成した事と成したい事と
「『転生の女神?』」
おおっと、いきなり現在まで繋がるワードが飛び出してきた。
なるほど、そこで…
「リプネリスさんに遭った、というわけですか」
「いえ、彼女ではありません」
『えっ違うんですか?』
思わずあいちゃんが身を乗り出す。当たってる頭に当たってる痛い!
「ええ。ここだけの話、彼女よりも高位の女神でした」
「『へえー…』」
「ここだけの話にして下さいよ!」
「あ、はい」
『了解ですー』
うん、そのへんの気遣いは大切ね。
オフレコにしますので。
それでそれで?
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「自覚は全くありませんでしたが、その時点での私は既にモエビトに
なりかけていたんです。だからこそ女神が感知してやって来ました」
「え、社長って昔モエビトだったんですか?」
「ええ。中途半端でしたけどね」
「ええぇー…」
さすがにちょっとビックリだ。
ってかあいちゃんもそうだとして、この狭い車内に元モエビトが二人も
いる事になるのか。カオスだなあ。受け入れてる自分がかなり凄いよ。
「一見して場の状況を察した上で、女神は不思議に思ったそうです」
「どうして転生しないのか、と?」
「そうです。そこまで準備したのに何を馬鹿笑いしてるんだ?とね」
社長は思い出し笑いをしていた。
「私は既に開き直ってましたから、思ったままを女神に話したんです。
このまま転生する未来がバカらしくなったとね。…そうしたら、女神も
同じように馬鹿笑いしました」
『シュールな光景だなぁ』
「お前みたいな人間は色々な世界で見てきたけど、そんな理由で転生を
思い留まった奴を見たのは初めてだと言われました。正直言いますと、
どうでもよかったんですけどね。」
「なるほど…」
こんなのも、ある意味「無敵の人」と形容してもいいのかも知れない。
生死を度外視するのとは少しばかり意味が違うけど、開き直ってたのは
間違いなく事実だろうね。
「それから女神は、私がモエビトになりかけている事実を告げました。
普通は言わないそうですが、何だか気に入られたみたいでしてね。で、
どのみち異世界に転移させなければいけないよと宣告されたんです」
「本当に「どのみち」ですね」
『それじゃあ、今回のラズリさんが送られたのと同じような異世界に、
転生する事になったんですか?』
「いや、そうじゃないんですけど…ははははは」
え、何でいきなり笑い出すの?
「実を言うと、その時の女神が私に用意していた異世界。それこそが、
今回ラズリを送った世界なんです」
「『ええっ!?』」
何だそのダイナミックなリユース。異世界転生もエコの時代ですか!?
そりゃ笑うでしょうね、ホントに。
って事はつまり、社長はその世界に転生はしなかったって事なのね。
うーん、因縁が深いんだなあ。
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「世界を歪めてしまうくらいなら、私は去る事を選びます。少なくとも
生きる世界が嫌いだったなんて事はありませんからね」
「そうですよね」
さも当然という感じで社長は語ったけど、限りなくホッとする話だ。
世界を憎んで転生…なんて展開も、創作では意外と多いからね。
「で、私はそこでひとつワガママを言ったんです。女神に対してね」
「ワガママ?」
『どんなどんな?』
「異世界転生は、潔く受け入れる。ただし、私が全く知らない世界での
転生をさせて欲しいと頼みました。過去の知識や経験が役に立たない、
それこそゼロからのやり直しが必要となる新世界。そこでもう一度だけ
生き直してみたいと思ったんです。これまでとまったく違う人生をね」
「『おおっ、カッコいい!!』」
「ははは、光栄です」
思わず声が被りましたとも。
ゼロからのリスタート、いいじゃんカッコいいじゃん!と思えました。
過去を否定はしないけど、転生した事を踏まえて新たなる人生に臨む。
強くてニューゲームより、よっぽど挑み甲斐があると素直に思えます。
そんな選択を社長がしていたという事実が、何より嬉しかったよ。
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「じゃあ、それで女神は…」
「笑いながら快諾してくれました」
社長、やっぱり嬉しそう。ご自身にとってもいい思い出なんだろうな。
「もう既にお分かりと思いますが、そうして私が転生したのが、今いる
元の世界なんですよ。1歳になると同時に前世の記憶を取り戻すという
ベタな設定で全て思い出しました。幼児の経験はハードでしたけどね」
「『それはお察しします』」
むしろ、0歳からでなくてよかったですねと言いたかったよ。
「日本では魔術だの錬金術だのは、ただの創作のファクターでしたね。
だからこそ私は、当たり前の成長を続けていきました。まあちょっと、
変わり者ではありましたけどね」
「知識チートはなかったんですか」
「もちろん。世界の常識が違うのに使えるはずがない。そもそも私は、
それを使わない事にこそ意味があると確信していましたから」
「女神との約束だったんですか?」
あたしの問いに社長は首を振った。
「いや、それは私の自制心ですよ。と言うか、女神との約束はきちんと
他にありましたからね」
「えっ?」
「望んだ通りの世界に転生させる。その代わり、15歳になるまでに
何かひとつ自分ならではの生き方を見い出せ。その時にまた来てやると
言われてたんです。想像も出来ない女神からの無茶振り宿題でしたよ」
『うわぁ…』
「確かに無茶振りですね」
「だけど、嫌だとは思わなかった。むしろ楽しみにしていましたよ。
女神と再会する日をね」
あっけらかんと語る社長、やっぱり開き直ってたんでしょうね。
「ご存知の通り、女神は時間跳躍を行えます。つまり待つ必要がない。
私にとっては長い14年でしたが、女神にとっては一瞬だったんです。
だから忘れるなんてあり得ません。15歳の誕生日に、約束した時と
全く同じテンションで現れました。さあ何を思いついた?ってね」
「わぁめんどくさい」
『それはめんどくさい!』
思わず率直な感想を言っちゃった。だけど社長はまた苦笑してます。
社長にとってもめんどくさかったのかも知れない。親近感沸くなあ。
それでそれで!?
「で、私は答えました。とりあえず普通に定年まで働きたい、とね」
「『へ?』」
「当たり前の人生を送ってみたい。恋をして結婚をして家族を持って、
仕事とか育児に悩んで。牛乳配達のアルバイトもしてみたいと思った。
とにかくそこまで待って欲しいと、そう答えたんですよ」
「ええー…」
『そんなの通るんですか?だって、長い時間がかかる話なのに』
「あっさり通りましたよ」
そこで社長は笑った。
「さっきも言いましたが、女神には歳月を飛び越える力があります。
面白そうに笑ってましたよ。じゃあまた定年前に来てやるよ!ってね。
いま思えば、私も怖いもの知らずが極まってましたね本当に」
「『あはははは、確かに』」
思わずあたしたちも笑った。
どっちも無茶言ってるなあと思う。だけどそこに、駆け引きなどない。
イレギュラーな転生だからこその、ワクワクみたいなのがあったのか。
想像すると今さらちょっと面白い。
当たり前の人生、か。
その中で成した事、成してみたいと思った事。二度目の人生だからこそ
浮かぶ思いもあったんだろうな。
そろそろ到着する頃だね。
社長の過去話も、たぶん大詰めだ。




