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あたしだから分かること

ちょっ、マズいですって柳橋さん!

あれ絶対本気ですって!!


ま、まあまだ大丈夫だよ…たぶん。


自信無くなってんじゃないですか!

このまま丑三ツさんが殺されたら、どうするつもりですか!?


それは…

………………


================================


ああ、たぶん柳橋さんたち、かなり焦ってるだろうなあ。

あたしがSOSを出してないのも、ある意味不安を煽ってるだろうし。

確かに、傍目には絶体絶命だろう。

だけどあたしは、自分で呆れるほど落ち着いていた。


いざとなれば、柳橋さんが来るからだろうって?確かにそれもある。

だけど、それとはちょっと違うよ。


あたしはまだ、目の前にいる彼女を深く知らない。出会ったきっかけが

悪過ぎたせいで、知る前に決裂してしまったとも言える相手だ。なら、

こんな状況でもまだ彼女を「知る」事に意味はあるはずだ。それこそ、

柳橋さんからは出てこない発想で。


あたしの話はまだ終わっていない。

そして切り札もまだ切っていない。



まだまだ、投げ出すには遠いよ。


================================


「元の世界には戻れない。あたしの世界にも行けない。だったら死ぬ。

気持ちは分かるけど、極端だね」

「は?」


あたしの落ち着きが癇に障るのか、ミナは敵意に満ちた視線をあたしに

向けてくる。それに対し煽るような口調になってるけど、当のあたしは

真剣だ。だからこそ相手の視線を、真っすぐに見返す。


「あなたにとっては、希望のない話だと思うよ、確かにね」

「……分かってるんなら何で来た?」

「絶望させに来たと思う?それとも嫌がらせをしに来たとでも思う?

冗談じゃない。あたしは、そこまでヒマ人じゃないよ」

「………」


パチッ!


小さな音と共に、周囲の光が消えて圧迫感も消滅する。ミナの表情も、

怪訝そうなものに変わっていた。

あたしが怯えてないのが、はっきり伝わったんだと思う。強さではなく

別の意味で、交渉する値打ちがまだあるという事もね。


だよね。

話が通じない相手ならば、そもそもここまで本音は聞けてないだろう。

交わした言葉はまだ少ないけれど、そこから見えた彼女の心に懸ける。

あたしがここに来た、その目的を。


「さっきもちょっと言ってたけど、あたしは異世界転生に関わる仕事を

している。そういう専門の会社に、新人として勤めてる。嘘じゃない。

こないだ来たのは会社の人たちよ」

「……」


ビクッとミナの肩が震える。たぶん柳橋さんを思い出したんだろうな。

って言うか、あの非常識キックを。

だけどあたしは柳橋さんじゃない。彼女の代理で来たわけでもない。

言いたい事はこれからだ。


「あなたが元いた世界がどこかは、さっきも言った通りほぼ判らない。

でもそれ以外の世界には赴いてる。転生のサポートをするためにね」

「…意図的に行けるっての?」

「そう。転生の女神の協力があればできる。あたしはまだ新人だけど、

そこそこ経験もしてきたよ。まあ、この世界に来たのは事故だけどね」

「事故?……聖女召喚が?」

「そう。事故であたしは、あなたと知り合う機会を得た。だから今回、

無理を言ってもう一度ここに来た。あなたを…」

「何よ」


「自分のチームに誘いたくて、ね」


================================


「…チーム?」


ミナは、片眉を吊り上げてあたしに問いかけてきた。


「何のチームよ。冒険者パーティーとか、そういうやつ?」

「違う違う違う、世界観が違うよ。と言うか、業務内容からして違う」

「だったら何よ」

「そろそろあたしも、上司の後ろにくっついて仕事するってスタイルを

脱却したくてさ。だからと言って、経験も実力もまだまだ不足してる。

チートで能力の底上げはできるけどやりたくない。あたしはあくまで、

自分の力の積み重ねで仕事したい。そのためのチームって事」

「………」


腕組みをしたミナは、ますます怪訝そうな視線をあたしに向けてくる。

無理もないよね。あたしがそっちの立場でも、似たような顔したよ。

だけどこれは、あたしなりに考えた彼女との取引だ。


「つまり、手下になれってか?」

「そう言われると人聞き悪いよね。そこはせめて、部下とか…」

「似たようなもんじゃん」

「うん、確かにそうですね」


ちょっと笑いそうになった。

この人、あたしと似たツッコミ体質なのかも知れないなと思って。


「率直に言えば、外部スタッフよ。会社で雇う形にはなるけど、実際に

出社したりはしない。あくまでも、あなたのいる世界はここ。何かしら

案件が発生した時に、このあたしが迎えにくるから手伝うって寸法よ」

「ええーメンドくさそう…」

「ヒマで頭がおかしくなるよりは、よっぽどマシだと思うけど?」

「………」


あ、やっぱり図星だったんだな。

「闇夜の魔女の討伐」を頼まれて、それを半日で済ませてしまった。

聞いた話が本当なら、もはや今ではやる事も留まる意味も何もない。

待遇がいくら良くても、それじゃあヒマを持て余すだろうってね。


「どうかな。意外と楽しいよ?」

「ただ楽しいだけで人が動かせると思うなよ」


食い気味にそう言い放ったミナが、あたしのすぐ前にのそりと立った。

やっぱり威圧感が凄いなあ、うん。


「…つまり?」

「見返りだよ。報酬は何なのよ」


あたしの顔をじっと見下ろしつつ、ミナはドスの利いた口調で問う。

何と言うか、闇バイトの元締め的な迫力があるなあ。…美少女なのに。


「言っとくけど、あたしはここでは今でも聖女としてVIP待遇よ。

それこそ贅沢はいくらでもできる。小遣い稼ぎに興味はないって話よ」

「うん、そうだろうね」


それはここに来た時点で分かった。実にいい待遇だなぁと思ってたよ。

生半可な条件では無理だろうなと。



「言ってみろよ丑三ツ。あんたは、今のあたしに何を提示できる?」


================================


何だか、ちょっとだけ感慨深いな。

柳橋さんでさえ命の心配までしてたのに、ここまで交渉できた事がね。

あたしも成長してるって事だろう。


見返りとして何を提示できる、か。

重い問いだ。


元の世界に戻す事は出来ない。

そもそもそれは、働く事に対しての見返りにはならない。

ビジネスとして話をしている以上、無駄に優位に立ちたくもない。


だから考えた。

聖女としてこの世界にいる彼女に、あたしが提示できるものを。

あたしだからこそ提示できる、何か特別な対価を。


「これ、どうかな」


そう言って取り出したのは、一般的サイズのシンプルなカードだ。

ハッキリ言って場違いな代物だし、価値など見えない。案の定ミナは、

不機嫌そうにそれを見ていた。


「何よそれ。言っとくけどここに、カードリーダーなんてないわよ?」

「いや、これはもっと簡単だよ」


言いながら扉に歩み寄り、あたしは軽くカードをその表面に当てた。

と同時に、一瞬だけ扉が発光する。さっきと比べて地味な発光だった。


「……?」


ますます訝しげなミナの目の前で、あたしは扉をゆっくりと開いた。


そこにあったのは…


================================


「それって…」


ミナの声は、うわずっていた。


「見ての通り、ウォシュレット式のお手洗いです」


我ながらセールスっぽい口調だな。でもまあ、ここは愛想よく行こう。


「こうやって扉にタッチする事で、異空間のトイレに接続できる仕様。

もちろん電気も通ってるよ。んで、反対面でやるとバスルームにも…」


ガバッ!!


説明の口上は、途中で終わった。

目の前のミナが、いきなりあたしに這いつくばって土下座したからだ。

見た事もない、見事な土下座。


「え?あの」

「失礼致しましたッ!!」

「いや、はい?」

「何でもします!靴でも舐めます!だからそのカード下さいまし!!」

「ええっと…そのう…」


何だろう、この状況は。


挿絵(By みてみん)


もしかして、大正解だったのかも?

いやあ、あたしって凄いなあ。


いやあの、顔を上げてってば。



ね?

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