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聖女へのお土産

マジで言ってんの丑三ツちゃん?


もちろんです。

冗談で言う事じゃないですよね?


いや、まあそれはそうだけどさ。

念のために言うけど、あなたあの時殺されるところだったんだよ?

あいちゃんと一緒に。まさか忘れたわけじゃないよね?


輪をかけてもちろんです。

本気で死を覚悟したのは、生まれて初めての経験でしたから。


だったら何で、今さらあの聖女に?

逆恨みされてる可能性だらけだよ?


やっぱりそう思われますよね。

あたしも実際、そうだと思います。恨まれても仕方ないだろうなって。

だけどそれって、出会いから始まる噛み合わせが悪かっただけです。

あたしは仕事柄、何が起きたのかを理解する事ができた。結果として、

あいちゃんが何なのかも知り得た。他の人では無理だったと思います。

たとえあの聖女でも。だからこそ、あんな不毛な衝突に至ったんです。


だから拗れた部分を正そうって話?…危険だと思うけどなあ、それは。

理屈が通じる相手なのかどうかも、何ひとつ保証が無いしさ。

そもそも、そこまでして関係を正す必要も義理も無いでしょ?


ありませんね、確かに。

危険を承知で挑む価値があるかは、まだ分かりません。認めます。

仮に話ができたとして、何かしらの見返りが望めるという話でもない。

自己満足だろうと言われれば、もう反論の余地もないなと思ってます。


なるほど。

そこまでちゃんと分かってるのね。

さすがは丑三ツちゃん。

で。

それでも行きたいってワケね。


そうです。

わがまま言ってすみません。


じゃあ、ひとつだけ確認させてよ。


はい。



それ、お仕事だと断言できる?


================================


「ええと…何て呼べばいいのかな」

「……」


返答は、すぐには返って来ない。

当たり前だ。だから焦らず待った。


数秒の沈黙ののち。


「ミナよ。真浄寺ミナ」

「ミナちゃんね、了解しました」

「ちゃんはいらない」

「え?…いいの?」

「ガキじゃないんだから」

「なるほど確かに。」


思わずちょっと笑ってしまった。

案の定、「ミナ」は渋い顔。


「なに笑ってんのよ」

「いや、ちょっと嬉しくて」

「はあ?…馬鹿にしてんの?」

「とんでもない」


嬉しいだけだよ、本当に。


名前も知らずに殺し合いになった、あの時を思い返せば。

ちゃんをつけるかつけないかとか、他愛ない言葉を交わす今は尊い。

それだけでも、来た甲斐があったと胸を張って言えるってもんだ。

ねえ、柳橋さん。

そうでしょう?


さあてと。

ここまでだったら、あたしは単なる物好きか、お人好しでしかない。

あの時の顛末は、後から柳橋さんに教えてもらった。あいちゃんと共に

速攻で帰還したから、蹴り飛ばした彼女は完全にほったらかしだった。

あの程度では死なないと分かってたからこそ、放置したらしい。何とも

雑な判断だけど、結果が全てだね。現に彼女は、後遺症もないらしい。

ケロッとしてるのが何気に凄いよ。


まあ、そんな雑な決着だったから。

あたしがあの後どうなったかなんて知らないだろう。自分を殴り倒した

柳橋さんに関しても、推測を立てるくらいしか出来なかったはずだ。


そのままの立場でいる事も出来る。同じようにこの世界に召喚されて、

一方は聖女として、そしてもう一方は魔術師として生きている。そんな

筋書きだってあり得なくはない。


だけど、そんなのは望まない。

余計な嘘をつくために来たわけじゃない。それは単なる時間の無駄だ。

あたしは、仕事をするために来た。



「それ、お仕事だと断言できる?」



もちろんです、柳橋さん。

あたしはあたしなりに、己の仕事としっかり向き合ってるつもりです。


================================


「これ、お土産。どうぞ」

「……お土産?」


思いっきり怪訝そうな表情になった「ミナ」に、収納魔術で持ってきた

ちょっと大きな紙の箱を差し出す。警戒しつつミナは箱を受け取った。


しばしの沈黙。

箱の表面の表記に視線を向けていたミナが、大きく目を見開いた。

…ああ、やっぱり理解できるよね。

その箱の表記の意味を。


あたしは、努めて何気なく告げた。


「駅前のお店で買ってきました」

「駅前?それって…」

「一応、東京都内」


ガタッ!!


言い終わる前にミナが立ち上がり、見開いた目をあたしに向けた。

いや怖い怖い。さすがにそんな顔をされるとトラウマが蘇りますから。

だからもうちょっと落ち着いて!


そのまま、十数秒が過ぎた。


あまりに何か言いたげだったミナの顔が、やがて落ち着きを取り戻す。

何か言う代わりに箱のフタを開け、中から個包装の何かを取り上げる。

あたしも好きな味だ。


「………ねえ」

「はい?」

「これ、マドレーヌよね?」

「そう。人気のアソートパックで、4種類の味が楽しめるという…」

「ちょい待ちちょい待ち。違うってそうじゃないんだって!」


あたしの言葉を遮ったミナの手が、慌ただしく銀色の個包装を破る。

取り出したマドレーヌはチョコ味。人気の味だね。そのままパクリと…


「…………」

「いかが?」

「美味しい」


即答だった。

立ったまま食べたミナの目が、再びあたしに向けられる。そこには、

さっきまでとは違う疑念があった。そう、感情を抜きにした疑問が。


「…これ、どうやって買ったの?」

「現金で。個人的に、電子マネーはあんまり好きになれなくて」

「支払方法を聞いてんじゃない!」


さすがに怒鳴られた。

失礼しました。


「…あなた、日本に帰ったの?」

「そうだよ」

「それで、またここに来たの?」

「見ての通り」

「…………」


黙り込んでしまったミナの右手が、機械的な動きで次の個包装を摘む。

これまた機械的にその包装を破り、ポイと口に放り込んで咀嚼する。

ああ、人って己の理解を超えた事に出くわすと、普通はこうなるよね。

あの聖女召喚でこの世界に来た時と比べても、驚き方が段違いだ。


そうなんですよ。

あたし、あなたとは違うんですよ。

そして、あえてその事実をあなたに伝えに来たんですよ、はるばると。

 


んじゃ、本題に入ろうかミナ。

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