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お土産のスポーツ年鑑

「お疲れさまでした」

『凄かったよー智華ちゃん!』


「どうも…」


お迎え恐れ入ります。


26発もの攻撃魔法を受けた末に、やっと防壁は砕けました。長いよ!

4人の術者が、ぜえぜえ言いながら成し遂げた。悪いけど気の毒だとは

思えなかった。運が悪かったんだと思ってくれ、って感じ。

最初こそドン引きしていた観衆も、最後の方はもう飽きてた気がする。

そういう空気感って、思った以上に伝わるもんなんだよ悲しいけど。


そんなこんなで、もう逃げるように競技場を後にしました。それなりに

拍手喝采だったけれど、正直言ってダメでした、全然ダメだったよ。

威力の強さは、もう今さらな話だ。ロックサイクロプス世界のランクが

いかに強力かというだけ。異世界の力だろうと、そこには純粋な強弱が

あるだけだ。強過ぎるからダメ!という事には決してならないだろう。


要するに、見せ方が悪かったのよ。

プロレスなんかが最たる例だけど、やっぱりお客さんのニーズに応える

盛り上げ要素は大事だ。ガチ試合で大盛り上がりする競技もあるけど、

これは絶対そうじゃなかった。あの宝塚さんみたいなサービス精神が、

必要不可欠だった。今だからこそ、本当に文字通り痛感しております。


強けりゃいいってもんじゃない。



いい勉強になりました。


================================


さすがに観客席に戻る肝の太さは、とても持ち合わせておりません。

そんな小心者の心情を、社長たちはきっちりと酌んでくれていました。

連絡用通路でお出迎え。すみませんお気遣い頂きまして。そんであの…


「まだ観ていきますか?」

「いえ、個人的にはもういいです」

「ですよね」


即答しながらも、あたしはちょっと気がかりだった。当初の用事は…


「それなりに収穫はありましたよ。ここではもう十分だと思います」

「収穫って…どんな事が?」

『智華ちゃんの実力を目の当たりにした、周りの人たちが言ってたよ。

あいつはラズリなのか?ラズリって女だったのか?どうして今になって

戻ってきたんだ?って感じでね』

「ええー…」


そんな事考える余裕なかったけど、あたしの大暴れが大賢者ラズリを

彷彿とさせたのか。すっごい意外。つまりそれって…


「やっぱりラズリさんは、こういう大会にも出場してたって事ですね。

で、姿を消して久しいと」

「聞いた感じ、そんな印象ですね。年齢を考えると無理もないですが、

かつての名前だけ独り歩きしているというか…」

「なるほど」


男か女かさえも曖昧だというのは、さすがに少し極端な気もしますが。

でもまあ、昔の有名人なんて意外とそんなもんなのかもね。


「ここで得る情報としては充分だと思います。なので退散しましょう」

「そうしましょうそうしましょう」


「退散」という言葉が何とも残酷に状況を物語るけど、事実ですから。

あたしも変な意地など張りません。早く出ていきましょう!


「ええっと、出口はどっちに」

「あ、その前に丑三ツさん」

「はい?」

「出場記念の品、もらいました?」

「えっ…ああ、はい…」


ええ、確かにもらいました。

隠す理由もないので、はいどうぞ。トロフィーと換金用証書と、後は…


「今回の個人記録ももらえました」

『へー、もうまとめられてるんだ。仕事が早いね』


そう、あたしもそれは驚きました。出場して引っかき回してそそくさと

去ろうとしたあたしに、係の女性がにこやかに手渡してくれた代物だ。

トロフィーやギャラは当然として、こんなに早く個人記録が出るとは。

あたしのデタラメなやらかしでも、きちんと計測して数値化されてる。

これはこれで素直に凄いと思うよ。歴史のある競技なんだなぁってね。

いい思い出になりました。


と、そこで社長が言った。


「確かこの個人記録を持参すれば、運営本部からもお土産がもらえると

記憶しています。行きましょう」

「え?え、ええ…」

『お土産って何だろ。ごま玉子?』


いや何でだ。ここは東京駅ですか?まあ、もらえるものはもらうけど。

だけど、記憶していますって言い方ちょっと気になるなあ。やっぱり、

社長はこの世界にやたらと詳しい。それは…まあ、帰りのお楽しみね。


さぁ、お土産お土産!


================================


外に出て、ちょっと伸びをする。

傍らではスバルロイドもやってる。おお、そんな伸ばして大丈夫なの?

まあいいか、細かい事は。


「結構いい時間になってますから、お昼にしましょう」

「了解です!」


いいですねえ。お腹も空いてます。何たってオリンピック出たてだし!

異世界ご飯はやっぱりテンションが上がる。これぞ出張の醍醐味よ!


================================


てなわけで、オープンカフェっぽいお店で、遅いお昼と相成りました。

あいちゃんは当然不要なんだけど、一緒に座ってランチタイムです。

本人は気にしてる風もないし、まあ気にせずこっちはいただきます。


とは言っても、出てきたのは至って普通のサンドイッチとお紅茶です。

そうだよね。これだけ普通に人間が生きてる世界で、食べ物だけやたら

奇をてらったモノになるわけない。ここは普通に食べるだけですよね。

…イモリの串焼きとか、ちょおっと期待しなくもなかったけど。


さて。


食事しつつテーブルに出したのは、件のお土産。重量感があるなあ。

何かと言えば他でもない。80年に渡る、この大会の個人成績年鑑だ。

こんな広辞苑みたいな本をオマケでくれる気前の良さが、何とも素敵。


もちろんこれは、去年までの記録。さっきのあたしの記録は未掲載だ。

代わりにあのペラ1枚をもらえた。だから過去の記録とも照合できる。

何と言うか、至れり尽くせりだね。こういうシステマチックな部分で、

この世界は本当に奥が深いと思う。正直、かなり興味もありますので。


『見てみよ見てみよ!!』


よっしゃ。どれどれ…


================================


やっぱり、去年と比べてもあたしはぶっちぎりのトップでしたね。

特に防壁の防御力が飛び抜けてる。去年は4発で優勝だったらしいし。

やらかしちゃったなあ、やっぱり…


ちなみにこの年間、ちっちゃいけど選手の顔写真も掲載されている。

もちろんあたしの写真も、もらったペラに載ってた。仕事が速いなあ。

言うまでもないけど、来年の年鑑にあたしの顔写真が載るのも確定だ。

やらかした結果ではあるんだけど、それは素直にちょっと嬉しい。

せっかくだから、ここ数年の成績と比べよう。超大型新人のウシミツ、

その実力はいかほどのものか…


「…あれ?何だろう、これ」

『何か、きれいに右肩下がりだね』

「だよね」


あいちゃんの言った通り、年ごとの成績がかなり分かりやすい推移に

なっている。ひと言で言うと、毎年ちょっとずつ成績が下がってる。

個人の記録なら歳とって衰えたとも考えられるけど、本当に全体の話。

事実、さかのぼればさかのぼるほどあたしの記録に肉薄してきている。

防壁はともかく、破壊力に至っては8年前でもうかなりギリギリだ。

ええっと、さらにその前だと…


「あ、10年前で首位陥落だね」

『ホントだ』

「確かに」


今年はぶっちぎりだったあたしは、もし10年前の参加だったら1位に

なれなかったらしい。…さすがに、この推移はちょっと不自然だなあ。

会場は大盛り上がりだったけれど、実はこんな右肩下がりだったのか。

競技としての未来に、若干の不安を抱いてしまうあたしはお節介か…


「丑三ツさん」

「はい?」

「もう少し前はどうですか?」

「え?えーと…」


社長の言葉に沿ってさらに前の年を確認。やっぱりここまで前だと、

かなりの強豪が…


「おっと」

「どうしました?」

「15年前に凄い人がいましたね。ここで初めて防壁であたしの記録を

上回ってます。大したもんですね」


ナニ目線だって感じだけど、やはりこういう数字を見ると感慨深いね。

つまりあたしは今回、15年振りの高スコアを叩き出したって事に…


「…なるほど、そういう事ですか」

「え?どういう事で」

『あっ、見て見て智華ちゃん!』

「へ?」


促されるまま視線を戻す。そこには記録と共に小さな顔写真があった。

かなり痩せた面長のおじいさんだ。ええっと、お名前は…


「ラズリ・コルドネン?」


え?

このぶっちぎり記録を、15年前に樹立した人物こそが…

大賢者ラズリ、って事?


いきなり話が繋がってきたなぁ。



ちょっとゾクッとした。

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