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喫茶店の奥の席で

キュイン!!


「あっ!」


転移が完了すると同時に、あたしは思わず声を上げていた。

遠くに見える線路。その上を走る、まぎれもない列車。その手前には、

レトロチックな自動車が走る道路。


まごう事なき産業革命以降の世界。ってか、建物の脇には自転車らしき

乗り物も置かれている。…ヤバい!魔術師モードは完全な場違いだッ!


キュイィン!!


とにかく一瞬で魔術師モード解除!…って、うわぁ私服のパーカーだ!

いずれにしてもみっともないぃぃ!


「ちょ、落ち着いて丑三ツちゃん」


一人で大騒ぎをしているあたしに、すぐ隣のリプネリスさんが呆れ顔で

声をかける。…いやそういうあんた既に着替え済ませてますやんか!!


「心配しなくても、誰もあなたの事そこまで注目しないから」

「………ですよね」


スンと落ち着いた。ってか気持ちが冷めた。あまりに身も蓋もなくて。

うん、ですよね。おっしゃる通り。お見苦しい姿をお見せしました。



って事で、到着ですね今度こそ。


================================


個人的な見解では、この世界が最も現代世界に近い気がする。とは言え

現代だとしても外国だろう。素人の判断では、イギリスとか近いかも?


「おお、いい線行くね」

「そうなんですか?」

「ええ。ちなみに英語が母国語」

「ええっ?」


異世界なのに英語?やだ新鮮!!


「そんな事もあるんですね!」

「魔術とかが現存してない代わり、この世界は他の世界との壁が薄い。

「異界の知」って形で、他の世界のテクノロジーが流入したりもする。

アバウトな世界観なんだよ」


異界の知?異世界のテクノロジー?

…そんなものが、魔術とか転移とか無しでどうやって流入するんだろ?


「天恵よ」

「天恵?…何ですかそれ?」

「いわゆるテンプレ設定。15歳になると同時に全ての人間が授かる、

神の祝福の異能よ」

「あ――――なるほどそっち系…」


確かにテンプレ設定ですね。

…だけど、少し意外かも知れない。

全ての人が等しく「異能」を授かるのだとすれば、世界はもっと尖った

ファンタジーになると思ったから。見た感じ、本当に普通だし…


「あ、見えたよあそこのお店」

「はい?」

「あそこで友だちが待ってるから」

「あっ、はい!」


将もない考え事をしていたせいで、すっかり忘れてた。あたしは別に、

この世界の査定をしに来たわけじゃない。モエビトを探しに来たという

わけでもない。いや、そもそも今日あたしはお休みでしたからね。


あっちこっちの世界を渡るうちに、すっかり目的を忘れてました。

いや、ていうか…


「今さらですけど、ホントにこんな格好で失礼じゃないですか?」

「いいのいいの、その生活感こそが大事なんだから」

「うぅーん…」


何だろうなぁ生活感って。確かに、普段着で行っていい場所だけどさ。

どこの喫茶店もそうだとは限らないと思うのは、心配し過ぎですか?

ええっと…


「神託カフェ・オラクレール」?


何だろ、神託カフェって。

コンセプト喫茶って事かしら?


チリリン。


あ、リプネリスさん入っちゃった。迷いないなあこの人。もしや常連?

仕方ない。覚悟を決めてパーカーで突撃しましょう。



いざ、神託カフェへ!


================================


「いらっしゃいませっ!」


何だろう、この限りない既視感は。

本当につい今しがた、ほとんど同じシチュエーションを見た気がする。

あのパン屋さんで…


「こんにちはガンダルクちゃん!」

「こんにちはっ!」


何だろう、キャラが凄い被ってる。さっきのライゾさんの娘さんに。

…ああっ!また名前聞くのも自分が名乗るのも忘れてた!社会人んん!

クレオ君に笑われるぞ!!


「いらっしゃい」

「こんにちは」リプネリスさん!」


不毛な反省は、カンターから届いたそんな声にかき消された。

あぁ、やっぱり常連だったんですねリプネリスさん。さすがだなあ。

じゃあ、お友だちってのはここの…


「来たね!こっちこっち!!」


と、今度は奥の席から声がかかる。ハッと見れば、ノートパソコンを

テーブルで開いている眼鏡の女性が手招きしていた。…つまりあの人が

リプネリスさんのお友だちかしら?ってか、ノートパソコンって…


「行くよ丑三ツちゃん」

「あっ、はい。あの人ですか?」

「そうだけど、人じゃないよ」

「え?」


思わずキョドった。あまりに普通のトーンで言われたから、周りの人に

丸聞こえだ。仮に事実だとしても、そんな気安く口に出したら問題が…


「ま、どうぞどうぞ」


何事もなかったようにご店主がそう言って、あたしに笑いかける。

あ、これ大丈夫なパターンですか。ちょっと焦ったけど、それなら…

幸い、他にお客さんはいなかった。なのでもう開き直って声の主の席へ

向かいます。我ながら開き直るのが早いなと呆れますね。まあいいや。


「こんちは」

「こんちは!連れて来てくれたんだ例の子。悪いねホント!」

「ま、休日だったからね」


軽い会話が交わされていますけど、話が本当なら神々の会話よねこれ。

あたしみたいな凡人が気安く聞いていいんだろうか。むしろ…


ちょっと待てい。

何度同じミスをする気だあたしは!


姿勢を正し、あたしは目の前に座るパソコン使いさんに向き直った。

そう、まずは自己紹介からだよ!


「初めまして、あたしは…」

「あ、ちょっとだけ待って」

「え?」

「今メールで連絡したから、すぐに来ると思う。名乗りはそれからで」

「は?」


メールですと?

いや確かにノートパソコンからなら送れるだろうけど、この世界で?

それも異界の知というやつなのか。それにしても違和感が凄まじいと…


「あ、あたしの名前はローナ」

「えっ!?」

「恵神ローナ。よろしくね!」


い、いやちょっと待ったれや!

こっちは名乗りを止められたのに、そっちはさっさと名乗るんかい!

ってか、恵神?やっぱり神さまね?そうなのね?何なんですかもう!

あたしはいったいどうすれば…


チリリン!!


玄関のベルが鳴り、あたしはハッと向き直った。どうやら本命の人が…

…………


って、あれ?

あの人どっかで見た事ある。それも最近。ホントについ最近。ええと…

思案する間もなく、彼女とその後ろから入ってきた金髪ポニーテールの

女性が慌ただしく駆け寄ってくる。後ろの人は間違いなく初めてだけど

こっちの人は…誰だったっけ…


「おおぉぉぉパーカーだぁ!!」

「へっ!?」


あたしのすぐ隣にまで来た女性は、掴みかからんばかりの勢いでグッと

顔を寄せてきた。何かと思ったら、思いっきりパーカーに興味津々だ。

…いや、こんなくたびれた部屋着のどこにそんな琴線があるのかと…


「あの、そのう」

「うわあぁぁ日本語だあぁぁ!!」


いちいち感情が爆発するなこの人。あたしは感動ポイントの権化か?

くたびれたパーカーを着たOLに、いったいどんな価値を見出したと…


あっ。

思い出した!

この人、確かさっきのパン屋さんで入れ違いになった人だ!!


いやちょっと待て。あれ異世界よ?いくら何でもそんな事…


「どうも失礼しました」

「えっ?」


感情の爆発が収まったのか、女性はスンとあらたまった。そんな様子に

あたしも慌てて背筋を伸ばす。


「初めまして、えーっと…」

「丑三ツです。名前は丑三ツ智華と申します」

「丑三ツって…丑三つ時の?」

「まさにそれです」


何だろう、この謎の感動は。

こんな遠い異世界で、まさか名字の意味を語る機会が巡って来るとは…


「初めまして、智華ちゃん」


そこで彼女は、嬉しそうに笑った。すぐ隣で、金髪さんも笑った。


「あたしの名前は、荒野拓美」

「拓美さん、ですか」


まごう事なき日本人だった。


「どうぞよろし………く?」


え?

何でいきなり泣き出すの、この人?

もしかして、あたしが泣かしたの?


何で?

何でですか!?


「タカネ」

「うん」

「日本人だってさ」

「そうね」


タカネっていうのか、金髪さんは。

何だろう。

説明が欲しいけど、今はいいや。

だって、嬉しそうだもんね。


拓美さんも、タカネさんも。



午後の喫茶店には、優しい日差しが斜めに差し込んでいた。

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― 新着の感想 ―
あぁー!もう何もいうことはありません、ついに出た拓実ちゃん、タカネ、ローナ、世界は繋がってるんですね凄く論理的です。 もう興奮しまくりです嬉しすぎる泣き虫拓実ちゃん良いねぇーこれって神たくカフェとかも…
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