最古参の転生者
ごめんね、本当に。
何と言うか、見立てが甘かった。
人間が、これほど愚かだったとは。
謝るのか、この我に。
傍から見れば、実に滑稽な話だな。
魔王たる我に女神が謝罪するとは。
だよね。自分でもそう思ってる。
だけど、悪いと思ったからさ。
魔王という肩書きを、深く知ろうと思わなかったのはあたしの罪よ。
別に構わん。
戦って敗れたのなら、魔王としてはそこそこ理想的な最期であろう。
我は存分に生きた。もう今さら命に執着もしない。好きにすればいい。
どの道死んだ身だ。文句は言わん。
…達観してるね、本当に。
正直、神を名乗る事にちょっと気が引けちゃうよ。
ホント、見習いたいもんだ。
つまらん話はいい。
我をどうするつもりだ?
………
まあ、イレギュラーなんだけどさ。
ちょっと、相談してもいいかな?
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「うーん…確かに納得できるかも」
『だよね』
「そうよねえ」
「納得が早くて助かりますよ」
キョロキョロと周囲を見回しながら言葉を交わすあたしたち三人に、
引率の剛守さんが笑ってそう言う。見透かされてる気はするけど、別に
悔しいとか思う事もない。ってか、ほとんどの人は納得するだろう。
「異世界へ転生する」って前置きで始まる、ハイファンタジー系作品。
そんな創作はホントに山ほどある。当然、描き方も似通ってくる。
中世が舞台で、冒険者ギルドとかががあって、魔王とかがいる世界だ。
これまでにいくつも異世界を巡ってきたけれど、なるほど確かに納得。
ここの空気感は、まさに絵に描いたような誰か転生してきそうな世界。
なるほど、ここならうってつけだと言えるんじゃないだろうか。
…生意気な意見ですみません。
「いや、むしろそういった意見こそ欲しいんです。長く関わってると、
逆に何かしら目が曇りますからね」
「なるほど」
頷いたのはミナだった。
「って事は、剛守さんはそれなりにこの世界に詳しいんですか?」
「ええ、ここは私の専任なんです。送る方じゃなくて、後から管理する
立場でって話ですが」
「へえー…」
剛守さんにも、そういう受け持ちがあるんだ。ちょっと想像し難い。
何気に割と失礼な事言ってるけど、こればっかりはイメージだからね。
でもまあ、あたしよりもずっと先輩なんだから当たり前かも知れない。
ちょっと認識を改めましょう。
…………
何を改めるんだよ、今になって。
失礼も大概にしなきゃ。
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そんなこんなで、目的地に到着。
この世界に複数いるという、転生を果たした人の在所だ。何と言うか、
けっこう地味な場所にあるんだね。もっと凄いの想像してたかも?
チラッと見れば、ミナたちも怪訝な表情を隠していない。もしかして、
引っ越したとかじゃないかと。
「救世の英雄として目立つのは少し具合が悪かったんですよ、彼はね」
「………?」
疑問は尽きないけど、剛守さんって柳橋さんや社長より口数が少ない。
訊けば答えてくれるんだけど、今はあんまりそのタイミングじゃない。
どっちかと言うと、見て理解しろと背中で言われている気がする。
「いやあ、渋いなあ」
先を行く剛守さんの背を見ながら、ミナがしみじみと呟く。確かにね。
あたしもあんな風になりたいなあ。背中で語るベテランに…
うん、まだまだだな。
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街外れの一軒家の前で、剛守さんは足を止めて向き直った。何となく、
あたしたちは背筋を伸ばす。
「ここに最古参の転生者がいます。つまり初めて転生してきた日本人」
「あ、やっぱり日本人なんですね」
「そこは定番ですよ」
あたしの言葉に、剛守さんは控え目な笑みを浮かべてそう答えた。
「転生前の名前は志田勝。転生後の名前はレオン・デルフル。いわゆる
勇者としての生を受けた人物です。言うまでもなく元モエビトであり、
強大な力を内包しての転生でした」
「なるほど…」
そこまで具体的に分かってるんだ。さすがは転生管理会社の古株社員。
スラスラ言えるあたり、この世界に対する造詣の深さが窺えます。
「ちなみに今、歳いくつなんですかそのレオンさんって?」
「今年でちょうど90歳です」
「へっ?」
質問したミナが間抜け声を上げた。あたしも危うく上げそうになった。
きゅ、90歳?
赤ん坊からの転生だとすれば、彼がこの世界に来たの90年前って事?
…何と言うか、思ってたのとだいぶ違ってたな。あいちゃんもミナも、
かなり微妙な顔になってるよ。
「では行きましょう」
「あっ、はい」
そのまま家にお邪魔しちゃうんだ。それも輪をかけて意外だった。
居住まいを正して向き直った際に、あたしは妙な事に気付いた。
家の壁に、何か書かれた跡がある。おそらく文字だ。しかも殴り書き。
書いて消してを繰り返した…という感じだろうか。何なんだろこれ?
『やっぱり判るよね』
ちょっと目を光らせるあいちゃんも気付いたらしい。怪訝そうだ。
書いてあった文字は判らないけど、どことなく不穏な印象を受ける。
ひょっとして、悪口だったとか…
ギイッ
少し軋む入口扉を開け、剛守さんは迷わず室内に足を踏み入れていく。
あたしたちも続く。…いやしかし、無駄に怖い。無駄に不穏。この家に
救世の英雄がいますと言われても、とても信じられないこの空気は何?
ええいままよ。
とにかく行ってやろうじゃないか。どっちみち、これも仕事なんだし。
愛用の杖を握り、感触を確かめる。
さあ、転生者様とのご対面だ。




