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反対側のどこかへ

「行きましょう」


剛守さんの言葉は素っ気なかった。

投石の犯人は逃げたけれど、問題は何にも解決していない。それなのに

こんなにあっさり去っていいのか。それってちょっと無責任じゃ……


ないよね、別に。


そもそもこれは、アフターケアだ。ある意味、過剰な干渉とも言える。

勇者として異世界転生して90年も経ってる人の世話を、何から何まで

焼くってのはあらゆる意味で違う。そんなのは会社の仕事じゃない。


なら何で来たんだ?という疑問は、今は口にしないでおこう。

剛守さんは明らかに、ここに何度も来ている。この家にもこの世界にも

かなり造詣が深い。あたしの見立てでは、たぶん思い入れも深い。

だったら、あたしたちごとき新参が偉そうに意見するのは控えよう。


何たって、まだ仕事は途中だし。



んじゃ、次行きましょう!


================================


キュイン!!


転移で長距離移動。もちろん行き先は、この世界…もとい惑星のどこか

別の場所だ。話を聞いた限りでは、恐らくかなり遠い場所だと思う。


着いた瞬間にそれは実感しました。


さっきまでの、あの重く垂れこめた陰鬱な曇り空はどこへやら。

見上げれば蒼い空。そして暑い!!周囲の植物も、モロに南国仕様だ。

どうしてこんな極端なんだ、もしや惑星のちょうど反対側ですか!?


ズシイィィィィィン!


あれこれ考える間も汗をぬぐう間もなく、轟音と共に地面が揺れる。

ハッと目を向けてみれば、極彩色の恐竜が横倒しになった音だった。

…いや、また恐竜ですか!?今度は明智光秀か毛利元就か!?…って、

織田信長を引きずり過ぎだあたし。連想の基準が完全にバグってるよ。


「あ、あれかな?」


場に動じないミナが指し示す方に、何とも独特の軽装鎧をまとう男性が

身を躍らせていた。その両手には、これまた派手な色の双剣が見える。

飛び掛かる先にはまたも極彩色の…多分ティラノサウルスだね、あれ。

大口を開けて待ってるけど、あれが転生者だとすれば結果は…


「ひょおおおおおうっ!!」


何とも独特の声と同時に、勢いよく双剣が振り抜かれた。待ち構える

極彩色ティラノの口から入ったその一閃が、頭の上半分だけを見事に

斬り飛ばす。突進の勢いのまま放つキックが、泣き別れになった頭部を

容赦なく遠くまで吹っ飛ばした。


「キャアァァァァァァッ!」

「さすがヴァレンデ様―――!!」


頭を失った極彩色ティラノの胴体が倒れると同時に、別方向から黄色い

嬌声が上がるのが聞こえた。視線を向けてみると、やっぱり実に派手な

服装の女性たちが「ヴァレンデ様」とやらを口々に湛えている。いや、

こんな場所で呑気だなあの子たち。曲がりなりにも恐竜がいる地帯で…


そんなあたしの疑問に答えるようなタイミングで、小型の恐竜数体が

女性たちに襲い掛かるのが見えた。慌てて愛用の杖をかざすあたしを、

目の前の剛守さんが右手をかざして制する。あ、手出し無用ですか。

じっと見ているミナとあいちゃんはそもそも、手を出す気配すらない。

薄情なのかと一瞬思ったけど、別に見捨ててるわけじゃない。むしろ、

手を出さなくていいと思っだんだ。そこはやはり聖女と元魔女ですね。


ドバァァァァァァン!!


懸念する間すらもなく、女性たちは各々かざした掌から火球を放った。

襲い掛かろうとしていた恐竜たちの上半身が、一瞬で丸焦げになる。

上だけ真っ黒って、ほんのちょっとエクレアに似てる…って、さすがに

例えが悪過ぎるだろあたし!


…まあとりあえず、あの女性たちも相応の実力者だと分かった。

「鑑定眼」の能力を発現させて再び目を向ける。…ああ、元モエビトは

予想通りヴァレンデ様だけだった。後はその…現地のトロフィーだね。

みんな好感度振り切れてる感じだ。よく仲良くできるなあと思います。


「皆さん、気をつけて」


ボケっと観戦してたあたしたちに、剛守さんが注意喚起した。同時に、

ガサガサと危険な気配が迫ってくる音がした。おお、映画っぽいなあ。

…とは言え、もうこの手の演出にはかなり飽き飽きしてるんだけどさ。

主に、織田信長のせいで。



襲撃は、ほぼ同時だった。


================================


ガサッッ!!


周囲から一斉襲い来た恐竜…今回もラプトルっぽかった。しかも派手。

実に連携の取れた奇襲だったけど、はっきり言って丸見えだ。そんで、

根本的な部分で戦略ミスがある。


あんたたちごとき雑魚が、目の前の聖女に挑むのは無茶が過ぎるよ。

それと、あたしと剛守さんもね。


ドゴォン!


勢いと遠心力をこれでもかと乗せたミナのパンチが、三匹の頭を捉えて

そのまま吹っ飛ばす。6個の目玉が全部飛び出したのが見えた。グロ!


ドォン!


そっちに比べると少し地味だけど、剛守さんも襲い来た左右の二体を

同時に叩き落した。鈍い音と共に、彼の足元で二匹の頭部がグシャッと

音を立てて潰れる。…何と言うか、蠅を叩き落としたような呆気なさ。

ミナは見た目とパワーのギャップが凄いけど、剛守さんは順当ですね。


で、あたし。

幸か不幸か、あたしに向かってきた個体は正面からの一匹だけだった。

あたしは他のお二人ほど近接戦闘は得意じゃないけど、一匹だけならば

後れは取りません。…って言うか、ここでやれなきゃ上司失格ですよ。


こういう恐竜って、飛び掛かる際は必ず大口を開ける。まあ合理的ね。

だけどそれって、ある意味口の中という弱点をさらけ出す事に等しい。

一匹だけならば、なおさらの話だ。あたしはまよわず、カウンターで

杖を突き出した。そう、まさにその大口の中を目掛けてね。おそらく、

相手は何をされたのかすらほとんど分からなかっただろう。…ってか、

実際に喉の奥まで杖を突っ込むのは絶対に嫌だ。何か着くだろうから。


その直前。

口腔内に入った瞬間を狙い、必殺の一撃を叩き込む!!


ドカァン!


強力な爆裂魔法が発現し、恐竜の頭が一瞬で倍ほどに膨れた。しかし、

破裂はしなかった。そこの力加減はけっこう身について来てるんだよ!


シャッ!


素早く杖先を引き戻したと同時に、恐竜の骸は慣性を失って落ちた。

ほとんど血は出てないけど、頭部は割れた花瓶のようにグズグズだ。

我ながら残酷ですよねえ、ホント。だけど別に、悪いとも思わない。

威力を絞った上で必殺を期すなら、こういう形が最適だ…ってだけだ。

相変わらず、完全に放ってしまうとあたしの魔法は処分に困るからね。


ともあれ、ここでの恐竜狩りは…


「ちょっとぉ!」

「何なのよあんた達は!!」


おっと。

一部始終を見ていたらしい女性たちの尖った声が、飛んできましたね。

何だろ、やっぱり縄張りみたいなのあったのかな。もしくは仕事の邪魔

したと思われてるのかな。いずれにせよ、彼女たちが近づいた事により

あらためて分かった事がある。


諸々の事情は置いておくとして。



あたしたちの服装、暑苦し過ぎる。

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