帰り道のカミングアウト
難題は解決した。
モエビトの案件ではなかったから、リプネリスさんに感知できなかった
元凶の転生対象者。とりあえず彼は「似て異なる世界」で新たな人生を
歩む事になった。本人的にはそんなつもりないんだろうけど、いわゆる
「知らぬが仏」ってやつですよね。別に悪気はなかったんだろうから、
それでまた存分に道を究めてくれ。
というわけで、出張はおしまいだ。
正直、あたしはオリンピック出場でいらぬ恥をかいただけな気がする。
それでも年鑑はもらえたんだから、そこそこ貢献できたと思っとこう。
社長もそう言ってくれてるんだし。
ハッキリ言って今回の件、あたしやあいちゃんではお手上げだった。
あんなイレギュラーな経緯なんて、想像すらほとんど出来ませんって。
早期解決できたのは、担当したのが社長だったから。これに尽きる。
ひたすらこれに尽きると思う。
だからこそのお楽しみタイムだ。
もう後は帰るだけ。長くて退屈な、次元跳躍ドライブが待っています。
タネ明かしをお願いします、社長。
わくわく。
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もうどっちの街にも戻らなかった。
最初の街ではゴロツキに絡まれた。次の街では…うん、馬鹿をやった。
そこそこ顔を知られちゃったから、もう余計な騒ぎを起こしたくない。
なので、元の形態に戻ったスバルで直接帰る事になりました。今回は、
お土産は無しですね。
エンジンかけて目の前が発光して、そこに突入。もう慣れてきました。
光を抜ければ、後は単調な一本道。ひたすら次元の隙間を走っていく。
だけど今回は、退屈しない予定だ。何たって…
「あの」
「はい?」
『何でしょう』
「少々お二人の圧が強くって、運転しづらいと…」
「あっ、はい」
『失礼しました』
無意識にガン見しちゃってました。態度に出るなあ、あたしたちって。
「そうですね。それじゃ、そろそろお話ししましょうか」
「よろしく!」
『待ってました!』
揃って拍手するあたしたち。いや、紙芝居か何か待ってる子供かよ!
怖いとか疑わしいとか、そういった感情がとっくに消え果ててるよ。
ただひたすらに楽しみにしていた、自分たちの底抜けの能天気が何だか
ちょっと頼もしい。
いやはや。
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「丑三ツさん」
「はい」
「モエビトのいる並行世界は、元の世界と非常に似てますよね」
「似てますね」
社長のタネ明かしは、その言葉から始まった。
「正直、言われなきゃ気付けない事さえあります」
「そう。並行世界は実に似てます。個人や街、駅の名前などはさすがに
細かく異なりますが、都道府県名が変わるほどの差異は本当に稀です。
隣り合う世界は、それほど相似性を持っているんですよ」
「なるほど」
『…あたしの世界も、変わるまでは普通に日本でしたからね――』
あいちゃんの言葉に実感がこもる。うん、渋谷もそっくりだったしね。
だけど、それが今回の件とどう…
「さっき実際にあの男を転移させた世界も、それはそれは似ています。
500年後じゃなかったとしても、ずっと気付けないかも知れません。
我々が日頃異世界と呼ぶ世界にも、そんな隣り合う世界があるんです」
「ですよね」
考えてみれば当たり前の事だけど、今回その当たり前を「実感」した。
現代日本でも中世ファンタジー系の世界でも、並行世界は存在してる。
そうか、つまりそういう事なのか。
「だから創作でも、似通った展開の作品がいっぱいあるんですね!」
「い、いやそれは違う話ですから」
ギキィッ!
なぜか慌てた社長。ハンドル操作がちょっと乱れて車体が揺れた。
あれ、あたし何か言っちゃいけない事言っちゃいました?
すみません、流して下さい。
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「要するに、そういう事ですよ」
気を取り直した社長は、そう言ってチラッとあたしに視線を向けた。
「え…どういう事ですか?」
「私が、あの世界で不自然なくらいあれこれ知っていた理由です」
「え?えーとそれは…つまり…」
『以前にも、似た世界に行った事があったんですか?』
うわっ、先に言われたぁ!
くそう、いま思いついてたのに!!
そうかそういう事なのか!だから、リプネリスさんも社長に依頼を…
「惜しい。近いけど違います」
「『へ?』」
怪訝そうな声はしょっちゅう被る。いや、てっきり正解と思ったけど…
「近いけどって…似た世界で同様の案件を処理した事があるんじゃ?」
「やっぱりそう思いますよねえ」
ハンドルをトントンと指で叩いて、社長は愉快そうな笑みを浮かべた。
「残念ながら、そこまででは不正解ですね。まあ、正解は無理ですよ」
「ええー…」
そう言われるとちょっと癪だけど、実際それ以外は思いつかないなあ。
じゃあもう、降参です。真相を!
「簡単な話です」
ほんの少しアクセルを踏み込んで、社長は何気ない口調で告げた。
「似た世界に行った事があるのではなく、似た世界から来たんですよ。
もう、ずうっと前にね」
「『え?』」
「私は、転生者なんです」
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え?
それってつまり…
ええっと…
「……社長自身が、大賢者ラズリと同じような存在だったと?」
「名前も二文字しか違いません」
そこで社長は苦笑した。
「今だから白状しますが、顔立ちも気味が悪いほどそっくりでしたよ。
間違いなく、ラズリはかつての私のバリエーション的な存在なんです。
いや、私が彼のバリエーションだと言えるかも知れませんが」
「それじゃあ、彼が眠っていたあの場所に心当たりがあったのも?」
「むしろ、ハズレであって欲しいとさえ思ってたんですけどね」
そりゃそうでしょうね。
そこまでかつての自分を、きれいにトレースされたら気味悪いだろう。
………………
あれ?
名前や存在はともかく、あの場所に心当たりがあったという事は…
「社長」
「はい」
「それじゃひょっとして、かつての社長も彼と同じ事をしたんですか?
つまり、未来に転生しようと?」
「ある意味、そこだけは違っていて欲しかった。名前や顔など同じでも
構わないから、そういう発想をする人間であって欲しくはなかった」
いつの間にか、語る社長の声は少し低くなっていた。浮かべる笑みも、
どこか寂しげなものになっていた。
「踏みとどまってくれなかったのは残念でした。本当に残念でした」
「『………………』」
しばらく、あたしたちは返す言葉に窮していた。
何と言うか、疑問は全て氷解した。社長がラズリ・コルドネンと同様の
存在だったのだとすれば、ほとんどすべての展開に説明がつけられる。
いささか想像し難いけれど、今回の出張は社長にとっては思い出巡りの
旅のようなものだったんだろう。
だけど結局ラズリさんは、世界すら滅ぼしかねないミスを犯していた。
知らなかったでは済まされないし、客観的に見れば凄まじい大罪人だ。
よく似た世界に送りはしたものの、今日までに世界に与えた影響はもう
消せないらしい。弱体化させた事に対する贖罪は、宙ぶらりんのまま。
正直あんまりスッキリしない。
じゃあ、社長は?
うかつに口にできないその問いは、限りなく重い意味をはらんでいる。
ラズリと同じような存在で、しかも転生した過去を明言している社長。
魔法陣の上で眠る彼を見つけたあの場所での、迷い無さを思い返せば。
同じような憶えがあったのだとしか思えない。
聞くのが怖い。
だけど訊かないわけにはいかない。
帰りに聞くって言ってたんだから。
社長
かつてのあなたは
何をしたんですか?
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