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帰り道のカミングアウト

難題は解決した。


モエビトの案件ではなかったから、リプネリスさんに感知できなかった

元凶の転生対象者。とりあえず彼は「似て異なる世界」で新たな人生を

歩む事になった。本人的にはそんなつもりないんだろうけど、いわゆる

「知らぬが仏」ってやつですよね。別に悪気はなかったんだろうから、

それでまた存分に道を究めてくれ。


というわけで、出張はおしまいだ。

正直、あたしはオリンピック出場でいらぬ恥をかいただけな気がする。

それでも年鑑はもらえたんだから、そこそこ貢献できたと思っとこう。

社長もそう言ってくれてるんだし。


ハッキリ言って今回の件、あたしやあいちゃんではお手上げだった。

あんなイレギュラーな経緯なんて、想像すらほとんど出来ませんって。

早期解決できたのは、担当したのが社長だったから。これに尽きる。

ひたすらこれに尽きると思う。


だからこそのお楽しみタイムだ。

もう後は帰るだけ。長くて退屈な、次元跳躍ドライブが待っています。

タネ明かしをお願いします、社長。


わくわく。


================================


もうどっちの街にも戻らなかった。

最初の街ではゴロツキに絡まれた。次の街では…うん、馬鹿をやった。

そこそこ顔を知られちゃったから、もう余計な騒ぎを起こしたくない。

なので、元の形態に戻ったスバルで直接帰る事になりました。今回は、

お土産は無しですね。


エンジンかけて目の前が発光して、そこに突入。もう慣れてきました。

光を抜ければ、後は単調な一本道。ひたすら次元の隙間を走っていく。

だけど今回は、退屈しない予定だ。何たって…


「あの」

「はい?」

『何でしょう』


「少々お二人の圧が強くって、運転しづらいと…」

「あっ、はい」

『失礼しました』


無意識にガン見しちゃってました。態度に出るなあ、あたしたちって。


「そうですね。それじゃ、そろそろお話ししましょうか」

「よろしく!」

『待ってました!』


揃って拍手するあたしたち。いや、紙芝居か何か待ってる子供かよ!

怖いとか疑わしいとか、そういった感情がとっくに消え果ててるよ。

ただひたすらに楽しみにしていた、自分たちの底抜けの能天気が何だか

ちょっと頼もしい。


いやはや。


================================


「丑三ツさん」

「はい」

「モエビトのいる並行世界は、元の世界と非常に似てますよね」

「似てますね」


社長のタネ明かしは、その言葉から始まった。


「正直、言われなきゃ気付けない事さえあります」

「そう。並行世界は実に似てます。個人や街、駅の名前などはさすがに

細かく異なりますが、都道府県名が変わるほどの差異は本当に稀です。

隣り合う世界は、それほど相似性を持っているんですよ」

「なるほど」

『…あたしの世界も、変わるまでは普通に日本でしたからね――』


あいちゃんの言葉に実感がこもる。うん、渋谷もそっくりだったしね。

だけど、それが今回の件とどう…


「さっき実際にあの男を転移させた世界も、それはそれは似ています。

500年後じゃなかったとしても、ずっと気付けないかも知れません。

我々が日頃異世界と呼ぶ世界にも、そんな隣り合う世界があるんです」

「ですよね」


考えてみれば当たり前の事だけど、今回その当たり前を「実感」した。

現代日本でも中世ファンタジー系の世界でも、並行世界は存在してる。

そうか、つまりそういう事なのか。


「だから創作でも、似通った展開の作品がいっぱいあるんですね!」

「い、いやそれは違う話ですから」


ギキィッ!


なぜか慌てた社長。ハンドル操作がちょっと乱れて車体が揺れた。

あれ、あたし何か言っちゃいけない事言っちゃいました?



すみません、流して下さい。


================================


「要するに、そういう事ですよ」


気を取り直した社長は、そう言ってチラッとあたしに視線を向けた。


「え…どういう事ですか?」

「私が、あの世界で不自然なくらいあれこれ知っていた理由です」

「え?えーとそれは…つまり…」

『以前にも、似た世界に行った事があったんですか?』


うわっ、先に言われたぁ!

くそう、いま思いついてたのに!!

そうかそういう事なのか!だから、リプネリスさんも社長に依頼を…


「惜しい。近いけど違います」

「『へ?』」


怪訝そうな声はしょっちゅう被る。いや、てっきり正解と思ったけど…


「近いけどって…似た世界で同様の案件を処理した事があるんじゃ?」

「やっぱりそう思いますよねえ」


ハンドルをトントンと指で叩いて、社長は愉快そうな笑みを浮かべた。


「残念ながら、そこまででは不正解ですね。まあ、正解は無理ですよ」

「ええー…」


そう言われるとちょっと癪だけど、実際それ以外は思いつかないなあ。

じゃあもう、降参です。真相を!


「簡単な話です」


ほんの少しアクセルを踏み込んで、社長は何気ない口調で告げた。


「似た世界に行った事があるのではなく、似た世界から来たんですよ。

もう、ずうっと前にね」

「『え?』」



「私は、転生者なんです」


================================


え?

それってつまり…

ええっと…


「……社長自身が、大賢者ラズリと同じような存在だったと?」

「名前も二文字しか違いません」


そこで社長は苦笑した。


「今だから白状しますが、顔立ちも気味が悪いほどそっくりでしたよ。

間違いなく、ラズリはかつての私のバリエーション的な存在なんです。

いや、私が彼のバリエーションだと言えるかも知れませんが」

「それじゃあ、彼が眠っていたあの場所に心当たりがあったのも?」

「むしろ、ハズレであって欲しいとさえ思ってたんですけどね」


そりゃそうでしょうね。

そこまでかつての自分を、きれいにトレースされたら気味悪いだろう。

………………


あれ?

名前や存在はともかく、あの場所に心当たりがあったという事は…


「社長」

「はい」

「それじゃひょっとして、かつての社長も彼と同じ事をしたんですか?

つまり、未来に転生しようと?」

「ある意味、そこだけは違っていて欲しかった。名前や顔など同じでも

構わないから、そういう発想をする人間であって欲しくはなかった」


いつの間にか、語る社長の声は少し低くなっていた。浮かべる笑みも、

どこか寂しげなものになっていた。


「踏みとどまってくれなかったのは残念でした。本当に残念でした」

「『………………』」


しばらく、あたしたちは返す言葉に窮していた。

何と言うか、疑問は全て氷解した。社長がラズリ・コルドネンと同様の

存在だったのだとすれば、ほとんどすべての展開に説明がつけられる。

いささか想像し難いけれど、今回の出張は社長にとっては思い出巡りの

旅のようなものだったんだろう。


だけど結局ラズリさんは、世界すら滅ぼしかねないミスを犯していた。

知らなかったでは済まされないし、客観的に見れば凄まじい大罪人だ。

よく似た世界に送りはしたものの、今日までに世界に与えた影響はもう

消せないらしい。弱体化させた事に対する贖罪は、宙ぶらりんのまま。

正直あんまりスッキリしない。


じゃあ、社長は?


うかつに口にできないその問いは、限りなく重い意味をはらんでいる。

ラズリと同じような存在で、しかも転生した過去を明言している社長。

魔法陣の上で眠る彼を見つけたあの場所での、迷い無さを思い返せば。

同じような憶えがあったのだとしか思えない。


聞くのが怖い。

だけど訊かないわけにはいかない。

帰りに聞くって言ってたんだから。


社長


かつてのあなたは



何をしたんですか?


================================


挿絵(By みてみん)

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