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想定外の籠城

調理器具の使い方なんて、異世界のものだという開き直りさえ持てれば

あっという間に習得できるもんだ。蛇口だろうがガスコンロだろうが、

便利ですねのひと言で適応します。


そんなわけで、ミノタウロスの肉を何切れか切って先行試食致します。

無茶苦茶に突っ走っているようで、この辺ミナさんって意外と堅実だ。


まずは塊の状態のお肉に、何らかの特殊な光を両手から注ぎ込む。

どうやらこれは「魔滅の聖光」なる力らしい。射程は凄く短いけれど、

浴びた魔物は問答無用で死滅する。本人いわく「殺菌」だそうな。


え、じゃあ魔物であるミノタウロスのお肉も消滅しちゃうんじゃ?…と

思ったけど、それは大丈夫らしい。つまりこの状態のミノタウロスは、

既に死んで切り刻まれた後の状態。内部にいるかも知れない何かとは

事なり、死滅の対象にはならない。…うーん、実に雑で寛容な能力だ。

でもそれで不安要素が除けるなら、大いにありがたい事だと思います。



さて、ジュージューといい感じに…


「煙い!!」

「あー煙い!確かに!」


あんまり広くない室内は、それこそあっという間に煙が充満する。

臭いはいいんだけど、この煙は…!


「換気扇換気扇!回そう!」


両手で煙を払いながら、ミナさんが入口脇のスイッチを入れる。同時に

ゴンゴンと機械音が響き、入口ドア直上の機械が煙を外に出し始めた。

なるほど、あれが換気扇なのか。


「外はまあ、そこそこ広いから…」

「いいと思いますよ、それで」


程なく、煙は気にならなくなった。やがてお肉もいい感じに焼けたよ。


「よーし、もういいかな」

「美味しそうですね」

「とりあえず、二切れずつね!」


お皿に焼肉のたれをちょっと出し、焼き立てのお肉を浸してパクリと。

何の抵抗もなく食べている自分が、どこまでも信じられな…


「うまい!」

「美味しい!」

「焼肉じゃんこれ!!」

「最高じゃないですか!!」


二人とも歓声が裏返ってしまった。


小難しい話は、もうどうでもいい。美味しいならそれでいいじゃない!



ありがとう、ミノタウロス!


================================


「さてと」


あっという間に二切れを食べ終えたミナさんが、残りの肉の塊を見つつ

腕を組んだ。何を言い出すのかは、だいたい予想がつきました。


「食べられる事も美味しいって事も判明した。だったら、こんな場所で

全部食べるのはもったいないよね」

「そりゃあ、青空の下で焼きながらというのが理想ですよね。」

「理解が早くて助かるわぁ」


いかにこのキッチンが充実しているとしても、食べる場所じゃない。

台所でご飯食べるのって、何となくメイドとしても嫌なんですよ実際。

焼肉というものの醍醐味が、何だか具体的に想像できつつあるなぁ。


「じゃ、とりあえず地上に戻ろう。場所はそれから決めればいいから」

「ですね!」


そう答えたあたしは、残りのお肉を手早く袋の中に入れて密閉する。

ダンジョン内の気温は低めだから、外に出る程度では傷まないだろう。

来る時に持ってきたあれこれ一式をあらためて背負い直し、準備完了。

いざ、地上へ!


「それじゃあ…」


ドアの取手に手をかけたミナさんの表情が、不意に険しくなった。

そのままじっとする事数秒。やがて身をかがめ、少しだけドアを開く。

すぐ横に陣取り、あたしも隙間から外を…


「ぃえッ!?」


思わず変な声を漏らしてしまった。と同時にミナさんがドアを閉める。


「…マズいね、ちょっと」

「あ、あれがちょっとですか!?」


押し殺した声で訴える。それほど、一瞬目にした光景は信じ難かった。


来る時は割と閑散としてた広場に、無数の魔獣たちが集結していた。

何をしに来たのかは、一目瞭然だ。ミナさんが捌いた残りと思われる

ミノタウロスの骸の上半身部分が、ほとんど骨になっている。周囲には

ゴブリンを始めとする小型・中型の魔物が集まって肉を喰らっている。


「ハイエナみたいなもんか…」


ハイエナが何かはさっぱりだけど、言いたい事は嫌でも分かった。

そもそも魔物を倒した後でこういう事をした人間なんて、ほぼいない。

大型の魔物を解体したすぐ近くに、ずっと居座ってたなんて非常識は。

結果として、ダンジョン内の魔物の生態の一部が明らかになったんだ。

知りたくもなかった事だけど。


「ど、どうしましょうか」

「普通に出て行ったら危ないね」


換気扇の隙間から外を窺いながら、ミナさんが淡々と述べる。


「死肉に群がるのは別に不思議でも何でもないけど、問題は今この場に

新鮮な肉があるって事。」

「外に出たら狙ってくると?」

「肉だけじゃなく、多分あたしたち二人も狙ってくるだろうね」

「え!?」

「焼肉の煙の臭いがついてるから」


ああっ!そうだった!

気にしてなかったけど、煙に加えて焼いた肉の匂いもついてるはずだ!

だとすれば、外にいる魔物にとってあたしたちもごちそうって事か!


…うん、理解できない要素はない。

だったらいったん、落ち着こう。



「逃げられますかね」

「逃げるというか、強行突破自体は別に難しくない。ミノタウロスでも

ワンパンで倒せるんだから、あんな雑魚どもは薙ぎ払いながら進める」

「それじゃあ…」

「だけど、肉を持ったままってのは危ない。どうしても手加減するのが

難しくなるし、持っているあなたが集中的に狙われたら守り切れない。

怪我したり肉を奪われたりなんて、笑い話にもならないからね」

「うーん…それはそうですけど…」


じゃあ実際、どうすればいいんだ。

確かに集まっていたのは雑魚系だ。ミナさんにとっては敵じゃない。

いや、頑張ればあたしだって多少は倒せるかも知れない…とさえ思う。

だけど、それで肉を奪われたなんて展開になったら実に救いがない。

何のためにこんな場所まで来たんだという話になってしまう。


悩む間に、ミナさんはもう一度少しドアを開けて外を窺う。


「…どうですか?」

「散会する気配がないなあ。多分、換気扇で肉の匂いをばら撒いたから

それ目当てでしょうね。だったら、匂いが無くなるまで待つしかない」

「ええー…」


ある意味ちょっと自業自得なのか。それって少なからず凹むなあ。


「結局どうしますか」

「どうすべきだとあなたは思う?」

「いなくなるのを待つというのは、ちょっと消極的に過ぎますよね」


こんな場になったせいか、いつもに増してハッキリものが言えている。

いよいよ開き直りが極まったのか。我が事ながらちょっと呆れますね。


「考えましょう、方法を」

「いいねえホント。そういうところ好きだよジェス」

「光栄です」


珍しくそこまで言われた。何だか、ちっとも怖くない自分がいるなあ。

状況は厳しい籠城って感じだけど、だからこそ打開策を探るんだよね。

食事の前に頭脳運動とウォーミングアップと行こう。



さあて、どうしましょうお肉さん?

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