女神さまとの休日
いい天気だ。
先週の日曜は、異世界ミナの救出に奔走していたっけ。…何だかもう、
かなり過去に思える。この一週間はけっこう平穏だった。ミナに仕事を
依頼する事もなかった。正直言って助かった。勝手かも知れないけど、
少なくとも今週はあまり顔を見たくなかったから。
…うん、勝手だね。
頼まれてもいないのに彼女の世界を探して、その結果にガッカリして。
挙句顔を見たくないなんて、彼女が聞いたら間違いなく怒るだろうな。
何やってんだろうとは思う。
独善と言われれば反論できないし、自己満足と言われても同じだろう。
だけどどうしても、ご家族の心情を思うと割り切る事ができない。
だからこそ、休日を持て余してる。
柳橋さんやリプネリスさんからの、か細い手がかりの連絡を待ってる。
何やってんだろうなあ、あたし。
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そろそろお昼の献立考えようかなと思い、のろのろとソファーの上で
身を起こしたその時。
ピンポーン!
チャイムが鳴った。
あれ珍しいな、休日なのに。何か、急ぎの宅配とかだろうか。ってか、
もしかして何か頼んだの忘れてた?そこまでボケてたかしらあたし?
履けなかったスリッパをあきらめ、あたふたとインターホンに向かう。
「はい、どちらさま?」
『うっしみっつちゃぁぁん!』
「へ?」
間抜けな声を上げた瞬間、あたしはモニターに釘付けになっていた。
どう見ても日本の玄関に似合わぬ、荘厳な出で立ちの金髪美人。
どっから見てもリプネリスさんだ。
いや、何やってんのこの人は!?
…もとい、この女神は!?
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最初から玄関サンダルをあきらめ、転げるようにしてドアを開けた。
いくら何でも、限度ってもんが…!
「はあい、こんにちは!」
そこに立っていたのは
人間形態のリプネリスさんだった。黒髪の美人さんである。
…いや、え?でもさっき…
「あ、あの、インターホン…」
「あー、あの画面にだけ本当の姿が映るようにしたの。びびった?」
「それはその…まあ…はい」
力が抜けてしまった。
何なんだよもう、この人は。
いや、この女神は。
「サプラァイズ。大成功!」
にこやかな笑顔を向けられ。
あたしは。
怒る気にもなれなかった。
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「お邪魔しまーす」
「どうぞ…」
言ってから気付いた。
前もこんな来訪があったなと思ったけど、あれは並行世界の家だった。
つまりリプネリスさんがあたしの家に来たのは、今日が初めてだった!
しまった油断してた!
ってか勘違いしてた!
「あの、ちょっと待っ」
「わー、丑三ツ邸初来訪だ!」
あ、手遅れ。
…まあいいや。
似るなり焼くなり好きにしてくれ!
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「それで今日は、どういった…」
熱いマテ茶を出しながら、あたしはふと口調をあらためた。
「もしかしてまた、ミナの世界が」
「いやいや、今日は違う。あれも、そうそう見つからないからさ」
「…ですよね」
さすがにがっつき過ぎたみたいだ。
いや、これでいちいち落胆してたら身が持たない。もっと割り切って…
「せっかくの休日だし、ちょぉっとお出かけにつき合って欲しくてね」
「お出かけ?」
意外過ぎる言葉に、ポカンとした。女神とのお出かけって、つまり…
「…どこか他の世界にですか?」
「そうそう、話が早くて助かるよ」
そう言いながら、リプネリスさんは嬉しそうに笑った。
「ちなみに、どちらに?」
「実は少し前、友だちとの雑談の中であなたの話題がちょっと出てね」
「お友だち…ですか」
どういう友だちなのかが気になる。…やっぱり神さま系だろうか?
「若くて可愛い日本人の女の子って言ったら、ガッツリ食いついてさ」
「え」
「んじゃ、是非とも連れて来てよ!という話になったってワケ」
「いや、あのう」
「向こうはめっちゃ楽しみにしてるから、もう早い方がいいと思って」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
押しの強い説明を何とか食い止め、あたしはぶんぶんと手を振った。
「日本人ってところはいいとして、そんなハードル上げられると困り」
「いいじゃない可愛いんだし」
「だからッ!」
どう言えばいいんだろうか、これ。
あたしは別に不細工じゃないけど、限りなく地味な見てくれの人間だ。
謙遜でも何でもない。ごく客観的な基準で考えて、納得する結論です。
間違っても「可愛い」と形容すべき人間じゃないんですホントです!!
勝手にそこまでハードル上げられて平気な顔できるほど、図太くない!
「まあまあそこは気にしないで」
相変わらずにこやかな女神。いや、気にしてないのはあんたですやん!
「見た目の話じゃない。とにかく、あなたに会いたいって人がいるの」
「そ…うですか」
「お見合いしろ!とか言ってるわけじゃないし、心配しなくていいよ。
ちょっと茶飲み話したいってだけ」
「…それなら別にいいですけど」
「よし!んじゃ早速行こうか!」
「えっ?」
突然立ち上がったリプネリスさん。…いや、今からすぐにですか!?
「ホラホラ、靴持ってきて!」
「く、靴って…」
つまり外に出ず、このまま室内から異世界へ向かうつもりなのか。
何と言うか、女神だと手順の省略が実にダイナミックで困惑するなあ。
いやいや、そうじゃない。
「あの、出かけるんなら着替えを」
「いいよいいよそのままで」
「それはさすがに…!」
今あたしが着てるの、普段着全開のパーカーである。いくら異世界でも
こんな格好で行くのは抵抗がある。これでも社会人なんですから…!!
「いや、むしろそんな普段着の方が喜ばれるよ。等身大って感じでね」
「………」
等身大のあたしを喜ぶ相手って一体誰だ。正直、想像もつかないです。
だけどまあ、ゴネても仕方がない。リプネリスさんもそんなつまんない
嘘は言わないだろうし。
とにかく、ズボンだけ履き替えた。最低限の外出用ジーンズです。
後はええっと…
「お土産に、駅前でマドレーヌでも買っていきましょうか?」
「あ、それは大丈夫。お土産の類は途中で寄り道して買い揃えるから」
「寄り道?」
「って言うか『寄り世界』だね」
「はぁ…」
つまり目指す世界へ行く前に、また別の世界に寄ってお土産買うのか。
ダイナミックというか何というか、いろんな常識がマヒしてしまうよ。
…何だか、おかしくなってきた。
「お、笑ったね丑三ツちゃん」
「いえ別に」
「んじゃ行きましょう!!」
「はあい」
うん。
もうここまで来たら、あれやこれや振り回されるだけ損ってもんだね。
どうせやる事もない休日。せっかくわざわざ家まで来てくれたんだし、
あたしも明るく臨まないと。
キュイン!!
並んで立つリビングの床に、青色の魔法陣が現出した。そして次の瞬間
視界が真っ白になる。この感覚は、社用車による転移では味わえない。
圧倒的な異世界転移のパワーです。
さあ、まずはレッツ寄り世界!!




