↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
92/99

三度目の喧騒

「剛守さん」

「はい?」

「さっきの、顔大丈夫ですよね?」

「ええ、見ての通りです」


ならいいや。


何か、あたしもミナもあいちゃんも変に開き直ってしまったらしい。

さっきまでの殺伐としたやり取りに困惑したけど、結果だけ見ればもう

困惑も心配もするだけ損って感じ。何もかも想定内だったんだろうな。

ヴァレンデって人がやってる事も、自分の言う事を聞かないって事も。


だけど、あの人は気付いたらしい。あたしたちが知らない何かに。

明らかに、それから剛守さんを見る目が変わっていた。いや怯えてた。


「次はないと思って下さい」


それだけを言い置いて、剛守さんは場を離れた。もはや挨拶もせずに、

あたしたちはその後に続いた。正直「桧垣さん」は感じが悪かったし、

あんまり関わりたいとも思わない。最初の勇者レオンとは別の意味で、

嫌な感じの転生者だったと感じる。…と言うか、この世界の転生者って

こんなのばっかりなんだろうか。


正直、嫌になるなあ。



…しゃあない、切り替えて行こう。


================================


キュイン!!


毎度おなじみ、遠方の国への転移。2度目で早くも慣れた自分がいる。

と言うか、早くもワクワクしてる。次はどんなんだろうなって感じで。


ここまで二連続ハズレだったけど、やっぱり一つの世界で複数の転生者

というシチュエーションはけっこう興味深い。剛守さんの言った通り、

地球サイズのフィールドなら余裕で受け入れられるって事なんだろう。

相応のリスクもあるんだろうけど、そこは今さらって雰囲気ですね。

剛守さんの様子を見る限り、かなり長期に渡って監視してるらしいし。


さて、次はどんな場所に…


「…おぉ!?」

「これはまた…」

『賑わってるねー』


転移が完了すると同時に、周囲から実に都会的な喧騒が聞こえてきた。

あわてて周囲を見回してみたけど、とりあえず壁。三方を壁で囲まれた

この空間はもしかして…


「…公衆トイレですか、ここ?」

「そうです」

「…………」


いや「そうです」って普通ですね。仮にもうら若き三人の女性が一緒に

行動してるのってに、ひと目で判る公衆トイレの中。しかも女性用だ。

いくら何でもこのシチュエーションから社会的な立場の維持は困難と…


シュン!


「あれ?」


あれこれ考える前に、剛守さんだけ消えた。あれっ、どこ行ったの!?

と思う間もなく外から近づく足音。あ、もしかして…


「もういいですか?」

「あ、はぁい」


当然という感じの外からの呼びかけに、反射的に答えてしまった。

さてはこの人男性用に転移したな。で、歩いてこっちの前まで来たと…


あたしらがトイレにこもってたって構図じゃん!デリカシーは何処!?

無駄のない流れですけど、こっちは追いついてないんですよ色々と!!


「…やっぱ、無しかなぁ…」


ブツブツ言いながら先に出るミナ。ああ、百年の恋も冷めたらしいね。

気持ちは分かる。すっごい分かる。あたしだって冷めるよ多分。


『トイレって久し振りだなー』



トコトンずれた事を言うあいちゃんが、何だか無性に羨ましかった。


================================


用も済ませずそそくさと外に出る。

…って、おお大都会だ!!さすがに現代日本の規模とは行かないけど、

それでもここまでの2箇所と比べて隔世の感がある。ホントに同じ星?


「さて、お三方」


田舎者よろしくキョロキョロしてるあたしたちに、剛守さんが告げた。


「しばし自由時間とします」

「え?」

「今から二時間後に、そこに見えているオープンカフェに集合で。私は

そこで待っていますので、何かしら不都合が生じたら連絡して下さい」


そう言って、剛守さんはどこからか小さな財布を二つ取り出した。


「これ資金です」

「資金?」

「もしかして、お小遣いですか?」

「そうとも言いますね」

『えーホントに!?』


頓狂な嬌声を上げたあいちゃんが、両手でその財布を開ける。中には、

確かにこの世界の者と思しき貨幣が何種類もザクザク入っていた。

…いやあの、何でまた突然?


さすがに困惑しきりのあたしたちに対し、剛守さんは小さく笑う。


「ちょっとした市場調査ですよ」

「へ?」

「市場調査?」

『あたしたちが?』

「そうです」


そう答えた剛守さんの目が、ざっと雑踏を見渡す。いやあ歩行者天国。

自動車が見当たらない分、かえって人の多さが際立ってる気がするね。


「遠慮なく飲み食いして、お土産を買って来て下さい。資金が尽きたら

連絡して下さい。補充しますから」

「いや、ちょっと待って下さい」


遮ったのは、意外にもミナだった。


「さすがにただ遊ぶだけってのは、気持ち的にも無理がありますって。

せめて何か意図を聞いとかないと、そもそも楽しませんよ」

「なるほど、それは確かに」


ああ、あたしが言うべきだった気がするなあそれ。まあいいんだけど…

で、どうなんでしょうそのあたり?


「じゃあ、何をするにしてもひとつ留意して下さい。それがテーマだと

言えますので」

「何でしょうか」

「この世界にそぐわない、明らかに転生者がもたらしたであろう何かの

ファクターです。食べ物でも服でも嗜好品でも、何でも構いません」

「ああ、なるほど…」


理解しました。

マヨネーズとかオセロとか、創作においてもそういうのありますよね。

つまりこの街にいる「転生者」は、そっち方面に尖ってる…って事か。


「正直、私ではそういうセンサーは働きません。何しろこんななので」

「あー…その…まあ…ハイ」


三人揃って目が泳ぐ。リアクションに困る事を言わないで欲しいなあ。

だけど少なくとも、今ここで我々がやるべき事はハッキリしましたね。

って言うか、今回の出向に同行した理由がこれだったんだろうな多分。


あらためて考えると、これはかなりオイシイお仕事ですよね。

先二件がかなりイマイチだったのを踏まえますと、気分的な巻き返しを

図れるんじゃないかと思う次第で…


『「んじゃ行ってきまーす!!」』


ああっ!

考える間もなくミナとあいちゃんが走っていっちゃった。…あたしは?

置き去りですか?上司よあたし?


「丑三ツさんも行ってきて下さい。むしろお一人の方が気楽でしょう」

「ええ、まあそうですね」


言われてみれば確かに、あの二人のテンションに合わせる自信がない。

仕事ならともかく、遊びじゃね。


「それじゃあ、行ってきます」

「ごゆっくり」


そんな言葉を交わして、剛守さんとあたしは同時に歩き出す。向こうは

オープンカフェへ。あたしは賑わうアーケードへと。


うん、たまにはいいじゃんこういうミッションもね。



せっかくなら楽しみましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。