↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/80

丑三ツちゃんの晴れ舞台

小学4年の秋。

社会見学の後で描いた、はしご車の絵が市のコンクールで佳作入選し、

月曜日の全校朝礼で表彰された。


だけど、「丑三ツ」が読めなかった校長がデタラメな読み方したせいで

自分が呼ばれたと分からなかった。担任の田中先生が言いに来て初めて

気付き、慌てて登壇した。ドタバタしたせいで、全校生徒に笑われた。

呼ばれたら早く前に出なさいよと、後で田中先生にちょっと怒られた。

その時は謝ったけど、後から考えてかなりモヤモヤした覚えがある。


あたしが何をしたっていうんだよ。間違えたのは校長じゃないのかよ。

全校生徒の氏名を記憶しとけなんて無茶を言う気はない。自分の名字が

普通とは違ってる事も理解してる。だけど、表彰する生徒の名字くらい

予習しておいてよと言いたかった。常に予習復習を謳ってるんだから。


あの時の賞状は、額装されて実家に今も飾ってある。あたしの勲章だ。

だけどあの時の登壇は、自分の中であまりいい思い出になっていない。


思えば、あの時以来かも知れない。



こんな大勢の前に立つのは。


================================


何だか、ちょっとデジャヴ感じる。


どうやらあたしって、大勢の前でもそれほど緊張はしない性格らしい。

妙に冷静になれるというか、いつも以上に場を客観視できるというか。

何しろ、今もけっこう落ち着いてる自分にちょっとビックリだ。


聞こえてくる観衆の声に、何となく憶えがあるんだよね。そう、まさに

あの全校朝礼の時と同じ雰囲気だ。もちろん人数は桁違いなんだけど、

大勢の声や気配が何となくひとつの感情を生み出すような、あの感じ。


あの時は、ほぼみんな笑っていた。もちろん先生方は渋面だったけど。


だけどあの時の笑いは、あたし一人に対する嘲笑じゃなかったと思う。

田中先生に言われて慌てて登壇するそのドタバタ振りが、ちょっとした

喜劇になったから笑いが起こった。要するにあの時、あたしはある意味

コメディエンヌとして「ウケた」。そういう感覚が確かにあったんだ。

だからあの時に限って言えば、別に嫌な思い出にはなっていない。


今の空気感には、あの時にちょっと通じるものがある。

ざわついてるけど、悪意はあんまり感じられない。どっちかと言えば、

面白がってる感じだ。全く無名の、しかもこんな地味な魔術師なんかが

いきなり飛び入り参加したんだし。困惑しない方がおかしいだろう。


そう、悪いけどあたしは地味です。さっきの宝塚系の人と比較しても、

あらゆる意味で華がない。むしろ、怪しいと言った方がしっくり来る。

だけど魔術師って、どこの世界でもあまり見た目と実力は比例しない。

そこがスポーツ選手と決定的に違う点だろう。なら、今のあたしだって

そうそう見くびられたりはしない。この場に立っているという時点で、

実力が無ければ途方もない恥をかく事になってしまうからだ。後はもう

いたって単純。観客を満足させ得るパフォーマンスができるかどうか。

観客も、困惑の中であたしにそれを期待してる。それは空気で分かる。


悪くないよね、こういう空気って。



よし、じゃあやってみようかしら。


================================


やっぱり花形は破壊力ですよね。


さっきの人がやっていた的当ては、何発当てて的を破壊できるか計る。

的というのは、実は頑丈そうな素材でできたキューブだ。これが台座に

据え付けられている。これ目がけて自分の得意な攻撃魔術を放つという

単純ルール。やる事は単純だけど、計測は専門のスタッフが高い精度で

行う。このへんしっかりしてるね。


と言うわけで、せっかくだ。迷わずもっとも大きな的に向かって立つ。

お、またどよめくね。無理もない。さっきの宝塚さんが選んだ的よりも

ずっと大きい奴だからね。さあて、それじゃあ行ってみましょうか!


「どうぞ」


傍らに立つ女性の係員が、あたしに小声で合図する。了解です。では!


ちょいカッコつけて杖を突き出し、それっぽい事をごにょごにょ言って

火球魔法を解き放つ。


…いざ!!


ドッゴオォォォォォォォォォン!!


相変わらず、思っただけで発動する便利仕様。ノータイムで放たれる、

これぞSSランクの面目躍如という迫力の火球。さあ!どのくらい的を

削れるか…!!


……って、ちょっと?

え?ちょ、ちょっと待ってってば!



やっぱり、現実ってのは容赦ない。


================================


「………………………………」


沈黙。

そして中途半端な静寂。

人の気配が圧倒的に多い現状との、どうしようもないギャップが襲う。


そう。

これはいわゆる、ドン引きです。


ああ。

あたし、またやっちゃいましたか?


的は木っ端微塵になっていた。

いや、それだけじゃない。

隣にあった、同じ的も木っ端微塵。その向こうに並べられてたのまで、

半分くらい吹っ飛んじゃってる。

合図した女性係員、腰抜かしてる。チラと見てみれば、あの宝塚さんも

顔面蒼白になってる。


………………

何だよあの的。

もうちょっと頑丈だと思ったのに!


================================


歓声はどうした歓声は!

…いや、うん分かってます。それは無理ですよね。このドン引きじゃ。


理屈で言うなら、あたしは超大型の新人ってところだろう。ある意味、

ここで出す結果として申し分ない。でも、やっぱりそれは理屈だよね。

今の常識で言うなら、完全に限度を超えた結果になっちゃったんだね。


うん。

居たたまれない。


「あ、あの…じゃあ失礼します…」

「ちょ、ちょっとお待ちを」


そそくさと逃げようとしたあたしを呼び留めたのは、あの女性係員だ。

抜けた腰を無理やり戻して立つと、若干かすれた声であたしに告げる。


「な、何でしょうか?」

「規定では、最低でも2種目までの参加が義務となっていますので」

「……そうでしたよね」


確かにそんな説明を受けてたっけ。さすがのプロ職業意識に感服です。

要するに、あとひとつ何かしないと帰れないわけね。ええっと…その…



あ、アレだ!


================================


と言うわけで選んだのは、防御術。

防壁でマネキンを守り、担当術者の攻撃魔術にどれだけ耐えるかを計る

まさに守りの競技です。これなら、ぶっ放して引かれる心配がない。

地味に始めて地味に終われるはず。そうそう、こういうのでいいんだ!


何よりこの防壁、ついこないだあの聖女に金魚すくいのモナカよろしく

一瞬で破られている。少なくとも、そんなに長くは持たないはずだ。

よし、さっさと終わらせましょう。このショートカットのマネキンを、

手早く防壁でくるみます。んじゃ、遠慮なくよろしくお願いします!!


さて、スタート。


ドオォン!

ドオォン!

ドオォン!

ドオォン!

…

………………



あの、まだですか?

ビクともしてないように見えるのは気のせいでしょうか?

何か、顔色悪いですよ担当者さん。ひょっとして力尽きそうとか…?


え?

マジで交代するんですか!?

え?

まさかの二人がかり!?


ドオォン!ドオォン!

ドオォン!ドオォン!


………………


いや、頼むから早く破って下さい。ワザと解除したら丸わかりだし。

…ってか、そんなに硬いのあたしの防壁!?そんな実感ないんだけど!

頼むから割れてくれ!早く!


もうやだぁ!居たたまれないよう!


ちくしょうあの聖女!許さん!

あの子があんなあっさり破るから、あたしも勘違いしたんじゃないか!

どうしてくれんだこの状況をさあ!

………………


いや、違う。


いくら何でもこれで聖女を恨むのはひど過ぎる。

他責思考が田中先生並みになるよ。それは絶対ダメでしょうよ。


分かったから。

もういいから。


頼むから早く終わってくれ。

やっぱりあたし、人前は苦手だ。

今回も、あんまりいい思い出には…


うん、なりそうにないなあ。

……………………



いいから早くっ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。