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目指せ地上

「ホントに大丈夫なの?見た感じ、いかにも重そうだけど」

「思った以上に大丈夫ですね。」


決して強がりじゃない。

自分でも驚くほど、荷物を背負っているとは思えない身の軽さである。

やっぱりちょっと興奮してるのか。でも今の状況では心強いよ。


「じゃ、行くか」


どうやら本当に強がりではないと、ミナさんも認めてくれたらしい。

望むところです。


「外に出たら、あたしは迎撃に専念するから。ちゃんとドアを閉めて。

それで空間接続は切れるよ」

「了解です!」


さあて、いよいよだ。

微塵も怖がってない自分が、何気にいちばん怖い気がするなあ。



いざ出陣!!


================================


ガチャ!


ドアを開けた瞬間、黒い塊のような何かが押し寄せてくるのが見えた。

背丈がほぼ同じゴブリンの群れだと認識した、次の瞬間。


シャッ!!


両手に出刃包丁を持つミナさんが、交差するように剣閃を放った。

ゾクッとするような風が駆け抜け、一瞬の間の後に切断の嵐が起こる。

殺到していたゴブリンは、その体のどこかを斬り飛ばされて即死した。

ミノタウロスの解体に用いた、あの恐るべき包丁さばきの応用である。

20を超えるゴブリンが一瞬で骸になり果てたその惨状に、他の魔物が

気後れして動きを止める。


その一瞬、いだたき!


「行くよぉ!」


その声が耳まで届く前に、あたしはミナさんを追い立てるような格好で

一気に走り出していた。その気配を察したらしいミナさんも走り出す。

幸い、ゴブリンたちの骸は進行方向には転がっていない。迷うことなく

走るあたしたちを、魔物たちの目が負っているのを感じる。気にしたら

負けだ。かまわず突っ走る!


数秒ののち。


「キイィィィィエアッ!!」


甲高い声を張り上げ、有翼の魔物が追いすがってきた。それを合図に、

硬直していた他の魔物も動き出す。残念ながら、数秒で稼げた距離など

ほんの少しだ。声はどんどん近く、そして大きくなって…


「左に寄って!」


ドォン!!


号令一発。

素早く地を蹴り左に跳ぶと同時に、先を行くミナさんが振り向きざまに

放った火球弾が追撃者に炸裂する。微かな熱と衝撃とが伝わり、魔物は

大半が吹っ飛ばされていた。今いる通路は、さっきまでいた広場ほどは

天井が高くない。つまり、逃げ場がほぼない…という事だ。直線軌道で

追いすがればカウンターを喰らう。先行逃げ切りってやつね。違うか。


それにしても足が軽い。

こんなに思いっきり、しかもこんな速さで走ったのは人生初だろうな。

背中に荷物を背負っている事すら、忘れそうな…


ガァン!


「うわっ!?」


いきなり背中に衝撃を喰らった。

何とかバランスを取って立て直す。ダメージはないけど、何だ今の!?


「どうした!?」

「何か跳んできました!」


言いながら振り返った瞬間。


ガァン!


さっきとは違う衝撃が再び背中から走り、何かが地面に落ちた。

視線を向けると、それは青黒い鱗に覆われた、大きなトカゲだった。


「リュックに引っ付いてたよ」

「ひえッ!?」


思わず変な声が出た。

跳んできたコレが、背中にベタっと張り付いてたって事!?


「逃げの一手はもう無理か」

「そうみたいですね」


背中を見せての遁走は、確かにもう危険過ぎる。もし荷物が無かったら

どうなってたか。いずれにしても、このままだとまた何かしら喰らう。


「ジェス」

「はい」

「出口まで、あとどんくらい?」

「見た感じ、残り3割くらいです」

「よし。ここで追っ手を皆殺すよ」

「了解です」


ミナさんは決断が早い。だったら、あたしも余計な口は挟まない。


「出口方向を見張ります」

「そっちからはあんまり来ないとは思うけど、油断しないでね」

「分かりました!」


ザッ!!


背中合わせの態勢になり、あたしは向かう先のみを見据える。あえて、

背後には感覚をいっさい向けない。そっちはミナさんに完全に任せる。

どっちみち、あたしは戦いの面ではほぼ無力だ。きちんと弁えます。


ドォンドォンドォォン!!


なじみ深い炸裂音が、何度も響く。魔物の断末魔らしき声も聞こえる。

記憶が正しければ、この先は天井がだんだんと高くなっていくはずだ。

そうなれば回り込まれる。だから、ここに踏みとどまって後続を殲滅。

ミノタウロスの残骸に群がっていた魔物はそれを食べ尽くしていたし、

あたしたちの存在を知らない新手が奥から来るというのは考えにくい。

あの場にいた魔物さえ殲滅すれば、後は普通に帰れるはずだ。



文字通り、踏ん張りどころですね。


================================


壮烈な迎撃は、しかしさほど長くは続かなかった。やがて攻撃が止み、

静寂が訪れる。まだ魔物たちを殲滅できたとは思ってないんだけど、

意外とこの辺りが潮時なのかも…


などと考えている間に、背後からの炸裂音もガサガサと這い回る音も

ほぼ途絶えた。視線を向ける先にも動く影は見えない。どうやら…


刹那。


ゾワッとした気配が、すぐ頭上から圧し掛かるように浴びせられた。

反射的に見上げた瞬間。



間に合わないと、直感で悟った。


================================


真っ黒な毛を生やした魔物だった。

どうやら天井を伝って眼下の戦場を迂回し、忍び寄っていたらしい。

どう見ても狙いはミナさんだった。背後に注意を向けていたせいで、

反応が遅れたところを狙われた。


間に合わない。

いくらミナさんでも、あの爪の直撃を受ければただでは済まない。

感覚の中で時間が引き延ばされて、スローモーションになっている。

そんな中で、あたしはいつも通りの速度で動けるという確信があった。

そして、迷う理由は何もなかった。


何かしら、察していたのだろうか。

直前に背から降ろしていた荷物を、両手で掴んで下から振りかぶる。

魔物の視覚も聴覚も、このあたしはまったく捉えていなかったらしい。

向き直る気配すらもなかった。


牙をむき出す顔を目掛け、渾身の力を込めて叩き込んだ。



自分でも信じられない一撃を。


================================


ガアァァン!!


凄まじい音が響き、感覚が戻った。両手に重い衝撃が走ったと同時に、

側面の岩の壁が爆発したかのように砕ける。


「は!?」


今さらなミナさんのひと声と共に、あたしは我に返った。


「ちょ、今のどうやったの!?」

「え…」


い、今のって?

視線を向けて、あたしは戦慄した。


あの黒毛の魔物が、岩壁に埋もれて事切れていた。牙がほぼ全て折れ、

頭の右半分が完全に潰れていた。

……

ちょっと待って。

あれ、あたしがやったの?

マジで?


「どうやらあれで打ち止めか」


マイペースなミナさんのひと言に、ハッと背後の通路に視線を向ける。

…おお、これぞまさしく死屍累々。動くものは何も残ってませんね。

あらためて、背負いカバンの表面を見直した。トカゲの爪痕が深い。

ここに肉を入れていたら、おそらくズタズタになっていただろうなぁ。


今さらながら、出口方向からの風を肌に感じる。

駆け抜けてきたダンジョンが、少し遠い場所に感じられていた。


「んじゃ、脱出しようか」

「はあい」


細かい事は後でいい。



とりあえず、太陽を拝みに行こう!

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