↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/81

坩堝の街で

騒がしい。


さっきの宿場街とは比較にならない人の数。建物の数。そして混沌。

何と言うか、異世界なのに新宿とかそういうのを想像してしまった。


「賑わってますねー」

「そうみたいね。ビックリした」

「え?…来た事ないんですか?」

「まあね」


いやいや、さらっととんでもない事言ったなリプネリスさん。

仮にも命を預けている身としては、この心許なさは看過できませんよ。



大丈夫かこの人、いやこの女神。


================================


そもそも来た時からして、ちょっと危なっかしかった。

転移で現出したのは、公園と思しき場所。普通にひと目がありました。

怪訝そうな顔をされたけど、そこは引きつった笑顔で何とかごまかして

足早にその場を離れた。さいわい、通報されたりって気配はなかった。

あの反応から察するに、この世界も転移魔術的なものがあるんだろう。

でなきゃ大騒ぎだったと思うし。


「いやあ、失敗失敗」


てへぺろ的に流されたけど、何気にヤバかった気が今さらしてきます。

そうか、来た事ない世界だったからあんな凡ミスをしたのかぁと納得…

してていいのか、この状況で?


「ホントにこの世界ですよね?そのお友達がいるのって」

「いや違うよ」

「へえっ?」


思わず変な声が出た。

え、違うの!?


「じゃあ何しに来たんですか!?」

「買い物」

「は!?」


来た事もない世界で買い物?

大丈夫かこの女神!?


「まあまあ、そんな百面相しなくていいから。落ち着いて、ね?」

「……はあ、い」


さぞかし百面相してたんだろうな、今のあたし。だけど無理もないよ。

こんな曖昧な話を異世界の、それもこんな混沌とした街で聞かされたら

パニクるのは当たり前ですって!


「来た事はないけど、どういう世界なのかはあらかた聞いてるって事。

まあ要するに、その友達から買物を頼まれて来たって話なのよ」

「あー……はい、なるほど」


落ち着いたけど、同時に呆れた。

つまり、異なる世界をまたぐ壮大なお使いを頼まれたって事だろうか。

そんなお使いを転生の女神に頼める友達って、どういう立場の人だろ。

要するに柳橋さんみたいな存在か。だけどそんなすごい人が、どうして

あたしみたいなペーペーの人間を…


「さて、んじゃ行こうか。さっさと済ませないとお菓子が悪くなるし」

「あっ、はい。そうですね」


あれこれ考えてても仕方ない。今はそのお使いを済ませるのが最優先。

山ほどある疑問は棚上げにします。もちろん。ひとつだけを除いて。


「それで、リプネリスさん」

「うん?」

「お店は分かってるんですか?」

「大丈夫。ちゃんと聞いてるから、たぶんすぐ見つけられると思う」

「………了解です」


こういうお上りさんみたいな感じ、いちばん不安だなあ。

まあいいや。

どうせなら開き直って堪能しよう。



この騒がしい街をね。


================================


さほど違和感は感じなかったけど、それは前の世界に似てるからだ。

あたしの本来の世界と比較すると、かけ離れたハイファンタジー感。

まさに異世界と呼ぶに相応しいね。


だけどさっきまでの世界とは違い、パッと見では人外を見かけない。

そういう点では、異界感は少ない。露店で売ってる野菜も見ため的には

けっこう普通だ。ホッとしますね。まあこの程度なら、そんなに…


「!?」


目の前を横切る広めの道を、唐突に大きな影が横切った。見た限り、

あれは牛とか馬とかじゃなかった。どう見ても…


「で、でかいトカゲですね」

「………」


高くうわずった声を茶化されるかと思ったけど、リプネリスさんからの

返答がない。チラと目を向けると、あたし以上に硬直しているらしい。

え、もしかして…


「…あの、リプネリスさん?」

「……ビックリしたぁ……」


あたし以上に声が裏返ってますね。


「もしかして、トカゲ苦手ですか」

「はい」


いや「はい」って。

…女神と言えど苦手なものがある。何と言うか、想像もしなかった。

逆にこっちは落ち着けました。


確かに恐竜みたいなサイズだった。でも見た限りでは、あの大トカゲは

きちんと飼いならされた家畜っぽい雰囲気だ。怖がるほどのものでは

ないのかもね。ビックリしたけど。


「行きましょうか」

「う、うん」


すっかり腰が引けてる女神さま。



何か、ちょっと嬉しくなりました。


================================


気を取り直して、お店を捜し中。


リプネリスさんいわく、先の世界のお菓子は純然たるお土産らしい。

先方も知らないだろう銘菓だから、持参しようと予定していたとの事。

で、今探しているのは頼まれた方。かなり具体的なローカル店らしい。

違う世界からそんなピンポイントの買い物しに来るって、さすが女神。

慣れてきてる自分も怖いけどね。


それにしても、実にカオスな街だ。

あまり具体的な事は判らないけど、多国籍だってのはひと目で判る。

人外こそいないものの、肌の色とか顔立ちとか、とにかく多種多様。

国境が近いとか貿易が盛んだとか、何しろそういう条件がありそうだ。


ほとんど海外旅行した事がない身としては、どこまでも新鮮ですね。

いや異世界行きまくってる奴が何を言ってんだって怒られそうだけど、

それとこれとは別だ。お仕事でも、ここまで騒がしい街に来た事なんて

ありませんからね。


ってか、ホントにお店見つかるの?

リプネリスさんも万能じゃないって事は、ここに来て実感しっ放しだ。

命運を預けている身としましては、一刻も早く目的を…


「あ、あったあれだ!」


おおっと!やっと見つかりました?

ええと、どれどれ何のお店…


「パン屋さんですね」

「そう」

「そうだったんですね」


…思ってたより普通の業種だった。あえて訊いてなかったんだけど。

いや、ガッカリするのは失礼だね。もしかして、アブスコーラ製菓の

お菓子並みに凄い美味だったり?


「とりあえず、ここでお昼ご飯分のパンを買っていくよ」

「あ、お昼ご飯なんですね」

「そうそう。んじゃ行こう」

「はあい」


…そんな有名店とかじゃなさそう。あんまりハードル上げずに行こう。


カランカラン。


入口の扉を開けるとベルが鳴った。おお、こういう部分はどこの世界も

同じなんだね。ちょっと感動する。買い食いは滅多にしないからなあ、

どこの世界に行っても…


「いらっしゃいませっ!」


元気な声でお迎えしてくれたのは、5歳くらいの女の子だった。

幼いながら、制服らしきベージュの出で立ちが何とも様になっている。

お店の人のお子さんかしら。いやあ癒されるなあ。


「こんにちは」

「こんにちはっ!」

「ええと、ご主人いらっしゃる?」

「少々お待ちくださいませっ!」


リプネリスさんの質問に、いちいち直立不動で答えるちび店員ちゃん。

踵を返してぱたぱたと厨房の中へと駆け込む後ろ姿が、実に愛らしい。


「おとうさぁん!」


元気なその声を聴きつつ、あたしはリプネリスさんに問いかけた。


「店のご主人に用ですか?」

「いや、確認したいだけ」

「確認って?」

「本当に頼まれたパン屋さんなのかどうかをね。万が一違ってた時は、

適当に買って出るよ。で、狙う店をもう一回探すからね」

「あー…はい、了解です」


なるほど。

わざわざこんな所までお使いに来た以上、間違いはシャレにならない。

だから万全を期す…って事ですね。意外と堅実だなリプネリスさんも。

…もし違ってたら、買ったパン全部ここで食べちゃうんだろうな…


「はいはい、いらっしゃいませ」


ほどなく、手を拭きながら出てきたご店主が、愛想よく挨拶を述べる。


「ええと、初めての方ですよね?」

「ええ。友人から噂を聞きまして」

「噂に上るとは光栄ですねぇ」


何だろう、動じない人だなあ。

控えめに言って、割と尖った格好をした二人なのに。肝が据わってる。


「間違ってたらすみません」


前置きしてから、リプネリスさんはご店主に問いかけた。


「ライゾ・リアーロウさんで間違いないですよね?」

「………」


にこやかだったご店主の顔に、その問いかけでふと影が落ちた。

何だろう、違ったのかな。だけど、ただの人違いにしては反応が…


「…どこでそれを?」


あ、やっぱり本人だったのか。

でも明らかに、名前を知ってる事にいい感情を抱いてないのが分かる。

…………

大丈夫だろうか、このお使い。



すっごい不安になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。