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倒せロックサイクロプス

学生時代はワンダーフォーゲル部で汗を流していたあたし。…それほど

熱心だったってわけじゃないけど、おかげで山歩きは得意になった。

社会人になりブラック企業で心身をすり減らしたけど、それでも体力は

そんなに落ちていなかったと思う。


だけど今。

ここまで何の苦もなく道なき岩山をひょいひょい登攀できているのは、

決してそんな昔取った杵柄とかじゃない。明らかに身体能力そのものが

劇的に向上してる。自分の事だからハッキリと確信が持てる。



いやあ、凄いなこのチート仕様。


================================


さて、ロックサイクロプスとやらはこの岩山に棲息しているらしい。

いつもは人里に下りてきたりしないけれど、時々どういう訳か個体数が

目に見えて増加し、それが食べ物や縄張りを求めて街を荒らすとか。


なるほど、ちょっとクマに似てる。脅威と認定されるのは、あくまでも

こんなイレギュラーな事象に限る…という事だろう。バランスは大事。


さて、じゃあどこにいるか調べ


ドッゴォォォォォォォォォン!!



避ける間もなかった。

不意に妙な影が落ちたと思ったら、次の瞬間には攻撃されていた。


================================


「う…あぁビックリした」


何とか立ち上がる。さいわいケガをした感じはない。…それにしても、

本当にいきなりだったなあ。


挿絵(By みてみん)


舞い上がった土煙が晴れると共に、目の前の崖の上に並んで立つ異形が

姿を現す。うん、まごう事なき岩石サイクロプスだ。しかしデカイな。

ええっと…とりあえず、4体いる。あたしはどれと戦えばいいんだろ。

そもそもどうやって…


「丑三ツちゃん」

「は、はい!?」

「倒すべき最低数がちょうど4体。幸先いいよね」

「え?…ええ、まあ」

「じゃ、あなた2体ね。あたしたち1体ずつ倒すからさ」

「え!?」


何であたしが2体と問う間もなく、柳橋さんと剛守さんが武器を抜いて

それぞれの相手に向かっていった。申し合わせたように、残りの2体が

まっすぐあたしに突進してくる…!何この出たとこ勝負!ブラックだ!

あたしがどうなってもいいと!?


ネガティブな思考を巡らせる間に、もう最初のロックサイクロプスが

目の前に迫っていた。ああもう!!だったらやるしかない!!…って、

具体的に何すりゃいいの!?


「……砕けろッ!!」


バガアァァァァァァン!!


最初の時とは違う、明らかに何かが砕ける音が空気を震わせた。


================================


思わず閉じてしまった目を、そっと開ける。敵前で目を閉じるって、

もはや致命的ミスなのでは?という思いが今さら胸にこみ上げ…


「……あれっ?」


視界いっぱいにのしかかっていた、ロックサイクロプスの巨体がない。

あの一瞬で逃げた?一体どこに…


「ん?」


よくよく目の前を見てみる。大きな岩と思っていたそれは、形から見て

ロックサイクロプスの腰から下だ。腰巻がかろうじて引っ掛かってる。

…え、ちょっと待ってよ。まさか、あの一瞬でホントに砕けたっての?

呪文詠唱でも何でもない、あんなに適当なあたしのデタラメ攻撃で…?


ドォン!

ドォン!


重厚な音が連続で響いた。どうやら柳橋さんたちがそれぞれの受持った

ロックサイクロプスを撃破したって事らしい。視線を向けると、確かに

二人の目の前で岩の巨体がボロボロ崩れるのが見えた。そうかやっぱり

あんな風に崩れるんだ…。


「グオッ!!」

「え!?」


低い吠え声に慌てて視線を戻すと、確かあたしの受け持ちになっていた

いちばん色の濃い個体が、岩伝いに飛び跳ねて逃げようとしている。

もしや、あたしに怖れをなして…?いや、いくら何でもそれは…


「逃がしちゃダメだよ!」

「え?あっ、ハイ!!」


そうだった。とにかく仕留めてから考えよう。ええと…いいや適当で。


「火炎弾!!」


ドォン!!


いま思いついた魔術を叫んでみた。かざした杖からノータイムで出た。

まさに火炎弾。反動が凄い。そしてそれは、無防備な背中を晒し逃げる

ロックサイクロプスを一瞬で捉え…


ドオォォォォン!


「うわぁー…」


引いた。

ドン引きした。

いや、自分でやった事なんだけど。


見事に、上半身に大穴が開いてる。それも力任せに砕いたんじゃない。

高熱で岩を一瞬で溶かし、そのままきれいな円形をくりぬいたらしい。

ちょっと煙が上がってるよ。


数秒後。


ガラッ!!


前衛芸術のようなバランスでなおも立っていた骸が、乾いた音を立てて

崩れ始めた。そのまま大穴を避けるようにして、原形を無くしていく。

頭から腕。そして足。最後に胴体。崩れ落ちたその体は、もはや周囲の

岩と区別がつかない。腰巻だけが、かろうじて残滓となっていた。


…え。

これで終わりなの?


「スゴイねえ、丑三ツちゃん」

「お疲れさまです」

「いや、あの…」


勝算も労いも違和感しか生まない。こういう時、何て言えばいいんだ?

ええっと…そのぅ…


「あたし何かやっちゃいました?」


…………………


ああっ、違う!



これじゃない!!


================================


「別に意外でも何でもないよ」


あたしが最初に攻撃を受けた場所に立ち、柳橋さんが事もなげに言う。

気付いてなかったけど、その場所は歪なクレーターになっていた。

ここまで地面が抉れてるのに、何であたしには傷のひとつもないんだ。

…と思ってはみたものの、さすがにその答えには自力で辿り着けます。


要するに、これがSSランクだって事なんでしょうね。


「ロックサイクロプス討伐は、推奨Aランクの依頼。もちろんかなりの

難度だけど、頑張ればBランクでもどうにか達成できるってレベルよ」

「なるほど…」


やっぱりそうなのか。って事は…


「能力が数値化された世界はシビアだよ?ましてやSSともなればね。

言っちゃ何だけど、丑三ツちゃんがここであいつら相手に苦戦するのは

どう頑張っても無理だったって話」

「…………………」

「ま、何事も最初はこんなもんよ。慣れていけばいいからね」

「…了解です」


そう言えば、二人はAランク登録をしてたんだっけ。だからそれなりに

まともな戦いになってたんだろう。それに比べてあたしの有様は何だ。

もうちょいバランス考えなさいよ。こんなんじゃ…


「ホラホラ!!暗くなる必要なんて何ひとつないからね!依頼は達成!

あとは賞金もらってオサラバよ!」

「ですよね!」


気を取り直して勢いよく答える。

柳橋さんも剛守さんも笑ってるよ。


あちこちがお粗末だったけど、まあ最初なんて本当にそういうものだ。

まずは成果をしっかりと誇ろう!!



…慣れてきてる自分が、少し怖くて。



そして、何だか頼もしかった。

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