厄災の名は信長
『織田信長反応を感知したよ』
「よっしゃ、じゃ行こうか」
「とっとと終わらそうぜ」
「な、何と言われたか今!?」
当然のように交わされるあたしたち三人の言葉に、平手さんが驚愕。
そりゃそうだ。織田信長反応って、いくら何でもパワーワード過ぎる。
だけど、実際に拾えちゃうんだから仕方ない。活用あるのみです。
織田信長って、そういう存在だし。
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『んじゃあ、サイドカーモード!』
ガシャガシャガシャガシャン!!
威勢のいい宣言と共に、あいちゃんの小さな体が機械音を立てながら
膨張・変形していく。何と言うか、某ゲッターを連想させる質量無視。
どこにそんな機械が詰まってたんだと言いたくなる、不条理変形です。
たっぷり10秒以上かけて、大型のサイドカーが完成した。もちろん、
変形プロセスを見ていた平手さんは白目。すみません、急ぎますので。
「これは…面妖な…何ですか?」
「ええとですね。簡単に言うと…」
「あれですあれ、南蛮渡来」
おいミナ。
面倒だからってゴリ押しが過ぎるぞそれは。もうちょいリアイティを…
「なるほど南蛮渡来か…」
いや納得するんかい。ポルトガルは異世界か?あなたも大概雑ですね、
平手政秀さん。…どっちかと言うとその方がありがたいけど。
「じゃあ行きましょう。乗って」
「は?」
「ここに乗って下さい」
「乗る…って、これは乗り物か?」
「そうそう。運転はあたしが」
「違うっての!ほらあなた後ろ!」
当然のようにハンドル握ろうとするミナをシートの後ろへと押しやり、
あたしがハンドルを握る。そんで、平手さんはサイドカーね。けっこう
小柄な人だから、すっぽり入った。
「しっかり掴まってて下さいね」
「いやあの…馬はおらんのですか」
「出発!!」
ドルン!!
細かい事は気にしないミナの号令でエンジンが起動。あたしとしても、
あれこれ説明するのは面倒臭いし。とにかく走れば分かるってもんよ!
「ナビよろしく!」
『はーい』
「ひえぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
「やっぱいいなーバイクは!!」
歓声と悲鳴とを撒き散らしながら、あいちゃんサイドカーは突っ走る。
めざせ、うつけの信長さま。
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織田信長。
現代の日本においても、その名前を知らない人間はほぼいないだろう。
戦国時代の名将にして、天下統一にあと一歩まで至った稀代の傑物だ。
本能寺で明智光秀に討たれた非業の最期も含め、とにかく人気が高い。
豊臣秀吉や徳川家康といったお歴々と比べても、キャラクターとしての
人気が飛び抜けている。ぶっちゃけこの人物、どちらかというと架空の
存在に近い感覚で認識されている。だから歴史ドラマや時代劇だけでは
なく、アニメとかゲームにも頻繁に登場する。もちろん他の武将たちも
登場するけど、やっぱり別格だ。
織田信長はもはや、ひとつの概念と言ってもいい存在になっている。
後世の者たちの思念は時空を超え、次元さえも超えてモエルギーとなり
様々な世界に在る信長をモエビトに変えてしまう。結果、その世界は
予想もつかない形に歪んでいく。
そう、まさに今のここみたいに。
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「…若の存在がそれほどまでに…」
ようやくサイドカーに慣れたらしい平手さんが、そんな言葉を吐く。
今さらごまかすのは時間の無駄だ。だから開き直って現状を説明した。
意外と柔軟な思考の持ち主だから、それなりに分かってくれるだろうと
勝手に想定しての判断だ。やっぱり雑だなあ、我ながら。
だけど予想通り、平手さんはこんな荒唐無稽極まる話を信じてくれた。
あたしたちが常識外の存在だという事実を認めた上で、少なくとも嘘は
言ってないと判断してくれたんだ。こっちとしても非常に助かります。
「…数百年という時を経てもなお、若は人の心に残っておるのか」
あ、やっぱりそこも気になるのか。そりゃそうだろうね。うつけ者だと
現時点で言われてるのだとすれば、後世の評価は大きな救いだろうし。
でもそうするとこの人、あたしたち三人が未来を知ってるって事さえも
信じてるんだよね。とことんまで、そういう意味で懐の深い人らしい。
こんないい人が傍にいるんだから、信長には自制して欲しかったなあ。
…まあ、モエビトになってしまったのは、本人のせいじゃないけどさ。
何と言うか、ホント理不尽な話だ。
「あとどのくらい?」
『次の峠を越えたらすぐだよ』
「了解!」
織田信長反応なんて、ご都合主義の権化みたいな代物だ。だけど実際、
そんなものが定義出来てしまうほど織田信長は、モエビトとして定番の
存在になっている。柳橋さんたちにとっても、厄介な相手なんだとか。
抜いても抜いても生えてくる雑草…に例えるのは、さすがに失礼だね。
いずれにせよ、並行世界の「信長」はかなり危うくなってしまってる。
60人以上を転生させているという事実が、そのヤバさを物語ってる。
もちろん並行世界は無限に存在するから、人数は問題にはならない。
普通に生きて本能寺に至る信長も、割合で言えばけっこう多いだろう。
だけどなぁ。
これが問題なのも、現実だしなあ…
『智華ちゃん』
「うん?」
『転着反応が多数。多分また恐竜。進行方向に現れてるから、おそらく
信長が召喚してるんだと思う』
「意図的に?」
『そこまでは分かんない』
「わ、若がどうされましたか!?」
「いや…」
平手さんの問いに、あたしは思わず口ごもってしまった。
あいちゃんも体験したけど、世界の歪みはモエビトを中心に発生する。
つまり、信長の周りに恐竜が現れるという展開になるだろう。そして、
モエビトは歪みによって生じる力を得るのが定番だ。いわゆるチート。
まだこの世界は本格的な崩壊にまで至っていないけど、モエビトである
信長が力をハッキリ自認した場合、その崩壊は加速度的に進んでいく。
「平手さん」
「は?」
「もしあの恐竜を操れるとしたら、信長さんは率先してその力を使うと
思われますか?」
「思います。一切の迷いなく」
即答だった。
こんな不条理の只中にあってさえ、平手さんは信長に確信を持ってる。
ゲームなんかでラスボス扱いされる事も多い人物だけに、そのあたりは
ブレないって事だろうね。
って事は…
『転着した恐竜がこっちに向かって移動してる。捕捉されてるよ』
「そりゃ、こんなエンジン音で爆走してればね。」
我ながら嫌になるくらい冷静だな。恐竜軍団が迫ってるってのによう。
さすがにあたしたちが誰かなんて、分かるはずがない。だけど、自分に
敵対する存在と思われてる可能性はそこそこ高い。って事は…
「若き日の信長と合戦ですかァ?」
あたしの考えを読んだのか、背後でミナがそんな言葉を遠慮なく放つ。
この子、本当にお構いなしだよね。あらゆる意味で。…ま、仕方ない。
「ミナ!」
「はいよ」
「このまま目的地まで一気に走っていきたい。だから、そういう前提で
迎撃して。ただし山火事とか過剰な自然破壊とかは無しの方向で」
「注文が多いなあリーダーさん!」
バイクミラーをチラッと確認する。やっぱり口を尖らせた不満顔だな。
まあ確かに、かなりの無茶振りだ。だけど…
「できると思ってるから頼んでる。そこんとこヨロシク」
「よかろう。んフフフフフフ」
おだてに乗りやすいなあ、この子。
「平手さん」
「はっ?」
「悪いけど、その刀貸して」
「えっ!?いや、それは」
『もうすぐ視界に入るよ!』
「いいから早く!」
「わ、分かった」
シャッ!!
差し出された刀を抜き放ち、ミナはざっと前方の左右を目で薙いだ。
と同時に、聞き覚えのある吼え声が四方から響いてくる。…来たな。
キイィィィィィン!
かすかに甲高い音が響き、背後から少し熱を感じる。ミラーで見ると、
握った刀に何かしらの力を付与しているのが判った。…何だろな?
『来たよ!!』
「ヴォオオッ!!」
あいちゃんの声を合図にしたのか、一斉にラプトルたちが姿を現した。
ざっと見ただけで20匹。いやはやジュラシックだ、戦国時代なのに。
その全てが、示し合わせたかの如くこっちに突進して…
「らあっ!!」
ギュオン!!
気合いの声と共に烈風が走り、傍らから何かが回転しながら飛び出す。
ミナがブーメランのように投擲した刀らしいと、一瞬遅れて理解した。
ギュオオオオオン!!
斬!斬!斬!斬!
高速で回転する刀は、狙いすましたようにラプトルたちの首を捉える。
堅い皮膚も骨さえもものともせず、一瞬で斬首しそのまま飛んでいく。
明らかに意図的な軌道を維持して、次から次にラプトルの首を刎ねる。
相手は、気付く間さえもなかった。歪な円の軌道で全てのラプトルの
首を落とし、勢いそのままでミナの手元に刀が戻ってくる。いや怖い!
ちゃんと取ってよあれ!うわっ!!
パシン!
回転したまま目の前を通過しそうになった刀の柄を、ミナは事もなげに
右手で掴んでみせた。いやお見事。スプラッターな念力ブーメランね。
ちょっと真似できないよ。
「これでいいんでしょ?」
「おみそれしました」
『しましたー』
「ふふん、分かればよろしい」
ホント、おだてに弱いねえ聖女。
でも大助かりです。ね、平手さん。
…………
あ、白目むいてる。そりゃそうか。
よし、このまま信長まで一直線だ!




