転生者の世界へ
あの異世界巡りの休日から、早くも10日が経っていた。ここしばらく
平穏なデスクワークが続いている。もちろん、ミナ世界に関する情報も
特に来てはいない。そしてこの間、1度だけミナにも会いに行った。
ミノタウロスを1頭仕留めて牛込で焼肉をしたと、楽しげに語ってた。
何やってんだよ。しかも牛込かよ。そんな偶然お呼びじゃないんだよ。
呆れ笑いで話を聞いている自分が、何だかちょっとだけ不思議だった。
そうだよね。
あたしが勝手に暗くなっていても、ミナは何ひとつ喜ばないだろう。
事情を話せば絶対に怒るだろうし、独りよがりなのは百も承知だから。
という事で、ある程度割り切った。割り切れる自分をすんなり認めた。
今はこれでいいんだと、力を抜いて思える自分が嬉しかった。
そんなこんなで、日々は続いてる。
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「丑三ツちゃん」
「あっ、はい!」
もうすぐ夕方という時間になって、柳橋さんに声をかけられた。
そろそろ、かけられた声のトーンで大体何の用か判るようになってる。
我ながら、会社に馴染んできたね。
「…出向ですか?」
「お、お見通しだねえ。さすが!」
嬉しそうな柳橋さん。恐縮です。
って言うか、単独での出向を何度もこなしてる事にも感慨深いですよ。
「あたし一人ですか?あいちゃんとミナは…」
「いや、今回は剛守君と行って」
「え?あ、はい」
ちょっと意外。というか、これまであたしと剛守さんってなかったな。
ちょっと緊張するけど…
「それと、あなたのチームの二人も一緒に行って欲しい」
「えっ?」
輪をかけて意外だ。
それってつまり、あたしのチームと剛守さんが同行するって事なのか。
…輪をかけて絵面が想像しづらい。
「…どうしてそんなメンバーに?」
「人手があった方がいいってだけ。いい経験にもなると思うからさ」
「了解です」
説明は端的だったけれど、あたしはあえてそこで了解した。あれこれと
ここで訊いてたら手間だし、途中で訊く時間はいくらでもあるだろう。
だったら、さっさと行く方がいい。
「これからすぐですよね?」
「行ける?」
「もちろんです」
「頼もしいねえ」
ニッと笑う柳橋さんに笑い返す。
いやあ、あたしもたくましくなったもんだなあ。自分でも頼もしいよ。
「んじゃ、もう剛守くんは車の方に行ってるから。詳しい説明は彼から
訊いてくれればいいよ」
「はあい、じゃ行ってきます!」
愛用の出向用カバンを手に取って、勢いよく立ち上がる。こういうのを
常備してるあたり、あたしも大概に順応してますね。
さあ、元気に行こう。
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今回はトラックらしい。久々だね。まあ、大勢で行くから当然なのか。
せっかくなので、あいちゃんは元のスクーター形態のままで乗り込む。
おお、ちょっと特撮のワンシーンに見えなくもない。いざ出動だ!
「そのままでいいなら、きっちりと固定して下さいね」
運転席から剛守さんが注意をする。確かに危ないからね。えーっと…
キュイン!!
「あれ?」
固定する方法を調べる間などなく、あいちゃんはロボ形態になった。
いや、本当に乗り込む時だけなの?
『いやあ、雰囲気を味わいたかっただけだからさ』
「さいですか」
あたしと考える事、ほぼ同じだな。振り返って見てみれば、剛守さんは
面白そうに笑っていた。なるほど、この人も同じ事考えてたのね。
何だろうなあ、あたしたちって。
いざ出発!
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「…ちょっとちょっと!」
「うん?」
しばしののち。
勝手知ったるミナの世界へと赴き、ヒマそうにしていた彼女を拾った。
メイドを連れて行っちゃダメかなと言われたけど、さすがに却下です。
その可否はあたしには決められない事だし、どっちみち許可は必要だ。
「また今度訊いとくから」
「はあーい」
口を尖らせながらも、ミナは意外とあっさり引き下がった。いい子だ。
しかしメイドってどんな子なんだ。個人的にはすっごい興味ある。
何たってミナが認めた存在だしね。出まかせじゃなく、帰ったら本当に
柳橋さんに訊こう。それはしっかり約束した。
…………
で、今に至るんだけど。
「誰あの人?」
「剛守さん?あたしの先輩だけど」
「かっこいいじゃん!超好み!!」
「へっ?」
あまりにも意外な言葉に、間抜けな返答をしてしまった。え、本気?
ミナって、剛守さんがタイプなの?…玉見さんじゃなくて?意外だ!!
めっちゃ意外だ!!
『意外だね』
あいちゃんも率直に言ったよ。ね?意外だよね?
今回、あたしたちはみんなコンテナスペースに乗っている。剛守さんが
運転するのは当然だけど、助手席にあたしが座るとバランスが悪いし。
なので潔くあたしたち三人は後ろ。運転しながらでも会話は出来るし、
変な気まずさもないだろうから。
このシチュエーションだからこそ、女の子話にもある程度花が咲く。
知らぬ態で運転してる剛守さんは、果たして聞こえてるんだろうか。
聞こえてたとしたら、どんな風に…
あー、青春っぽいなあ!
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馬鹿話はほどほどにして。
「じゃあ、概要を説明します」
「「『よろしく』」」
行儀よく並んで座り、声を揃える。ここからは仕事だから真面目にね。
「現在向かっているのは、便宜的に『転生者の世界』と呼ばれてます」
「へっ?」
「転生者の…世界?」
『ええ?』
三人とも割と露骨なリアクションをしてしまった。だけど無理もない。
何を当たり前の事を言ってんだと、喉元まで出かかりましたから。
転生管理会社の人間が向かうのは、転生者の世界に決まってるでしょ。
何で今さらそんな呼ばれ方を…?
「現時点で丑三ツさんは知らないと思いますが、この世界はけっこう
重要度が高いんです。いや違うな。関わる機会が多いんですよ」
「関わる機会?」
何だか、含みのある言い方ですね。あいちゃんもミナも興味津々だ。
言うまでもなく、このあたしもね。
「普通は、無事に転生を見届ければ終わりじゃないんですか?」
「ええ、その通りです」
運転しながら剛守さんが答える。
「よっぽどの事がない限り、転生が無事に果たされれば不干渉ですね。
しかしこの世界は、そうそう簡単にお役御免とは行かないんですよ」
「え…それはまた、どうして?」
この問いはミナからだ。そうそう、どうしてなんですか?
「何度も転生してるからです」
「え?それってまさか、ループとかそういうパターンですか?」
だとしたらとんでもないな。世界が転生者を中心に回ってるとか…
「すみません、言い方が悪かった」
「言い方?どこかですか?」
「「何度も」じゃない。この場合は「何人も」が正しいですね」
「「『は?』」」
三人の声がきれいにハモった。
…ひとつの世界に、何人も?
それはさすがに、テンプレ予想外。
どういう事なんだろうか、それ?




