

「多分、ジョルのこと気づいているよ」

「……その男も、私を見ていたのか?」

 騎士は王の側近たちに報告したのか、可能生はあると思った。

 

「狼に乗って、えーっ!」

 突然、一人の妖精が声を張り上げた。

「街の中を走ったーっ!」

「すごーい、はやーい!」

「るるるーっ!」

「らららー!」

 妙な節をつけて歌い始めるだけではない。

 踊りだしたのだ。

「……お前たち、何をしている」

 ジョルジュが呆れて尋ねても、妖精たちは歌うのをやめなかった。

「白い狼に乗って、街を走ったー!」

「王様もびっくりー、貴族もびっくりー!」

「すごいね、すごいねー、街の子どもたちの頭の上を!」

「飛んだよ、飛び越えたのー、すごいよー」

 ジョルジュは額に手を当てた。

 この調子では話が進まない。

 だが、ようやく歌い終えた妖精は、急に真顔になった。


「ジョル。すぐには帰れないかもね」

「……呼び出しがあるというのか?」

「そうなるかもしれないね」

 先ほどまでふざけていた妖精たちの声から、笑いが消えた。

 ジョルジュは黙り込んだ。

 仮面の男は王の側近なら貴族とは違う。

 王宮で何が起きているのかを把握し、人の動きにも目を配っているはずだ。

 白い狼に乗っていた人物を探しているのなら。

 その人物が自分だと気づいたら、面倒な事になりそうだ。

 王宮を出る前に、何かしら接触してくる可能性は十分にあった。

「……対策したほうがいいね」

 妖精の一人が、腕を組んで言った。

「うん。ジョルに何かあったら、皆、心配するからね」

 妖精たちは、胸を張った。

 ジョルジュは、嫌な予感がした。


 神殿と貴族たちの間には、わだかまりを残したままだったが、王がその場を収め、会議はお開きとなった。

 ジョルジュは、内心ほっとしていた、ようやく帰れる。

 館の者たちは、自分の帰りを待っているだろう。バルジャンもマーサ、そして、ミヤも。

 彼女は今頃、何をしているだろうか。

 そんなことを考えながら、ジョルジュは馬車へ向かった。


「お待ちください」

 背後から声をかけられ、ジョルジュは足を止めた。

 妖精たちの言葉、嫌な感ほどあたる。

 振り返ると、顔の半分を仮面で覆った男が近づいてくる。

 額から右頬にかけてを隠す仮面。その口元には、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 男はジョルジュの前で足を止め、軽く会釈した。

「クレイドルと申します。陛下の側近を務め、宰相の任を預かっております」

「これは、ご丁寧に」

 ジョルジュも頭を下げた。

 自分の肩に止まっている妖精が、あからさまに顔をしかめた。

 ――ほら、来たでしょ

 耳元で、小さな声がした。


「実は、陛下があなたとお話ししたいとおっしゃいまして」

 クレイドルは、相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。

「私と、ですか?」

「ええ。少々、お時間をいただけますかな」

 断れるはずがない。しかも、陛下が話をしたいと言っている。

 小さな領地を治める自分が、ここで断れるわけがない。

 いや、断るという選択肢が存在しない。


 案内されたのは、王城の一室だった。

 広間とは違い、限られた者しかいない。

 部屋の奥には王が座り、その近くには数人の男たちが控えていた。

 いずれも王の側近と思われる人物ばかりだ。

 そして、その中に見覚えのある顔があった。


 ジョルジュは表情を変えないように努めながら、王の前へ進み出た。

「陛下のお召しと伺い、参上いたしました」

「うむ。楽にしてくれ」

 王は気さくな調子で言った。

 しかし、ジョルジュは気を緩めることができなかった。

 ここにいるのは王だけではない。宰相のクレイドルも、王の側近たちも、そして自分を見ているアルバンもいる。


「ジョルジュ卿」

 王が口を開いた。

「そなたは、何か知っているのか?」

 何をどこまで知られているのか。それがわからないうちに、余計なことを口にするのは危険だ。

 王はジョルジュの顔を見つめた。

「白い狼のことだ。あの狼について、何か知っているのではないか?」

 ジョルジュの背中に、じっとりと汗がにじんだ。

 何も知らないと言い切ってしまえば、アルバンの証言と食い違う可能性がある。

 そのとき、小さな声が耳元に届いた。

 ――盗賊のことだけ話せばいいよ。

 妖精だ

 ――ウルの事は駄目よ。

 すべて話す必要はない。

 ジョルジュは、ゆっくりと顔を上げた。

「知っていることでしたら、お話しいたします」

 慎重に言葉を選ぶ。

「ただ、私もすべてを知っているわけではございません」

 王の目が、わずかに細められた。

 クレイドルの口元には笑みが浮かんでいる。

 そしてアルバンは、何かを確かめるようにジョルジュを見つめていた。


「陛下、私は知らないことのほうが多いのです」

 ジョルジュは慎重に言葉を選んだ。

「盗賊たちは死にません」

「死なない? どういうことだ」

 王が身を乗り出した。

「どのような病状なのか、詳しくは存じません。噂を耳にしただけですが、かなりひどい状態だとか」

「ああ。肌に赤や黒の斑点が現れ、変色している。薬を与えても治らぬそうだ」

 王の言葉に、ジョルジュは静かにうなずいた。

「元には戻りません。死ぬまで」

 その言葉に、部屋の空気が凍りついた。

「……何だと?」

 側近の一人が声を上げた。

「死ぬまで治らないというのか?」

「そう申し上げました」

 ジョルジュは淡々と答えた。


「ジョルジュ卿」

 不意に、クレイドルが口を開いた。

 穏やかな声だった。まるで世間話でも始めるかのような口調だったが、その視線はジョルジュを捉えて離さない。

「白い狼の背に乗っていたのは、あなたではありませんか?」

 ジョルジュの心臓が、大きく跳ねた。

 部屋にいる男たちの視線が、一斉にジョルジュへ向けられる。

「……何のことでしょうか」

「心当たりがないと?」

 クレイドルは、わずかに首を傾けた。

「馬よりも速く街を駆け抜けた白い狼です。大人二人を背に乗せていたという話ですが」

 穏やかな問いかけだった。

 逃げ道を一つずつ塞いでいくような言葉だった。

 否定すれば、さらに追及されるだろう。

 ジョルジュは、ゆっくりとクレイドルを見返した。

「答なければ、不敬罪に問われるのでしょうか」

 その瞬間、側近たちの顔色が変わった。

 ジョルジュは王から目をそらさなかった。


「よい。話を続けよ」

 王が制すると、側近たちは不満そうな顔だ。

 クレイドルは、仮面の奥からジョルジュを見つめていた。

 表情はわからない。だが、その視線には、先ほどまでとは違う慎重さが感じられた。

 ジョルジュは、短く息を吐いた。

「狼が背中に乗れと言いました」

 王の表情が変わった。

「狼が、人間に話しかけた?」

「待て。狼が言葉を話したということか?」

 側近たちも、信じられないといった様子だ。

 人の言葉を話すのは黒い狼だけではなかった。

 王だけでない、側近、クレイドル、アルバンも驚いた。

 だから言われるままに背中に乗ったというのか、王は驚いた。

「あなた一人ではなかっただろう」

 口を開いたのはクレイドルだ。

 ミヤのことを聞かれ、ジョルジュは言葉に詰まった。

 アルバンも黒髪の女性が一緒にいことを思い出した。

 部屋の空気が変わった。


 アルバンはその姿を思い出し、ジョルジュの顔を見た。

 彼は、明らかに困っている。

 隠したいことがあるのだろう。少なくとも、今ここで話したいとは思っていない。

 白い狼の正体を知りたい気持ちは、彼にもある。だが、ジョルジュが語りたくない事情まで、無理に暴く必要はない。

 一方、王とクレイドルの関心は、ますます白い狼へと向いていた。

 人の言葉を理解するだけでなく、自ら人間に声をかけ、背中に乗せる狼。

 しかも、その背にはジョルジュ以外の人物も乗っていたらしい。

 王は、まだ聞き出せていない情報があると確信したようだった。


 突然、大きな音がした。

 クレイドルも、アルバンも、王も、側近たちも、何が起きたのかわからず、一斉に音のした方を振り向いた。

 テーブルの上に置かれていたグラスが、砕け散っていた。

 誰も触れていない。テーブルが揺れたわけでもない。

 ただ、グラスだけが粉々になっていたのだ。

「な、何事だ!」

 王の声に、側近の一人が慌ててテーブルへ近づこうとした。

 そのとき、窓がガタガタと激しく揺れ始めた。

 風が吹いているのだろうか。いや、窓の外に風が吹き荒れている様子はない。

「あー、ウルたち、怒っている」

「耳がいいからね」

「王様、頭よくないね」

「怒らせちゃったね」

 ジョルジュの耳元で、妖精たちの楽しそうな声が聞こえた。

 どうやら、部屋での会話が聞こえていたらしい。

 ジョルジュは思わず窓へ目を向けた。

 まさか、狼たちが見ている、近くにいるのか。

 次の瞬間。

 窓ガラスが激しい音を立てて砕け散った。

 側近たちが悲鳴を上げ、王は椅子から身を乗り出した。アルバンはとっさに窓へ目を向け、クレイドルも仮面の奥から鋭い視線を走らせる。

 窓の外には、誰もいない。

 誰かが石を投げ込んだわけでもなければ、矢が飛んできたわけでもない。

 それなのに、窓ガラスが砕けた。

「いったい、何が起きているのだ!」

 王の声が部屋に響く。

 側近たちは窓の外を確認しようとするが、原因らしきものは何ひとつ見つからなかった。

 ただ一人、ジョルジュだけは、耳元でくすくすと笑う妖精たちの声を聞いていた。


「陛下。私の知る限りのことは、すべてお話しいたしました。これ以上は、失礼させていただきたく存じます」

 ジョルジュの言葉に、側近たちが慌てた。

「待て!」

「陛下に対して、なんという態度だ!」

「ここをどこだと思っている!」

 非難の声が飛ぶ。

 だが、ジョルジュは動じなかった。

「これ以上、お話しできることはございません」

 そう言って、深々と頭を下げた。

 王は何か言いたげな表情を浮かべている。クレイドルも、アルバンも同じだった。

 まるで、まだ何か隠しているはずだと言いたげな顔だ。

 実際、隠していることはある。だが、それを正直に話すつもりはなかった。

「わかった。今日は、ここまでにしよう」

 王は残念そうに告げた。

 これで解放されるらしい。だが、その目にはまだ好奇心が残っている。

 厄介なことになった。

 ジョルジュは内心でため息をついた。

「帰らせていただきます。私の領地は王都から遠く、こちらへ出てくるだけでも大変な時間がかかりますので」

 これ以上、王やクレイドルに質問されるのは御免だった。

 ジョルジュは早々に部屋を出ると、城門へ向かった。

 とにかく、少しでも早く城から離れたい。

 だが、今から馬車を用意して領地へ戻るとなれば、いったい何日かかることか。

 そう考えていたときだった。


「旦那様!」

「ジョルジュさん!」

 聞き覚えのある声がした。

 城門の近くに、一台の馬車が停まっている。

 そのそばに立っていたのは、バルジャンとミヤだった。

「……え?」

 ジョルジュは足を止めた。

 なぜ、二人がここにいる?

 自分が領地を出たのは昨夜のことだ。普通に馬車を走らせたところで、こんな短時間で王都まで来られるはずがない。

「バルジャン、一体どうやって……」

 問い詰めようとしたジョルジュに、バルジャンがそっと近づいた。

「旦那様、詳しいことは後ほど。ここでは話せません」

 そう言って、バルジャンはジョルジュの耳元に顔を寄せた。

「秘密の通路を通ってまいりました。それから……妖精たちと、黒い狼が現れたのです」

「黒い狼だと?」

 ジョルジュは思わず聞き返した。

 妖精だけでも十分に驚く話なのに、黒い狼まで現れたというのか。

 それに、秘密の通路とは何だ。

 ジョルジュはバルジャンを見つめたまま、言葉を失った。

 どうやら、自分が城で厄介なことに巻き込まれ

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