お肉ゲット!
ドォン!
その衝撃は、上方向に突き抜けた。
一瞬でミノタウロスの喉元まで跳躍したミナさんが、勢いそのままに
右拳を相手の顎に叩き込んでいた。突き抜けた振動は、ミノタウロスの
頭蓋が内側から砕けたものだろうと察した。遠かったけど、頭の左右の
ツノにもひびが入ったのが見えた。
狩りは、数秒で終わっていた。
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ドオォォォォォン!!
地響きを立て、ミノタウロスの体は仰向けに倒れ込んだ。その骸の上に
降り立ったミナさんが、どこからかひと振りの肉切り包丁を取り出す。
「え?…あの、何を?」
「解体」
うん、訊いたあたしがバカでした。
そりゃそうですよね。そのために、こんな場所にまで来たんだから。
だけど、この巨体をそのちっちゃな包丁で捌くなんて事ができるわけ…
シャッ!!
無造作に振るった包丁の刃先から、寒気がするような風が駆け抜けた。
次の瞬間、事切れたミノタウロスの首がゴロリと切れて地面に転がる。
…うん、深く考えるだけ損ですね。どう見ても刃渡りより長い切れ目が
見えてるけど、何かしら聖女っぽい力で切ってみせたって事にしよう。
いちいち考えてたら、たぶん食欲が無くなるだろうし。
「毛が生えてるのは上半身だけか。じゃ、そこは潔く捨てよう」
ミノタウロスの体の上でブツブツとそんな事を言っていたミナさんが、
そこであたしに向き直る。
「捌くの手伝える?」
「すみません、無理です」
即答。
無理なものは仕方がないです。
「だよね。じゃあ…」
あっさりそう言うミナさんの目が、ぐるりと周囲を見回す。次の瞬間、
斜め前方に何かを認めて止まった。ほぼ同時に、あたしもそれが何か
遠目に見て悟る。
「ジェス!」
「はい!」
「あっちの影にあるの、たぶん昔の建物の裏口だと思う。行って!」
「あ、はい!」
昔の、って何だろう。まあでも今はどうでもいい。ミナさんの意図が
理解できたから、駆け足で向かう。飛び降りたミナさんも、ほぼ同時に
その場所に到達していた。
「うん、やっぱ勝手口か何かだね。けっこうしっかり残ってる」
「これ、使えるんですか?」
「開閉機能のあるドアなら、何でもいけるって仕様よん!」
イタズラっぽく笑いつつ取り出したのは、やっぱりあのカードだった。
「よぉし、出でよキッチン!」
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ガチャ。
カードを当てた一瞬の発光の後で、開かれた扉の向こう。見覚えのある
あの先駆的なキッチンだ。つまり、薄暗いダンジョンで火を起こしたり
しなくていいという事になる。実に助かります!何たって…
…………あれ?
「じゃあ、お米とかナベを背負って来る必要はなかったんじゃ…?」
「ん?いやいや気にしない!だってドアがある保証なかったでしょ?」
「それはまあ…」
「これもハイキングの醍醐味よ!」
「……そうですね」
なんか無理やり感が凄いけど、別に恨み事なんて言いません。確かに、
重い荷物を運んで来てこそ得られる達成感もあるし。
そういう事にしておきましょう。
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「じゃ、ちょい中で待っててね」
「お手伝いしなくていいんですか」
「トラウマになられたら困るから。これから食べるんだからね!」
そう言いつつ笑い、ミナさんが扉を閉めた。…トラウマって何だろう?
まあ、お気遣いに感謝しておこう。
それにしても明るく清潔な部屋だ。スライムだミノタウロスだと大騒ぎ
していたさっきまでとは隔世の感。どこにいるのか忘れそうになるよ。
とは言え、とりあえず準備なんかを進めておいてもいいだろう。やはり
メイドの沽券に関わりますからね。えーと、お皿はどこに…
ドォン!ドォン!ドォォン!
いきなり、外から轟音が聞こえた。あれってミナさんの火球魔術の音?
既にミノタウロスは仕留めたのに、いったい何が…
数秒の沈黙ののち。
『開けるよー』
間延びしたひと言と同時に、ドアがゆっくり開いた。入ってきたのは…
「だ、大丈夫ですか!?」
放つ声が思わず裏返ってしまった。
入って来たミナさんのローブには、かなりの量の血が着いていたから。
「え?…ああ大丈夫大丈夫」
ドアを閉めたミナさんが事もなげに答え、何かの塊をテーブルの上に
ドサッと置く。まぎれもないお肉。しかも赤身。めっちゃ美味しそう!
分量もけっこう凄いけど、さっきのミノタウロスから獲ったと考えれば
こんなもんか…とも思ってしまう。いくら何でもそれは失礼かしら。
それにしても、その血は…
「捌いてる途中に、ゴブリンどもが襲ってきてね。それは仕方ないけど
さすがにちょっと余裕がなくてさ。返り血をよけきれなかったよ。」
「…無茶も程々にお願いします」
「ははは確かにね。気をつけます」
事もなげに笑うミナさん。確かに、ケガしてるようには見えないけど。
おまけにローブの返り血は、一瞬の発光の後で残らず消えちゃったし。
「それで、どうするんですか?」
「とにかくちょっと焼いてみよう」
「え?」
意外な即答にあたしは驚いた。
確かにそれのために来たんだけど、いきなり焼くってどうなんだろう。
食い意地が張ってるとしか思えな…
「ここまで来て言うのも何だけど、食べられる代物でなかったとすれば
切り出した肉は持って帰らないよ。意味が無いし、たかられるし」
「ですよね、やっぱり」
言われてみればだ。今さらだけど、無駄足にならない事を祈ろう。
それなりに無茶してこんな場所まで来て、ミノタウロス倒したんだし。
そのためにも…
まずは試食ですね。
了解です。
さあ、焼肉のたれの出番だ!




