超・お手軽ランクアップ
キュイィィィィン!!
形容しがたい音と発光エフェクトが一瞬で収まり、足元に描かれていた
魔法陣も消える。と同時に、周囲の光景が全く違うものになったという
実感が、遅まきながらやってきた。
転移魔法だ。
紛れもない、瞬間移動テンプレだ。
「えーと…うん、間違いないわね。タラトナの谷の入口」
「正確ですね、丑三ツさん」
「ええ…その…どうも」
どうやら目的地の手前に転移できたらしい。称賛の言葉が、どこまでも
違和感しか生まない。って言うか、実感ってものがまるで湧かない。
そう。
たった今成された転移魔法は、このあたしが行使したものなのである。
数分前まで、魔法のマの字も知らぬOLだったはずのあたしが。
展開が速過ぎて追いつけない!
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ライセンスカードの表面にあった、あのQRコード。そして支給された
社用スマホ。その時点である程度は予想が出来ていた。そしてそれは、
ほぼ的中していた。
ここまで揃えばもう、あれこれ説明してもらう必要もない。とりあえず
スマホでQRコードを読み取った。『認証しました』との音声ガイド。
さて、何が出てくるか……………ん?
「これって…」
「見たら大体分かるでしょ?」
「ええ、まあ分かりますけど」
画面に表示されたのは、紛れもないライセンスカードの記入項目だ。
そのままの表記があるんだけども…いや…これ、入力できたりするの?
まさかここのタップ操作で?
「一応ちゃんと説明しておくけど、そのQRコードは転生の女神たちが
統一の規格として設定したものよ」
「…つまり管理する異世界の中で、何か特別な事をする時に使うと?」
「やっぱり理解が速いねえ」
「そりゃあ、ここまで聞けば」
うん、想像くらいは出来ますとも。
あらためて考えるまでもなく、この世界であたしたちはイレギュラーな
存在だ。ある意味、転生した人よりよっぽど異端な存在なんだろう。
この世界に、QRコードリーダーが存在してないって事くらい分かる。
それこそ、世界を管理している神が使うためのものなんだろうってね。
その上でこの操作画面。って事は、たぶんこのパラメータを自分の手で
書き換えていいって話なんだろう。いやそれ、究極のチートなのでは?
「いや、これはチートと形容すべき仕様じゃないよ」
柳橋さんは、怒る風もなく言った。
「そもそもチートってのは「反則」って意味だからね。少なくとも今、
ここにあるコードは世界の管理者が創ったものだし、あたしたちには
それを操作する権限が限定的ながら与えられてる。つまり正規使用ね」
「うーん…まあ、それでいいなら」
屁理屈のような気もするけど、実際「チート」かと言われれば否だね。
そもそも規格外の力をそう形容するのは変な使い方だし、正規使用だと
断言できるなら疑うのはやめよう。逆に失礼だし。
…という事で、最底辺だった自分のパラメータを入力で変えましょう。
とりあえずこのGランクってのを、もう少しマシにする。どうせなら…
「お、SSランク行っちゃう?割と思い切りがいいね丑三ツちゃん!」
「いいんですよね、これ?」
「もちろんいいよ。あくまでも今の滞在時に限ったランク操作だから。
さすがに転生者と同レベルってのは無理だけどね。」
「そこまで無茶は言いません。ただ臆病なだけです」
「なるほどね」
そうなんです。
いくら状況に慣れてきたとは言え、魔獣と戦ったりするのはまた別だ。
怪我したり死んだりしたらどうにもならない。何しろ初めてなんだから
このくらい堅実でもいいでしょう。って事で、SSランク確定!っと…
ギュイン!!
「え!?」
一瞬だけ全身が発光し、内的な力がドンと宿ったのを感じた。手にした
ライセンスカードを見ると、全てのパラメータが最大値になってるよ。
つまり今のあたしは、この世界でも屈指の実力者になったって事なの?
…スマホでQRコードを読み込んだだけなのに?
いやあ、お手軽だなあ。
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そんなわけで、いざ討伐依頼。
と言っても、さっきの冒険者ギルドでそれっぽい依頼を調べた様子は
ない。街からも出てしまっている。じゃあどうやって依頼を受けるの?
「今どきは何でもコレよ」
そう言った柳橋さんが、おもむろにスマホを取り出して何やら操作。
ちょっと見せてもらってたまげた。…いやこれ、インターネットでは?
「そう、まさにインターネットよ」
柳橋さんは嬉しそうに見えたけど、あたしはさほど感動はなかった。
これまた世界観に合わない要素だ。もちろん誰も使ってないだろう。
非常識な話だけど、面倒な手続きをしなくていいなら大助かりです。
「あったあった。タラトナの谷に、複数のロックサイクロプスがいる。
まだ近隣の街まで行ってないけど、時間の問題だから討伐するってね」
見せてもらうと、確かに求人サイトみたいなページに依頼一覧がある。
…うーん、とことん世界観台無し。便利だとは思うけど、これじゃあ…
「よしよし。まだ誰も依頼を受けてないみたいね。じゃあ受理!っと」
「え!?」
リストの端の欄に「受理」の文字がついた。いや、そんなポチひとつで
受理まで出来るの?命がけの仕事のはずなのに、やってる事はネットの
通販とあんまり変わらない気が…!
「便利でしょ?」
「便利ですね」
そこに異議は何ひとつありません。
じゃあ、まあいいか。
「タラトナの谷は南西らしいです。ここからかなりありますよ?」
「そうみたいね」
剛守さんのその言葉に、柳橋さんはスマホ画面を確認して答える。
たぶんマップが出てるんだろうな。
「え、じゃトラックで移動ですか」
「そんなまどろっこしい事しない」
マッハで即答された。それじゃあ、どうやって…
「あなたが転移で連れてってよ」
「は?」
あまりにも意想外の事を言われた。いや、あたしがどうしてそんな事…
「転移魔術なんて、この世界基準で言えばAランクでも使える代物よ?
SSランクの魔術師様ともなれば、朝飯前って感じでしょ」
「ええー…」
実感湧かない!
確かにあたしは魔術師として登録をしてるけれども、そもそも魔術など
何にも知らない身だ。それを…
…………………………………いやちょっと待って。何だこの変な感じ。
今まで知らなかったはずの知識が、どういうわけか当然のように意識の
中に存在してる。一体どうして…?
などと考えるだけ無駄だ。何たって今のあたしは世界最高ってレベルの
魔術師(という設定)なんだから。出来ると信じてとっととやるのみ!
「じゃあ行きます。タラトナの谷の手前でいいんですよね?」
グォン!!
「お、頼もしいね。じゃよろしく」
「よろしくお願いします」
告げると同時に足元に出た魔法陣。無詠唱でいいんですね助かります。
迷わずそこに乗るお二人も、大概にガンギマリですね。まあいいけど。
よぉーし、じゃあレッツ転移!!
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…って事で、現在に至ります。
地道にランクを上げている真っ当な魔術師さんには、誠に申し訳ない。
スマホを操作しただけでこんな事が出来てる自分が、何だか怖いよ。
出来ないかもと思わない、潜在的な自意識もまたとんでもないですね。
とにもかくにも、討伐依頼を受けて現地まで来たって事でよろしいか。
15歳になった転生サラリーマンは今頃ハッスルしてるんだろうけど、
こっちはこっちでお仕事タイムね。
「じゃ行こうか、二人とも」
「はい」
「了解です!」
よっしゃ。
ロックサイクロプスって事は、岩でできた一つ目の巨人とかだろう。
ネット検索すれば出てくるんだろうけど、今はそんな無粋はしません。
冒険者として、未知に挑んだるぞ。
さあ、お仕事だ!!
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