↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/81

それが現実というもの

「で?お前もその女どもと一緒に、俺を止めようってつもりか爺」

「………」


信長からの問いかけに、平手さんは答えなかった。答えない理由は、

あれやこれやと想像できた。別に、無理に答える必要もないと思った。


平手政秀という人物が、織田信長の行く末を案じていた顛末は有名だ。

最終的に、彼を諫めようと自刃したところまで後世に伝わっている。

その後の信長の躍進を知らないまま早まったあわて者。そんな表現を

される事も少なくない。うつけは、単なるフリだった…という話だね。


馬鹿を言うな。

この人の自刃を「早まった」などと形容できるのは、顛末を歴史として

客観視できる後の世の人間だけだ。織田信長が何を成したかを、歴史の

授業で習っているからこその視点。リアルタイムの感覚には程遠いよ。


そんな中での今回のあたしたちとの遭遇。そして目の前の若君の有様。

この人が自分に何を思うか、信長に想像できているのだろうか。


いいよ、もう。



これは、あたしたちの仕事だから。


================================


「悪いけど、あなたがここにいると世界がおかしくなる」


自分でもびっくりするくらい抑揚のない口調で、あたしはそう告げた。

何言ってんだって話だけど、今さら理解してくれなんて言いません。

力ずくだ。


「だから、他の世界に転生させる。悪く思わないで下さいね」

「はあ?…俺に指図する気か?」

「そんなつもりはありませんよ」


チラと見れば、ミナは何も言わずにあたしに視線を向けていた。

どうやら、この場に限っては任せてくれるらしい。実に嬉しい話だね。


今さらな話だけど、ミナはけっこうドライな性格の持ち主である。

人を殺す事にも割と迷いが無いし、感情に流される事もあんまりない。

そういった意味では、あたしの方がよっぽど弱いんじゃないかと思う。

人生経験で負けてるとは思ってないから、これは単純に性格の問題だ。

モエビトだった事を抜きにしても、やっぱり聖女の器なんだろうな。


だけどあたしは、そういう意味でのミナの強さに依存したくはない。

しんどい仕事を部下に丸投げって、かつてのブラック企業そのものだ。

あたしは、あんな上司になりたくはない。絶対にそんなのは嫌だ。


だからこそ、この場はあたしが話をつける。ミナの出番はそれからだ。



ま、任せてちょうだいよ。


================================


「世界がおかしくなるか。なかなか面白そうな話じゃねえか」


あたしの言葉に、信長は笑いながら右の手をかざした。すぐ背後にいた

ティラノサウルスが頭を下げ、その手にそっとすり寄る。…ネコかな?

確かに恐竜は、男の子のロマンだ。こんな感じに支配できるとなれば、

これまでと違うものも見えるよね。それはお察しします。


「…だったら、どうしますか」

「どうせおかしくなるんなら、俺が作り変えてやるよ。この力を使って

世界を丸ごと変えてやる。それで」

「図に乗るなよ!!」


チュイン!


聞くに堪えない。

だから叫んだ。

叫んだと同時に、絞ったレーザーをネコティラノの頭に炸裂させた。

我ながら、惚れ惚れする早撃ちだ。威力も、今回は完全に制御できた。


数秒の間を置き。


ドオォォォォォン!


頭を撃ち抜かれたティラノの体が、轟音と共に倒れ伏した。

そう、信長のすぐ傍らに。


「な…」

「こんな恐竜を操って集落ひとつを皆殺しにしたくらいで、世界なんて

気安く口にしないで下さい」

「……てめぇ!」

「てめえじゃない。丑三ツです」


睨む目を正面から見返し、あたしはやっぱり淡々と信長に告げる。

怖いとは思わない。恐れ多いとか、そういった気後れも何ひとつない。

そんな自分にちょっとは驚くけど、不思議だとも思わない。


チート能力を持っているから?

たぶん、それもあるだろうと思う。

だけどあたしが目の前の信長を全く怖れないのは、そのせいじゃない。


恐竜を生み出して支配する、か。

まあ確かに、けっこうなチート能力だと思う。実際にやってみれば、

その全能感は半端じゃないだろう。それは充分過ぎるほど理解できる。


でもね。

その異能ひとつで手にできるほど、世界ってものは小さくないんだよ。


今この瞬間に至るまでに、あなたが恐竜に殺させた人数は何人だ。

20人?それとも50人?もっと?

恐竜を統べる姿は確かに刺激的だ。魔王なんて呼び名も似合うだろう。

情け容赦なく人を襲わせる姿にも、ラスボス的な風格が漂っているよ。


それが何だってんだ。そんな程度で自分を誇るなよ。


こんな異能に頼らずとも、あなたはこの先数え切れないほど人を殺す。

本能寺の変までに、それこそ数千の命があなたという存在に消される。

どんな世界においても、その歴史はほぼ確定している。それが信長だ。


もちろん、それを悪だと断じる気はない。あたしの生きる世界だって、

そんな織田信長が紡いだ歴史の先に存在しているんだから。歴史って、

どこを見てもそういうものだろう。


それに、あたしたちは知っている。


長い人類の歴史の中には、それこそ桁違いの人の命を奪った「個人」が

いたという事実を。織田信長なんて可愛い方だ。世界史の中には本当に

洒落にならない独裁者たちがいる。数千万、時には億にさえ届きそうな

人の命を奪った怪物たちがね。


そんな怪物でさえ、世界を支配するまでには至らなかったのである。

事実は小説より奇なりという言葉もあるけど、人間の残酷さというのも

想像を超える事がある。それでも、世界はひとつにはならなかった。

いい意味でも悪い意味でも、世界はとにかく広いんだ。


ねえ、信長さん。

今のあなたは何なんだよ。


漫画みたいなビジュアルで、古代の恐竜を侍らせて悦に入っている。

その力で世界を掌握できると、実に痛々しい事を本気で口にしている。


後世の人間のイタいモエルギーが、あなたを変えてしまったというのは

不運でしかない。それは同情する。もはや織田信長に対する呪いだと。

世界を崩壊から救うために、犠牲になって下さいと言うのは心苦しい。

それでも、背に腹は代えられない。あたしたちは仕事を果たすだけだ。


因果なお仕事だよね、本当に。


そして目の前の信長さんの有様は、まさに「創作」でしかないと思う。

恐竜の召喚なんてベタなチートが、彼の存在を陳腐にしてしまった。

リアリティを失いつつある世界を、そのまま凝縮したみたいな姿です。


ハッキリ言います。


「あたしはそんな織田信長なんて、見たくありませんから」


そう。

もはや今のあなたは、デタラメだ。

ここにいていい存在じゃない。



お覚悟。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。