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テンプレお仕事

「あれっ!?」


あっち向いてこっち向いた瞬間に、剛守さんの服装が変わっていた。

実に味気ないスーツ姿だったのが、いかにも中世ファンタジーの村人と

言えそうな味わい深い出で立ちに。…いや、本当にいつの間に!?


…ああそうか、この人ってば一瞬で白猫に変身できる能力の持ち主だ。

早着替えなんかはお茶の子だろう。いいかげん、慣れてきた気がする。


「お先に失礼します」


そう言い残し、剛守さんはさっさと荷台から降りていった。


「あれ、あたしたちは?」

「普通に着替えるよ」

「…ですよね」


うん、そりゃそうでしょうね。

柳橋さんが壁の一部を展開すると、そこに簡易クローゼットがあった。

いかにもって感じの服が並んでる。なるほど、剛守さんは身ひとつでの

「瞬間着替え」ができるから、先に済ませて外で待つって事なのね。


「あれ、じゃあ玉見さんは?」

「彼はお留守番。まあ後でちゃんと着替えるから、まずはあたしたち」

「了解です」


よーし、あれこれと考えるのは外に出てからでいい。まずは着替えだ。

…あんまりより取り見取りって感じじゃないけど、別にブティックに

来たわけじゃないからね。仕事着の延長と考えて開き直ろう。ええと…

…………………


「うんうん、よく似合う」

「そうでしょうか…」


どうひいき目に見ても今のあたし、陰気な魔術師って感じなんですが。

シックな冒険者のコーディネートの柳橋さんが、何だかズルいよ。


「まあ、少なくともビジネススーツより目立たなきゃいいだけだから。

さっさと行って慣れましょう」

「そうですね」

「はは、頼もしいね!」


笑う柳橋さん、どこまでも明るい。



うん、旅の恥は搔き捨てだ。


================================


「おおぉ…」


荷台から降りたあたしの目の前に、想像通りで想像以上の圧倒的光景が

広がっていた。広い高原の向こうに見える、おそらくは城塞都市。

幾度となく創作の中で描かれてきた中世ファンタジーの世界が、まさに

このあたしの目の前に…!!


「さあて、んじゃお仕事ね」

「え?」


感慨とは無縁の柳橋さんの言葉に、あたしはハッと振り返った。

見ればその手には、世界観台無しのスマホ。…いや、ここでスマホ?

ってか、街には行かないんですか?


「よしよし、問題なく15年後ね。じゃあアップロードしますか」

「アップロードって、ひょっとしてあの転生サラリーマンさんの?」

「そう。15歳になったら思い出す設定になってるからね」

「それは分かるんですけど、そんな大事な事をスマホのアプリで?」

「さっきリプネリスが登録したの、見てたでしょ?」

「まあ…はい」


そうだったね確か。あれが何かしら委譲するものだったとすれば、まあ

理解も納得もできなくはない。


「今のところ誰も来ていませんが、急いだ方がいいですよ」

「そうね」


実直な剛守さんが促す。そう言えばトラックはそのまんまだ。確かに、

このままだと世界観ぶち壊しで実に目立つ。玉実さんは…あ、もう中で

着替えを済ませてる。余計違和感。


「んじゃ、レッツ覚醒!」


ピコン!


『…条件達成を確認:前世の記憶と能力を開放します』


あ、音声ガイダンスの声が女神様のそれだ。聞き覚えがあります。

つまり今の音声が、この世界にいる満15歳の転生サラリーマンさんに

聞こえてあれこれ解放されたのね。…うん、これもテンプレと言っても

差し支えないだろう。いっつも妙にゲーム的だと思ってたけど、まさか

こんなカラクリだったとはね。でもあの転生サラリーマンさん、これで

「女神同伴」だと思ってるのなら、さすがに同情を禁じ得ませんね。

対話式AIを相手に恋するような、独特の痛々しさが…


数秒ののち。


『能力を正常に開放しました』


再びのアナウンス。何と言いますか事務的。ホントにパソコンみたい。

まあそれっぽいんだけど、あれほど強大な力を個人が得るきっかけが、

こんなアプリ処理で済むなんて話…


まあ、信じよう。


================================


ヴィーン!


「あ、電話かかってきた」

「誰からですか!?」

「もちろんリプネリスから」

「…そうですよね」


取り乱して損した。

この世界で何で電話!?とか思ったけど、そりゃかかってくるよね。

依頼主から…って事になるのかな。


「はい」

『はあい柳橋ちゃあん!こっちでも能力開放を確認しましたからね!』

「了解です。現地も問題なしです」

『今回もアリガトね。また近いうち何かオゴるからさ!』

「楽しみにしてます」

『じゃあ、後は適当にね』

「はあい」


そこで電話は切れた。スピーカーで話してたからあたしも聞こえてた。

相手が転生の女神とは信じられない雑で普通な会話。まあいいけどさ。

ともあれ、今回の転生ミッションはこれで終わりって事らしい。


見てるだけ、驚くだけだったなあ。ま、初めてならこんなもんだろう。

卑屈になるのはやめとこう。今は、とりあえず終わって家に帰って…


「さあ、んじゃお待ちかねよね」

「帰るんですか?」

「まだ帰らないよ」

「…え?だって…」


サラリーマン転生者さんに会うって選択がNGなのは、想像できる。

ハッキリ言って、あたしたちという存在はイレギュラーの極みだろうし

早く帰らないと…


「うんうん、理解が速くて深くて、真に頼もしい限りよ丑三ツちゃん」


嬉しそうに言いつつも、柳橋さんは小さく首を横に振った。


「だけど、あたしたちも慈善事業でこんな事をやってるわけじゃない。

きちんとお金稼がないとね」

「へ?」


思わず頓狂な声を返してしまった。…いや、まことにごもっともだとは

思うんだけど、よりによってそれを今言うの?ここで?


「稼ぐって…どうやってですか?」

「決まってんじゃん」


うわっ、待ってましたって顔だ!!聞きたいけど聞きたくない!!


「ギルド行って冒険者登録をして、魔物を討伐。これ基本でしょ?」


ああ。



やっぱり。


================================


しょせん、あたしは新入社員。

あれこれ言ってもしょうがないのでついて行きます。行きますとも。

こうなりゃギルドでも冒険者でも、デカイ魔物でもドンとこいだよ!!


と言うわけで、北の方に見えていた城塞都市へ向かう事になりました。

さすがに徒歩だとかなり遠いので、正面城門の手前までトラック移動。

こんな雑なビジュアルでいいのかと不安になるけど、柳橋さんいわく


「まあトラックも擬態できるけど、街中まで入るわけじゃないからね。

めんどくさいのは省きましょう」


だってさ。

まあ確かに、ここらあたりの道にはほとんど人の往来がない。だったら

世界観に合わせたチューニングなど不要って事なんだろう。このへん、

おそらくは経験から来るさじ加減があるんだろうなと思う。とりあえず

今は流れに身を任せるのみよ。



おお、見えてきた見えてきた!


================================


城門手前の林でトラックを降りて、柳橋さん、剛守さん、あたしという

面子で街へ向かう。んで、やっぱり玉見さんはお留守番らしい。


「お土産よろしく」


そう言いながら手を振る玉見さん、やっぱり慣れてる雰囲気ですね。

って事で、割とあっさり城門通過。

そこに広がるのは…


おお、これこれ!!

これぞ異世界!!って感じの光景!


「テンション上がってるね」

「そうみたいですね」

「結構!」


柳橋さんだけでなく、すぐ隣を歩く剛守さんさえもちょっと笑ってる。

何と言うか、本当に嬉しそうだね。


「待ってたんだよねえ、そうやってここでテンション上げてくれる子」

「そうなんですね」


ポツリと呟いた柳橋さんの声にも、答えるあたしの声にも実感こもる。

その理由は、聞かなくても何となく想像できました。


本当に待ってたんだろうなと。


常識外れの会社だという事はもう、あらためて考えるまでもない。

あたしが採用に至った理由なんて、今日までサッパリ分からなかった。

だけど、今だから分かる事もある。こんなデタラメな状況だからこそ。


何ができるかじゃない。

何に秀でているかでもない。

この常識外れの状況に直面した時、前向きにテンション上げられるか。

きっと大事なのはそこなんだろう。本当に今だからこそ確信が持てる。


もしかしたら、この時点まの試用で「無理」だと言った人がいたのかも

知れない。もっと前の段階でもね。それは不思議でもワガママでもない

ごく自然な反応だろう。社員の数が極端に少ないのも、ひょっとすると

そこに起因するのかも知れない。

そしてそれは誰にも責められない。どこから見ても当然の話だ。

だからこそ、今この場所に至っても能天気に浮かれるあたしって存在は

「待っていた」人材なのかもね。


今はついて行くのが精一杯だけど。

見方を変えれば、ここの仕事は他のどの職種よりも「未知だらけ」だ。

これから色々覚えていけばいいってだけの話だし、ブラックだった前の

職場より、ずっとやり甲斐がある。そう思うかどうかは人ぞれぞれだと

実感してるけどね。


少なくとも、今あたしはこの上なくワクワクしてる。

冒険者登録?魔物討伐?いいじゃん面白いじゃんやったろうじゃん!

なんか滾ってきましたよ!!


…ってか、これ残業なのかな?



まあいいや。


================================


挿絵(By みてみん)

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