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剛守さんの過去

「それでは」

「お邪魔しました」

「またお越しくださいね!」


多過ぎるほどのお土産をもらって、あたしたちは横井川さんの家(?)

を辞した。本人が玄関まで見送りに来てくれた。…うーん、どう見ても

悪役令嬢っぽいビジュアルですね。メガネのギャップがかなり萌え…


いやいや、失礼な事考えるなって。



何と言うか、有意義な訪問でした。


================================


「テンション高い人でしたね」

「まあ、いつも以上でしたね」


率直な感想を口にするミナに対し、剛守さんは小さく笑って答えた。


「ここでの暮らしが長いとは言え、やはりあなたたちのような日本人の

女性の訪問は嬉しいんでしょうね」

「ああ、なるほど…」


あたしは、すんなり納得できた。


横井川さんは、転生したこの世界に順応して生きてる。異世界チートを

使うでもなく、己の知識を活かして工夫と創作を大いに楽しんでいる。

あらためて考えるまでもなく、その生き方は転生者の理想形だろう。

もちろん、あくまで理想形のひとつという意味だけど。


ここは、原始時代とかじゃない。

きちんと文明社会が存在していて、人々はそれなりに聡明に生きてる。

だからこそ、チートなんかなくても現代日本のいいモノが再現できる。

結局、状況を受け入れられる事こそ一番大切だ…って事だろう。

そうやって結果を出したからこそ、あたしたちみたいな若い子(?)が

そういった結果を目の当たりにしてキャーキャー言ってるのは嬉しいと

感じるはずだ。実際、そんな感じで大いに喜んでたし。


異世界は遠い。原則、転生をすれば戻れない。永遠の片道切符である。

納得を得て生きる人たちも、たまに望郷の念を抱く機会もあるだろう。

同郷の人間とあれこれ語りたくなる時だって大いにあるだろう。


それを踏まえて、今回のこの来訪はどうだったのか。

正直な話、横井川さん以外の二人は本当にイマイチだった。ぶっちゃけ

もう二度と会いたいとも思わない。ってか、剛守さんもそんな印象だ。

明らかに横井川さんと会った時と、テンションが違っていた気がする。


あらためて思う。

志田さんと桧垣さんと横井川さん。



同じ世界に生きてるとは、どうにも信じられません。


================================


「まあ、そう思うのは当然ですね」


しばしののち。


もはやどこに停めたか、皆目見当がつかないトラックに全員で戻った。

現時点で、剛守さんが把握している転生者はあの三人だけだそうな。

なので今回のお仕事は終了。んで、帰路に就いた時点であたしが代表で

質問してみた。あの三人について。要は境遇の違いが信じられないと。


剛守さんは怒る風でもなく、むしろちょっと笑いながら答えてくれた。


「転生後は自己責任。それはどこの世界でも同じ不文律です。だけど、

あそこの世界は特殊でしてね」

「そりゃ特殊ですよね。何たって、あんな風に複数いるんだから」


ミナはストレートだ。その姿勢が、今はちょっとありがたいかも。


「ってか、どうしてあんな事に?」

「環境が整っていたのは事実です。が、それ以外にも理由はあります」

「どんな理由ですか」

「知りたいですか?」

「え?」


ミナだけでなく、あたしもすぐ隣のあいちゃんもキョトンとした。

そんな確認をされるとは、まったく思っていなかったから。

だけどもう、今さらだろう。聞けるのなら聞きたいのは三人とも同じ。


「「『はい!』」」


案の定、声が揃う。これぞチーム。


「じゃあ、お話ししましょう」


剛守さんも、どことなく嬉しそうに見えた。きっと気のせいじゃない。



じゃあ、聞かせて下さい。


================================


「私が志田さんに遭ったのは、もうずいぶんと昔です。彼はその当時、

勇者レオンの勇名を轟かせていた。転生者である事は知られておらず、

とにかく最強の勇者として世界から称賛されていました」

「…………」


うーん…想像できない。

あのしょぼくれたお爺さんがそんな勇者だったとは、到底思えない。

老いとは全然別の意味で、どうにもイメージが繋がってくれません。

ってか、あの人と剛守さんって一体どんな繋がりが…


「最強の称号を欲しいままにした、勇者レオンが求めたもの。それは、

最強の魔王の命だったんですよ」

『最強の魔王?』

「それって確か…魔王ゴモル?」

「そうです」


あいちゃんとミナの息の合った問いに答え、剛守さんは笑って続けた。



「かつての、この私ですよ」


================================


車内が静まり返った。聞こえるのはエンジン音だけ。次元跳躍の道では

外の風すら聞こえない。形容し難い沈黙は、しかしごく短かった。


「…それ、桧垣さんが言ってた名前ですよね?」

「そうです。200年前から世界に君臨していた魔物の王。それが昔の

私なんですよ。もう、ずいぶん前の話なんですけどね」

「つまり、転生したって事ですか」

「そうです。だから名前もちょっと似てるでしょう。ゴモルと剛守」

「いやその…ハイ」


どこまでもリアクションに困る。

嘘だとは思わない。だけど、実感があまりにも乏し過ぎる。いやまあ、

直の上司は女神なんだけど…


「勇者レオンは、魔王ことこの私の支配する国に攻め入ってきました。

少なくとも私の治める国は、他国に対する侵略や横暴はご法度でした。

もちろん魔物は怖れられています。しかし目立った被害がなかったのも

また事実です。勇者レオンは、ただ私が魔王だからという理由で戦いを

挑んできた。不毛でしたが、それを避けるわけには行かなかった」

「戦ったんですか」

「ええ」

「それで、勝敗は…」

「私の負けです。国土の2割近くを焦土に変える死闘の末に、レオンは

私を殺して首を持ち帰ったんです。更なる栄光を得るためにね」

「…………」


白いたい焼きが胃の中で暴れてる。

そんな気分だった。


「じゃあ、どうして転生を…?」

「もちろん女神の意思です。経緯を考えれば、私がモエビトでないのは

明白です。それでも転生する運びになったのは…」

「なったのは、何ですか?」



「ある種の罪滅ぼしだったんです」


================================


罪滅ぼしで転生?それも魔王が?

それってどういう…


待って、ちょっと待って。

そもそもそれって…


「ちなみに、女神って誰ですか?」

「もちろん柳橋さんですよ」

「………やっぱり」


そりゃそうだよね。


「死したのちは、私は自分の世界がどうなったか知らなかった。それは

ごく当たり前の事だったはずです。しかし柳橋さんいわく、私を倒した

勇者レオンのその後には何の救いもなかったらしいです。唯一の魔王を

倒した彼は、もはや誰にもまったく遠慮しない。望むものを手に入れ、

己を押し通す。誰ひとり逆らえない世界の頂点。私が言うと限りなく

嘘っぽく聞こえますが、もう一人の魔王の降臨に等しかったんです」

「勇者が魔王って…」


何だろう、不毛が極まってるなあ。


「世界は彼に怯え、全てを彼に搾取される事を覚悟してさえいました。

だけど、納得しない意思もあった。それが転生をさせた張本人です」

「つまり、柳橋さんですか」

「そうです」


あくまで何気ない過去語りの口調のまま、剛守さんが告げた。



「柳橋さんは、それまでのルールを破って彼からモエビトとしての力を

剥奪した。代わりにこの私を転生の対象としたんですよ」

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