チーム・ウシミツ
………………
どうにかなったみたいですね。
そ、そうみたいね。
あのカード、柳橋さんが用意してたものなんですか?
まあ…うん。丑三ツちゃんに事前に頼まれてた。てっきり自分用かなと
思ってたんだけどね。いや、まさかアレを交渉材料にするとは…
ってか、あれでよかったんですね。
俺もちょっとその発想はなかった。これもさすがと言うべきですか?
でしょうね、うん。
……
さすがは丑三ツちゃん。
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カードを渡した時の満面の笑みは、恐らく忘れないだろうなと思う。
現在、ミナは早速その機能を使って御不浄中。…ガマンしてたのかな。
とりあえず座り直して待ってます。
何と言うか、予想通りの予想以上。
交渉材料にできるだろうと踏んで、柳橋さんに用意してもらっていた。
初めてロックサイクロプスの世界に行った際、トイレが使えたのが実に
ありがたかったし、印象深かった。あんな短期間の滞在でもその感覚は
鮮烈だったのである。
「甘えだ」という人も多いだろう。
異世界でトイレだけ現代日本水準を保とうというのは、あまりに意識が
低いだろうという話だ。その世界で生きるなら、覚悟を決めるべきだと
言われれば反論できない。
でも、そんなのはただの理屈だ。
そもそも聖女召喚なんて、言い方を変えればただの拉致だ。召喚された
本人にそんな気などなかったのに、無理やり違う世界に送られるなんて
理不尽もいい所だろう。だからこそ彼女の怒りは理解できるって話だ。
理解できるから、あたしはわざわざこの世界に戻ってきたんだよ。
彼女が生まれた世界がどこなのか、もはや探りようがない。悲しいけど
それが現実だ。もはや認めてもらうしかない。だからあえてハッキリと
本人に告げた。今だから言うけど、その瞬間が一番キツかった。
そうしたら、彼女は言った。
なら、お前の世界に連れて行けと。
その瞬間に、あたしは確信を得た。
何が何でも元の世界に戻せ、という要求はいっさい口にしなかった。
彼女はただ、現代日本で生きる者としての生活水準を求めたのである。
深くは訊かない。どうして元の世界に未練がないかなど、今さら詳しく
訊いたって意味がないだろう。仮に無理やり聞いたとして、出来る事は
何にもないんだから。家族仲が悪いとか何とか、理由は人それぞれだ。
そこを掘り下げるゴシップ根性は、あたしにはありません。
そこまで考えた末に、思い当たった交渉材料はひとつだけだった。
ウォシュレットって、本当に偉大。
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ジャ―――――ッと音が聞こえた。おなじみのあの音が。
ドアを開けて出てきたのは、聖女というより賢者に近い表情を浮かべる
ミナさん。…うん、お察しします。
「あああースッキリしたぁぁ!!」
満面の笑みで放つ言葉が、いちいち実感こもりまくってます。
何だか、あたしまでスッキリした。
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「で、何でしたっけ」
あらためて座り直し、交渉再開。
さっきまでとは別人じゃないのかと思うほど、にこやかなその声と顔。
初めて「聖女」を見た気がしたよ。口が裂けても言えないけど。
「外部スタッフになって、あたしのお仕事を手伝って欲しいって話」
「なるほど。具体的にはどんな?」
「まあ多分、まずは暴力」
「は?」
「いやいや、それだけじゃないよ」
かなり露骨に嫌な顔された。そりゃそうか。交渉ヘタかあたしは。
「見ての通り、あたしは地味よね」
「そうね」
即答すんなよ悲しくなるから。
まあ仕方ないや、事実だし。
「時と場合によって、異世界の誰か相手に交渉したりする機会もある。
そんな時、やっぱり地味な人間より美人が担当する方が話がすんなり」
「ああなるほど納得したハハハハハハハハハハ」
高らかに笑うんじゃねえ小娘が!!
上司だぞ先輩だぞ、年上だぞ!!
…いいや、もう。
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そんなわけで、交渉は成立した。
何度も言った通り、あたしの世界に彼女を招くというのは許されない。
いや、そもそも彼女はモエビトだ。召喚の際に力を自分のものとして
扱えるようになってるけど、未だにその存在は特異性を帯びている。
このあたり、女神が仲介しなかった経緯が影響しているんだそうです。
なので原則、彼女はこの召喚世界に常駐する事になる。それが条件だ。
これに関しては、社長と柳橋さんにきっかりと釘を刺されている。
ある意味、ワガママを聞いてもらう事案だ。そこは承知してますとも。
ミナも、そこはあっさり了承した。まあ、トイレカードありきだけど。
つくづく大当たり交渉材料だった。
彼女の戦闘能力はずば抜けている。聖女の力と言われると微妙だけど、
あたしを遥かに凌駕するのは事実。いざという時は心強い戦力になる。
柳橋さんも何かと忙しい。あたしが出向業務もやれると分かって以降、
そういう意味での補佐が欲しいよとボヤいてた。だからあたし自身が、
仕事ではないイレギュラーな事案で知り合った彼女に目を付けたのよ。
「じゃあこれ、連絡用に」
「…何これ、かんたんケータイ?」
「そう。これで十分でしょ?」
「…………まあ、そうだけどさ」
渡した携帯に、予想通りの渋い顔。まあそうだろうね。高齢者向けの
簡単操作モデルそのものだし。
でも実際、この世界でスマホなんか持ってても単なるガラクタですよ。
連絡をする相手はあたしだけだし、通話と画像メール機能さえあれば
用は足りる。ってか、異世界でまでスマホとにらめっこしてる生き方は
ハッキリ言って貧しいよ。たぶん、もっと面白い事がこの先にあるし。
「充電は?」
「あなたの内在力を電力に変換する仕様だから、持ってれば大丈夫」
「へー、そりゃ凄いね」
やっと渋面が解けた、やれやれ。
んじゃあ、最後に顔合わせだね。
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キュイン!!
「!?」
あたしの傍らにいきなり出現した、小さなロボットにミナは瞠目した。
もちろん、里帰りあいちゃんです。
『どうもお久し振り!』
「は?…ええっと、誰?」
「闇夜の魔女」
「え!?」
今日一番のビックリ顔頂きました。そりゃビックリするよね、うん。
「い、生きてたの!?」
『生きてたというより、転生したと言った方が正しいと思うなあ』
「ええー…」
『ちなみに、いつもはこんな感じ』
ガシュン!
言いつつスクーターに変形。いやあ変形アクションが速くなったなあ。
こんな事にも慣れってあるんだね。
「え!?ちょ、何でスクーター?」
「まあ、いろいろありまして」
『また今度、ゆっくり話すよー』
「はあー…あたしも前に乗ってなあスクーター。お下がりだったけど」
『へー、そうだったんだ』
興味深げなミナと、ライトの点滅で答えるあいちゃん。そんな様子に、
あたしはちょっと感慨を覚えた。
あの時は、問答無用で殺されそうになってたっけ。それが今ではもう、
普通にシュールな絵面で語り合えるようになってるんだ。何と言うか、
どっちも順応性が高いなホントに。
そして同時に、大いに救いになる。
あんな結末は嫌だったからね。
本当に、また来てよかったよ。
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「よかったよかった、まとまって」
ひと通りの交渉が終わった時点で、柳橋さんが転移でやって来た。
やっぱりこの人の承認がないとね。何と言っても業務内なんだから。
「んじゃ、これからヨロシクね」
「あっ、ハイ」
さすがに神妙に答えるミナ。
やっぱりまだ柳橋さんは怖いのか…
「あのう、柳橋さん」
「はい?」
「ちょっとお願いがあるんですが」
「…何かしら」
何だ、このタイミングでお願い?
まさかリベンジマッチとか…
しばしの沈黙ののち。
「一発殴ってもらえませんか?」
「はい?」
「いやその、あの時の感触がずっと忘れられなくて。軽くでいいんで、
こっちのほっぺたに一発!」
「…………」
さも当然といった口調で言いながらほっぺたを差し出すミナの様子に、
さすがの柳橋さんもドン引きです。無言であたしに向けられる視線に、
何ともこの人らしくない不安の色が浮かんでいる。
大丈夫なのこの子?と。
いや、どうでしょう。
あたしにも分かりませんって。
早まったかなあ、もしかして…
まあいいや。
これにてチーム結成!!




