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対決・織田信長

「いいだろう、相手してやるよ」


信長のそんなひと言は、どこまでも平常通りの響きに満ちていた。

身体強化魔術を発動させて、グッと姿勢を低くした刹那。


ザワッ!!


身をひと揺すりした信長の全身を、赤く禍々しい光が頭からつま先へと

一気に駆け抜けた。それと同時に、光の抜けた体のあちこちが肥大化。

まとう着物を部分的に破りながら、明らかに違うものに変貌していく。


「ええー…」


まさかの展開に、ちょっと引いた。モエビトだとはいえ、まさかこんな

悪の改造人間みたいな変身まで…


「歪みを自分の体内に取り込むか」


すぐ隣で成り行きを見守るミナが、腕組みをしつつそんな言葉を吐く。

冷静だなあ、この子はいつだって。経験はあたしより浅いはずなのに…


『智華ちゃん、こっちフォロー!』


あいちゃんの呼びかけにハッと目を向けると、サイドカーと平手さんに

ラプトルの群れが迫っていた。杖をそちらにかざし、心の中で念じる。


キィン!


ガキィィン!!


一瞬で周囲に防壁を形成。襲い来たラプトルをさっき同様、やすやすと

弾き返した。目の当たりにするのは二度目だけに、平手さんもその様を

落ち着いて見ていた。こう見えても異世界オリンピックメダリストよ。

ラプトルごときに破られるような事はない。それよりも…


「!?」


ほんの数秒目を話した間に、信長の変身は終わっていた。のみならず、

低く構えたその恐竜人の姿が徐々に消えていく。溶け込むかのように。

ちょ、何それ!?そんな特殊能力、聞いてないんだけ………いや違うな。

映画で見た事あるな、保護色能力。周囲の光景に色を合わせて…って、

織田信長のやる事かそれが!?


『織田信長反応、増大してるよ!』

「え、ちょ、それって」


刹那。

完全に姿を消した信長が、いきなり飛び掛かってきた。微妙にズレた

景色が一瞬で迫り、あたしの目の前まで達する。ってか、速いって!


ドカッ!!


受け身を取る間さえなく、あたしは掌底を叩き込まれて吹っ飛んだ。

ギリギリまで接近された時に見た、あの姿はまさしく透明化した信長。

…って言うか、もうすぐ心身ともに信長でなくなるのは間違いない。

あんな風に変貌するなんて…!


ダン!


再び地を蹴る音が短く響き、歪んだその影がどこかへと跳び離れた。


「痛たたたた…」


無様に尻餅をついていたあたしは、どうにか立ち上がって周囲を見た。

信長が跳び離れるのと入れ違いに、今度はティラノサウルスが迫る。

絵的には実に大ピンチなんだけど、傍らのミナは知らん顔で立ってる。

あくまでも傍観のスタンスですね。…うーん、やっぱり無理かあたし。


「ミナ」

「うん?」

「ゴメン、ちょっと交代して」

「ギブアップすんの早くない?まだまともなダメージ無いでしょうが」

「そうだけどね。威力は足りてても相手の動きが速過ぎて、追えない。

いかんせん、こういうの苦手で」

「なっさけないなぁもう」

「面目ない」


ここは素直に謝ります。


相変わらず、魔術師ウシミツという存在はちぐはぐだ。SSランクの

強さはそこそこ使いこなせるようになってきてるけど、あたし自身の

五感が「能力」について行けない。ああいう素早い相手は特に苦手だ。

情けないと言われれば、その通り。潔く受け入れた上で頼みます。

何より…


「殺しちゃダメだからさ」

「まあそうか、了解」


フンと鼻を鳴らし、ミナが頷いた。

そう、あたしはそっち系の手加減も実に苦手だ。我ながら不本意だけど

目的を見失えば目も当てられない。ここは聖女様にお譲りしますゆえ。


「んじゃ、雑魚は頼むわよ」

「もちろん」


あらためて向き直る。考えてみれば恐竜を「雑魚」呼ばわりする感覚も

大概にバグってるよね。もうそこは開き直っていきましょう。


構えると同時に、静寂が満ちる。


あたしたち二人を警戒してるのか、ティラノサウルスもラプトルたちも

こちらを窺って動きを止めている。ただし、完全に囲い込まれてるね。

あたしの防壁の中で、あいちゃんと平手さんも息を潜めているらしい。

そんな危険な静寂の中で、あたしはあいちゃんに念話術を飛ばした。


『信長の反応は?』

『今は離れてるよ。向かって左側の梢の向こう側から、高みの見物中』

『えーと…あ、あれか』


指定の座標にじっと目を凝らすと、確かに見えた。保護色を発動させて

輪郭をぼかしてるけど、確かにあの信長恐竜に間違いない。何と言うか

ちょっとプレデターみたいだね。


『動く気配は?』

『今は無い。たぶん、今ここにいる恐竜を捨て駒にする気だね。んで、

次のタイミングで襲ってくるよ』

『なるほど』


これもひとつの兵法って事だろう。「恐竜の使い捨て」という感覚が、

やっぱりバグってる気はするけど。


よおし。


『今の聞いてたよねミナ?』

『当たり前でしょ』

『じゃ、あなたは信長に専念して。次の一手で雑魚を一掃するから』

『出来んの?』

『殺していいならどうとでも』

『あっそう、じゃ任せる』

『了解』


我ながら物騒なこと言ってるなぁ、ホントに。まぁでも事実だからね。


周囲の空間の歪みが、だんだん強くなってきてるのが感覚で分かる。

明らかに信長の変貌に呼応してる。もう、崩壊まで時間が無い。

膠着が解けたら、恐竜を仕留める。後はミナに任せて出たとこ勝負だ。


んじゃ、行ってみようか。



この世界は、終わらせない。

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