商売上手な転生者
石鹸?
マヨネーズ?
オセロ?
甘く見ていました。
考えてみれば、記憶を持って転生を果たした人間の知識は、比喩でなく
ひとつの世界を持ち込むにも等しい価値を持っている。専門知識だとか
難しい技術とかじゃなくても、ただ「知ってる」何某かをアウトプット
すればいい。後は転生先の誰かが、それを最適化して再現してくれる。
それにちゃんと気づきさえすれば。
信用できる協力者さえ得られれば。
ガッポガッポなんでしょうね
うん。
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2時間後。
再集合したあたしたちは、思う存分楽しんだ代わりに少し慄いていた。
短い自由時間の間に、活気に満ちたこの街で見たものに圧倒されて。
「いかがでしたか」
「「『想像以上でした』」」
別行動をしていたにもかかわらず、即答がきれいにハモった。
それぞれが持ち帰った戦利品(?)が、あたしたちの困惑を物語る。
プリクラ。
立体シール。
クレーンゲームの景品ぬいぐるみ。
携帯ストラップ。
使い捨てカメラと自撮り棒。
たこ焼き。
ソフトクリーム。
三段重ねのアイス。
ナタデココっぽいスイーツ。
白いたい焼き。
タピオカっぽい飲み物。
鶏のから揚げ。
ガチャガチャのカプセル。
ボトルキャップフィギュア。
風船配ってるゆるキャラ。
……
もういいです。
たった2時間でこれだけ見つけた。半日あれば、多分もっと見つかる。
ってか、もっと見つけたかった。
『たい焼きは、白だったね…』
どうでもいいけど興味深い事実を、ポツリとあいちゃんが呟く。
そう、白いたい焼き。ちょっと前に流行って廃れたアレがあったんだ。
遠い国では極彩色の恐竜が狩られているこの世界に、白いたい焼きが。
うん。
降参です。
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「それでは、会いに行きましょう」
「って、誰にですか?」
「こういったものをここで精力的に広めている、異世界転生者にです」
そう言って剛守さんは歩き出した。意図を察したあたしたち三人は、
あわててお土産を収納してその後を追う。あっさり会いに行くんだな。
そんな驚きを共有しながら。
どうなんだろ、これって。
ある意味、遊び半分で恐竜ハントをしてる桧垣さんとはケタが違う。
これほど異世界カルチャーを広めている行為は、大丈夫なんだろうか。
もちろん、不思議なスキルの覚醒でショップから買ったとかじゃない。
それは見れば分かる。どれを見ても現地風にカスタマイズされていて、
概念を基に苦労して「創った」のがよく分かる。例えばプリクラなら、
念写の能力を応用している。つまりシステム自体はまったく違うけど、
得られる結果を寄せている感じだ。どういう代物なのかをごく大雑把に
説明し、この世界のテクノロジーに落とし込んだんだろう。何と言うか
完成までの苦労が窺えるよ。
少なくとも、チート能力を持ってるとは思えない。その点は三人とも、
確信を持っていた。
どんな人なんだろうか。
興味は尽きないなあ。
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「ここです」
「おおー…」
繁華街を南下する事、ほぼ2時間。さすがに人の数もぐっと減ってる。
日本でも、郊外に行くとこうなる。道が広くなって工場とかが増えて。
剛守さんが足を止めたのは、非常に先駆的なブロック状の建物の前。
ものすごく大きな立方体がいくつも並び、ところどころ融合している。
オシャレな本社…という感じだね。ここに転生者がいらっしゃると?
ポーン!
え?
『はーい』
「剛守です。」
『あ、どうもどうもご無沙汰です!お入りになって!!』
「はい、ではお邪魔します」
ちょ、これインターホンですか?
そんなものまで実用化してんの?
…どうなってんだ一体!
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通されたのは、応接室だった。
とは言え、ミナの家みたいな豪奢なイメージとは全然違う。どっちかと
言うと、日本のオフィスの談話室を思わせるシンプル仕様。いよいよ、
日本人だという実感がわいた。
「お待たせしましたー!」
やって来たのは、金髪縦ロール髪の女性だった。メガネが何とも独特の
違和感を醸すご令嬢である。つまりこの人が転生者さんですか?
「こんにちはメルノエールさん。」
「んもう!」
剛守さんの挨拶に、メルノエールと呼ばれた女性は頬を膨らませた。
「横井川でいいですってば!」
「そのお姿では、なかなか日本名で呼ぶのは難しい感じでして」
「あーやっぱりそうなんだー」
剛守さん相手に遠慮ないなこの人。ってか、とっても楽しそうだなあ。
ちらと見れば、ミナもあいちゃんも毒気が抜けた表情で見つめている。
先の二人と比べると、同じ世界での出来事だとはちょっと信じ難いよ。
心なしか剛守さんも饒舌だし。
でも、悪い気はしなかった。
ここまで、正直あんまり好ましくはないものを見てきてるから余計に。
どうやらこの女性が転生者、そしてあの流行りものを世に出した本人で
間違いないらしい。正直、女性とは思って……なかった訳じゃないな。
街の流行りもののジャンルを見て、女性の感性を感じたのは確かだし。
「こちらは?」
「同僚です」
「あらぁ、じゃあ日本人!?」
「あっ、はい初めまして」
いきなり紹介され、ちょい慌てる。
「丑三ツ智華と申します」
「真浄寺ミナです」
『友永あいと申します』
「横井川ハルメです。よろしく!」
面子を見ると実にシュールだけど、まぎれもなく全員日本人なのね。
その事実が何だか妙に可笑しくて、あたしは笑ってしまった。もちろん
ハルメさんもミナたちも笑った。
いいじゃないか、今くらい。
この人が成し遂げた事の大きさは、ついさっき存分に堪能…じゃなくて
体感した。見る人が見れは、一発で「元ネタ」が判るファクターたち。
正直に言うと、やり過ぎ感がある。いくら何でもこんなモノまで?と。
だけど、いいじゃないかと思える。
だってこの人には、負の影がない。己が転生者である事実を、限りなく
自然に捉え、認め、そして前向きに活用している。
こんな人がいてよかったと、初めて会った身でもハッキリと思える。
さっきまでとは違い、剛守さんにも笑みが見える。
とりあえず、サクセスストーリーを聴かせて下さいまし!




