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その力で何を望むのか

「じゃあ、これからあの街に戻って報酬を受け取るんですか。それ…」

「いやいや、怪しまれるよ。なんせさっき登録したばっかりだから」

「あ、そう言えばそうか…」


そうだった。

色々感覚が盛大にマヒしてるけど、あたしはついさっきまでGランクの

ザコだったのである。それがこんな依頼をマッハで達成なんて、いくら

同伴者がAランクでも変だろう。

この世界の常識で見れば、やっぱりあたしたちはチートなんだから。


だけど、じゃあ実際どうするの?

お金をもらわないと、ここでやった事の意味が…


「現代人はやっぱキャッシュレス。常識でしょ!」

「は?」


嫌な予感。

そしてマッハで的中。



柳橋さんがにこにこしながら懐から取り出したのは、スマホだった。


================================


ピロン!


馴染みのある音と共に、アプリ画面にあるインジケーターが動いた。

間違いなく、ロックサイクロプスの討伐報酬の金額だ。要するにこれ、

スマホ決済で報酬を受け取ったって事なのだろうか?


世界観が根こそぎ台無しだよ!


「まあまあそう言わないで。これはあくまでも、世界を管理する神様が

運営してるアプリだから。もちろん現地の社会では使われていないよ。

あたしたちみたいな存在が使うってだけの話だから」

「うーん…それは分かるんですが…なんか納得いかないなぁ…」

「いいよ、今はそれで」

「え?」


いいんですか?

変にこだわってるだけという自覚はあるんですが…


「納得なら、これからしてくれればいい。今日はホント初めてだから、

そんなもんでしょ。むしろ最初から何もかも受け入れるような人だと、

来てもらった意味が無いしさ」

「………………」


ああ、そう言えばそうだった。

面接の際、ボケかツッコミかと質問された意味がやっと少し分かった。


中世ファンタジー風の異世界の中でスマホ決済なんて、違和感の塊だ。

だけど、それを言ったらついさっき自分の転生を思い出したあの男性も

大概だろう。与えられたその力は、もう神の領域に片足突っ込んでる。

あたしたちは彼と違い、この世界に腰を落ち着ける存在じゃない。

とすれば、人との接触は可能な限り避けるべきだ。もう帰るんだしね。

そういった点をスムーズに進行するために設けられてるシステムなら、

大いに活用すべきなんだろう。


だけど、最低限の疑問は持たないといけない。それも確かな話だ。

そういうものですか、便利ですねとあっさり受け入れては、それぞれの

世界にあるはずの常識をあっという間に見失ってしまう。当たり前の

形は様々。超えてはいけない一線もおそらく、たくさんあるんだろう。



うん、慣れていこう。


================================


というわけで、問題なくトラックの待っている場所に転移魔術で帰還。

2度目にしてもう慣れている自分がちょっと怖いけど、まあいいよね。


「お疲れさまです」


玉見さんはずっとマンガ読みながら待っていたらしい。マイペースだ。

この人らしいんだろうな、たぶん。


「お疲れ。んじゃ帰ろっか」


これまた気楽な感じで、柳橋さんがそう告げる。やっと帰れるのか…

そのひと言を耳にした途端、どっと疲れが出てきたような感じがした。

とにかくトラックの荷台に三人して乗り込み、着替えもせず席に着く。


「よろしくねー」

「了解です。じゃ出発しますんで、後はゆっくり休んでて下さい。あ、

お土産話もよろしく!」


そんな言葉を柳橋さんと交わして、玉見さんはトラックを発車させた。

憶えのあるエンジンの音と振動が、何とも言えない安堵感を醸し出す。

ファンタジー衣装のままというのが違和感バリバリだけど、さすがに

今はどうでもいいやって感じだ。


「どのくらいかかるんですか?」

「帰りは1時間くらいよ」

「なるほど」


物理的な距離なのか、次元を超えるプロセスの問題なのか。そのへんは

説明を聞いてもあんまり分からない気がする。だから受け入れるだけ。


ギュイン!


おっと!

次元跳躍のあの感じが来た。確かに強烈な方の感触だったけど、早くも

慣れてきてる自分がいる。いやはや人間の順応力ってすごいなあ。



安全運転でお願いしますね。


================================


トラックの荷台で揺られる1時間。もちろん外も見えない。おそらく、

ちょっと理解し難い空間だと思う。…つまり、それなりに退屈です。

という事で、今のうちに柳橋さんに訊きたい事を訊こうと思い至った。

しかし、現時点で浮かぶ疑問を全てぶつけてたら1時間じゃ足りない。

だからこそ、もっとも気になってる事だけをチョイスした。


「ちょっと訊いていいですか」

「何ざましょ?」

「ええと…あの転生者の事です」


変に拍子を外されたけど、気にせず遠慮せず口にした。


「ああうん。彼がどうしたの?」

「さっき、あたしはSSランクって設定にしてましたけど、あの人は

実質的にもっと強いんですよね」

「そりゃもう。元の世界を根こそぎ改変し得るエネルギーを、一個人が

全て自分のものにしたんだからね。まあ多少の減衰は生じたにしても、

SSなんて常識の範囲内じゃない。それこそ世界を滅ぼす魔王レベル」

「やっぱり……」


確かにそれがテンプレだろうけど、本当にいいのかと思ってしまう。

さっきの戦いの際は、我が身ながらその規格外の強さにビビったのに。

あれを遥かに超える力を持つ外来の存在って、途方もないリスクでは?


「確かに彼が本気になれば、世界を自分のものにする事だって可能よ。

気に入らない存在は、指先ひとつで瞬殺。止められる人は、少なくとも

あの世界には一人もいない」

「だけどそれは、元の世界の崩壊を止める代わりに、原因を他の世界に

押し付けるだけじゃないんですか。問題の解決にはならないと…」

「いいねえ丑三ツちゃん。初めての本格業務だったのに、もうそこまで

突っ込んだ懸念を口にできるのは。さすがは宵子ちゃんの姪だねえ」


いささか詰問口調になったあたしに対し、柳橋さんは嬉しそうに笑う。

ちらと視線を向ければ、剛守さんも同じように笑っていた。

いや、評価が高いのは嬉しいけど、やはり最低限の納得が欲しいと…


「だけど、まあ心配はないよ」

「どうしてですか」

「それほどの力を持った転生者が、それを使って何をすると思う?」

「え?…えーと…」


つまりテンプレはどうなのかという問いか。そういう場合、主人公は…

…………………………………


「…冒険者登録をして、魔物討伐で認められて。女の子の危機を救って

一緒にパーティーを組んで、あとはモテモテのハーレムライフを…」

「うんうん、分かってるじゃない」


ますます嬉しそうな柳橋さん。いやこれで正解なんかい。


「結局、そういう事なのよ。現実の世界でもね」

「え…って事は、あの人も?」

「彼に、世界を滅ぼしたりとかいう衝動があるように見えた?」

「いえ全然」

「そもそも、そういうヤバい衝動を持ってる人がモエビトになる事は

ほぼない。それを受け入れる余地がないからね。むしろそういう人は、

モエルギーを自分で生み出す方よ。前に言ったけど、受け入れる人は

どっちかというと空っぽな性格」

「…………………」


そういや言ってたっけ、そんな事。失礼な形容だなーと思ってたけど、

むしろそれは世界のバランスを保つ安全システムみたいなものなのか。


確たる信念とか大きな野望とかを、いっさい持っていない無味な人物。

そういった人が大きな力を得ても、大した事はしないし思いつかない。

それこそSSランクでできる事を、普通にこなして満足するってだけ。

明確な目標もなく、ごくごく平凡な最強ライフを満喫していく。

………………


確かに、それでいいとも言えそう。

世界をどうこうしたいなんて発想、よほどの大物か過激思想の持ち主で

ないと出てこないだろう。あの人がそうだとは間違っても思わない。

世に溢れる最強主人公の冒険譚も、やってる事自体は実にささやかだ。


「ま、それが虚構の創作であろうと現実の人間であろうと同じなのよ」


肩をすくめた柳橋さんが、あたしにそう告げた。


「世界規模の展開なんて、そうそう思いつくもんじゃない。世界って、

そう簡単に全容を想像できるようなスケールじゃないからね。だから、

持っている力が大きいってだけじゃ問題はそう起こらないよ」

「でしょうね、うん、確かに」


あたしも同じように肩をすくめる。とりあえず、納得できちゃったよ。


世界を変えられる力を、チマチマと使いつつ充実の転生ライフを送る。

うん、実に結構じゃないか。それで本人が満足するなら何も問題ない。

物語ではなく現実の事なら、むしろ非常に好ましいバランスって事ね。


いやあ、よく出来てるもんだなあ。

うん。


================================


「そろそろ着きますよ」


玉見さんのそんな言葉が聞こえた。

いやあ、長い一日だったなホント。


「やっていけそう?」

「はい」

「それはよかった!」


柳橋さんと一緒に、あたしも笑う。



さあ、明日からもお仕事頑張ろう!


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