たとえ違うとしても
電話による情報提供を受け、警察が牛込にある雑居ビルに急行。
情報通り、誘拐された少女を発見。同じ場所に監禁されていたと本人が
証言した。同じ部屋で昏倒していた二人の男は、意識を取り戻したのを
確認して連行。主犯格からの指示を受けていた事を認め、逮捕された。
なお、保護された少女も男二人も、誰に何をされたかについての記憶は
ほぼ持っておらず、この場所で何があったのかは現時点では不明。
情報提供の電話番号も、本件と全く関係のない岐阜県在住の高齢女性の
ものと判明。何かしらの方法でその女性の番号を利用したと思われるが
通話履歴もなく、詳細は不明。
イギリスの日本大使館で確保された主犯格は、日本から捜査官が赴いて
早急に取り調べを行う事となった。ただし現状、引き出された身代金の
振込口座のカードを所有していた事など鑑み、ほぼ犯人であると断定。
容疑が固まり次第逮捕し、日本へと送還される見通しとなった。
解決に至るまでの部分に、あまりに謎が多い。それは皆が認めている。
しかし結果的に、他国まで巻き込む危険性をはらんだ事件が早期解決に
至ったのも事実。捜査は継続されるものの、誘拐事件自体は一件落着と
相成った。
保護された少女に憔悴や精神的外傷などの傾向はなく、いたって健康。
家族も警察関係も、ひとまず安堵のため息を漏らしていた。
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シュン!
「戻りました」
「お疲れさまです」
最近では、車内へのピンポイントな転移も出来るようになっている。
我ながら順応が早いなと呆れているけど、これも仕事のスキルだよね。
もうこの点は開き直っています。
運転席の玉見さんは、やはり漫画を読みながら待ってたらしい。この人
ホントにマイペースだなぁ。だけど今日に限っては、割と無理を言って
同行してもらっている。あれこれと文句を言う立場じゃないよね。
「大丈夫でしたか?」
「ええ。ギリギリまで室内にいて、ドアが開く直前に転移で退室です」
「けっこうな数のパトカーと救急車が来てますよね。ここに停めてても
大丈夫かと、ちょっとだけヒヤヒヤしましたよ」
「え?…あ、ちょっと見てきます」
そう言って魔術師モードを解除し、そっと後部ドアから外に出て通りを
窺う。なるほど多くのパトランプが光ってるのが、夕闇の中に見える。
そりゃ大ごとだもん、当然だよね。
「行きましょう。あまり長居すると本当にヤバいですから」
「はい」
確かにおっしゃる通り。もしここで万が一警察に咎められたりしたら、
自分たちの身分が証明できない。
色々な意味で、潮時だった。
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今日の車はライトバンだ。いつものトラックじゃない。…って言うか、
今日の「これ」は業務ですらない。玉見さんに無理を言って、非常用の
社用車を回してもらった。いわゆる特例で、もちろんお給料も出ない。
あたしが来たかったから来ただけ。だから用が済んだらとっとと帰還。
それが鉄則である。
ハッキリ言って、職権乱用だろう。自分でも褒められた事をしていない
自覚はある。それでも柳橋さんに、頭を下げて許可をもらっている。
どうしても来たかったから。
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「丑三ツさん」
「はい」
「丑三ツさん、お人好しですよね」
「やっぱりそう思いますか」
あたしは、ちょっと苦笑した。
誰よりも自分でそう思ってるから。
「確かに。殺されそうになったのに何やってんだろうって、未だに思う
時があります。いくらあの子が」
「いえ、そっちじゃなくて」
あたしの言葉を遮った玉見さんが、初めてこっちに視線を向けた。
相変わらず殺風景な次元跳躍空間。よそ見運転もさほど危険じゃない。
運転を続けつつ、玉見さんは語調を少し低くした。
「本当は分かってたんでしょ?」
「……」
「今回の『真浄寺ミナ』も、あの子じゃなかったって事は」
「………はい」
認めたくはなかったけど。
やっぱり玉見さんはお見通しだ。
さすがは先輩。
ええ、分かってました。
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名前も同じ。
年齢も同じ。
苦労して入手した写真で見る限り、見た目も同じ。
そしてとどめの『行方不明』。
ここまで条件が揃った真浄寺ミナは初めてだった。大いに期待した。
だけど。
いくら世界ごとに「時差」みたいなものがあるのだとしても、さすがに
行方不明になってまだ二日ってのは短すぎる。あたしが出会ってから、
どれだけ経ってるんだって話だ。
この時点でもう、聖女ミナの世界と違うって事はほぼ分かっていた。
赴いたところで、ガッカリするだけだという顛末も予想できていた。
だけど。
たとえ違っていても、ここのミナが行方不明という事実は変わらない。
酷い目に遭っているのだとすれば、知らん顔で忘れるなんて出来ない。
あたしの知ってるミナとは別人だとしても。
異世界転移なんかと無縁の人間だとしても。
助けないという選択は出来ない。
違うと分かっていても。
ガッカリするだけだったとしても。
あたしは、ミナを助けたかった。
そうです。
あたしはバカなお人好しです。
今日までに、何度「真浄寺ミナ」の世界に赴いただろう。
今度こそあの子の世界だと、期待と落胆を何度繰り返しただろう。
柳橋さんは、無理だと言っている。
無限に存在している世界の中から、あの子の世界を探し当てるのは。
人間によって召喚された以上、もう彼女の痕跡を辿る事は出来ないと。
リプネリスさんも無理だと言った。
女神二人から言われた以上、もはやあたしのやってる事はほぼ無意味。
それでも頭を下げて、出来る限りの絞り込みを続けて下さいと頼んだ。
あたしは、あきらめたくなかった。意地と言われれば返す言葉もない。
あの子はもう、割り切っている。
当初は荒れたらしいけど、あたしの下で仕事をするようになってからは
よく笑う。召喚されたあの世界で、それなりに気分良く暮らしている。
決して強がりじゃないという事は、つき合う中でそこそこ確信してる。
でもね。
元の世界にいるご家族が、あの子と同じように割り切っているかなんて
分かるはずもない。家族仲はさほど良くなかったよと本人は言うけど、
そんな本人主観はあてにならない。家族の愛なんて、意外と見えない。
だからこそ、あたしだけはあの子の世界をあきらめたくないんだ。
不可能でも無意味でも、ほんの少し可能性があればあたしは出向くよ。
結果的に今日、あのミナを救えた。
あの子の歩むべき当たり前の人生を護る事ができた。
無意味なんかじゃない。
あたしは、いつかミナの世界を
必ず見つけ出してみせる。
「ま、帰ったら何かおごります」
「ありがとうございます」
あたしは玉見さんに、頭を下げた。
「休日を潰してもらって、ホントにすみませんでした」
「いやあ、家でゲームしてるだけと思えば、よっぽど有意義でしたよ」
顔を上げたあたしの目に、とっても嬉しそうな玉見さんの笑顔が映る。
もうすぐ、いつもの世界だった。
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お母さんもお父さんも泣いていた。
お父さんの涙は、初めて見た。
思っていた以上の大騒ぎだった。
犯人はイギリスで捕まっていた。
あたしのスマホは、話に聞いていたとおり向こうの大使館にあった。
あたしは、何も知らないで通した。
みんな心配してくれた。
病院に三日検査入院した。
退屈でおかしくなりそうだった。
監禁されてた時よりもキツかった。
酷い目に遭わされたけど。
あたしは大丈夫だ。自分で分かる。
だってあたしは、知ってるから。
遠い異世界に、聖女と呼ばれている『真浄寺ミナ』がいるって事を。
恐竜と融合した織田信長を、パンチ一発でノックアウトできる聖女だ。
あたしとそっくりなんだって。
何だか、凄いテンション上がった。
あたしは主人公にはなれないけど。
別のあたしが、それを成している。
そんな話を聞くだけで、自分も少し強くなれたような気がしている。
思い上がりなのかも知れないけど、どうせなら前向きに捉えよう。
もう、あの人は二度と来ない。
だけど、あたしは決して忘れない。
ウシミツさん。
遠い世界のもうひとりのミナ。
頑張ってね。
あたしも頑張るから!!




