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機械じかけのお菓子

現地の人とのコミュニケーションが取れた事自体は、悪くないけど。

結果的にヨークさんたちがすぐ傍に留まる事態になり、余計に居心地が

悪くなってしまった。今になって、ここの人たちが何で集まっているか

知らないとは間違っても言えない。何だろう、この無駄なアウェー感。

何でもいいから早く来てくれ。


そんな雑な願い事は、しばらくして叶う運びとなった。


================================


キュイン!!


何となく覚えのある感覚が頭上から届き、西の空の上に歪みが生じる。

周囲の人たちの視線が、一斉にその歪みの方に向けられた。…え、何?

いわゆる転移術だろうと思うけど、見た感じかなり大きなモノが空中に

現出しつつある。ああ、こういった術なんかもアリなんだなこの世界。


しかし大きいな。しかも浮いてる。何ともファンタジーな光景です。

見とれているうちに、それは大きな船となって結像していた。ああ、

なるほど空飛ぶ船ね。そっち系ね。うん、なかなかカッコいいなあ…


「丑三ツちゃん」

「はい?」

「変だと思わないの、あれ?」

「え?いやカッコいいなぁと…」

「やっぱり日本人だねえ」

「?」


意味ありげに笑うリプネリスさん。何が言いたいんだろ。船が空を…


あ。

そうか。


船が空を飛ぶって、非常識じゃん。あり得ない事じゃん。それなのに、

ああそっち系ねと納得してるって、客観的に見て明らかに変でしょう。

幽霊船だザイダベックだヤマトだと創作上の空飛ぶ船に親しんだ結果、

現実で見ても驚かなくなっている。エンタメの功罪と言うべきなのか。


日本人という形容が、何とも言えぬ説得力を生み出している。

いやはや、何だかお恥ずかしい。


益体もない事を考えている間にも、当の空飛ぶ船は少しずつ接近する。

どうやら広場の空きスペースに着陸するらしい。なるほど。という事は

役場も許可してるって事なのかな。…あれが下りて来てもOKなの?

大らかと言うか何と言うか。いや、許可を出すだけの価値があるのか。

それって一体…


そうこうしてる間に、船は見上げる視界いっぱいになっていた。んで、

速度を相殺してゆっくり降下する。揚力で飛んでるわけじゃないのね。

まあ当たり前だけど。あ、船側部に何か書いてある。異世界言語解読の

アプリで読んでやれ。ええーっと…



「アブスコーラ製菓」で合ってる?


================================


ギュゥゥゥゥゥ………ン


投錨する事もギアを出す事もなく、船は地面からほんの少し浮いている

状態で停止した。なるほど完全には着陸しないのね。科学的にはかなり

難しい制動だろうけど、何かしらのファンタジー機構を使っていると…


………

何だこのいい匂いは。

もしかして、この船の中から…


「はあい皆さんお待たせー!!」


突然そんな大声が船の中から響き、思わずビクッと跳び上がった。

同時に、船の周囲にいた子供たちがワッと元気な喚声を上げて群がる。

船側部がメカニカルに展開すると、そこは紛れもないお菓子屋さん。

おお、変形要素もあるのかこの船。ロマンの塊ですねと日本人は思う!

キッチンカーに発想は近いけれど、規模もカッコよさも桁違いですね。


ガチャン!!


金属の扉が開き、中から現れたのは薄い金髪の美人さんだった。何だか

ちょっと雰囲気がリプネリスさんに似てる。笑顔の圧が強いところも。


「こんにちはー!」

「こんにちはノンドさぁん!」


よく通る挨拶に、子供たちの返答が綺麗に重なった。おお、教育番組の

歌のおねえさんみたいだ。ええと、ノンドさんだっけ。


「それじゃあ、開店でーす!!」


ノンドさんの宣言と同時に、新たな歓声がわあっと湧き上がった。

さらに展開した店舗の側面部から、たくさんのお菓子が並ぶテーブルが

ぎゅいんぎゅいんと伸長していく。どんなメカフェチが作ったんだろ、

あのギミック。あれ見てるだけでも退屈しない…


うおぉぉぉォ何だこのいい匂いは!鼻腔を突き抜けて脳まで響く!!


「丑三ツちゃん」

「へぁっ?」

「よだれ垂れるよ」

「え?ああっ失礼しました!」

「いいのいいの。初めて来た時は、あたしもそんな顔になってたから」


そんな顔ってどんな顔ですか!?

まさかお菓子の匂いごときでこんな醜態をさらすとは…


「よーし、並べ並べ!!」


と、ようやく停止したテーブル群の奥から、いきなりノンドさんと違う

しわがれた声が聞こえた。そして、明らかに人外と思しき小柄な老人が

現れ、台に乗って手をかざす。


「数は揃っとるし、追加でも焼く。だから行儀よく並べ!!いいな!」

「はあーい!エゴイおじいさん!」

「伸ばすな!おじさんと呼べい!」

「はあ――――――――い!」

「伸ばすなと言っとるじゃろが!」


そこでどっと笑いが起こった。あ、これ多分鉄板ネタなんだろうな。

思わずあたしも笑ったし、傍らではヨークさんも馬鹿笑いしていた。


そうか。

ここの人たちは、このお店の開店を待ってたって事か。…何と言うか、

エンターテイナーという感じです。ノンドさんの底抜けの朗らかさも、

エゴイさんの独特のキャラも。


やがて場に集う人たちは、ワイワイ言いながらずらりと4列に並んだ。

まさに繁盛店の様相だ。と言うか、あんな行列を二人で捌けるのかな。

1列じゃ埒が明かないだろうけど、さすがに4列のレジなんて…


「…おお?」


よく見てみれば、テーブルの前面にマニピュレーターみたいな「腕」が

据え付けられている。それも8本。それらがロボットアームよろしく、

注文のお菓子をぎゅいんぎゅいんと器用に摘み上げて袋詰めしている。

…いや、技術水準バグってません?


「何ですか、あれ?」

「魔鎧装の技術転用だって」

「マガイソウって?」

「いわゆるパワードスーツ」

「へえー…」


リプネリスさんはとりあえず疑問に答えてくれるけど、ワケわからん。

ファンタジー系の世界っぽいのに、どうしてあんなロボットが、それも

お菓子の移動販売に…


いや、そんな事は今どうでもいい!


「とにかく並びましょうよ!」

「いや、まだ早い」

「え?」

「そうそう、まだ早いよ」

「そ、そうなの?」


何かしら悟ったようなヨークさんとクレオ君の言葉に、あたしは思わず

店の方に向き直る。いや、あの調子だとすぐ売り切れてしまいそうな…


「最初にエゴイさん言ってたよね?あらかた売れたら追加で焼くって。

むしろ狙いはそっち。じっと待って焼きたてを狙う。それが通なのよ」

「はあー…」

「うん、ここは通に倣いましょう」


リプネリスさんが、そう言いながら傍らの木のベンチに腰を下ろした。

何となくあたしも隣に座る。なお、通の二人は腕組みして直立不動だ。

何でも究める道はあるんだなあ。

……


いや、これ待つのキツイっすよ。

匂いだけ容赦なく流れてくるのに!



平和な異世界の午後だった。

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