世界は思うよりも広い
と言うわけで、現地に到着した。
気分的な問題だろうけど、いつもに比べて道中は少し短く感じられた。
メンバー構成が特殊だからちょっと新鮮だった…ってのも理由だろう。
だけどやっぱり道中、剛守さんから受けた説明の内容が印象的だった。
そわそわ半分、ちょっと怖いが半分といったところだろうか。
もちろん、ミナやあいちゃんがどう捉えたかはまだ聞いてない。けど、
少なくともけっこう価値観が大きく揺さぶられたんじゃないかと思う。
何はともあれ、行きましょう。
目指す街が、遠くに見えている。
ここからは徒歩だ。
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「まずは、最古参からですね」
「了解です」
『はい』
「はあい」
並んで歩きながら言葉を交わす。
今回は完全に剛守さんが引率役って構図ですね。あたし一人だったら
説明も片手間になるけれど、今回はあんまり分かってない生意気娘が
三人だ。これが玉見さんだったら、ちょっと異世界ハーレムものっぽい
ビジュアルになりかねない。まあ、あいちゃんは小型ロボだけれども。
その点、剛守さんはいかつい強面の年齢不詳男性。父親っぽい雰囲気も
無くはないし、ミナと並んでも別に危ない関係には見えない。…いや、
ミナ自身がどう思うかは別として。
こうして歩いている分には、さほど緊張感もないピクニックだ。でも、
お仕事の内容自体は意外とハード系なのかも知れない。覚悟は必要だ。
気を引き締めていきましょう。
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そもそも、今回のお仕事はどういう内容なのか。どうやらこれまでに、
あたしが経験した案件とはちょっと違っているらしい。定期的な案件で
あると同時に、そろそろあたしにも覚えさせようという話なんだとか。
個人的には、いいと思います。
謙虚さは常に忘れたくないけれど、あたしもけっこう場数を踏んでる。
先輩の手を借りず仕事を終わらせる事もあるし、戦闘も経験している。
たった二人だけど、部下もできた。それなりに馴染んできています。
だけどやっぱり、仕事は千差万別。創作の中と同様に、異世界転生には
様々なバリエーションが存在する。するからこそテンプレも成り立つ。
言うなればあたしは入社して以来、そんなテンプレをこなしてきた。
だからこそ今回だ。
テンプレ転生の裏側には、異世界の事情というものが垣間見える。
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「転生者の世界」
当たり前過ぎてどうツッコむべきか迷うけど、それが今回の世界だ。
だけどこの名称の意味は、あたしやミナたちの想像とは違っていた。
世界と言ってるけど、大抵の場合は地球によく似た天体が舞台である。
モエビトは元は人間だから、そこは当然だ。いくら転生すると言っても
未知の惑星とか明らかな宇宙人とかそんなのは嫌だろう。まあ、それが
いいと言い切る人もいるだろうとは思うけどね。好みは人それぞれだ。
とにかく、いつも赴くのは地球型の惑星。そこは世界規模のテンプレ。
時代設定はさすがに幅があるけど、古生代とかはさすがにありません。
やっぱり多いのは中世ファンタジー世界だ。移動手段はもっぱら馬車…
とかそんな水準だね。創作でも最も多いパターンだろう。
しかし、いま一度考えて欲しい。
ひと言で転生と言っても、それには舞台となる「世界」を用意する事が
必須になる。もちろんハリボテではない、正真正銘のユニバースがね。
前にゲーム転生でVR世界に送った事もあるけど、あれは特例らしい。
個人的には、あの世界で生きていくというのは御免被りたかったなあ。
まあ、それはいい。
問題なのは、転生の舞台となる世界は気安く新規開拓できないって事。
ちょっと考えれば当然の話だよね。言い方は悪いけど、異世界転生って
外来生物を持ち込むような行為だ。転生したモエビトはほぼ例外なく、
チートな力を持っている。そういうイレギュラーを異世界へと送り込む
行為には、やはり重い責任が伴う。舞台裏はけっこう大変って事だね。
適当に送って終わり…なんてのは、きわめて悪質という事である。
うん、シビアだな本当に。
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とは言え、モエビトってのはどこの世界でも誕生する。誕生した世界を
崩壊させないためには、どうしても転生させる必要が生じる。これは、
待ったなしの事案だ。見切り発車になってしまう事も割と多いらしい。
転生の女神さまと言っても、全てにおいて万能って訳じゃないからね。
だからこそ、ここにひとつの現実的事象がある。まさに今回の世界だ。
この世界は、様々な意味で好条件。転生者の受け皿として実に理想的。
何だか不動産物件みたいな言い方になってる感が否めない。とは言え、
考え方はそれに近い。まあ規模感は本当に桁違いだけどね。
なのでこの世界には、あっちこっちの世界から転生者が送られてくる。
リプネリスさんに限らず、他の女神たちも御用達にしてるんだそうな。
…いや、それさすがにマズいんじゃないんですか?
あたしもミナもあいちゃんも、ほぼ同じトーンでそう言ってしまった。
ただでさえ転生者はチートなのに、それが同じ世界に何人もってのは…
「まあ、そう思いますよね普通は」
運転しながら、剛守さんはちょっと可笑しそうに言った。
「世界最強レベルの力を得て転生をした存在なんて、唯一であるべき。
そう考えるのはもっともでしょう」
「だったら、どうしてそれが普通にまかり通ってるんですか?」
あたしとしても、それを問わずにはいられなかった。
本当に、今さらかも知れないけど。
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数秒の沈黙ののち。
「丑三ツさん」
「はい?」
「国連加盟国って、現時点で何カ国か知ってますか?」
「は?」
いきなりな質問に目が泳いだ。
ええっと…確か…
「190…いくつでしたっけ」
「193です」
ああよかった、ニアピンは取れた。いらん恥はかかないで済みました。
「えと、それが何か?」
「どの世界でも、現代の地球ならばそのくらいの国があるって事です。
もちろん昔ならもう少し少ないかも知れませんが、まあ誤差ですね」
「………?」
三人揃って首をかしげる。何だろ、どういう話なんだろうか?
「創作でも、異世界転移した人間が渡り歩く国なんて数カ国でしょう。
多くても10くらいです。世界中を股にかけるなんて事はありません。
それが個人の世界ってもんですよ」
「ああ」
「はい。」
『なるほど…』
三人揃って腑に落ちた。
なるほど、そういう事ですね。
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確かに異世界転生を描く創作でも、そこまでワールドワイドな展開など
滅多に描かれない。せいぜい数カ国が舞台になる程度だ。人間ひとりが
想像できる世界のスケールなんて、たかが知れてるって事なんだろう。
そしてそれは、現実でも同じだ。
チート能力を得て転生した人物が、果たしてどんな事をするだろうか。
森で美少女を助けて惚れられたり、冒険者登録して仕事請け負ったり。
圧倒的な力を持っていても、実際にやる事は実にささやかだ。それこそ
数カ国、下手すれば州規模の世界があれば事足りてしまうくらいに。
あたしだって、海外旅行なんかほぼ行った事がない。プライベートでの
生活エリアの半径なんて、まことにささやかなスケールでしかない。
別に卑屈になる気はない。それは、誰にとっても当たり前の話だろう。
ガチの冒険家でもない限り、世界をくまなく回るなんて事はない。
だったら別にいいよね。
転生者が、世界のあっちとこっちでそれぞれ物語を紡いでるとしても。
うん。
妙にリアルな話だなあ、ホントに。




