苦手に立ち止まるな
つくづく思う。
今の立場になったからこそ、思う。
アニメとか特撮番組とかの初回で、超常の力を得た主人公が、その力を
迷いなく使いこなす展開。あれって完全にフィクションのご都合だと。
最初からあんな風に使う事なんて、実際には絶対に無理なんですよと。
ロックサイクロプス世界において、あたしが何気なく選んで得た能力。
いわゆるSSランクの魔術師の力。ファンタジー世界においては、割と
強キャラにカテゴライズされてる。けっこう使う機会も多いと思う。
だけど未だに制御がおぼつかない。自分のイメージよりも出力が高く、
事あるごとに「やっちゃいました」的な恥をかく。正直、今のあたしは
そっち系のセンスを持っていない。悲しいけど、それが現実である。
そしてあたしのお仕事は、そういう力を必須としているわけじゃない。
もしオフィスワークだけだったら、その理屈で通せたのかも知れない。
だけど今はもう、そういう言い訳はできない。チームを組んで自主的に
現場に出る事を決めた以上、苦手をそのまま放置するのは職務怠慢だ。
センスがないなら工夫するまで。
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恐竜の動きは速い。しかも目の前の群れには、統制もある。要するに、
これは信長の特殊な私兵って事だ。だとすれば、本人は後詰めで来る。
こいつらに対処しているあたしたち二人を、時間差で襲うつもりだ。
信長の相手をするのは傍らのミナに任せた。そっちの方が適任だから。
だけど彼女も無敵じゃない。今は、とにかく信長に専念してもらう。
ならばあたしは、次の一手で恐竜を一気に殲滅する。場を整えた上で、
ミナに託す。それこそが連携だ。
恐竜たちは、円形の囲みを形成してじりじりと迫ってきている。
火球を飛ばすのはNGだ。破壊力が高過ぎて、環境破壊につながる。
使えるとしたらレーザービームだ。あれならスマートに仕留められる。
だけど、多数の敵を相手にする時は狙いが難しい。急所を貫かないと、
絶命させられないからだ。このへん火球とは一長一短って感じである。
それに加え、このレーザーも大概に射程が長い。迂闊な方向に放つと、
その先でどんな被害が出るか見当もつかない。ラピュタであったなあ、
そういうとばっちり被害のシーン。飛び道具って、本当に厄介ですよ。
さてと。
気配で分かる。
次のひと呼吸で、襲ってくる事が。
状況は、あたしの都合など待ってはくれない。ただ前に進むのみだ。
だからこそ。
ここは工夫のしどころだ!
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ドン!
下向けに放った空気弾の炸裂音が、場に低く響き渡った。それを合図に
恐竜たちが絶妙な時間差でこちらに飛び掛かってくる。間違いなく、
誰かに先導されたであろう攻撃だ。これぞ生物兵器。もとい恐竜兵器。
ジュラシックな映画では、最後までネタとして擦られ続けていたっけ。
ぐるりと取り囲まれている今のこの状況では、逃げる方向すらもない。
そう、囲まれている。
あたしとミナは、その中心にいる。
だったら!
「レーザードロップ!!」
ドオォン!!
あたしのひと声と同時に放たれた、青白い光。数にして実に600発の
同時発射である。
どこからどこを狙ったかって?
狙ってません。
上から下へと、撃ち下ろしただけ。
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ドドオォォォォッ!!
無数の生は、一瞬で死に変わった。
時間差であたしたちに飛び掛かろうとしていた恐竜の群れは、そのまま
地面に倒れて絶命した。周囲には、肉と同時に土の焦げた臭いが漂う。
これぞ必殺、レーザードロップだ。
このレーザーは、別に杖の先端とか指の先とかから撃つわけじゃない。
発射地点も角度も、有視界であれば自由に設定できるのである。なら、
アニメみたいに手元から放つ必要はどこにも無いって事です。
虚空を目がけて放つと、減衰までに射線の途中に被害が出てしまう。
だったら開き直って、高い位置から真下目がけて撃てばいいって事だ。
あたしとミナが立っている場所は、いわば包囲円の中心地点である。
ここを中心とする円の範囲めがけ、上空から無数のレーザーを落とす。
その先にいるのは、襲い掛からんとしていた恐竜たちだ。ラプトルも
ティラノも二足歩行型恐竜であり、上から見下ろせば前後に長い体型。
それがみんな揃ってこっちを見てるという事は、絶好の的じゃないか。
むしろ正面から狙うよりも確実に、全身にレーザーをお見舞いできる。
伏せていようが跳躍していようが、上から見ればほとんど同じである。
的なんだよ、的。
分かる?
あ、もう死んでるか。
合掌。
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『本命が行くよ!!』
あいちゃんの声が甲高く響いた。
と同時に、例の梢の先端がガサッと揺れたのが見えた。
来る!
向き直ったミナの目の動きを易々と追い越し、信長恐竜が素早い動きで
一気に距離を詰めてくる。それも、狙撃を回避するような複雑な軌道を
描きながら。うん、あれ間違いなく人間だ。超越した代わりに、何かを
捨ててしまった人間の姿だ。それがあたしたちを殺すため、一気に……
「見えてるって」
ぼそりと呟くミナの口調は、やはりどこまでも普段通りだった。
そう。
保護色で輪郭を消し、素早い動きで完全に己の存在を消し去っている。
そのつもりなんだろうけどさ。
レーザードロップの無数の傷痕から立ち昇る、いく筋もの青黒い煙。
恐竜たちが同時に倒れた事により、舞い上がっていた細かな砂ぼこり。
それらは包囲円の中の空間に、今も細かな粒子を漂わせていたのだ。
高速移動で迫る信長のいる座標は、本人が思う以上に丸見えだった。
「グオォォォォ!」
「うるせーっての」
ガン!!
満を持して迫り来た信長恐竜の長い顔に、ミナが右フックを叩き込む。
凄まじい重さを込めたその一撃で、信長恐竜はぐるんと横を向いた。
勢いそのまま迫り来た長い尻尾を、素早く引き戻した手でミナが掴む。
あたしは、その場で衝撃に備えた。
「寝てろ織田信長ァァ!!」
ドオオォォォォォォォン!!
両手で尻尾を掴んだミナが、渾身の力で信長恐竜を地面に叩きつけた。
まるでたい焼き型のように、地面にくっきりとその体の跡が穿たれる。
完全に脱力してバウンドする体を、ミナは容赦なく反対側の地面に再び
叩きつける。さすがに二度目では、たい焼き型は穿たれなかった。
泡を吹く口から、だらりと長い舌が垂れる。…死んでないよね、これ?
ああうん、痙攣してるし大丈夫か。…それにしても、文字通り恐竜人。
そしてこれ、織田信長なんだよね。
「…何であたしが、こんな事ばっかやらなきゃならんの?」
「いや、でもカッコよかったよ?」
心底うんざりといった顔のミナに、あたしは思ったままの賛辞を贈る。
「どんな風によ」
「怪獣を投げ倒す、ウルトラマンにそっくりで…」
「微塵も嬉しくないっての!!」
怒鳴り声と唾が飛んできた。
うん。
あたし、褒めるのもヘタですね。
反省致します。
とりあえず、決着だ。




