陽気の下の軋轢
今も昔も、あたしはケンカが弱い。物理的な暴力という意味じゃなく、
とことん押しが弱いという意味で。こないだの別ミナ世界ではかなりの
ゴリ押しをしたけど、あの時はただひたすらに機嫌が悪かったからね。
こんなシチュエーションに、強気で臨める性格じゃありません。
なので。
ここは潔くミナに任せます。
…いや、部下に丸投げかよ。
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「………」
ギャアギャアとうるさかった三人の女性は、前に出たミナに睨まれて
何となく黙った。気圧されたのか、それとも警戒しているだけなのか。
たぶん、前者だ。聖女としての力を持ってるのは確かだけれど、それを
抜きにしてもミナはけっこう怖い。実力ももちろん頭抜けている。でも
黙ってる時も無闇に怖いのである。いや、喋れば明るい子なんだけど。
彼女たちと、ミナとあたし。実力が上なのはどっちか。そんなの正直、
誰にも分からない。何たって出身の世界が違うんだからね。と言うか、
そんな少年漫画みたいな序列になど興味ありません。だからもう…
「おぉい、何やってんだよ」
無意味な緊張は、背後から聞こえた男性の声で霧散した。女性たちは、
ハッと振り向いて嬌声を上げる。
「ヴァレンデ様ぁ!」
「お疲れさまでぇす!!」
「いかがでしたぁ!?」
うわあ、どこまでも露骨だなあ。
どういう経緯で知り合った仲なのか知らないけど、追っかけみたいだ。
まんざらでもないって表情を見せるヴァレンデ様も、何か生理的に嫌。
いわゆるハーレムなんだろうけど、南国ビジュアルも相まってとにかく
安っぽい。まあ、これぞ転生者って変な納得もしてしまえるけど…。
「どうも彼女たちが失礼しました。僕に免じてこの場は…」
「久し振りですね、桧垣君」
にこやかに語り掛けるヴァレンデの顔が、その挨拶に微妙に反応した。
おそらく、剛守さんがこの場にいるのに気づいてなかったんだろう。
そして、剛守さんを知ってる感じ。印象としては…うん、仲良しでは
ないだろうなと失礼な予想が立つ。まあでもホラ、そこは空気感でね。
「桧垣」ってのが転生前の名前だとすれば、人によっては誰かが気安く
呼ぶのを嫌がるだろう。というか、目の前の彼がまさにそんな感じだ。
明らかに嫌がってるのが判るよ。
「ヒガキ?」
「何それ?彼はヴァレンデ様…」
「黙ってろ!」
訝しげな女性たちに、ヴァレンデ様こと桧垣さんは尖った声を投げる。
身を竦ませた彼女たちの姿に、少し同情した。いきなり怒鳴られるのは
結構キツいだろうからね。一方で、ミナとあいちゃんは知らん顔。
「お久しぶりです。えーと…」
「剛守ですよ」
「そうそうそうでしたよね。…で、いい加減この俺をその名前で呼ぶの
やめてもらえませんか?」
うわあギスギスしてるなあ。さっきあの90歳に会った時は、福祉課の
職員さんみたいな感じだったのに。今回の剛守さんは何だか尖ってる。
明らかに、桧垣さんを敵視してる。何と言うか、イメージと違うなあ。
剛守さんって、無口だけどとっても頼りがいのある先輩だったのに…
「いい加減という表現を使うなら、お互いさまでしょう」
「は?」
「今のこの狩りは、正式な依頼なり手続きなりを踏んでいますか?」
「……」
おっと、話が意外な方向に転んだ。もしかしてこの極彩色の恐竜たち、
うかつに殺しちゃダメだったのか?いやしかし、言ってる剛守さんも
ついさっき豪快にぶっ潰してたと…
「アンタもやってたじゃねえかよ。どの口が言うんだ?」
ああやっぱり。モロにそこの部分を突かれた。ってかあたしもミナも、
容赦なく殺ってる。今さらながら、最初に注意しといて欲しかったと…
「我々は至って個人的な狩りです。持ち帰る事もしませんよ」
「へっ?」
「殺すだけ殺して捨ててくってか?そっちの方がよほど悪質だろうが。
詭弁ばっかり言ってんじゃねえと」
「殺した分はここで食べるんです。文句ありますか?」
「へえっ!?」
殺伐とした応酬の途中に、あたしの間抜けな合いの手が混ざってる。
いやいやちょっと待って。殺した分ここで食べるって、正気ですか!?
あのカラフルラプトルを!?いや、いくら何でもそれは…!
「へえー美味しそう」
おい聖女!
真顔で舌なめずりしながら、そんな合いの手を入れるんじゃねえ!!
ミノタウロスの次は恐竜だ!って、ゲテモノ食い芸人なんかアンタは!
『あたしも食べてみたかったなー』
あの、あいさん?あなたもですか?
ダメだ。あたしはマイノリティだ。何で食べないんだと責められる側。
話の流れから考えても、食べないと言えるわけがない。何だこの状況?
…まあ、別にいいけどさ。
食べるけどさ、恐竜くらい。
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「恐竜は、別に保護対象ではない」
一人で悩んでるあたしには構わず、剛守さんは粛々と告げていた。
「狩るなという法はない。しかし、密輸しているとなれば話は別です」
「…密輸?」
思わず口にしてしまった。
この派手な恐竜を密輸して、誰かが喜んで買うんだろうか?
…あるんだろうな、そういう需要。
極彩色の恐竜なんて、素材としてもかなり面白い。財布の革にしたり、
アクセサリーとかにしても映える。現代的感覚で考えれば、間違いなく
一つの商売として成り立つだろう。個人的にはあんまりいらないけど。
そして、もしそれが「産業」として既に確立しているなら、剛守さんも
わざわざこんな風に来たりはしないはずである。だってこれ、明らかに
異世界の文化への干渉になるから。多分柳橋さんや社長も黙ってない。
何たってうちの会社は、異世界ってファクターを客観視しているから。
だとすれば。
いつも寡黙な剛守さんが、今ここで桧垣さんに物申す理由はひとつだ。
ここで行われている狩りと、それに伴う何かしらの営利行為。そこには
看過できない要素がある。内容も、それなりに想像がつく。要するに、
「異世界転生者ならでは」の発想でやってる事なんだろう。この世界の
流儀に反するのか、または根本的に存在しない概念を持ち込んだのか。
いずれにしても、彼が転生者である事を知ってれば見逃せないって話。
「…うるッせえなあ、あんたは…」
「それが仕事ですからね」
どんどん態度が危うくなる桧垣さんに対し、剛守さんは冷静だ。そして
非常にしつこい。
…何だろう、この危うい感じ。
正直、ちょっと想像してなかった。
それにしても暑いなあ、ホントに。




