剛守さんの過去
「それでは」
「お邪魔しました」
「またお越しくださいね!」
多過ぎるほどのお土産をもらって、あたしたちは横井川さんの家(?)
を辞した。本人が玄関まで見送りに来てくれた。…うーん、どう見ても
悪役令嬢っぽいビジュアルですね。メガネのギャップがかなり萌え…
いやいや、失礼な事考えるなって。
何と言うか、有意義な訪問でした。
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「テンション高い人でしたね」
「まあ、いつも以上でしたね」
率直な感想を口にするミナに対し、剛守さんは小さく笑って答えた。
「ここでの暮らしが長いとは言え、やはりあなたたちのような日本人の
女性の訪問は嬉しいんでしょうね」
「ああ、なるほど…」
あたしは、すんなり納得できた。
横井川さんは、転生したこの世界に順応して生きてる。異世界チートを
使うでもなく、己の知識を活かして工夫と創作を大いに楽しんでいる。
あらためて考えるまでもなく、その生き方は転生者の理想形だろう。
もちろん、あくまで理想形のひとつという意味だけど。
ここは、原始時代とかじゃない。
きちんと文明社会が存在していて、人々はそれなりに聡明に生きてる。
だからこそ、チートなんかなくても現代日本のいいモノが再現できる。
結局、状況を受け入れられる事こそ一番大切だ…って事だろう。
そうやって結果を出したからこそ、あたしたちみたいな若い子(?)が
そういった結果を目の当たりにしてキャーキャー言ってるのは嬉しいと
感じるはずだ。実際、そんな感じで大いに喜んでたし。
異世界は遠い。原則、転生をすれば戻れない。永遠の片道切符である。
納得を得て生きる人たちも、たまに望郷の念を抱く機会もあるだろう。
同郷の人間とあれこれ語りたくなる時だって大いにあるだろう。
それを踏まえて、今回のこの来訪はどうだったのか。
正直な話、横井川さん以外の二人は本当にイマイチだった。ぶっちゃけ
もう二度と会いたいとも思わない。ってか、剛守さんもそんな印象だ。
明らかに横井川さんと会った時と、テンションが違っていた気がする。
あらためて思う。
志田さんと桧垣さんと横井川さん。
同じ世界に生きてるとは、どうにも信じられません。
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「まあ、そう思うのは当然ですね」
しばしののち。
もはやどこに停めたか、皆目見当がつかないトラックに全員で戻った。
現時点で、剛守さんが把握している転生者はあの三人だけだそうな。
なので今回のお仕事は終了。んで、帰路に就いた時点であたしが代表で
質問してみた。あの三人について。要は境遇の違いが信じられないと。
剛守さんは怒る風でもなく、むしろちょっと笑いながら答えてくれた。
「転生後は自己責任。それはどこの世界でも同じ不文律です。だけど、
あそこの世界は特殊でしてね」
「そりゃ特殊ですよね。何たって、あんな風に複数いるんだから」
ミナはストレートだ。その姿勢が、今はちょっとありがたいかも。
「ってか、どうしてあんな事に?」
「環境が整っていたのは事実です。が、それ以外にも理由はあります」
「どんな理由ですか」
「知りたいですか?」
「え?」
ミナだけでなく、あたしもすぐ隣のあいちゃんもキョトンとした。
そんな確認をされるとは、まったく思っていなかったから。
だけどもう、今さらだろう。聞けるのなら聞きたいのは三人とも同じ。
「「『はい!』」」
案の定、声が揃う。これぞチーム。
「じゃあ、お話ししましょう」
剛守さんも、どことなく嬉しそうに見えた。きっと気のせいじゃない。
じゃあ、聞かせて下さい。
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「私が志田さんに遭ったのは、もうずいぶんと昔です。彼はその当時、
勇者レオンの勇名を轟かせていた。転生者である事は知られておらず、
とにかく最強の勇者として世界から称賛されていました」
「…………」
うーん…想像できない。
あのしょぼくれたお爺さんがそんな勇者だったとは、到底思えない。
老いとは全然別の意味で、どうにもイメージが繋がってくれません。
ってか、あの人と剛守さんって一体どんな繋がりが…
「最強の称号を欲しいままにした、勇者レオンが求めたもの。それは、
最強の魔王の命だったんですよ」
『最強の魔王?』
「それって確か…魔王ゴモル?」
「そうです」
あいちゃんとミナの息の合った問いに答え、剛守さんは笑って続けた。
「かつての、この私ですよ」
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車内が静まり返った。聞こえるのはエンジン音だけ。次元跳躍の道では
外の風すら聞こえない。形容し難い沈黙は、しかしごく短かった。
「…それ、桧垣さんが言ってた名前ですよね?」
「そうです。200年前から世界に君臨していた魔物の王。それが昔の
私なんですよ。もう、ずいぶん前の話なんですけどね」
「つまり、転生したって事ですか」
「そうです。だから名前もちょっと似てるでしょう。ゴモルと剛守」
「いやその…ハイ」
どこまでもリアクションに困る。
嘘だとは思わない。だけど、実感があまりにも乏し過ぎる。いやまあ、
直の上司は女神なんだけど…
「勇者レオンは、魔王ことこの私の支配する国に攻め入ってきました。
少なくとも私の治める国は、他国に対する侵略や横暴はご法度でした。
もちろん魔物は怖れられています。しかし目立った被害がなかったのも
また事実です。勇者レオンは、ただ私が魔王だからという理由で戦いを
挑んできた。不毛でしたが、それを避けるわけには行かなかった」
「戦ったんですか」
「ええ」
「それで、勝敗は…」
「私の負けです。国土の2割近くを焦土に変える死闘の末に、レオンは
私を殺して首を持ち帰ったんです。更なる栄光を得るためにね」
「…………」
白いたい焼きが胃の中で暴れてる。
そんな気分だった。
「じゃあ、どうして転生を…?」
「もちろん女神の意思です。経緯を考えれば、私がモエビトでないのは
明白です。それでも転生する運びになったのは…」
「なったのは、何ですか?」
「ある種の罪滅ぼしだったんです」
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罪滅ぼしで転生?それも魔王が?
それってどういう…
待って、ちょっと待って。
そもそもそれって…
「ちなみに、女神って誰ですか?」
「もちろん柳橋さんですよ」
「………やっぱり」
そりゃそうだよね。
「死したのちは、私は自分の世界がどうなったか知らなかった。それは
ごく当たり前の事だったはずです。しかし柳橋さんいわく、私を倒した
勇者レオンのその後には何の救いもなかったらしいです。唯一の魔王を
倒した彼は、もはや誰にもまったく遠慮しない。望むものを手に入れ、
己を押し通す。誰ひとり逆らえない世界の頂点。私が言うと限りなく
嘘っぽく聞こえますが、もう一人の魔王の降臨に等しかったんです」
「勇者が魔王って…」
何だろう、不毛が極まってるなあ。
「世界は彼に怯え、全てを彼に搾取される事を覚悟してさえいました。
だけど、納得しない意思もあった。それが転生をさせた張本人です」
「つまり、柳橋さんですか」
「そうです」
あくまで何気ない過去語りの口調のまま、剛守さんが告げた。
「柳橋さんは、それまでのルールを破って彼からモエビトとしての力を
剥奪した。代わりにこの私を転生の対象としたんですよ」




