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転生者の世界へ

あの異世界巡りの休日から、早くも10日が経っていた。ここしばらく

平穏なデスクワークが続いている。もちろん、ミナ世界に関する情報も

特に来てはいない。そしてこの間、1度だけミナにも会いに行った。


ミノタウロスを1頭仕留めて牛込で焼肉をしたと、楽しげに語ってた。

何やってんだよ。しかも牛込かよ。そんな偶然お呼びじゃないんだよ。

呆れ笑いで話を聞いている自分が、何だかちょっとだけ不思議だった。


そうだよね。

あたしが勝手に暗くなっていても、ミナは何ひとつ喜ばないだろう。

事情を話せば絶対に怒るだろうし、独りよがりなのは百も承知だから。


という事で、ある程度割り切った。割り切れる自分をすんなり認めた。

今はこれでいいんだと、力を抜いて思える自分が嬉しかった。



そんなこんなで、日々は続いてる。


================================


「丑三ツちゃん」

「あっ、はい!」


もうすぐ夕方という時間になって、柳橋さんに声をかけられた。

そろそろ、かけられた声のトーンで大体何の用か判るようになってる。

我ながら、会社に馴染んできたね。


「…出向ですか?」

「お、お見通しだねえ。さすが!」


嬉しそうな柳橋さん。恐縮です。

って言うか、単独での出向を何度もこなしてる事にも感慨深いですよ。


「あたし一人ですか?あいちゃんとミナは…」

「いや、今回は剛守君と行って」

「え?あ、はい」


ちょっと意外。というか、これまであたしと剛守さんってなかったな。

ちょっと緊張するけど…


「それと、あなたのチームの二人も一緒に行って欲しい」

「えっ?」


輪をかけて意外だ。

それってつまり、あたしのチームと剛守さんが同行するって事なのか。

…輪をかけて絵面が想像しづらい。


「…どうしてそんなメンバーに?」

「人手があった方がいいってだけ。いい経験にもなると思うからさ」

「了解です」


説明は端的だったけれど、あたしはあえてそこで了解した。あれこれと

ここで訊いてたら手間だし、途中で訊く時間はいくらでもあるだろう。

だったら、さっさと行く方がいい。


「これからすぐですよね?」

「行ける?」

「もちろんです」

「頼もしいねえ」


ニッと笑う柳橋さんに笑い返す。

いやあ、あたしもたくましくなったもんだなあ。自分でも頼もしいよ。


「んじゃ、もう剛守くんは車の方に行ってるから。詳しい説明は彼から

訊いてくれればいいよ」

「はあい、じゃ行ってきます!」


愛用の出向用カバンを手に取って、勢いよく立ち上がる。こういうのを

常備してるあたり、あたしも大概に順応してますね。



さあ、元気に行こう。


================================


今回はトラックらしい。久々だね。まあ、大勢で行くから当然なのか。

せっかくなので、あいちゃんは元のスクーター形態のままで乗り込む。

おお、ちょっと特撮のワンシーンに見えなくもない。いざ出動だ!


「そのままでいいなら、きっちりと固定して下さいね」


運転席から剛守さんが注意をする。確かに危ないからね。えーっと…


キュイン!!


「あれ?」


固定する方法を調べる間などなく、あいちゃんはロボ形態になった。

いや、本当に乗り込む時だけなの?


『いやあ、雰囲気を味わいたかっただけだからさ』

「さいですか」


あたしと考える事、ほぼ同じだな。振り返って見てみれば、剛守さんは

面白そうに笑っていた。なるほど、この人も同じ事考えてたのね。


何だろうなあ、あたしたちって。



いざ出発!


================================


「…ちょっとちょっと!」

「うん?」


しばしののち。

勝手知ったるミナの世界へと赴き、ヒマそうにしていた彼女を拾った。

メイドを連れて行っちゃダメかなと言われたけど、さすがに却下です。

その可否はあたしには決められない事だし、どっちみち許可は必要だ。


「また今度訊いとくから」

「はあーい」


口を尖らせながらも、ミナは意外とあっさり引き下がった。いい子だ。

しかしメイドってどんな子なんだ。個人的にはすっごい興味ある。

何たってミナが認めた存在だしね。出まかせじゃなく、帰ったら本当に

柳橋さんに訊こう。それはしっかり約束した。


…………

で、今に至るんだけど。


「誰あの人?」

「剛守さん?あたしの先輩だけど」

「かっこいいじゃん!超好み!!」

「へっ?」


あまりにも意外な言葉に、間抜けな返答をしてしまった。え、本気?

ミナって、剛守さんがタイプなの?…玉見さんじゃなくて?意外だ!!

めっちゃ意外だ!!


『意外だね』


あいちゃんも率直に言ったよ。ね?意外だよね?


今回、あたしたちはみんなコンテナスペースに乗っている。剛守さんが

運転するのは当然だけど、助手席にあたしが座るとバランスが悪いし。

なので潔くあたしたち三人は後ろ。運転しながらでも会話は出来るし、

変な気まずさもないだろうから。


このシチュエーションだからこそ、女の子話にもある程度花が咲く。

知らぬ態で運転してる剛守さんは、果たして聞こえてるんだろうか。

聞こえてたとしたら、どんな風に…



あー、青春っぽいなあ!


================================


馬鹿話はほどほどにして。


「じゃあ、概要を説明します」

「「『よろしく』」」


行儀よく並んで座り、声を揃える。ここからは仕事だから真面目にね。


「現在向かっているのは、便宜的に『転生者の世界』と呼ばれてます」

「へっ?」

「転生者の…世界?」

『ええ?』


三人とも割と露骨なリアクションをしてしまった。だけど無理もない。

何を当たり前の事を言ってんだと、喉元まで出かかりましたから。


転生管理会社の人間が向かうのは、転生者の世界に決まってるでしょ。

何で今さらそんな呼ばれ方を…?


「現時点で丑三ツさんは知らないと思いますが、この世界はけっこう

重要度が高いんです。いや違うな。関わる機会が多いんですよ」

「関わる機会?」


何だか、含みのある言い方ですね。あいちゃんもミナも興味津々だ。

言うまでもなく、このあたしもね。


「普通は、無事に転生を見届ければ終わりじゃないんですか?」

「ええ、その通りです」


運転しながら剛守さんが答える。


「よっぽどの事がない限り、転生が無事に果たされれば不干渉ですね。

しかしこの世界は、そうそう簡単にお役御免とは行かないんですよ」

「え…それはまた、どうして?」


この問いはミナからだ。そうそう、どうしてなんですか?


「何度も転生してるからです」

「え?それってまさか、ループとかそういうパターンですか?」


だとしたらとんでもないな。世界が転生者を中心に回ってるとか…


「すみません、言い方が悪かった」

「言い方?どこかですか?」

「「何度も」じゃない。この場合は「何人も」が正しいですね」

「「『は?』」」


三人の声がきれいにハモった。


…ひとつの世界に、何人も?

それはさすがに、テンプレ予想外。



どういう事なんだろうか、それ?

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