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青空の下に

「うわ眩しい!」


長い階段を上がり、ようやく地上に到達した瞬間。

感極まったわけでもないのに、涙があふれて止められなくなっていた。


「結構な闇だったからねぇ」


傍らに立って大きく伸びをしているミナさんは、いたって涼しい顔だ。

いや分かるよ?長い時間暗闇の中にいたから、太陽の刺激が強過ぎて

涙が出るって理屈は。じゃあ、何であなたはケロッとしてるんですか。

聖女だから?


納得いかないなあ、ホント。



ともあれ、やっと戻れました。


================================


「さあて、ここいらでひと休み…と言いたいところだけど」


言いながらあたしを見たミナさんの髪が波を打ち、その体がほんの少し

地面から浮かび上がった。


「とっとと移動するよ、いい?」

「もちろんです」


問われるまでもありません。

いくらダンジョンを抜けたとしてもここは危険地帯だ。魔物が地上まで

追ってこない保障はない。ならば、勢いで移動した方が絶対にいい。


「よーし、んじゃ行こうか」

「あてはあるんですか?」

「上から探すから」

「了解です」


そう答え、傷だらけの荷物を今度はしっかり前で抱え込む。想定よりも

無茶な扱いになってしまったけど、中身は無事だ。ならば行くまで!


「出発!」


ギュン!!


荷物ごと抱えられたと思った直後、一気に視界が上昇した。目の前の

森がどんどん雄大に広がっていく。遠くの山さえも見下ろすアングル。

おお、空を飛ぶってこんな感じか!テンションが上がるぅぅぅ!!


「ハッハーーッ!!」

「何、どうした?怖い?」

「最ッ高でぇぇす!!」

「…それはよかった」


珍しく、ミナさんが引いてますね。申し訳ない、はっちゃけちゃって。

こんな経験ではしゃげるほど、まだあたしは幼いって事なんですよね。

その事実は、前向きに捉えます。


「んじゃ、適当な場所を探して」

「ひと気のない原っぱとかですね」

「そうそうそれ。低速で飛ぶから、あなたが目視で見つけてよ」

「お任せ下さい!」


あはははは、テンション上がるぅ!

日頃は何かと大変だけど、こういう経験が出来るならいくらでも来い!


大いにはしゃぐあたしを抱えつつ、ミナさんは低速で飛び始めている。

上から見るとこんななんだ。何だか鳥、いや神様になったような気分。


「あははははキレイ!こんな景色、夢でも見た事ない!!」

「そりゃ何より」


あ、声で判るなあ。今のミナさん、きっと苦笑を浮かべてるよ。

少しばかりはしゃぎ過ぎてるけど、ちゃんと目的は憶えていますとも。


数分後。


「あ、あそこ良くないですか?」

「どれ?」

「あの四角いののてっぺんです」


そう言いながら指し示した先には、森の中にぽつんと突き出た四角形の

低い塔があった。見た感じ、たぶん人工物だ。緑に覆われているけど。

ひょっとすると、ダンジョンの中の建造物と同質のものかも知れない。

たまにあんな風に露出している事もあるらしいし、間違いないだろう。


「いいねえ、確かに」

「あそこまで深い森のただ中なら、誰に見られませんよきっと」

「よぉし決定!」


ギュン!


「うひわッ!」


いきなりな急降下に変な声が出た。やっぱりミナさんは判断が早いね。

あっという間に四角柱に近づくと、その頂上にふわりと軟着陸した。


「ハイ到着」

「あいてッ!」


降り立った途端にずっこけた。まあご愛敬です。しかし上で見た時より

ずっと広い印象ですねここ。パッと見た感じ、屋敷の庭の三倍はある。

こういうの、何て言うんだっけ…


「ほほう、空中庭園って感じか。」

「そう、それです!」


言いたかったのに浮かばなかった!なんかちょっと悔しい!



まあ、いいや。


================================


やっぱりここは、ダンジョン内部と同じ「遺跡」だったらしい。

コケに埋もれた壁面に書かれている文字を見つけたミナさんは、何故か

爆笑してました。いや、あたしにはまったく読めない文字なんですが。


「いやいや、プライベートネタよ」

「そ、そうなんですね」


聖女として異世界から召喚された人が、どうしてそこまで分かるのか。

疑問は尽きないけど、今はとにかくどうでもいいです。って言うか…


おなか減った!!


================================


「さーて、適当な場所は…」

「とりあえず、あっちの壁ですね」


ミナさんいわく、ここはビルの屋上と呼ばれる場所だったらしい。

意味は分からないけど、とりあえず人工建造物だったのは間違いない。

パッと見は判らなかったけど、中央あたりにも小さな小屋みたいなのが

ある。しかしさすがに崩れかけで、かなりの歳月の流れを感じさせる。

ええっと…


「あ、あった!」


反対側に回ったミナさんの声を耳にして、あたしは慌てて駆け寄った。

そこにあったのは、とっくに朽ちたドアが倒れている内部への入口。

中は階段らしいけど、おそらくその階段もほぼ崩れているんだろう。

ハッキリ言って今、興味はない。


それよりも。


「…この入口、何気にぴったり!」

「ですね!」


興奮気味に答え、あたしは小走りで荷物を取りに行く。ボロボロの袋を

広げ、中身を抱えて即行で戻った。…しかし、つくづく軽いなコレ。


「持ってきました!」

「よおしよし!」


あたしからその荷物―冷蔵庫の扉を受け取ったミナさんは、注意深く

それを壁のドアの枠にあてがった。…おお、ピッタリじゃないですか!


ドン!ドン!ドン!ドン!


押し込んだ扉の四隅を、手加減して慎重に叩き入れていく。何と言うか

本当におあつらえ向きの穴ですね。大きかったらそのまま倒れるし、

小さかったら入らなかったろうし。これもまた、聖女の思し召しか…

などと勝手な事を考えている間に、扉はピッタリと壁に収まっていた。

試しにちょっとつついてみたけど、ビクともしない。据え付けみたい。


「よーし、これで十分でしょ」

「持ってきてよかったですね」

「まあね。ここまで来て無かったら泣いてたよ、絶対に」


苦笑を浮かべつつ、ミナさんはあのカードを取り出していた。それを、

はめ込んだ冷蔵庫の扉の表面に軽く当てる。見覚えのある光が走った。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

「いや、ウシでしょ?」

「言ってみただけ!」


ガチャッ!


開かれた扉の向こうに、さっきまで目にしていたあの光景が見えた。

システムキッチンと、カウンターの上に置かれてるミノタウロスの肉。

苦労して運び込んだ、お米と調理用器具一式。お米用鍋。そして何より

焼肉のたれ!


そう。

キッチンにアクセスするためには、ドアか扉さえあればいいのである。

だから冷蔵庫の扉を強引に外して、そのまま背負って持ってきたのだ。

扉だけとはいえ大荷物だったけど、結果的に防具にも武器にもなった。


結果オーライとはまさにこの事だ。



さあ、レッツ青空クッキング!

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