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それでいいじゃないか

返す言葉に窮したのはいつもの事。

だけどこれは多分、過去最大級だと思います。


モエビトの転生そのものをなかった事にして、魔王を転生させた?

勤務歴がまだ長くないあたしでも、それがいかにヤバいルール違反かは

容易に想像できる。そんな事をあの柳橋さんが…?


「まだ、今の会社を立ち上げてから間もない頃です。社長も柳橋さんも

かなり手探りだった。だからこそ、見誤ったんですよ。志田さんをね」

「…予想よりもはるかに、転生先の世界を荒らしてしまったと?」

「実際、彼はもう無茶苦茶でした。勇者という肩書きで許される範囲を

はるかに超え、やりたい放題です。圧倒的な力を持っているからこそ、

正義という言葉を凄まじい拡大解釈でゴリ押していきました。その先で

私との戦いがあったんです」

「………」


無自覚無双なんて可愛いものでは、断じてなかったんだろう。

一介の日本人が最強の力を得れば、よほど強い心がない限り呑まれる。

創作で描かれるやりたい放題とは、文字通り次元が違ったんだろう。


そんな人物が今、あんな干からびた老人になってるって事は…


「柳橋さんは、後悔したそうです。自分の見立て違いが元で、何の罪も

無かった世界が深く傷ついた事に。…だから落とし前をつけるために、

私を殺した直後の志田さんの体からモエビトとしての因子を抜いた。」

「それであんな感じに?」

「ええ。その瞬間は知りませんが、転生の恩恵と呼べそうな能力などは

本当に根こそぎ剥奪したんですよ。」

「えええええ…」


あたしたち三人、仲良くドン引き。


確かに柳橋さんは強いけど、そんなゴリ押しが本当にまかり通るのか。

実力的な話だけじゃなく、規則とかそういう意味でも…


「もう死んで魂になっていた私に、柳橋さんは詫びながら言いました。

ゴメンあたしが悪かった。よければ一緒に働かないかってね」

「え?」


三人仲良く、間抜けに目を見開く。

いきなりそこで勧誘されたって事?

何と言うか、急な展開だなあ。


「戦って負けた以上、あれやこれや言う気はありませんでした。しかし

不本意な死であったというのもまた事実です。ここで挽回できるなら、

賭けてみてもいいと思ったわけで。結果、私は中途採用となりました」

「へえーーーー…」


やっぱり剛守さん、ひとかどの人物だったんだな。気後れが何もない。

敗軍の将は兵を語らずとはちょっと違うけど、どんな相手でも負ければ

もう意見しない。それこそまことの武士道…なんて言葉が頭に浮かぶ。

いや間違っても武士じゃないけど。


うん、今さら納得。

あの柳橋さんならば、魔王ゴモルの生き方はさぞ好ましかっただろう。

自分が解き放ってしまった転生者と比較しても、ずっと価値があると。

だからそこまでの事をしたのか。

でもやっぱり、それは大きく自分の領分を逸脱していたんじゃ…


「まあ、考えている事は判ります。顔に出やすいですね丑三ツさんは」

「えっ、は、はい失礼しました!」


思わずテンパってしまった。

………



あたしは軽いなあ、万事において。


================================


そろそろ帰り着く。正確に言うと、まずミナを聖女の世界で降ろす。

面倒な手順だけど、こればっかりはルールだから仕方ないね。彼女も、

さすがに今では割り切ってるし。


この昔語りも、そろそろ終わりに…


「私を転生させた罰で、柳橋さんは女神として持つ権限の半分以上を

失ったんです。それを聞いた時は、さすがに驚きましたけどね」

「「『ええっ!?』」」


前言撤回。

とんでもない話がまだ聞けてない。誰からともなくあたしたち三人は、

しゃんと背中を伸ばしていた。


「じゃあ、女神じゃなくなったって事ですか!?」

「そこまでではありません。でも、それまで当たり前だった事の大半が

出来なくなったのは事実です。まあ本人はサバサバした感じでしたが。

間違った身だから、むしろこの程度の方がバランスがいいってね」

「あぁーーー…」

『いかにも言いそう…』

「だよねえ」


柳橋さんだったらそう言うだろう。三人ともそこは腑に落ちた。

聖女としてのミナを一撃KOできる力は持っているけれど、そんなのは

むしろ女神っぽくない能力だろう。そういった能力が残ってるって事は

ひょっとして…


「会社の業務に、リプネリスさんが関与してるのもそのせいですか?」

「ええ。何百年だか忘れましたが、何しろ柳橋さんは女神の「務め」を

果たせなくなりました。だからこそ後輩のリプネリスさんがああいった

協力をしてるんですよ。昔のよしみだと、二人とも言っています」

「なるほど…」


前に聞いてた話に、今さらな納得が追いついてきた感じだった。

自分より上位だった柳橋さんからの依頼を、どうしてリプネリスさんが

わざわざ請け負っているのかという点に関する納得が。


社長と一緒に仕事を始めた当初は、もっと自己完結していたんだろう。

でもそれが出来なくなってからも、柳橋さんはあまり変わらなかった。

あっけらかんと笑いつつ、ある意味被害者であり問題の元凶でもあった

剛守さんを受け入れた。その上で、今の仕事の態勢を組み直したんだ。


「禁忌を犯したという点も含めて、私の生まれた世界はああいう仕様に

なりました。流刑地という表現には語弊がありますが、他の世界にない

リスクを負ったのは事実です」

「だから自分が、定期的にああして管理に赴いていると?」

「何と言っても、故郷ですからね」

「……………」


返す言葉に詰まるの、何度目だ。

だけど今回は、気まずさからだけの沈黙じゃなかったと思いたい。


複数の転生者を抱え込む世界。

確かにリスキーだなと思う。実際、横井川さん以外には問題があった。

管理すると言っても、四六時中ってわけには行かない。限界がある。


それでも剛守さんは赴くんだ。


今でも八つ裂きにしたいであろう、かつての勇者レオンを気遣って。

勝手ばっかりしてる桧垣さんにも、辛抱強い説得をして。

楽しい創造を続ける横井川さんと、笑顔で言葉を交わして。

もう戻れない自分の故郷の世界を、不器用な形で見守ってるんだ。


魔王って肩書き、似合わないなあ。

遊び感覚で世界を壊した勇者より、よっぽど救世の存在じゃないのか。

戻って文句を言いたいけど、それはあたしたちのすべき事じゃない。

見れば分かる。勇者レオンはもう、とっくの昔に報いを受けている。

老いさらばえた今なお、過去を知る誰かに恨みや憎しみを向けられる。

あの落書きも石も、過去の清算だ。あたしたちにはとやかく言う資格は

ないだろう。言う必要もない。


剛守さんの線引きは、誰でも納得に至るほどのものじゃないだろう。

人によっては、自己満足と見る事もあるに違いない。あたしもちょっと

思わないでもないし。


いいじゃないか、そんなの。

誰から見ても立派な行為なんてのが成立するとは、さすがに思わない。

だから諦めるんじゃなく、自分なりの形でずっと見守っていく。


いいじゃないカッコいいじゃない。

少なくともあたしの目には、それは限りなく尊く映るよ。

いい先輩に恵まれた。

そう思うだけでいいんじゃないか。


さあ。



明日からも頑張ろう!

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